第139話 渡島前夜
本日四本目。
二番目の島へ渡るのは次話でした。間違えてスミマセン。
「ふう、スッキリした」
ミミズの住処である砂地の探索を諦めた俺は、その足で港町アノーサへと来ていた。
もうやることも無いし、そろそろ次の島へと渡ろうと考えたのだ。
そうして港町に着き、近くにある小川の河口の場所を教えてもらって、そこで体を洗わせてもらっていた。
「あー、やっぱりお風呂に入りたくなってくるなー」
(お風呂?)
一緒に水辺で水浴びをしていたイチが、不思議そうにしている。
どうやら、風呂を知らないようだ。
「お風呂っていうのは、温かいお湯に浸かることだよ。俺の故郷では、毎日のように入ってたんだ」
(熱湯に浸かる精神修行ってこと? それを毎日なんて、流石、ますたー!)
「違うなあ……」
どうも、彼女がスライムなせいか、お湯の気持ち良さというものが上手く伝わらない。
実際に入ってみれば、イチにも気持ち良いとは思うんだけど。
「適温の……四十度ぐらいのお湯にゆっくり浸かって、体の汚れを洗い流しながら温まって、リラックスする文化というか……」
(汚れなら、ボクの《悪食》で綺麗にしてあげられるよ?)
「ありがとう、イチ。とってもありがたいけど、そういうことじゃないんだよなあ……」
イチは、今日も可愛いなあ。
いや、違う。彼女がいればお風呂よりもリラックス出来てる気もするが、それも違う。
お風呂は、日本人としては切り捨てられないものというか……確かにアルル様の言った通り、ある種の業なのかもしれないが。
この一年、水浴びや体を拭くのが当たり前になっていたから我慢出来ていたんだけど、転移後からまた入浴したい衝動が蘇って来た気がするよ。
『ああ、ごめんなさい。それもあなたに制限をかけていた影響です。一部の欲求は抑制してあったんですが、それを解除したことが原因ですね』
え? そうなんですか?
なら、今の方が正常ってことか。
それはともかく、こんなモンスターがうろついている世界だと、天然の温泉があったとしてもゆっくり入れなそうだよな。
火を熾してドラム缶風呂みたいなのを用意するにしても、野営でやってたら、同じくモンスターが寄って来ちゃいそうだし……?
うーん、何かいい手はないものか。
『魔法を覚えたら良いと思いますよ。毎日の日課にしているマナの操作練習のお陰で、そのうち使えるようになりそうですし』
ああ、なるほど。
確かに、最近はマナの操作技術も上達してきている。初級の魔法なら、もう間もなく使えるようになるだろう。
それならば、何も難しく考えなくても、漫画みたいに火の魔法とかで湯を沸かしたらいいんだよな。
魔法の腕前次第では、結界魔法なんかも使えるだろうし、どこで野宿してても風呂に入れる可能性すらあるかもね。
よーし、魔法の特訓、頑張るぞー!
『動機が……』
いやいや、アルル様から話を振ったんじゃないですか。
そんな新しい目標を見据えつつも、さっぱりしたところで着替えをし、水浴びを終えたイチの体も拭いてあげる。
てゆーか、よく考えたらこれも一種の混浴だよね。女の子と水浴びって。
まあ、イチは生まれたてのゼロ歳児なんだけどね。スライムだし。
よく考えるだけ虚しいことだったか。
姉と妹? あれは別。
『きゃあ!? あの人、女の子と一緒に裸で水浴びして、剰え、彼女の体をいやらしい手付きで撫でまわしてるわ! へ、変態に違いないわ!!』
違いあるわ!
スライムボディを拭いてあげただけで、この言われ様!?
全然いやらしくなどないし……いやらしくないよね? ね?
イチ、いやらしくなんて無いよね!?
(ますたー、その布、凄く気持ち良いよー♪)
イチの言葉にドキッとさせられたが、手付き云々は心の声の内容なので彼女に伝わってはいない。
たまたまのタイミングだったようだ。
そして、無意識にイチの体を日本製のバスタオルで拭いていたことに気付いた。
どうやら、彼女の滑らかボディを拭くのに、ガサガサやザラザラの布を使うことを、俺の本能が拒否していたらしい。天使には、天使に見合った素材というものがあろう。
ナイス、俺の本能!
『……』
とりあえずこのタオルはイチ専用にするとして、そろそろ片付けて戦闘準備をしようか。
海側から、接近反応があるからな。
河口を遡って、浅瀬に乗り上げて姿を現したのは、中型犬ほどのサイズのモンスターだった。
▶アラナミガニ
名前 [なし]
種族 [モンスター
〔荒波蟹〕]
レベル [9]
スキル
鋏撃、回復泡、簡易瞬動、乾燥時衰弱
所属 [鑑定失敗]
(ギチギチギチ! 美味そうな獲物じゃ! スライムに手古摺る程度なら、ワシならば瞬殺じゃな!)
俺とイチのじゃれ合いを、戦闘中と勘違いしたのか。
イチが狙われなくてちょうどいいが、以前の蟹と同様に《簡易瞬動》を持っているし、油断禁物だな。
また、流れ弾がイチに向かないとも限らないし。
それならさっさとケリをつけるのが一番なので、イチのことは伏せて、仲間交渉を開始する。
(ほう、仲間とな? 興味深い話じゃのう……)
お? これは好感触……なのか?
(……なんて、言うと思うたか! バーカ、バーカ!)
……ですよねー。
まあ、油断してなかったから、相手の簡易瞬動も余裕を持ってひらりと躱す。
(バ、バカな!? これを躱すじゃと!?)
馬鹿って言う方が馬鹿なんですぅ。
これであっちはクールタイムで暫く瞬動は使えない。
あとはこちらも瞬動で背後に回り、手慣れてきたいつもの動きで押さえ込めば完了だ。
【《怪物種封印スキル》を使用しました。〔荒波蟹〕の封印に成功しました】
【自己領域の残量は99.97%です】
ふう。今回は危なげなく終えられたな。
荷物を背負い、港町へと戻り、今夜はそのまま港町で一泊することにした。
次の島への出立は、明日にしよう。
宿ではいつも通りに日課を熟す。今日のことがあったし、マナ操作にもいつも以上に気合いを入れるが、そんなすぐには上達しないものだ。もう少し練習が必要か。
あとは、スキルの取得だ。
《擬態》 ×9
《自切》 ×8
《吸血》 ×11
《奇襲》 ×11
《吸血時HP微回復》 ×6
《引っ掻き》 ×1
《気配遮断》 ×1
《麻痺噛みつき》 ×1
《器用さ上昇》 ×1
《地振動察知》 ×2
《地振動察知・中》 ×1
《回復泡》 ×1
昨日、《予測スキル》の取得に気を取られて、四十五体分のナナフシと二体のグレムリンのスキルを取得するのを忘れていたことに気付いた。
やっぱりあれだけの数を封印して回った疲れがあったのだろう。
なので、纏めて今日のうちに処理してしまうことにした。
ナナフシの《擬態》、《自切》はそれぞれのスキルへ統合され、《吸血》と《吸血時HP微回復》は前回と同様、《回復スキル》へと統合されていった。蟹から得た《回復泡》のスキルも、《回復スキル》へと統合。
《奇襲》と《器用さ上昇》も、それぞれのスキルへ。
《引っ掻き》と《麻痺噛みつき》のスキルも一応取得したが、使うことは無さそうな気がする。
グレムリンから得た《気配遮断》は、イチともお揃いの有用なスキルだと思う。
こちらは気配を断ち、向こうの気配を探れるのだから。色々と楽になるのではなかろうか。
そして《地振動察知》のスキルだが、どうして砂漠であのミミズが、いち早く俺の存在に気付けたのかが判明した。
今回得られた三つのうち一つが、最初から中位ランクのものだったのだ。
想像ではあるのだが、恐らくあのミミズは、この《地振動察知》の中位か、もしくはそれ以上のものを所持していて、はるか遠くの俺の足音を感じ取って向かって来たのではないかと思われる。
トカゲのと合わせて三つのそれらは、《予測スキル》の中へと統合されていった。察知系のスキルは、これに統合されるようだ。
あとは、少し余裕を残しつつ、スキルのランクアップを行う。
【《麻痺耐性・下》を取得しました。《麻痺耐性・最下》に上書きされました】
【《狂化耐性・下》を取得しました。《狂化耐性・最下》に上書きされました】
【《後ろ蹴り・中》を取得しました。《後ろ蹴り・下》に上書きされました】
こんなところだろう。
その後、明日の船旅に備えて、少し早めに就寝することにする。
なにせ、この時代の船は初めてだからな。揺れるだろうなあ……。
そんな不安とも戦いながら、キレイになったイチを傍らに、眠りに就くのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
〖周辺環境のスキャンを完了。 現地生物を参照に、偽装外形モードを開始しました。擬態生物は「xxxx」です〗
「…………おうち、帰りたい……」
〖現段階での帰還は不可能です。 離陸及び大気圏離脱に必要な機能の修理に必要な……〗
「もーーッ! 分かったわよ! 探せばいいんでしょ! 探せば! こんな原始的な星で、見付かるとも思えないけどね!?」
〖擬態生物「xxxx」の生態及び、行動シミュレーション結果の情報を表示しますか?〗
「…………はぁ、なんで私がこんな目に……」
『……』
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現在の保有ポイント:
307+16-115=208
(うち、Pバンク:200)
累積ポイント:
56130+16=56146
(次の特典まで854P)
彼女の出番も、間もなく……。
次話は8月28日の投稿予定です。
どうぞよろしくお願いいたします。




