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第126話 レベル29

本日二本目です。


 新・異世界生活六日目。

 いよいよ、この島の中心都市……ではなく、一番大きい町へと向かう時が来た。

 というか、この島で唯一の町なのではないだろうか?

 他は村ばかりだったし。


「お早う、咲也君」


「お早う、兄さん」


「お早うございます、お二人とも」


 待ち合わせの二人と合流して挨拶を交わし、前と同じようにカブフ車へと乗り込んだ。

 本当は、このカブフという動物にも話しかけてみたいのだが、未だチャンスは訪れない。


 道中も、例の如く楽しい雰囲気で話をしながら進んで行った。

 狙い通り、話術スキルに熟練度がガンガン貯まっていることだろう。


 その途中、俺たちの前に訪問者が現れた。



 ▶ウルブケア


 名前   [なし]

 種族   [モンスター

       〔ウルブケア〕]

 レベル  [3]

 スキル

  噛みつき、爪撃、威嚇


 所属   [鑑定失敗]



 痩せ細った犬のような外見のモンスター。

 レベルは低いが、戦うのに躊躇する相手だ。


 その理由は二つ。

 一つは、初見で動きが予測出来ないこと。

 昨日のイチの件もあるし、下手を打ちたくない。


 もう一つは、ポーンさんたちがいる前で、封印スキルを使っていいものか迷うことだ。

 絶対に詮索されるだろうし、下手に見せない方がいいと思うのだが。


「おっと、仕事だな。ここは任せろ」


 バーンさんは、慣れた様子でひらりと荷台から降りる。

 息の合った様子で、ポーンさんが合わせるようにスピードを落としていた。

 こういう場面は、もう何度も繰り返してきたのだろう。


「兄さん、すまんがオレがいない間、周囲の警戒を頼む。何かあったら、すぐに叫んで知らせてくれ」


 そう言って、バーンさんはモンスターと対峙する。

 だが、俺はそれを複雑な心境で見送らねばならなかった。

 何故なら、彼がモンスターを殺してしまうと、それを封印することが叶わなくなるからだ。


 殺されたとしても、そのモンスターはいずれ何処かで転生してリポップするのだろう。それは分かっている。

 だが、やはり目の前で生き物の命が奪われるのは、見ていて楽しいものではない。それがモンスターであっても。

 かと言って、俺がそれを邪魔するのもどうなのだろう?

 モンスターを庇う人間を、この二人がどういう目で見ることになるか分からない。


 自分たちを襲って来る相手を、「殺生は良くないです」なんて甘いことを言った時点で、変人奇人は確定すると思われる。

 下手をすれば、モンスターを庇護する危険思想とかそういう風に捉えられる可能性だってあるのだから、ここは慎重にならねば。


「あっ!」


 だが、俺のそんな想いとは裏腹に、現実は待ってはくれなかった。

 そのモンスターは、バーンさんの一撃であっさりと吹き飛ばされてしまう。体の側面に大きな傷が入り、血が流れ出している。

 恐らく、あと一撃で決まってしまうだろう。


「心配しなくても大丈夫よ。バーンなら、この島のモンスター程度に後れを取ることはあり得ないわ」


 ハラハラしながら戦いの様子を見つめる俺に、ポーンさんが声をかけてくれた。

 だが、見当違いだ。俺が心配しているのはモンスターの方であって、バーンさんの心配などこれっぽっちもしていない。


「……なんか、今、誰かに侮辱された気がしたのだが……?」


 そんな呟きをするバーンさん。エスパーか?


 でも、そういう意味じゃない。根拠があってのことだ。

 何故なら――



 ▷バーニッツ


 名前   [バーニッツ]

 種族   [獣人族

       〔猿人族〕]

 性別   [男]

 年齢   [三十二歳]

 生年月日 [非表示]

 出身   [非表示]

 ジョブ  [冒険者・剣士]

 レベル  [29]

 称号   [ベテラン護衛士]

      [心優しき者]

      [夢見がち]


 スキル  [非表示]


 所属   [冒険者ギルド/グリュドリュフ商隊]



 ――このレベル差では、負けようが無いだろう。

 気さくな感じの人だが、実力はかなりのようだ。

 こちらの世界の標準とか分からないけど、俺やモンスターたちでレベル一桁なのを基準に考えても、相当強いのではないだろうか。


 てゆーか、称号の[夢見がち]が気になる。


「グルルルル……」


 おっと、それどころじゃない。

 弱々しい威嚇をしているモンスターに、バーンさんがトドメをさそうと近寄って行く。


 やはり未来とは違い、手負いとなったそのモンスターは戦意を喪失して後退っていて、今にも逃げ出そうとしているようだった。

 だが、踵を返して背を向けたりすれば、バーンさんはそれを見逃さないだろう。

 うーん、これはどうすれば……?


 しかし、迷っている間に取り返しが付かなくなっては、元も子もない。

 そう思い、バーンさんには申し訳無いが、ここは一芝居打たせてもらうことにする。

 周囲を見回し、急いで計画を練って、半分ぶっつけ本番で実行に移した。


「あれー? 上空から、何かの気配がー!」


 わざと大きい声で、そんな出任せを放ち、目線も上空へと向ける。

 それに反応し、バーンさんは瞬時にカブフ車の方へと引き返して上空を警戒した。

 もの凄い速さだ。


「何!? 本当か!?」


 うわあ、罪悪感が半端ない。

 そうしているうちに、手負いのモンスターは、街道脇の小さな丘の方へと逃げ出した。

 やってしまった以上、最後までやり切らねば。


「バ、バーンさんはこのまま上空を警戒しててください! あのモンスターは、俺が仕留めてきます!」


 そう言い放つと同時に、そのモンスターの後を追うように全力で走り出す。


「おい! 深追いしなくていい! 今はこっちを……」


 そう叫ぶバーンさんだったが、二人ともポーンさんの傍を離れるわけにもいかないため、それ以上身動き取れずにいた。

 ごめんなさい、バーンさん。でも、計算通り、上手く行った。


 手負いとはいえ、モンスターとの距離は結構ある。

 丘を越えて見えなくなっても追いかけると、後ろからはバーンさんの怒号が飛んでくる。

 それを無視して俺も丘を越え、逃げるモンスターの姿を捉えると、一度後ろを振り返ってカブフ車から見えない位置にいることを確認した上で、それに追いつくためのスキルを発動させた。


 《簡易瞬動》発動!


 スキルの力で、開いていた距離が一気に縮まった。

 後は、《奇襲》のスキルでいつものように襲い掛かり、取り押さえて封印すれば完了だ。


【《怪物種(モンスター)封印スキル》を使用しました。〔ウルブケア〕の封印に成功しました】

【自己領域の残量は99.99%以上です】


 良かった。上手く行ったぞ。

 仲間交渉している暇も無かったが、今回は仕方ない。俺たちを襲っている時点でほぼ間違いなく仲間にはならなかったと思うし、死ぬ前に封印する方を優先したのだから。

 仲間になったパターンがイチだけだから、どういう場合なら仲間になってくれるのかほとんど判明していないのは困るところだなあ。


 《簡易瞬動》の実験も出来たし、無事封印も出来たし、良い結果とも言える。

 だが、課題の方が多いとも言えよう。


 今後、同じような状況になったらどうするか、考える必要がある。

 そもそも、封印の件を人に話していいものか、考えておく必要がある。

 この時代の人たちがモンスターをどう捉えているかも、調べておく必要がある。

 そして何より……この後、二人にどう言い訳すべきか、今のうちに考えなければならない。


 気が重いなあ。



  ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「い、痛いです……」


「反省しろ、馬鹿たれ!」


「はい……」


 二人の下へと戻った俺は、バーンさんのゲンコツで出迎えられていた。


 モンスターは、残念ながら逃げられてしまったと言って誤魔化せた。

 そこまでは問題無かった。

 だが、独断行動で深追いし、自らを危険に晒したことを滅茶苦茶怒られた。


「弱いモンスターばかりの島とはいえ、集団に取り囲まれたり、突然強い個体が現れないとも限らないんだ。街道から外れたりして、もしそうなっていたらどうするつもりだったんだ?」


「はい……すみませんでした」


 シュンとなり、謝る。

 嘘を吐いたり誤魔化したりしている分、一層申し訳なく思う。


「兄さんが強いのはなんとなく分かる。さっき走って行った速さもそうだが、動きが素人では無いし、ある程度鍛えているのも分かる。だが、明らかに経験値が足りてないのも分かるんだぞ?」


 うっ。結構正確に見抜かれている。

 流石、レベル30近い人は違うなあ。


「手負いの獣ほど、意外な動きをしてくるから危険なものなんだ。いくらザコだったとしても、一人で深追いするのはだな……」


「まあまあ。説教はその辺で。彼も反省しているようだし、良かれと思って行動してくれたんでしょうから。結局、その手負いの獣だって逃げてしまったのだから、危ないことしたわけじゃないんだし……」


「そもそも、追いかけたこと自体がだな……」


「あー、はいはい。分かったから。バーニッツが彼を心配して怒ってくれてるのは、彼も私も分かっているから」


「茶化すなっ!」


 段々といつものノリに戻って来た二人。

 庇ってフォローしてくれたポーンさんには、感謝のしようがない。


「ところで咲也君? あなたの気配察知では、もう上空には何の反応も無いのよね?」


 ドキーッ!

 そっちも嘘吐いてたから、心苦しさがもの凄い。てゆーか胃が痛い。


「は、はい。今は、何も……」


 もういっそのこと、全部正直に話して謝った方が良いような……。

 てゆーか、嘘吐く必要ってあったっけ?


「ならいいわ。さっさと出発しましょう。ねえ、バーニッツ?」


「……ああ、そうだな」


 そう言うと、すぐにカブフ車は再出発し、動き出した。

 ああ、神様。こんな良い人たちに嘘を吐く俺をお許しください……。


「まあ、なんだ……その……気配察知で危険を知らせてくれたのは助かったぜ? 襲撃こそ無かったものの、上空から狙われてたら、アイツも無事では済まなかったかもしれないからな」


 ボソッと、小声で話すバーンさん。

 称号の通り、心優しき人だよね、彼。

 彼女のことも、俺のことまで真剣に心配してくれているのだから。


「さっきは殴って悪かったな。あれはやり過ぎた」


「いえいえ。ちゃんと叱ってくれるのは、ありがたいです。言われた通り、俺に落ち度があったんですから」


 てゆーか、嘘吐き小僧には、もっと強めでも良かったんですよ?

 マゾ的な意味ではなく、罰としてね。


「男同士の密談は終わった? それにしても、バーニッツが見えないほど上空の気配も分かるとは、凄い能力ね?」


 ギクーッ!?

 この人、嘘を見抜いた上で言ってるんじゃないだろうな?

 鋭い人だから、そんな気がしてならない。


「ははは……。そんな大したものでは……。こっちに来なかったし、ただ通り過ぎたのを勘違いした程度の精度みたいですし……?」


「それでも十分凄いって。この先も、頼りにしてるぜ?」


「そうよ? 頼むわね?」


 うう、胃がキリキリと……。

 俺、なんでこんな思いをしてまで、嘘吐いてるんだっけ?

 よく分からなくなってきたぞ?


 そんなストレスに潰れかけながらも、今更嘘でしたと言えなくなり、二人に後ろめたさを感じながらの残りの道中となったのであった。




本日、五万ポイント……もとい、五万PV達成しました!

皆様の日々のアクセスおよびご愛読に、心より感謝申し上げます。

これからも、本作をよろしくお願いいたします。


次話は、8月13日の投稿予定です。

どうぞ、よろしくお願いいたします。



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