表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
130/444

第128話 あの悪夢をもう一度

本日もよろしくお願いします。

中途半端な時間ですみません。


 ポーンさんの突然の奇行に、俺とバーンさんはあんぐりと口を開けたまま、固まっていた。

 ともに旅した仲間が突如強盗に変われば、誰だってそうなると思う。


「お、落ち着け? なっ? 何で、急に……」


 バーンさんが混乱しながらも、彼女を宥める。

 だがポーンさんは、俺を掴んだ手に一層力を込めていた。


「咲也君? まさか君、これをそこら辺の店に持ち込もうとしてたのかな?」


「は、はい。そうですが……?」


「馬鹿は死ななきゃ治らないという言葉をご存知?」


「え? はい。それって、もしかして……俺のこと言ってます?」


「あら、良く出来ました。それじゃ、心置きなく死んでちょうだい!」


 セリフだけ聞いたら、変装してた暗殺者が正体を現し、殺しに来たみたいにも取れる。

 だが、むしろ彼女は悪の親玉のように、再び「バーニッツ、殺っておしまいなさい!」と指示を飛ばしていた。

 明らかに寸劇っぽい雰囲気に、またも俺とバーンさんはポカンとする。


「あの、意味が分からないんですが……」


「ふおおお! 心臓が飛び出るかと思ったわよ! 何て物を持ってるの、あなたは!?」


 そう言って、俺の渡した銀貨を震えた手で持って見せるポーンさん。

 あ、なんとなく察した。


「……もしかして、もしかしなくても、ヤバい品でした?」


「そうよ! 少なくとも、こんなところで出していい品では無いわね! 今すぐに場所変えるわよ!」


 辺りをキョロキョロと見回し、付いて来いと言わんばかりの勢いで歩き出した彼女に、呆気に取られながらも俺とバーンさんは付いて行った。


 これはまさか、久々に、俺、やらかした?




  ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




「ここなら大丈夫だわ」


 ポーンさんに連れられ、町の一角にある頑丈そうな石造りの建物へと入った。

 ここは、商人が商談などの際に使う商業ギルドの施設らしい。

 警備もいるし、外部に話が漏れにくいとかなんとか。

 案内人とともに廊下を通り、いくつもある扉の中の一つ、小さな小部屋へと通される。


「で? これは何なのよ?」


 部屋に入るなり、ポーンさんに詰め寄られる。


「落ち着けって! 先ずは座ろうぜ? 冷静に、な?」


 バーンさんが慌てて中に入り、先ずはゆっくり話せるようにと座ることを提案する。

 部屋の中央にはテーブルと椅子が置かれてあり、そのテーブルを挟むようにして、俺と二人が向かい合って座った。


「フーッ。失礼。興奮してしまったわ。まあ、こんな物を見せられたら仕方ないのだけれど」


 ゆっくりと深呼吸するポーンさんの、次の言葉をただ黙って待つ。


「それじゃあ、冷静に話を聞かせてもらおうかしら? 先ず、この二つを見比べてみて?」


 彼女がテーブルに並べたのは、俺が渡した未来銀貨一枚と、この時代の銀貨一枚だった。

 並べられたそれらを見比べてみると、色も輝きもだいぶ違うことが分かる。


「この二枚の違いが分かるかしら?」


「色が……こちらの方がくすんでいるように見えます」


 そう言って、俺はこの時代の銀貨を指差す。


「そうね。正確に言うなら、こちらの方が()()()()()()()と言うべきね」


 そう言って彼女が指差したのは、未来銀貨の方だった。


「簡潔に言うと、この銀貨は()()が良過ぎるのよ。含有率も、精巧さも……」


 途中から、何かを考え込みながら銀貨を見つめてブツブツと呟き始めたポーンさんを、隣のバーンさんが肘で小突いた。

 それでハッとなった彼女が、目線を俺に戻す。


「ご、ごめんなさい。分かっていないようだから順を追って説明するけど、この国の主要通貨であるこのアクア銀貨は、世界の通貨の中でも高品質な部類に入るというのはご存知?」


「存じ上げません。アクア……銀貨って言うんですね、コレ?」


「そ、そこからかぁ……」


 大きく溜息を吐き、呆れた表情で頭を抱えながらも説明を続けるポーンさん。

 ああ、この状況って、シュリと孤児院に行った時を思い出すな。


「ええと、このアクエリウス王国で製造されている硬貨をアクエリウス銀貨、通称アクア銀貨と呼ぶわけね。銅貨はアクア銅貨、金貨はアクア金貨という風にね?」


 ここ、アクエリウス王国って国だったんだ。

 流石にそれを言ったら、呆れるだけで済みそうも無いので、黙っておく。


「で、世界で流通している硬貨、例えば銀貨ね? 同じ銀貨でも、製造国によって品質には差があるわけ。それは、銀の含有率や造りの精巧さ、銀貨自体の大きさとかでね。だから、通貨圏の異なる場所で換金する場合、同じ銀貨一枚でもアクア銀貨と他の銀貨では当然同価値ではないのよ。ここまではOK?」


「はい」


「で、一応は商人の端くれとして、私は世界中の色々な通貨を見てきたのだけれど……あなたの持っていた銀貨は、そのどれよりも高品質だと思うの。つまり……」


「つまり、そんな物を何気無しにそこいらの店に持ち込もうとしていた馬鹿は、死すべきだと?」


「……まあ、殺してしまえは冗談でも言い過ぎたかもしれないけど、つまり……」


「往来で無警戒にポンと出したりして、不特定多数の目に触れかねない行為がいかに危険か教えたかったと?」


「……急に察しがいいわね? そういうことだけど」


「初めてじゃないんで。学習能力が無くてすみません」


 孤児院の院長さん、元気かナー?

 おっと、まだ生まれてもないんだった。でも、未来のあなたたちに教わった苦い経験の数々は、俺の中に確かに生きていますよ、なんて言ってみたりして。

 早速活かせなかったけどな。


「まあ、今後は信用出来る相手を見極めてから交渉するようにしなさいよ? たまたま善良で見目麗しい一流商人の下に渡ったから良かったものの……」


「それ、自分で言うなよ! さっきは商人の端くれとか言ってたじゃねーか!」


 久々にバーンさんのツッコミが入ったところで、話がひと段落したのだと感じた。

 自分のことながら、俺は本当に運が良いと思う。


 流石に怪しい人物に見せたりしないとは思うが、初めて相談した相手が、前回の孤児院の院長さんないしポーンさんのような人でツイてた。

 もしこれが、悪徳商人やボッタクリ商人だったりしたらと思うとゾッとする。


「で? これを換金したいってことなのよね? 全部で何枚持ってるの?」


 その質問に、ふと鞄の中を確認する。

 未来の貨幣は、銅貨十二枚、銀貨五枚、小金貨十枚、並金貨七十枚、大金貨と白金貨がそれぞれ一枚ずつ残っていた。

 本来はもっとたくさんあったのだが、アルル様から報酬として貰った分、それとアルル様に両替してもらった分以外は、「未来の物」として転移時に消滅してしまったのだ。

 天金貨? それは知らんて。どっかに入ってんじゃね?


 ポーンさんに枚数を告げようとしたところで、ハッとあることに気付いて、一度口を閉じた。


「……あと一枚しか持ってません」


 暫し考えてから捻り出した答えに、彼女がニヤリと笑みを浮かべた。


「合格。そこで馬鹿正直に本当の枚数を言ってたりしたら、今度こそバーニッツの刃の餌食になってもらってたわよ? まあ、鞄の中を確認したり、これまでの言動から一枚じゃ済まないのはバレてるから減点だけどね」


 ああ、デジャブがまたやって来た。院長さんの時とほぼ同じようなことを言われた。


「でも、ポーンさんたちのことは信頼してるから、いいような気も……」


「それとこれとは別! 商人と取引するときは、例え身内であっても「信頼」という言葉で思考停止しちゃダメ! 大きな商談であっても、日常の買い物の値引き交渉であっても、しっかり頭を使って考えなさい。それが身を守る術でもあり、相手に対する礼儀でもあるのよ?」


 そう言って真剣に向き合ってくれる彼女の存在は、とてもありがたい。

 この町までの付き合いと分かっているのに、騙してボッタクリをしたりしない辺り、善良さが伺える。


「その……かなり説教が長くなってしまったけど、本題に入るわね?」


 少しバツの悪そうな顔に変わった彼女に、気にしないで、ありがとう、と伝える。


「それじゃ、今回売りたいのは、銀貨一枚? それとも二枚?」


「えーっと……」


 教わったことを活かし、よく考える。

 この場合、先に銅貨で様子を見て、相手の出方を伺って?

 でも既に銀貨が出ちゃってるんだし、そのまま様子見で、銀貨だけ?

 かと言って、ここを逃すと次に信用のおける商人に会えるのはいつになるか分からないわけで……。


 ……プシューッ。


「……師匠、こういう場合の正解って、どうしたら……?」


「いや、私は君の手持ちの材料を知らないから……。というか、いつ師弟の関係を結んだかしら?」


 考え過ぎて頭から煙を上げた俺を見兼ね、結局ポーンさんが助け舟を出してくれた。


「じゃあ、今回だけは交渉の仕方を教えてあげるわ。ここで見た余計なことは、外には漏らさないから。その代わり、授業料としてあなたの取り分から一割を引かせてもらう。これでどう?」


「ハイ、オネガイシマシュ……」


「……この子、旅人させておいて大丈夫なのかしら?」


「……オレに聞かれてもな……」


 俺も不安です。

 とりあえずは、交渉しようとしている硬貨を全種類出してみることにした。


「ちなみに、金貨なんて物も取り扱ってます?」


「……その質問の時点で、「俺は金貨持ってるぞ」と言っているのと同じなのだけれど? まあ、ここまで来たらもう驚かないから、一応出してみなさい?」


 そう言われ、未来の銅貨、銀貨、小金貨、並金貨を一枚ずつ並べた。

 並べ終えて顔を上げると、ポーンさんがバーンさんに抱き着いていた。


 何!? 急にいちゃつき始めた!?


「助けてバーニッツ! この子、私の手に負えないわ!」


「泣くな。モンスターに噛まれたと思って諦めろ」


 違う。彼の胸を借りて泣いてただけだった。

 でも、出せと言ったのはそっちなんだけど?


「い、胃が痛いわ……。とりあえず、これは間違いなく私には扱えないから、今すぐに鞄に仕舞ってちょうだい? さあ早く!」


 そう言われ、指定された並金貨を鞄に戻す。

 彼女曰く、小国の王家でなら国宝として保管されててもおかしくない品だったらしい。

 ほへえ、それは凄いけど、じゃあその上の硬貨は……?


 俺は考えるのを止めた。特に天金貨(ラスボス)のことなどは。

 これって結局、資金については引き続きチートなのと変わらないよね?


「ねえ、バーニッツ……? 本気でこの子殺ってしまって、鞄を奪って二人で一生遊んで暮らさない……?」


「落ち着け。目がマジだぞ?」


「あはは……ウフフ……」


 危険な目付きで俺を見つめ、怪しい笑い声を上げるポーンさん。

 どうやら俺は、この時代でも被害者を出してしまったようだ。



今日も一本だけとさせていただきます。

次話は8月18日の予定です。

どうぞよろしくお願いいたします。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ