第12話 またしても
予定より一日早い投稿となりました。
よろしくお願いします。
少しネタバレします(読み飛ばし可)
前話の食材「アカアレチキンドリ」と「モンクロニーのフン」について。
勘の鋭い方はお気付きかもしれませんが、
「アカアレ・チキンドリ(赤荒れチキン鳥?)」ではなく「アカアレチ・キンドリ(赤荒地金盗り?)」が正解です。
設定としては外見グロテスクな蜥蜴の仲間。肉は鶏肉っぽくて美味。
でも、「鶏肉」じゃない。
モンクロニーのフンは、マジで糞。
虫の糞で、樹液・花の蜜などが主食だから無害(食べられる)。
少し酸味のあるハチミツのような味で美味。食文化として存在するので、露店で売っていても全く問題ない、という設定。
リアルで数か所の土産コーナーで「〇〇のフン」や「〇〇のウンコ」という菓子(チョコ)を見かけたので、ネタとして書いてみました。
主人公が真実に気付く時を楽しみにしております(笑)
そうそう、この世界の貨幣価値だが、今日の買い物のお陰でかなり理解出来た。
銅貨十枚で銀貨一枚分、銀貨十枚で小金貨一枚分だ。
色々と買い物をしてみて、銅貨は多分百円くらいに思えたので、銀貨が千円、小金貨が一万円くらいと考えておこう。
小金貨十枚で並金貨と両替出来るらしいから、これは十万円か。
ということは、宿代含め今日だけで小金貨十四枚分を使ったから、十四万円くらいだ。
初期費用とは言え、随分使ったな。
そんなに使ったのに、高校生の割に余裕そうだって?
そりゃそうだ、まだまだ有りますから。
そもそも、何故この世界のお金がこんなにあるかと言うと、これもポイントカードのお陰なのだ。
『そうそう。言い忘れていましたが、ポイントカードのポイントが一定数貯まるごとに累積ポイントのご褒美があります』
転生初日、門前から二回目の逃亡を果たした時のこと。
町に入るための嘘八百を仕込まれている最中に、アルル様から言われた。
『千ポイントごとにお金やアイテム、スキルなどを差し上げます。これまでの分を鞄の中に送っておきますので、差し当たっては町に入るための入町料は、そこから出してください。残りは後で確認してください』
その時は取り合えず必要な銀貨だけを取り出した。
その際に魔法鞄の中身の一覧には銅貨や小金貨、大金貨なんて単語も見えたのだが、何種類何枚入っていて所持金いくら持っているかなんて気にする余裕は無かった。
転生二日目に宿屋で確認していて、鞄の中には様々な種類の硬貨が入っているのが分かった。
今日も使っていた銅貨、銀貨はもちろんだが、こちらの世界では金貨は三種類あるそうで、その三種類ともが入っていた。
小さくて価値の低い順に小金貨、並金貨、大金貨だ。
流通しているのは並金貨が最も多く、普通「金貨」と言えば並金貨のことを指すらしい。
小金貨や大金貨と区別する場合のみ、並金貨と呼ぶのが一般的だそうだ。
てっきり三種類の中でなら、より安価な小金貨が一番使われていそうだと思ったのだが、そういうわけでもないのか。
異文化故なのか、単に俺が世間知らずなのか。
その他に、白金貨と天金貨というのも入っていた。どの種類も二~三枚ずつのようだ。
天金貨というものだけは、小粒、中粒、大粒、極大粒と分かれて表示されていた。
大きさ別に価値も違うのだろうか。
流石に気になったので、何故こんなに色々入っているのかアルル様に尋ねてみたら、『実物に触れて学んでもらうため』だそうだ。
俺の前世のポイントは五万ポイント以上。
千ポイントごとに報酬が貰えたわけだから、五十回分だ。
その内訳は知らないが、報酬内容はアルル様が決めるんだとか。
今はこの世界の常識を学ぶ必要があるため、貨幣や魔法薬を中心に誰でも知っている、見たことがある一般常識的なものをチョイスしたと言っていた。
市場や店舗を巡って学べる物品とは違い、貨幣に疎いのはあまりにも非常識で危険だからという理由なわけだ。
因みに魔法薬を優先しているのは、地域や状況によっては貨幣の代わりに扱われることがあるからなのだとか。
地球には存在しなかった魔法のアイテムなので、初見で安物と高級品の違いが分からず騙されたりしないようにという配慮からだと言っていた。
まあそんなわけで、俺の鞄には硬貨と魔法薬が大量に入っていた。
楽して儲け過ぎだとは思ったが、アルル様曰く『旅の資金集めに四苦八苦されても困るので』という理由らしい。
ポイントの累計報酬ということは、善行を重ねたご褒美なのだろう。それは理解出来る。
だが、アルル様の善意とは言えそんなには受け取れない。
ただでさえ魔法の鞄やスキルなど面倒見てもらっていて、その上お金までというのは至れり尽くせりにしても限度を――――
『神の采配に文句を言うとは偉くなったものですね。そんなご立派な方にこの金額では全然足りませんよね? ではこの国で一番の金持ちになれる程度に加算を……』
――――つべこべ言わず、最初の額をありがたく受け取っておくことにしよう。
因みに、なのだが。
銅貨十枚で銀貨一枚分、およそ千円。
銀貨十枚で小金貨一枚分、およそ一万円。
小金貨十枚が並金貨一枚分でおよそ十万円。
大金貨というのは、並金貨が十枚分だと教えてもらえた。一枚で百万円という大金だ。
この流れで行くと、魔法鞄の表示の順で、白金貨、天金貨って、その上の価値のような気がするのだが――――
ブルッ。
――――その先を考えようとして、背筋に寒気を覚えた。
俺の歳での金銭感覚では、この先には踏み込まない方がいいような気がする。
もっと大人になってから向き合うことにして、今は記憶ごと封印しておこう。
大金貨までで十分事足りる。
精神衛生上、身に余る大金なんて持たないに越したことはないよね。
そうだ、今からでも受け取り拒否を――――
『そうですか、足りませんでしたか。では、急いで加算を……』
――――一度頂いたものを返すなんて失礼だし、大事に鞄に保管しておこう!
今後の俺のストレス耐性の成長に期待して!
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
少し早いが、今晩の宿を取るために町の北側へ向かう。
地図機能を活用すれば、目的の場所に迷わず辿り着くことが出来るから楽なものだ。
宿屋さんが言っていた他二か所の宿というのが、東の門前宿と北の宿のことだった。最初に泊まっていたのは西の門前宿ね。
東の宿でも良かったのだが、今回は北の宿を選んでみた。門前宿ばかりというのもワンパターンだからという理由だけなのだが。
北の宿は門前宿に比べると少しお高い価格だった。
この町の門前宿が安い……というか、良心的だったというのもあるのだろう。
転生前の感覚で言うと、宿泊費なんて一万円以下が相場だと思っていた。俺はまだ自分で払ったことがないが、家族旅行の時によく話題になったものだ。
テレビやネットでも「カプセルホテル一泊五千円から」という情報も出ていたし。懐かしい。
そんなだから、この宿が小金貨一枚と銀貨三枚と聞いた時にはもの凄く高く感じてしまった。
正直、中は門前宿と大差無い。
これなら俺以外は、全員が安いあちらを選ぶのではないか?
そう思ってアルル様に尋ねてみたら、同業……というか町ぐるみで利害関係があり、門前宿で満室のように装ったり、客の多い時期に値上げしたりと強かな戦略を用いているのだとか。
俺にはイマイチよく分からないが、まあ同じ町の人同士仲良く協力し合っているってことか。
そんなことより、ここの宿屋の受付には白いモコモコの女の子が待ち構えていた。
これは、この種族はすぐに判別出来る。わざわざ聞くまでもない。
「いらっしゃいませ~」
のんびりとした話し方につられて、眠ってしまいそうだ。
彼女は一人だが、眠れない時に数を数えるあの動物の人。
そう、羊人族だ。
「何泊の~ご利用ですか~? お食事は~ご希望ですか~?」
一泊食事付きでとお願いする。
今は意識もあるので、門前宿と違い前払いだ。食事付きで小金貨一枚銀貨六枚を支払う。
身分証を求められたので、簡単な説明とともに仮証を見せるが、特に問題は無いようだ。
モコモコおっとりの少女は、見た感じ十一~二歳といった感じだ。
家の仕事のお手伝いかな? 偉いね。
部屋に通され一息つくと、アルル様との雑談タイムに。
昨日の教訓から、声は出さずに心の声での会話に徹する。
『旅路も順調ですね。これならもう一人でも大丈夫なんじゃないですか?』
いや、まだ最初の町から出てすらいませんから。
『それにしても、流石若いですね。一日休んだらもう普通に動けるなんて』
まあ、まだあちこち痛いんですけどね。
初日の大移動を思えば、十分耐えれちゃいますよ。根性付きましたかね。
『その程度で大袈裟です。でもまあ、私の目論見通りと言えますね。若さも助けて、多少無茶でもなんとかなるのがいいですね』
うーん、多少ではなかった気がするけども。結果オーライか。
今日の買い物で旅支度は済んだので、明日のことを相談する。
途中で宿屋の女の子が夕食を運んできてくれたので、それを食べながら引き続き計画を練っていった。
因みに、夕食のメニューは門前宿とほとんど変わらない。
パンのようなものにスープ、肉巻きのようなものが副菜として付いたもの。
肉巻きの肉は明らかに違う種類だが、結局は謎肉。アルル様のOKサインが出ているから躊躇無く食べられるけど、手探りな異世界冒険モノの主人公たちはよく食べる勇気が持てるよね。
宿泊料金が高い分、少し良いものを期待したのだが、食事代自体は変わらないので内容もほぼ一緒らしい。
さて、この町の観光に未練が無いわけではないのだが、買うものは買ったし、世界一周するのを考えるとあまりゆっくりともしていられない。
というわけで、明日は保安官さんに会って話をして、午後から隣の町へ向けて出発することに決める。
話が長引いたり予定外のことが起こったら、無理せずもう一泊して翌朝に発てばいいと言われた。
余裕のある計画、これがデキる女の手腕ってやつか。勉強になります。
いや、普通の女じゃなく女神様ですが。
『正味な話、この町は門番の言っていた通り大き目の村と言った方が正しいくらいなんですよ。だからここで長居するより、他の大きな町でゆっくり過ごす方が充実出来るかと』
それは確かに。今日一日で町の半分以上を回れてしまったくらいだからなあ。
結局話し合いの末、アルル様の草案通りに動くことになった。
その後、宿の女の子が食べ終わった食器を回収しに来たので、そのついでに体を拭くお湯が欲しいと伝えてみた。
正直、こちらに来て三日間も風呂に入っていないので、我慢の限界なのだ。
アルル様曰く、この時代の人たちは数日水浴び湯浴みしないくらいは普通のことなので、誰も気にしないよ、とは言われた。
けれど、現代日本人なので気分的に落ち着かない。せめて体を拭いておきたい。
明日会う予定の保安官さんは狼人族だと言っていた。
狼。つまり、鼻が利くに違いない。
獣人だらけのこの世界で気にしても仕方ないだろうが、思春期男子として身だしなみは……ねぇ?
少ししてから、お湯とタオルを準備して来てくれた。
これは料金内のサービスでいいと言われたので、部屋で体を拭いて着替え、そのお湯で髪も洗わせてもらう。それだけでかなりサッパリした。
本当は湯船と石鹸、シャンプーが欲しいところだが、この時代では贅沢過ぎるにもほどがある。
先は長いのだし、どこかで巡り合えることに期待しておこう。
一応アルル様にも聞いてみたが、『頑張って探してみてください』とエールをいただいた。ちえっ。
宿の女の子に声を掛けて裏口の排水場所に湯を捨て、タオルを返してお礼を言って、部屋に戻る。
髪の毛は自然乾燥しかないので乾くまで窓辺で過ごし、それから横になって、眠りに就いた。
多少なりサッパリ出来たので、今日はぐっすり眠れそうだ。お休みなさい。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
異世界に来て四日目の朝。
十分に休むことが出来たので、筋肉痛もほとんど回復して快調な目覚めだ。
アルル様に挨拶して朝支度をしていると、宿屋の女の子が朝食を持って来てくれた。
朝食のメニューはウインナーとスクランブルエッグ、サラダとパン……のように見える。
洋食チックな朝餉だが、この文明で地球と同じなわけはないよね。見た目だけ似ているんだと思う。
ウインナーがこちらにも在ったのには驚いたが、相も変わらず原材料不明の謎生物肉だ。
スクランブルエッグに見えるこちらの卵料理も、右に同じく。
サラダに至っては謎野菜なのは良いとしても、小さな鳥の脚のようなものが混ざっている。
これは飾りなのか食用なのかすら判別出来ない。
とは言ってもアルル様のOKをもらえたので、問題無く食べるのだが。
朝食を摂り終わり、一休みしながら今日の予定を確認する。
まさかサラダの鳥の脚っぽいのが普通に美味しく食べられるとは、流石異世界、流石ファンタジーと言っておこう。
あれは果たして動物のものなのか、植物だったのか……
『日本でも似たようなの食べる地域もありますけどね。それをファンタジーと言いますか』
それでも、動物か植物かすら教えてくれないんですね。
宿屋の女の子に聞くのも年長者として恥ずかしいし、他に聞ける人がいない。
待てよ? 今日は保安官さんと会うんだし、世間話のついでに聞けたら聞いてみよう。
予定を頭に入れ、出発の準備をして宿を出ることにした。
受付で宿屋の女の子に挨拶する。この宿では何事も無く終えられたな。
その時、十分な休息を得た俺の頭脳が冴えわたった。
あれを忘れているじゃないか。
どうせなら有終の美を飾って去るとしよう。
鞄から小金貨一枚を取り出すと、受付の女の子に差し出した。
「親御さんのお手伝い? 偉いね。良いサービスだったから、感謝を込めて多めにチップを渡しておくよ」
そう、この世界にはチップの文化があったのを忘れていた。
昨日はお湯の準備までしてもらってたのに渡していなかったし、このまま出ていたら礼儀の無い客と思われていたかもしれない。よく気付いたよ、俺。
初めてじゃなかろうか。アルル様の気付かないことに気付けたのは。
少しずつ成長しているのが実感出来た……なんて、言い過ぎかな? へへっ。
『……』
「わあ~、ありがとうございます~。こんなにいっぱい~、いいんですか~?」
喜んでもらえて何よりだ。
奮発した甲斐があるってものだ。
「多すぎるようだったら、余剰分は君のお小遣いにでもするといいよ」
「わあ~、おにいちゃん~、やさしい~! ありがと~」
いやー、照れるねえ。
だが、これで間違いなく有終の美は飾れたな。
その時、カウンターの奥から男性がブーッ、と吹き出す声が聞こえた。
少し間をおいて、一人の男性が出て来た。この子のお父さんかな?
「あ、どうもお世話になり……」
「お前、あんまり揶揄ってやるなよ。可哀想だろう?」
その男性は、受付の女の子に向けてそう語り掛けた。
「え~、折角いい気分のまま~、帰らせてあげようとしたのに~。優しさだよ~。ま~、冗談だけど~」
ん? 話が見えないけど、なんのことだ?
女の子は俺の方に向き直ると、カウンターに置いてあった置物のようなものを指さす。
そこには何か描かれている。コインのマークに斜線が引いてあるようだが……?
お金が……いらない?
『それは“チップ不要”のマークですね。この店では料金にチップ代が含まれているので、チップを出さなくてもいいですよ、という注意書きみたいなものです』
アルル様の言葉が頭の中で反響する。
えっ……俺、聞いてない……。
「すまんな兄さん。うちのもんが揶揄っちまって。だが、あんたも店の表示くらいちゃんと見ないと損するぞ」
宿屋のおじさんの声が聞こえるが、恥ずかしさで頭に入って来ない。顔が熱い。
追い打ちをかけるように、女の子の言葉が俺に届いた。
「それから~、ウチの種族って~、羊人族なんですよ~。この喋り方と~、見た目で~勘違いされやすいんですけど~、成人して~結婚もして~、子供もいるんですよ~?」
理解が追い付かない。
何言ってるの、この子?
「兄さん、まさか知らなかったのか? 羊人族は見た目と実年齢が釣り合わないのなんて、今日日知れ渡ってるだろう? ひと昔前ならいざ知らず。うちの家内以外もそうだろう?」
「この男の人が~、ウチの旦那で~、この宿の~店主兼~料理番よ~。折角だから~このチップは~、授業料として~ありがたく~貰っておくわ~。次から~気を付けてね~、おにいちゃん?」
「コラッ……! なんかすまんな、兄さん。いい社会勉強にはなっただろ? もう騙されんなよ?」
え~騙してない~、あっちが勝手に~、というイチャつく声を背に、宿を足早に出た。
今の俺は、頭の天辺から湯気が立ち昇っているに違いない。
『有終の美を飾って去るとしようー。初めてじゃなかろうかー。アルル様の気付かないことに気付けたのはー。少しづつ成長しているのが実感できた……なんて、言い過ぎかなー? へへっ!!』
「もー止めてー!!」
両手で顔を覆ったまま通行人の目も憚らず、俺は今日も全力でその場から走り去るのであった。




