第144話 調子に乗ると痛い目を見ると知っていたのに①
本日もよろしくお願いします。
※モンスターの鑑定結果で、▶印の名称をカタカナに統一しました。
(単眼鼠、六脚ヤモリなど、漢字が混在していたので)
※141話で《鑑定スキル》をランクアップさせていましたが、物語の構成上、延期させてもらいました。
後々の変更となり、申し訳ありませんでした。
ハッハーッ!
みんな、元気でやってる?
俺? 元気元気! 絶好調!
なんだかテンションがおかしいって? そりゃそうだろう、舞い上がりもするさ!
何故かって? 今、無双状態だからさ!
第四の島“ヨヅナ”へと向かった俺を待ち受けていたのは、モンスターだらけの生息地だった。
言っても、俺はまだ駆け出し。
鬼神さんの修業やチートアイテムのサポートのお陰で、無事にここまで来られてはいた。
だが、イチと二人だけのパーティでは、乗り越えられないものだっていっぱいある。
例えば、複数で群れるモンスターたち。
三体のウルブケアですら、意表を突いてなんとかなった程度のレベル。
なら、もしも五体、十体という数に囲まれたら……なんて想像していたことが、正に今、目の前で起きた。
五体のゴブリンたちに囲まれたのだ。
このヨヅナ島、一部を除いては、他の島よりも出現するモンスターのレベルは低めらしい。
かく言う目の前のゴブリンたちも、全員レベルは一桁。
だが、数の脅威は侮れない。 というか、ヤバい。
二、三体なら何とかなっていた戦闘も、五体に囲まれた現状は、無事には済むまい。いくらレベルの低い相手とはいえ、向こうは殺す気満々なのだから。
「秘策があるんだ」と言ってイチには魔法鞄に入ってもらったが、そんなものはない。
万事休す。なんとか逃げるしかあるまい。
そう思っていた時期が俺にもありました。
交渉も無事に決裂し、逃げる経路を作るために《幻惑視》や《鈍化攻撃》などの使い慣れたスキルを手駒に作戦を考えていた時のことだ。
そういえば、《麻痺攻撃》を手に入れたんだったなと思い、それを切り札に切り抜けられないかと思っていた矢先。一体のゴブリンが、ここぞとばかりに飛び掛かって来たのだ。
咄嗟に《簡易瞬動》で別の一体の背後へと回り、《麻痺攻撃》で隙を作る。
……のはずが、そこから気付けば一体、二体、三体、四体……五体。
あれ? 全員動けなくなってるよ?
……よし、封印しよう。
【《怪物種封印スキル》を使用しました。〔ゴブリン〕の封印に成功しました】
【自己領域の残量は99.97%です】
【《怪物種封印スキル》を使用しました。〔ゴブリン〕の封印に成功しました】
【自己領域の残量は99.97%です】
【《怪物種封印スキル》を……
以下略。
なんと、《麻痺攻撃》を当てた相手のモンスターは、全く身動きが取れなくなっていたのだ。
何故こんなに効いたのかじっくり考えてみて、その答えに気付いた。
そうか、自分基準で考えていたが、耐性を全く持たない相手なら、その効き目は俺の比ではないのか、と。
俺は《麻痺耐性》も下位ランク、《麻痺攻撃》も下位ランク。
以前にエイ型モンスターから受けた《麻痺攻撃》は最下位ランクのものだったから、下位ランクの俺の耐性のお陰で、すぐに動けるようになったのだ。
それが今回は、下位ランクの《麻痺攻撃》で“耐性無し”の相手を攻撃したのだから……そりゃ動けんわ。
これ、耐性無しの相手になら、もの凄く使い勝手のいいスキルなのでは?
『普通の人は、鑑定スキルも麻痺攻撃も持っていませんからね。鑑定で相手の耐性を確認した上で、ほぼノーコストの麻痺攻撃を使えるのは咲也さんぐらいでしょう』
ほらほら! やっぱり凄いじゃん!?
『ですが、あまり油断しないでくださいね?』
もちろん、分かっていますとも。
イチがやられた件での苦い経験も記憶に新しいし、気を引き締めて行きますとも。
そんなことを言いつつも、まるで無双とも言える状況に、俺は調子に乗っていた。
だが、無理もあるまい。
仲間交渉をし、それが駄目だったら《麻痺攻撃》でその場のモンスター全員を麻痺させて回り、あとは封印するだけの簡単なお仕事。
そもそも、これまで出会ってきた中で《麻痺耐性》を持っているモンスターなんていなかったのだから、未知の種類にでも遭遇しない限りはこの無双が続くってことだ。
調子にも乗るよね?
モンスターが群れるこの島で、一時はどうなるかと不安もあったのだが、今はもう無い。
岩山と湖に挟まれた街道を北上する中、出会うモンスターをバッタバッタと切り捨て……もとい、封印しまくって進む。
群れて襲って来ることが多いけれど、レベル一桁程度では俺は止められねえぜ?と言わんばかりに支障なく進む。
ゴブリンも、ヤモリも、岩亀も岩蝸牛も、毒蛙も沼蟹も、既知のモンスターはそれこそ脅威にならなくなっていた。
既にさっきのゴブリン含め、合計二十体ほどを封印した頃、湖の近くで新たな気配を見付ける。
▶レイクホース
名前 [なし]
種族 [モンスター
〔湖馬〕]
レベル [11]
スキル
魅了噛みつき、遊泳、奇襲、潜水、
水属性魔法耐性、水属性魔法の心得
所属 [鑑定失敗]
初めて遭遇するモンスターだ。
このレイクホースという個体、馬に似たモンスターだが、馬より短足で、口はカバのようで、後ろ脚はアシカやアザラシのようにヒレになっていた。
更に、《魅了噛みつき》や《水属性魔法の心得》を持っていて、迂闊に近付くと厄介そうな相手だ。
まあ、以前の俺ならね。
『増長してますねえ』
油断はしてないので、見逃してください。
仲間交渉決裂後、マナ感知で魔法の前兆を見逃さないように注意しつつ、水辺で構えるレイクホースに接近し、《麻痺攻撃》を当てる。
麻痺に耐性が無いので、あっさりと極まり、そのまま水辺で倒れ込む。
はい、封印。
【《怪物種封印スキル》を使用しました。〔湖馬〕の封印に成功しました】
【自己領域の残量は99.96%です】
このモンスターも三体ほど遭遇したが、脅威にはならない。
水魔法とやらも覚えたてなのか使って来ず、《魅了噛みつき》のある口にさえ気を付ければよかった。
うちの天才の子がやはり特別だったみたいだな。
将来は“大魔法使いスライム”かな?なんてね。
ヨヅナ島でもっとも栄えているという“ナトゥク”という町にもあっさりと辿り着き、そこから港までの道中にある小さな山と森も、危な気無く通過する。
▶タンシンネズミ
名前 [なし]
種族 [モンスター
〔短針鼠〕]
レベル [8]
スキル
噛みつき、防御体勢、威嚇、防御力上昇
所属 [鑑定失敗]
▶マダ
名前 [なし]
種族 [モンスター
〔魔蛇〕]
レベル [9]
スキル
移動速度上昇、生命力上昇、嗅覚強化、
毒噛みつき、幻惑視、威嚇
所属 [鑑定失敗]
このモンスターは、どちらも始まりの森でも出会ったことのある種類だ。
短針鼠は、針の短めな針鼠と言った感じで、可愛い。
けど、丸まってしまうと手が出せなくなるのは、普通の針鼠と一緒か。まあ、封印スキルには関係無いけども。
【《怪物種封印スキル》を使用しました。〔短針鼠〕の封印に成功しました】
【自己領域の残量は99.96%です】
もう一方の魔蛇というモンスター、実は思い出深いとも言える相手だったりする。
一体だけ遭遇し、イチとの協力プレイであっさりと封印したから特筆しなかったが、実は愛用の《幻惑視》のスキルはこのモンスターから得たものだったりする。
逆に言えば、遭遇しても目を合わせてはいけないということなのだが――
【《怪物種封印スキル》を使用しました。〔魔蛇〕の封印に成功しました】
【自己領域の残量は99.96%です】
――まあ、奇襲したら関係無いよね。
頭を押さえたら《幻惑視》も《毒噛みつき》も使いようが無いし、今の俺には《鈍化攻撃》や《麻痺攻撃》もあるのだから、前以上に脅威にならない。
結局、ナトゥクの町までで二十八体、そこから港町までで十一体、計三十九体を封印して、ヨヅナ島の縦断を終えたのだった。
……
その後、第五の島“シン島”へと渡る。
ここは、未来世界では渡らなかった島の一つなのだが、それはそうだろう。
なにせ、小さな島に荒地しか無いのだから。アルル様も、意図的に省略したんだろう。
島に着いて、港町と小さな村しか無いと分かった時は、思わず溜息が出てしまった。
これは“大魔法使い”がいる可能性は皆無だし、荒地の探索ぐらいしかやれることが無いな。
▶アレチミツアリ
名前 [なし]
種族 [モンスター
〔荒地密蟻〕]
レベル [9]
スキル
女王従属、酸噛みつき、嗅覚強化、瞬発力上昇
所属 [女王個体]
モンスターも、そんな蟻型しかいなかった。
初めて「所属」が鑑定成功したが、恐らく女王がいて、その働き蟻なのだろう。
仲間交渉も拒否されたし。
それはいつもか?
地面の下の巣を探そうかとも思ったが、文字通りモンスターの巣窟に入って無事に帰れるだけの実力はまだないので、見送りだ。
あ、良い子の皆は、「巣窟」は「そうくつ」と読んでくれよ?
【《怪物種封印スキル》を使用しました。〔荒地密蟻〕の封印に成功しました】
【自己領域の残量は99.96%です】
同じ蟻型モンスターを五体、あとは砂漠にもいたトカゲ型モンスターを一体封印し、切り上げることにした。
第六の島では平地の生息地で、角兎と単眼鼠、始まりの森で一体だけ封印していたモフモフのニワトリと遭遇し、難無く封印。
▶コットンコッコ
名前 [なし]
種族 [モンスター
〔綿鶏〕]
レベル [7]
スキル
突き刺し、移動速度上昇、跳躍、衝撃耐性、
威嚇
所属 [鑑定失敗]
【《怪物種封印スキル》を使用しました。〔綿鶏〕の封印に成功しました】
【自己領域の残量は99.96%です】
続く第七の島では、沼地と湿地の生息地で、毒蛙と沼蟹、前世の雷魚に似た魚のモンスターと遭遇した。
▶オニナマズ
名前 [なし]
種族 [モンスター
〔鬼鯰〕]
レベル [10]
スキル
噛みつき、遊泳、奇襲、大食い、
味覚強化
所属 [鑑定失敗]
【《怪物種封印スキル》を使用しました。〔鬼鯰〕の封印に成功しました】
【自己領域の残量は99.96%です】
姿が似ていたから雷魚だと思ったが、ナマズだったようだ。
雷や麻痺を操るのを想像したのに、徒労に終わった。
ここも、十数体を封印して切り上げる。
いやあ、順調ですなあ。
《麻痺攻撃》を手に入れてから、無双が止まりませんなあ。
相手モンスターのレベルが低いせいもあるだろうが、《予測スキル》と《翻訳スキル》、鈍化に麻痺を持つ今、まさに「俺TUEEEE!」ってやつですかなあ?
『……』
そうして新・異世界生活二十九日目に第八の島へと入り、島を横断する形で中央の草原を探索して行く。
相変わらずの無双状態でゴブリン、角兎、ハリネズミなどと遭遇しつつ進んでいると、草原の先に砂地が現れた。
▶サンドレイ
名前 [なし]
種族 [モンスター
〔砂鱏〕]
レベル [15]
スキル
麻痺攻撃、吸血、簡易迷彩、砂潜り、
地振動察知、麻痺耐性
所属 [鑑定失敗]
おお、遂に《麻痺耐性》を持つモンスターが現れたか。
いやあ、あまりに歯ごたえが無くて、冒険らしくなかったんだよねえ。
この辺のモンスターにしてはレベルも高めだし、さあて、少しは戦闘らしい戦闘が出来るかな?
『……』
だが、そんな期待とは裏腹に、このモンスターもあっさりと俺の《麻痺攻撃》で麻痺し、動けなくなったのだった。
少しがっかりしながらも、そのモンスターの傍らに膝をつき、封印スキルを発動――――
ビュン!
――――予測スキルが警報を鳴らすが、「あとは封印するだけの簡単なお仕事」と気を抜いていた俺は、それに反応することが出来なかった。
目の前で起きたことに理解が追い付かず、キョトンとする。
俺の眼前で、エイ型モンスターが動いていた。
……はあ!?
何故だ!? いくら麻痺耐性があっても、早過ぎる!
エイを見つめながらその理由を考えようとした俺の目線は、あっという間に地面の高さまで下がって行った。
「は? え?」
何が起きたか分からず態勢を整えようとして、自分の体が動かなくなっていることに漸く気付く。
目線だけは動かせたが、目に映るのは砂とエイ型モンスターのみ。俺は地面に倒れていた。
あ、これもしかして、麻痺か!? さっきの警報の時、食らっていたのか!?
(ますたー!?)
イチの声が背後から聞こえるが、そちらを向くことも出来ない。
混乱の中、更なる悪い知らせが俺の気配察知へと届いた。
▶ヴュステ・レーゲンヴルム
動けない俺。
無防備なイチ。
目の前のエイ型モンスター。
……近付いて来るミミズ型モンスター。
…………。
……嘘だろ!?
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現在の保有ポイント:
281+812=1093
(うち、Pバンク:100)
累積ポイント:
57062+812=57874
(次の特典まで126P)
舞台が一気に複数の島で進みましたが、混乱させていないでしょうか?
今後も、じっくり描く島と、あっさり通り過ぎる島が出てくると思います。
どうか、ご了承ください。
次話は、9月4日となる予定です。
その後、9月半ばくらいまでに物語が一気に進む予定です。
どうぞ、よろしくお願いいたします。




