第143話 ナグ島④
本日二本目です。
よろしくお願いします。
新・異世界生活も二十日目。
早朝からナグの町を出て、峡谷沿いに北上して行く。
遭遇したモンスターは、交渉の後に封印するといういつも通りの手順を踏んで、北の港町を目指す。
道中は、これまで見たことのあるモンスター、初見のモンスターが混在して立ちはだかる。
まあ、いつも通りと言ったらそうなのだが。
▶ディモール
名前 [なし]
種族 [モンスター
〔ディモール〕]
レベル [15]
スキル
噛みつき、羽ばたき、爪撃、自在飛行、
視覚強化、奇襲、急降下
所属 [鑑定失敗]
これは、まるでT-レックスの顔をしたプテラノドンのようなモンスターだった。
上空を飛行していたのだが、《急降下》で襲って来たので、《幻惑視》や《鈍化攻撃》を上手く使い、地上に降りているところを捕まえた。
多分、幻を見て、俺たちをムシャムシャと食べているつもりになっていたんだろう。そんな感じの動きをしていたし。
仲間にはならず、道中で合計六体を封印した。
▶ウルブケア
名前 [なし]
種族 [モンスター
〔ウルブケア〕]
レベル [11]
スキル
噛みつき、爪撃、威嚇、遠吠え
嗅覚強化、瞬発力上昇、追尾
所属 [鑑定失敗]
これは、バーンさんたちと一緒にいた時に一度遭遇したことのあるモンスターだ。
犬っぽい見た目通りと言うべきか、何頭かが群れで行動していることもあるようだ。
それで三頭と遭遇した時は少し焦ったが、《予測スキル》で先に気付くことが出来たので、ちょっと冒険ではあったが、準備をしてから誘い込んだ。
(エ、エサ!)
「待って! 君たち、俺の仲間になって一緒に来ない? 毎日、美味しいものをたらふく食べさせてあげるよ?」
(ダ、騙サレナイ! 俺タチヲ食ウ気ダナ? ダガ、オ前食ッテヤル!)
「食えるかー!」
俺のそんなツッコミが空を切ったところで、三頭が俺を囲むように展開した。
普通ならピンチなのだが、こちらには頼もしい仲間がいるので、俺が落ち着いて行動しさえすれば、大丈夫。
(とりゃーっ!)
(ギャン!? ナ、ナンダ!?)
《簡易迷彩》と《気配遮断》のコンボで姿を隠していたイチが、三頭のうち一頭に飛びかかり、気を引いてくれる。匂いで気付かれないか心配だったが、同じモンスターだから眼中に無かったか。
しかも、なんと彼女は、実践でいきなり水魔法を発動させて、そのモンスターにぶっかけていた。
お陰でその一頭は完全にパニックを起こし、残りの二頭もアタフタと混乱して隙を晒してくれていた。流石はイチだ。
想定以上の結果に驚きながらも、冷静かつ迅速に行動開始する。
(キャイン!)
隙だらけの一体目を奇襲。 俺も一瞬《気配遮断》を発動させて場を撹乱し、《鈍化攻撃》を付与して鈍くなっている間に封印。
【《怪物種封印スキル》を使用しました。〔ウルブケア〕の封印に成功しました】
【自己領域の残量は99.97%です】
二体目がハッとなりこちらに目を向けた所に、《幻惑視》を発動して隙を作り、同じように《鈍化攻撃》を入れて封印。
【《怪物種封印スキル》を使用しました。〔ウルブケア〕の封印に成功しました】
【自己領域の残量は99.97%です】
あとは、イチに翻弄されている最後の一体に《簡易瞬動》と《奇襲》で飛びかかり、押さえ込めば終了だ。
元々動物が好きで、前世で犬と触れ合う機会も多かった故、このモンスターは押さえ込みやすいと言えた。 いや、犬を押さえ込んでたというわけでは無いが、じゃれ合って遊んでいたりしたから体の構造や重心などが感覚的に分かるというかね?
今の状況は、どちらかと言うと動物虐待に見えるだろうが、こっちの命を取りに来てる相手なので大目に見てほしい。
【《怪物種封印スキル》を使用しました。〔ウルブケア〕の封印に成功しました】
【自己領域の残量は99.97%です】
イチにやられて「キャイン! キャイン!」と大きな声を上げたせいか、その声を聞きつけてもう一体別のウルブケアがやって来たのだが、一体だけなら苦も無く封印出来た。
道中合わせて六体を封印したが、仲間は無し。犬に囲まれた生活は夢のまま。
でも、どちらにしても、このモンスターは痩せ細った犬のような外見だから、モフモフではないんだよなあ。
▶サンドレイ
名前 [なし]
種族 [モンスター
〔砂鱏〕]
レベル [13]
スキル
麻痺攻撃、吸血、簡易迷彩、砂潜り、
地振動察知
所属 [鑑定失敗]
このモンスターは、道中の砂の中に潜っていて、気配察知が無ければ危なかったと思う。
潜んでいる場所を絞ってイチに水魔法をぶつけてもらったら、慌てて砂の上に顔を出した。
その姿は、海に棲む鱏そのものだった。
(きゅ、急に何するヨ!? ビックリしたヨー!)
ごめんなさいと謝りを入れ、仲間交渉をしてみる。
(仲間カ? お前の血を吸わせてくれるなら、イイヨー?)
はい、アウトー!
ナナフシ型モンスターと同じ匂いがするヨ?
おっと、口調が少しうつった。
ホントだろうね? 嘘だったら承知しないよ?と《威嚇》したら、目が泳ぎまくっていたので、裏返して取り押さえさせてもらう。
泳ぐって、魚だけにってか? 巧くないよ?
おっと、てゆーか、《威嚇》使えた。
ジタバタもがくが、それほどの大きさでもないので、俺に力負けして動けない。
接近し過ぎなせいか危険察知が反応するが、構わず続ける。
嘘吐きには、容赦無く封印スキルを発動だ。
【《怪物種封印スキル》を使用しました。〔砂鱏〕の封印に成功しました】
【自己領域の残量は99.97%です】
……あれ?
次に行こうとしたところで、急に体が動きにくくなった。
何事かと慌てる俺をあざ笑うかのように、そのままどんどん自由が利かなくなって、ついには地面に倒れ込んでしまう。
俺、死ぬのか?と混乱していると、今度は一変して徐々にそれが緩和していき、段々と正常に戻って行った。
俺を心配して寄り添っていてくれたイチを抱き寄せ、自分の体がちゃんと動くことを確認し、深く息を吐く。
何だったんだ、今のは?
自らの持病なのかと疑いもしたが、間もなく再遭遇したエイ型モンスターの鑑定結果をよく見て、その謎が解けた。
周囲に危険が無いことを確認して、試しに同様の取り押さえ方で封印したら、今回も危険察知が反応していたから、間違いないと思う。
案の定、封印後にまたもそれが起こったから。
(ま、ますたー! 死なないでー!)
「だ、だだ大丈夫ぶぶ。た、たただのの、麻痺だだかららら……」
(……まひ?)
そう、エイ型モンスターの持つスキル《麻痺攻撃》による状態異常、<麻痺>だったみたいだ。
取り押さえたエイ型モンスターがジタバタと暴れる中で、それが付与されたタッチを許してしまったのだろう。
麻痺と言っても、受けた側からすると痺れてるという感覚よりかは、何が起こっているのか分からないと言った方が近い。
イチに声をかけたら舌が震えてたから、他人から見たら痺れてるのは一目瞭然なんだろうな。
そりゃあ危険察知も反応するわ。
ちょっと危険な実験だったが、今回も間もなく回復して何事もなかったかの如く動けるようになったので、結果オーライということで。
もちろん、心配をかけたイチにはしっかりと謝った。
だが、いざという時のために、ハッキリと確認しておくべきだと思ったんだよね。
恐らく《麻痺耐性》があるから時間差で麻痺にかかって、しかも回復も早かったんだろうけど、きっと相手のスキルランクの方が高かったりしたらもっとピンチだったと思う。
どういう状態になって、どのくらいの間動けないか経験しておいて損は無いし、今回だけ。
(もー、心臓に悪いよー)
イチ、心臓あるっけ?
まあ、翻訳スキルでの言葉の綾ってやつだろうが、ホント悪かった。ごめん。
今回の道中ではさらにもう一体と遭遇したが、流石に三度も食らう必要は無かったので、《幻惑視》と《鈍化攻撃》のコンボで封印に至った。
【《怪物種封印スキル》を使用しました。〔砂鱏〕の封印に成功しました】
【自己領域の残量は99.97%です】
その他にも、最初の島の岩場で遭遇し、初めて《鈍化攻撃》を経験した岩蝸牛とも三体ほどエンカウントした。
ふと興味本位で《鈍化攻撃》を付与してみたら、元々鈍いのがさらに<鈍化>してコマ送りのように面白いことになったので、申し訳無いが腹を抱えて笑ってしまう。
だが、調子に乗って二体目、三体目もそうやって封印していたら、三体目には天罰のように逆に《鈍化攻撃》を当てられてしまい、ちょっと反省した。
魂を封印してしまうという大事なのに、そういうのはイケないよね。うん。
【〔春野咲也〕のレベルが上がりました】
【ステータスが上昇しました】
【各種補正率が修正されました】
【スキルランクの上限が上方修正されました】
【スキルランクに変化はありません】
【特殊スキルの解放条件は満たしていません】
【領域が拡張しました。自己領域残量が再算出されました】
【自己領域の残量は99.97%です】
【特殊封印による経験値移譲が行われました】
【〔ステムセル・スライム〕のレベルが上がりました】
【ステータスが上昇しました】
【各種補正率が修正されました】
【スキルランクの上限が上方修正されました】
【スキルランクに変化はありません】
【特殊スキルの解放条件は満たしていません】
【領域が拡張しました】
おお、レベルが上がった。
俺もイチも、レベル16になったな。
そうして道中ひと波乱あった移動も、峡谷の端が見えてきて終わりに差し掛かった。
その時だった。
▶エンマコオロギ
名前 [なし]
種族 [モンスター
〔閻魔蟋蟀〕]
レベル [18]
スキル
噛みつき、跳躍、脱兎、聴覚強化、
地振動察知、魅了音波、土属性魔法耐性、
土属性魔法の心得
所属 [鑑定失敗]
これまでで最もレベルの高い、黒い体色のモンスターが峡谷の傾斜を歩いて来るのが見えた。
エンマコオロギと言えば、前世の日本でも身近にいた虫だ。
だが、それがモンスターともなると、なかなか凄味がある存在になるな。
閻魔という名前が、そのまま本来の閻魔大王を指し示すかの如く、名が体を表しているように感じる。
スキルも多いし、これまでで最強のモンスターかもしれない。
そう思って、覚悟を決めて身構えようとしたのだが――
――そのモンスターは、こちらには気付かないまま、谷間に開いた岩の切れ目の中へと消えて行った。
その奥に住処でもあるのだろうか?
少し悩み、追いかけてみようかとも思ったのだが、あの感じだと内部は暗そうだし、危険過ぎるかもと思い留まる。
一応、気配察知を意識しながら待機してはみたのだが、奥に進んで行って戻って来る気配がしなかったので、今回は諦めることにした。
その個体を最後に、その後はモンスターに出会うことは無く、暫し歩いたのちに俺は目的地の北の港町へと到着することが出来たのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
次の島への出発は明日。
ここに続いて、未来と同じ名前の島、“ヨヅナ島”へと渡ることとなる。
まだ弱いモンスターしか出ないとは言っても、そろそろレベル20台の個体も出てきそうだ。
イチもそうだが、モンスターでも魔法を使える個体も出現しそうだし、一層気を引き締めて行かないとな。
そう思いながら、港町の宿でいつもの日課とポイントカードのチェックをする。
魔力操作も、かなりスムーズに出来るようなったから、そろそろ魔法も修得出来るかもしれない。そんな期待も込めつつ、練習を頑張った。
そして、スキルの取得だ。
《噛みつき》
《羽ばたき》×2
《爪撃》×2
《急降下》
《噛みつき・下》
《威嚇》
《遠吠え》×2
《瞬発力上昇》
《追尾》
《麻痺攻撃》
《簡易迷彩》
《地振動察知》
《粘液分泌》
《鈍化攻撃》
《鈍化攻撃・下》
今回は、全て取得。
ほとんどはそのままの形で取得となり、あるいは同一スキルに統合されていく中、いくつかは他の上位のスキルへと統合されていった。
【追尾・最下、地振動察知・最下が《予測スキル》に統合されました】
【粘液分泌・最下が《身体強化スキル》に統合されました】
これにより、《予測スキル》の気配察知の能力に、追尾の機能が備わったようだ。
追尾なんて不名誉だから、言い換えたわけじゃないよ?
ないったらない。
さあ、次はランクアップだ。
【《自己狂化・下》を取得しました。《自己狂化・最下》に上書きされました】
【《噛みつき・下》を取得しました。《噛みつき・最下》に上書きされました】
【《簡易迷彩・下》を取得しました。《簡易迷彩・最下》に上書きされました】
【《幻惑視・中》を取得しました。《幻惑視・下》に上書きされました】
【《麻痺攻撃・下》を取得しました。《麻痺攻撃・最下》に上書きされました】
取得したばかりの《麻痺攻撃》も、即ランクアップしておく。
これはなかなか使えそうだしね。
愛用している《幻惑視》も、よりパワーアップして一層使い勝手が良くなったはずだ。
これで明日は、万全を期して四番目の島へと向かえる。
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現在の保有ポイント:
244+334-297=281
(うち、Pバンク:100)
累積ポイント:
56728+334=57062
(次の特典まで938P)
名前 [春野咲也]
レベル [15⇒16]
称号 [怪物種の友達]
[怪物種を封じる者]
[不殺の誓い]
[忍び寄る者]
テンポアップして行くはずが、何故かまだ三番目の島……。
あれえ?(笑)
次話の投稿は、9月1日となります。早いもので、もう9月ですか……。
時間は未定ですが、恐らく夜になると思います。
どうぞ、よろしくおねがいいたします。




