第147話 昔々、浦島は……
本日もよろしくお願いします。
遅くなりましたが、昨日投稿分の続きです。
首島マンべ島の港町から出港し、およそ一日。
日暮れとともに、十番目の島となる“オティス島”というところに到着した。
マップで確認してみてもかなり小さな島のようで、探索にも一日あれば十分そうだ。
というわけで、新・異世界生活三十三日目。
通り掛かりにあった島唯一のモンスターの生息地の沼地にて、お馴染みの毒蛙、沼蟹と相対する。
その沼地の水の中には、こんなのもいた。
▶スワンプローチ
名前 [なし]
種族 [モンスター
〔沼泥鰌〕]
レベル [14]
スキル
吸血、遊泳、触覚強化、奇襲、
嗅覚強化、気配遮断
所属 [鑑定失敗]
こちらが気付いていないと思っているのか、《気配遮断》を発動させながら水辺にいる俺たちに近付いて来た。
折角なので気付いていないふりをして背中を向けたら、しめたと言わんばかりに飛びついて来たので、空中でキャッチしてお話しさせてもらった。
大きさはドジョウというよりウナギに近いが、どちらにせよ自らのフィールドを出てしまっては手も足も出まい。
ジタバタともがくとヌルヌルした体が滑ったが、それもそう長くは続かない。
遂に力尽き、半泣きで「もうしません。二度と人は襲いませんから」と懇願されたが、明らかに嘘吐きの目をしていたし、申し訳無いが封印させてもらうことにした。
そういうの見抜けるくらい、大人になったのかなあと、しみじみする。
【《怪物種封印スキル》を使用しました。〔沼泥鰌〕の封印に成功しました】
【自己領域の残量は99.96%です】
そうして沼地を抜けて港町へと着き、十一番目の“アンゴル島”へと渡る。
次の島は南北に長く、地形は起伏に富んでいて、小山と谷、その間を流れる川が存在していた。
厄介なことに、それら全てがモンスターの生息域となっているらしく、歩きにくい地形に手古摺りながらモンスターの相手も熟すのはちょっと大変だった。
まあ、気配察知があるから事前に分かるし、他の人たちに比べたら楽なんだろうけど。
▶クリークジャンパー
名前 [なし]
種族 [モンスター
〔沢飛虫〕]
レベル [13]
スキル
跳躍、水上走行、衝撃耐性・下、奇襲、
防御力上昇、鉄壁
所属 [鑑定失敗]
▶アーマン
名前 [なし]
種族 [モンスター
〔アーマン〕]
レベル [16]
スキル
噛みつき、跳躍、奇襲、毒噛みつき、
麻痺噛みつき、攻撃力上昇・下、再生、
自己狂化
所属 [鑑定失敗]
▶プチ・コボルト
名前 [なし]
種族 [モンスター
〔プチ・コボルト〕]
レベル [15]
スキル
噛みつき、嗅覚強化・中、瞬発力上昇、奇襲、
遠吠え、毒耐性、麻痺噛みつき、
所属 [鑑定失敗]
こんなモンスターたちとも初遭遇した。
クリークジャンパーは、河原で石を投げて水面を跳ねさせる「水切り」の遊びそのものだった。
言っている意味が分からないかもしれないが、本当にそのままで、平べったい石のようなモンスターが水面を跳ねて襲って来るのだ。
名前から辛うじて虫と判別出来たが、それが無ければただの人を襲う石にしか見えない。
生物としては意味不明過ぎるし、モンスターだと分かっても違和感が凄かった。
鈍化や麻痺の攻撃でなんとか押さえられたが、仲間交渉中も河原の石と話してるようで変な感じだった。
結局交渉は失敗し、そのまま封印することに。
【《怪物種封印スキル》を使用しました。〔沢飛虫〕の封印に成功しました】
【自己領域の残量は99.96%です】
アーマンは、ワニの頭にシーラカンスの体、それに馬の前足を付けたような不思議な姿のモンスターだ。
前足で地面を蹴って跳躍し、そのまま噛みつこうとしてくるのだが、毒と麻痺の噛みつきスキルを持っているので油断出来ない。
幸いにもそれほど早くはないので避けられるが、仲間交渉中も積極的に噛みつこうとしてくるので、嫌な相手だ。
自己狂化のスキルも持っているし、さっさとケリをつけるに越したことはないので、仲間にならないと分かってすぐ《簡易瞬動》と《麻痺攻撃》で動きを止めて封印。
【《怪物種封印スキル》を使用しました。〔アーマン〕の封印に成功しました】
【自己領域の残量は99.96%です】
プチ・コボルトは、二足歩行の犬と言った感じのモンスターなのだが、キョンシーのような動きをしてくるので気味が悪かった。
このモンスターも《麻痺噛みつき》を使って来るので、仲間交渉決裂後は油断せず迅速に封印した。
【《怪物種封印スキル》を使用しました。〔プチ・コボルト〕の封印に成功しました】
【自己領域の残量は99.96%です】
そんなこんなで、毒蛙五体、沼蟹六体、ドジョウ、沢飛虫、ディモール、森猿、ゴブリン、角兎がそれぞれ二体、魔蛇、グレムリン、森百足、森蝙蝠、プチ・スパイダー、アーマン、プチ・コボルトがそれぞれ一体と、多種多様なモンスター計三十体を封印成功した。
途中の町で宿を取りつつ二日に渡っての移動となり、新・異世界生活三十五日目には島の縦断を終えて南端の港町へと到着することが出来た。
ちなみに、少し前に累計ポイント報酬として貰っていた“魔法の靴”というのがあったのだが、大いに役立っている。
なにせ、歩く距離が半端ないのだ。この時代の普通の靴はあっという間に駄目になるので、アルル様にお願いしてみたところ、ちょうど溜まっていた累計ポイントの報酬でプレゼントしてくれたのである。
なお、前回の報酬は、同じようにリクエストしていた下着セットであった。
この時代のは、在って無いようなもの――ほぼノーパンに近い腰巻――だったので、助かった。
話を戻そう。
そんなわけで、新・異世界生活三十六日目、十二番目の島となる“グロリア島”という島へと渡る。
この時代の旅にもすっかり慣れてきたものだが、相変わらずのイチとの二人旅。
時々アルル様とも会話しているが、かなりマンネリ化してきている気がする。
もちろんアルル様と話すのは楽しいし、イチには癒されっぱなしだし、それは最高なんだが……。
そろそろ、もう一人くらい、旅の仲間が欲しいところだよなあ。
そんなことを思いながら、次なる島へと降り立ち、いつものように進んで行くのであった。
…………
港町を出て島の中心部にある町まで移動し、一泊。
新・異世界生活三十七日目、俺はそこから先への進路で迷っていた。
この島のモンスターの生息地は二か所。
東には広い海岸があるが、それほど多くモンスターがいるわけではなく、さらにこの町からもほどほどに近いため、一般の庶民でもよく立ち寄る場所らしい。
一方で、北西寄りにある湖と、そこに流れ込む小川には、それなりにモンスターがいて危険なんだとか。
これは、どう考えても湖だろう。
海岸で、いるか分からないモンスターを探してうろつくより、湖の方が時間を有効に使えるはずなのだ。
………なのだが、なんだか「虫の知らせ」というか「天の知らせ」というか、スキルから微妙に反応がある気がする。
いつもなら、もっとビビッと来るのだが、今回は反応が煮え切らない感じだ。
《天の知らせ》が《予測スキル》に統合されたせいなのかとも考えたが、同じように統合された《気配察知》などは普通に使えているしなあ……?
よく分からないが、気になって仕方ないので、先ずは海岸へと向かってみることとした。
町から目と鼻の先にあるその海岸には、聞いていた通り地元住民と思われる人々が屯していた。
よく見ると、その人だかりは何かを取り囲んでいるようで、近付くにつれ、気配察知にも何かが反応していた。
だが、今までに無かった反応だ。モンスターとも違うし、人間に似ているが微妙に違う。
これは所謂亜人ってやつなのか?
そう思ってさらに近付いてみると、取り囲まれているのはどうやらモンスターのようだった。
あれえ? おかしいな、気配察知にはモンスターとしては反応していなかったんだけどな。
だが、大人の膝丈ほどもある巨大な巻貝らしき見た目は、どう見てもモンスターとしか思えない。
それ以外の普通の生物なのだとしたら、一体何故こんなところに巻貝が?
巨大な貝類は地球にもいたが、そもそも基本的には水中の生物のはずだろう。
そんな疑問は、その貝の中身を見れば一目瞭然だった。
貝の穴、本来なら蓋がされているであろう部位からは、まるで蟹のような生物が顔を出していたのだから。
そのモンスターは、貝では無くヤドカリだったらしい。
そのヤドカリは、地元の大人たちにゲシゲシと足蹴にされていて、とても可哀想な状況だった。
これが子供たちならば、「浦島太郎」の一場面だったのだろうが、状況としては「チンピラに絡まれたイジめられっ子」の方が近いだろう。
あれがモンスターだとしたら封印したいところだが、この状況に割って入って行くのは勇気がいるなあ。
あ、周りの大人の一人が武器を構えた。
あ、それに合わせるように、他の人たちも殺意を持って武器を持ち直したり構え始めたぞ?
……はあ、仕方が無いか。このままじゃなぶり殺しにされてしまいそうだしな。
どうやってモンスターを庇おうか、まだ考えていないが、ここは《役者スキル》先生にお願いするしかあるまい。
頼みます、先生!
そうして、俺は意を決して、人だかりへと声をかける。
「……あのー……」
だが、ヤドカリに夢中な人々は、こちらには気付かない。
ならば、もっと声を張って。
こちらに注目するように、《役者スキル》の他にも《交渉スキル》や《話術スキル》、ついでに《魔力操作スキル》も使ってみようか。
よし、今度こそ!
俺はゆっくり息を吸うと、改めて声をかけ直した。
「コレコレ、生き物を虐めてはいけないよ?」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「なんだコイツ?」
「変なの。うりゃうりゃ!」
大人たちに囲まれ、足蹴にされるヤドカリ型モンスターと思われる生物。
(止めてよ! 蹴らないでよ! 原住民の野蛮人!)
「なんか喋ってるけど、意味分かんねーな?」
「モンスターみたいだし、俺らで殺しちゃえばいいんじゃない?」
「そうしようぜ!」
その大人たちは、抵抗を見せないそのヤドカリに「自分たちでもヤれる」と自信を持ったのか、それぞれが護身用に持って来ていた武器を構え始めた。
モンスターと戦うにはイマイチ心許無い農具やボロい剣など。
だが、何人もの大人の力で振るわれれば、モンスターと言えども無傷ではいられまい。
(いやああああー!? 野蛮な原住民に犯されて殺されるー!? 助けて、お母しゃーーん!!)
そのモンスターが悲鳴をあげたちょうどその時、俺の声掛けが耳に入ったのか、漸く周りにいた大人たちがその手を止め、俺の方へと振り返ってくれた。
「コレコレ、生き物を虐めてはいけないよ?」
「は? 何だお前? モンスターを庇うのか?」
突然現れた俺に、不信感を露にする人々。
そんな俺をカバーしてくれたのは、《役者スキル》先生だった。
即席で、その場をやり過ごせる嘘偽りが俺の口を通して発せられ、並べたてられた。
「えーっと…………珍しい種類のモンスターだし、モンスターテイマーの助手である俺には貴重な存在なのですよ! どうか、このアクア銀貨三枚で、譲ってはくれませんかね?」
「マジっすか!? 是非とも!」
アクア銀貨三枚と言えば、数万円程度の価値がある。
ここまでの旅でなんとなく掴めた金銭感覚によるものだが、それでも俺の所持金の総額からすると、そう痛い出費とはならない。
絶妙なラインを心得ているあたり、流石は先生だ。
思いがけない臨時収入に気を良くした地元住民の人々は、拍子抜けするくらいあっさりとその場から引いてくれたのであった。
てゆーか、ここに何しに来てたの、あの人たち?
暇なの? ニートなの?
「ふう、行ったみたいだな……。 ありがとう、《役者スキル》。今日も絶好調だったぜ!」
ともかく、金で解決したとはいえ、無事にモンスターと二人きりになることに成功した俺は、いつものように仲間交渉をしようと振り返った。
(うう、また別の原住民が来たけど、どうせあんたも私を虐めるんでしょ……?)
「え? いや、虐めないよ?」
ところが、いつもとは明らかに雰囲気が違う。
襲っても来ないし、なんだかやけに弱気だ。
てゆーか、本当にモンスターなのか?
そもそもモンスターなのだとしたら、さっきの彼らも襲われていたのでは無いだろうか。
……この感じ、初めてイチに出会った時に似ている気がする。
(嘘よ、そんなこと言ったって騙されや…………あれ?)
「うん?」
(まさか……私の言葉、理解出来てる……?)
当然のことながら、《翻訳スキル》で彼女の言葉は分かっている。
それが元々はどんな言葉なのか分からないが、全て同じように前世で使っていた日本語と同じように聞こえてくるのだから、楽なものだ。
代償は五万ポイントと大きかったが……ゲフッ!
「ああ、うん。特殊なスキルを持っていてね。ちゃんと翻訳されてるから、分かるよ?」
そう、優しく説明をした俺に、彼女が言葉を返してくれた。
(へ、変態……?)
「酷くね!?」
……あれ? この感じ、何処かで……?
……そうだ、未来世界でウサギ型モンスターと会話した時に、同じことを言われたんだ。
一瞬、あの子の生まれ変わりかとも思ったが、モンスターとしての種類が違うから、たまたまか。
(ホントに分かるんだ……)
心底驚いたといった表情をするヤドカリ型モンスター。
その反応もそっくりで、なんだか懐かしさを覚えてしまった。
同時に、二度も変態扱いされたことで、涙が止まらない。みんな酷いや。
「ともかく、もう大丈夫だよ。怖かったでしょ?」
そう声をかけた俺を、ヤドカリがジッと見つめる。
(……王子様……?)
「え?」
(……あッ!? いえ、何でもありません! そ、それより、助けていただいてありがとうございました!!)
突如アタフタとし始めたそのモンスターが、丁寧にお礼を述べてくれた。
本当に、これまでのモンスターたちとは違う子だなあ。
これは、もしかするんじゃなかろうか?
そんな期待を胸に、いつも通りに、だがいつもよりも熱弁を振るって、仲間交渉を持ちかけてみた。
すると、ヤドカリ型モンスターは暫く考え込むように押し黙った後、緊張して返答を待つ俺に、こう答えてくれたのだった。
(……ごめんなさい。一緒には行けません)
--------------------
現在の保有ポイント:
402+580=982
(うち、Pバンク:300)
累積ポイント:
58414+580=58994
(次の特典まで6P)
夜に、もう一本投稿予定です。
どうぞよろしくお願いいたします。




