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第129話 等価交換?

本日もよろしくお願いします。


「取り乱したわ。ごめんなさい。ウフフ……」


 まだ少し取り乱している様子のポーンさんと、本格的な交渉に移ることにした。

 今回彼女が扱えるのは、未来の銅貨、銀貨と、小金貨までとなった。

 それ以上は彼女には扱えないそうだ。商人的にも、精神的にも。


「それじゃあ、このピカピカの銅貨?だけど、これはアクア銀貨一枚でどうかしら?」


 おやあ? まだ平常心を取り戻せていないようだぞ?

 銅貨と銀貨を交換したら、ポーンさんが損するじゃないか。


「少し時間を置きましょうか? ポーンさん、今、アクア銅貨とアクア銀貨を言い間違えてましたし、冷静さが、まだ……」


「もう冷静だわよ? 間違ってないから。この銅貨、アクア銀貨一枚分以上の価値は確実にあるから」


「は!?」


 マジですか? 銅貨が銀貨に化けるって?

 未来技術で作られたとはいえ、そんなにするものなのか?


「ちょっとだけ私の内情を話すなら、これは通貨としては無価値よ。ただ、珍しい物好きの貴族相手に紹介すれば、恐らく銀貨一枚どころじゃない値が付くでしょうね。だから、この価格は私の利益諸経費とか加味しても、妥当よ?」


 そ、そうなんだ。ならいいけど。

 次に、未来銀貨だ。


「これはアクア銀貨十五枚分ってとこね。ちょっと安過ぎる?」


 全力で首を横に振る。

 安過ぎるどころか、そんなに貰っていいのかと不安になるわ。


「以下略。妥当よ」


 疲れの色が見えてきた様子のポーンさんにバッサリと切られる。


「相場というものがあるけれど、これに関しては他に流通していないでしょうから、現在の銅、銀、金の相場から推定するしかないのよ。既存通貨も参考にはするけど、どちらかといえば装飾品になると思うし。そもそも希少価値がついて、素材自体より高値が付くと思うし、あとは私の商人としての勘ね。不満なら、もう少し高く……」


 再び全力で首を横に振り、次の小金貨を差し出す。


「……これに関しては、申し訳無いけれど時間をもらえないかしら? 私の今の手持ちでは、払えそうにないの」


「え? いくらぐらいになるんですか?」


「……これを見てもらえる?」


 そう言って彼女は、テーブルに一枚の金貨を置いた。


「この国の通貨で一番価値の高いのが、このアクア金貨というものなのだけれど、恐らくあなたの出した金貨はこれの十五……いえ、二十倍は価値があると思うわ」


 つまり、アクア金貨二十枚分の価値ってこと?

 ちょっと大袈裟過ぎるんじゃ……いや、妥当なのか?


「だから、最低でも金貨二十枚以上を用意させてもらうわ。だから、少し時間を……」


「今、手持ちのアクア金貨ってのは、何枚まで出せるんですか?」


「え? 今? えーっと……そうね、五枚……いえ、七枚なら出せるわ。それを前金として欲しいってこと?」


「七枚か……。 なら、それでいいです」


「分かったわ。前金で七枚、残りの十三枚以上は、すぐに用意を……」


「あ、いえ。七枚だけでいいです。それで交換してください」


 そんな俺の提案に、ポーンさんは引き攣った笑顔のままで固まってしまった。

 首を錆び付いたロボットのようにギギギと横に向け、バーンさんを見遣る。

 「今、何て言ったの?」みたいなことをアイコンタクトで伝えていそうだ。


「……兄さん、それは冗談か?」


 彼女の代わりに、バーンさんが口を開いた。


「いえ、冗談ではなく。正直、そこまで高額の買値を求めてるわけじゃないんで、資金を用意させるとか手間取らせなくても、今払える分で十分で……」


「ふ、ふざけてる!? あなた、金貨十三枚分以上を損するってことなのよ!?」


 ポーンさんは、怒りの表情でテーブルに身を乗り出した。

 未来の商人さんと似た顔とはいえ、若い女性なのだからあまり近付き過ぎないでほしい。前のめりなせいで、胸元も開いてしまってるし。

 と、そんな場合では無いか。


「何処の世界に、そんな損害を承知で商談する人間がいるって言うのよ!?」


「……ここ、ですかね」


「あ、阿保かーー!!」


 今日は、デジャブがよく降り注ぐ日だなあ。

 不意に、院長さんと取調官さん二人のハモったツッコミがフラッシュバックして来た。懐かしいなあ。

 てゆーか、もしかしなくても俺、教訓を活かせてないなあ。


「あ、あ、あなたに何のメリットも無いでしょ!? 金貨十三枚よ!? その損害に、なんの意味があるっていうのよ!?」


「え? うーん……じゃあ、二人にお世話になったお礼を兼ねて、とか? いや、待って! 二人の結婚祝いを先払いで、というのはどうで……」


「今考えてるの!?」


「何処の世界に、庶民の結婚祝いに金貨十三枚も出す奴がいるってんだよ!?」


「えー……ここ、ですか……」


「うるさい! 黙って!」

「うるせえ! 黙れ!」


 わー、ハモった。

 俺、実は人を怒らせてハモらせる天才だったりして。

 そんな馬鹿なことを妄想してしまった。


「分かったわ、バーニッツ。彼、頭のおかしい人なのよ、きっと」


「それはなんとなく分かっていたが、ここまでとは」


「そうでもなきゃ、こんな…………あれ?」


「どうした?」


 急に、ポーンさんは何かを考え込んで黙ってしまった。

 てゆーか、いくら何でも本人を目の前にして「頭おかしい」は酷いわ。

 バーンさんも躊躇無く同意してるし。


「バ、バーニッツ……ちょっと?」


「あん?」


 考えが纏まったのか、何故か青白い顔のポーンさんはバーンさんを手招きし、ヒソヒソと耳打ちをし始めた。

 だが、身体強化スキルに《聴覚強化》も入っているので、少しばかりそれを聞き取れてしまう。

 なので、彼女が何に思い当たって青褪めた顔をしていたか、その理由も理解出来た。

 これもやっぱり、デジャブってるわ。


「あのー、付かぬことをお聞きしますが……」


「はい? どうしました、急に改まって?」


 もう分かっているが、知らない体で応じる。

 人を頭おかしい呼ばわりした仕返しに、少し揶揄ってやろ。


「咲也さんって、平民でよろしいのですよね……?」


「なッ!? 何故、そんなことを尋ねるんです!?」


 《役者スキル》の力を借りて、それっぽい演技をする。

 「その反応は、まさか本当に!?」みたいに受け取られるように意識してみた。


「そ、そんなはずは……。身分証を偽造出来るなんて、あり得ない……」


「兄さん……まさか、貴族様だったりするの……いえ、しますか……?」


「……」


 俺の沈黙の演技に、二人ともが顔を青褪めさせていく。

 ちょっとやり過ぎか?

 だが、そのまま続けてみる。


「……まさか、バレてしまうとは……」


 そこで、「なーんちゃって! 平民でしたー!」と言ってネタばらしするつもりだった。

 だが、事態は俺が思うより深刻だったようだ。


 二人は、即座に床に頭を擦り付けて平伏し、赦しを乞うて来た。


「多大なる無礼の数々、どうかお慈悲を!」


「願わくば、オレの首一つで、どうか彼女の命だけでもお助けを!」


 うん。やり過ぎたらしい。

 慌ててネタばらしをするが、二人とも微動だにしない。

 そんな状況に、俺の方が焦る。


「ご、ごめんなさい! ほんの出来心で! 本当に俺はただの平民なんです!」


「……ほ、本当ですか? 顔を上げても、不敬罪に問われたり……」


「し、しませんから! 顔を上げてください!」


 恐る恐る顔を上げた二人と俺の間に、微妙な空気が流れた。

 まさかこんな大事になるとは。


「……ほ、本当に大丈夫みたいね……。ヒグッ、良かった……」


「に、兄さん。冗談にしても、やっていいことと悪いことが……はあ、生きた心地がしなかったぜ……」


「わ、私、奴隷落ちしてしまうのかと……グスッ、グスッ」


 本気で不安だったんだろう。ポーンさんは、バーンさんに抱き着いて泣き出してしまった。

 彼も、震えた手で彼女を抱きしめ返すのがやっとのようだった。


「ほ、本当にすみませんでした。まさか、こんなショックを受けるとは思わず……」


 結局、二人が落ち着くまでの間、俺は正座して謝罪を続けたのだった。



  ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「はあ、色々あって疲れたわ。さっきのは信憑性があって完全に騙されたわ。完敗よ」


「本当に、申し訳ありませんでした」


「もういいわよ。あなたが悪意があってやったわけじゃなく、何も知らずにちょっとふざけただけだと分かっているし」


 いやあ? 仕返しとか悪意があったと言えなくもないのだけれど。

 それにしても、随分未来とは対応が違ったな。

 まさか泣くほど恐々とするとは。


「でも、これからは覚えておいてね? この世界では、貴族に逆らったりすると、その場で切り殺されたり奴隷落ちになっても文句が言えないのよ? 冗談でも貴族のフリなんてしない方がいいわ」


 真剣な目で、そう語るポーンさん。

 さっきの態度で、それがどれだけ深刻なことか理解出来たと思う。

 どうやら未来世界や地球と比べても、こちらでの階級制度というのは重いようだ。

 それに、奴隷制が存在するということも分かった。


「まあ、この島で貴族なんて、会う方が難しいから安心して。それに何より、護衛無しで出歩く貴族なんてまずいないから、見れば雰囲気で分かると思うわ」


 この国は、比較的平民の割合が多いらしく、特にこの島周辺は滅多に貴族など見かけないそうだ。

 てゆーか、地理を把握していないから、この島が国のどの辺りなのかも分からない。

 まさか未来と全く同じなわけは無いだろうし、もっとマップを埋めてみないと理解の仕様が無いな。


 事のついでで一応、貴族に遭遇した時の基本的な作法を教えてもらった。

 二人に「よく今まで無事に生きてこられたな?」と言われたが、師匠に軟禁されていた設定のお陰か、それ以上深くは追及されずに済んだ。


「話を戻すけど、本当にいいの? もうぶっちゃけてしまうけど、この金貨だけじゃなく銀貨も銅貨も、伝えた買値ですら安過ぎるくらいよ? こんな代物なら、私の売り込み方次第でいくらでも高く捌けると思うし、別にボッタクリするわけじゃないけど、それが最低ラインの額というだけよ? あなただって私と交渉してもっと高くも出来るのに、それを言い値で、金貨に至っては半値以下なんて……」


「問題無いです」


「いや、問題大有りなんだけど……はあ、もういいわ。これ以上ツッコむのも疲れてきたし。その師匠とやらに譲り受けたのか何なのか知らないけど、そんなに拘らないってことは、まだまだ何枚も持ってるんでしょうね。それ、絶対に信用の置けない人に悟られちゃ駄目よ?」


 どうやら、この硬貨も師匠譲りだと思われたようだ。

 まあ、わざわざ否定する必要も無いし、スルーしておくか。

 とりあえず、忠告だけ「はい」と返事をしておいた。


「でも、まさかそこまでの品だとは……」


「いや、こんな一品、普通作ろうと思っても作れないわよ。金銀をふんだんに使っていることもそうだけど、何より精巧さが、今の技術を凌駕しているし。まるで、未来から持って来たような……」


 ドキーッ!

 まさか正解を言い当てるとは!?


 必死に表情に出さないように平静を装う。ポーンさんは鋭いから、悟られかねないしな。

 流石に、本当に未来の硬貨だとは思わないだろうけど。

 思った以上にヤバい品だったか。てゆーか、オーパーツ?


「出処を是非知っておきたいところだけど……なんか怖いから、止めておくわ。これ以上の心労を抱えたくも無いし」


 ホント、すみません。

 彼女なら上手く捌いてくれそうではあるのだが、これ、歴史を歪めたりしないよね?


『その心配は無いです。どうやっても、その出処が遠い未来だなどと、確かめようがありませんから』


 おっと、久々にアルル様の登場だ。

 神様からOKサインが出るなら、ひと安心ね。


『いずれ、世界三大オーパーツに数えられる事案になったとしても、問題はありません』


 うおい!? 問題大有りだわ!

 それって、地球で言うところの“水晶どくろ”とか“ナスカの地上絵”みたくなるってこと?

 それと同等の物があと二つあるのにもビックリだけど。


『いえ、銅貨、銀貨、金貨で、世界三大?』


 表彰台、独占!?

 売り払うの、早まったかな……?

 でも、他に資金源の当てなんて無いし……。


『未来は、これから生まれるんです。そこに遠慮し過ぎなくとも、思うがままにやったらいいと思いますよ? なるようにしかなりませんし、本当にマズければ私が止めますから』


 ありがとうございます……。

 安心なような、不安なような……いえ、ナンデモアリマセン。


 ともかく、俺は未来の小金貨一枚、銀貨二枚、銅貨七枚を売ることで、アクア金貨七枚、アクア銀貨三十七枚を得ることが出来たのだった。

 残りの未来の硬貨は、銅貨五枚、銀貨四枚、小金貨九枚、並金貨七十……以下略だが、今後は資金源にするのは控えた方が良さそうだ。

 何か、他の収入を考えて行かないと。



 こうして、手元にこの時代の正規の通貨、アクア金貨とアクア銀貨を得て、俺は漸く町での買い物をスタートさせられることになったのであった。



次話は、今夜投稿予定です。

(時間未定)


独り言ですが、読んでいた作品が突然消失(退会)するのは悲しいものですね。

一夜にして全てが消えるのは、ショックでした。

同じような体験をしたことのある方も多いんでしょうね。



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