第125話 日課
本日もよろしくお願いします。
「やあやあ、お待たせ!」
一日半ぶりに再会したポーンさんは、とてもニコニコとしていた。
それはもう、気味が悪いほどに。
「すまない。気にしないでやってくれ。アイツと会った後は、いつも反動でこうなるんだ。商談中、よく我慢してるなってくらいイライラと……」
「ハッハッハッ! バーニッツ君? アイツって誰のことかな? 私は善良な村人たちとしか会ってませーん! ギルドの口煩い馬鹿の相手なんて、した覚えありませーん! もう、記憶から抹消しましたー! 残念!!」
あのポーンさんが、子供みたいだ。
相当ストレス溜まってるんだろうな。
「さあ、咲也君! 再会を祝して、美味しいものでも食べよう! お姉さんが奢ってあげるよ? なんなら、溜ま……」
「さー! 飯だ飯だ! 兄さん、さっさと行こうぜ!?」
何か言いかけたポーンさんを遮るように、バーンさんが俺の肩をガッチリと組んで歩き出す。
まあ、なんとなく察しは付いた。
下ネタだな。
付き合いの長いバーンさんには瞬時に分かったから、村内で大声で言わせないように先回りで遮ったのだろう。
彼女の黒歴史、意外と多そうだ。
……
「先ほどは、失礼しました。お見苦しいところを……」
さっきとは打って変わり、冷静さを取り戻したポーンさんは、早速自らの小さな黒歴史が増えたことを悟ったようで、俺に謝罪していた。
あっという間だったが、あのポーンさんも面白くて良かったんだけどな。
「ホント、ごめんなさい。あんな馬鹿みたいな……いえ、バーニッツみたいな姿を晒すだなんて……」
「なんで言い直すかな!? つーか、どういう意味だ!?」
「いえいえ。到底バーンさんには及んでませんでしたよ。それに、あのポーンさんも楽しくて俺は好きですよ」
「相変わらず酷いな!? え? イジメ継続中!?」
その賑やかさにホッとする。
バーンさんは「ホッとした顔してんな!?」と騒いでいたが、こういう扱い好きらしいし、こちらも楽しいから、別にいいだろう。
「ふふっ。さり気なく口説かれているのかな、私は?」
「いえ、そんなつもりでは」
「ふふふっ。それじゃあ、とりあえず結婚しようか?」
「何だこの甘いムードは!? つーかいきなり結婚は飛ばし過ぎだろ! とりあえずで、すんな!」
「き、気持ちは嬉しいんですけど、ポーンさんにはバーンさんという相方がいるので……」
「そこでオレかよ! しかも相方って!?」
いやあ、楽しい食事だ。
話術スキルが仕事してくれてるんだろうな、コレ。
「そうか、バレてしまっているなら仕方ない。実は私、彼とデキてるのッ!」
「そ、そうなんだ……? なんとなくそんな気は……。でも、いざ聞かされると、ショックなものですね……」
「え? 何? 寸劇始まってる!?」
「ごめんね……。 もう、彼の子供もお腹の中に……」
「いねーから! 指一本触れてねーからッ!」
「そうですか……。三つ子の元気な赤ちゃんが……?」
「三つ子!? 分かるの早くね!?」
「おめでとうございまーす! 元気な五つ子でしゅよー?」
「ノンストップ!? つーか増えてるー!?」
「わ、私と全然違う顔!? あなた! 一体誰との子なの!?」
「いや、オレが責められるんかーーい!?」
「あー、楽しかった。お陰で、トレエ村のストレスも吹っ飛んだわ。ありがとね、咲也君」
「いえいえ。俺も楽しかったです」
「相変わらずいいノリね。素晴らしいわ」
「ポーンさんこそ、素敵です」
「ゼエ、ゼエ……。オ、オレはッ!?」
「律儀にまだツッコんでくれるとこ、凄いと思います」
「す、素直に褒められると、それはそれで困るんだが……」
「よっ! キレエ村一のツッコミ!」
「規模小せえな! お前はどうせなら、本業の護衛を褒めろ!」
そんな掛け合いにポーンさんもご満悦のようで、一層美味しそうに食事の手を進めていた。
そんな彼女を見て、溜息をつくバーンさん。だが、どこか嬉しげだ。
「……バーニッツも、ありがとね。ストレス発散に付き合ってくれて」
「な、なんだよ急に? そんなまともなこと言ってると、調子狂うだろうが?」
「失礼な。私はいつでもまともよ?」
「どこがだよっ! ……でもまあ、あのギルド員にはオレもいつも苛ついてるんだし、堪えて頑張ってるお前のことはホント、尊敬してるぜ?」
「あら? いつでも殺っちゃっていいんだよ?」
「オレが!? 尊敬返せ!」
クスクスと笑うポーンさん。
なんだか、ほっこりするなあ。
「それで、二人の挙式はいつになるんですか?」
「急に何だ!?」
「あら? 私は本気で君のこと狙ってるんだけど?」
「オレ、フラれてる!?」
「そそそ、そんにゃ、俺にゃんて……っ!?」
「噛み過ぎだろ! 童貞か!」
「童貞ですけど、なにか?」
「開き直んな!」
「あら? それじゃ、バーニッツが筆おろしを……」
「オレかーーい!?」
そうして、楽しい食事の時間が過ぎて行った。
今夜のところは村で宿泊し、明日の朝一で出発することで決まり、残りの時間は俺の買い物に付き合ってくれることになった。
とは言っても、今は特に欲しいものも無いのでウインドウショッピングみたいになったが、バーンさんからは良い武器防具の選び方を、ポーンさんからは上手い値切り方を教えてもらうことが出来た。
【《目利きスキル・最下》を取得しました】
【《値切り交渉スキル・最下》を取得しました】
【値切り交渉スキル・最下が《交渉スキル・下》に統合されました】
いやあ、楽しい時間だった。
宿へ戻ってイチを出してあげると、その体はほとんど元に戻っていた。
イチが凄いのか魔法薬やスキルが効いたのか分からないが、これでひと安心だな。
買い物中に仕入れた食料をイチと分け、今日もポイントカードのチェックをする。
すると、予想通り《話術スキル》の必要ポイントが激減していた――つまりは熟練度がガンガン入ったということ――ので、ギリギリではあったが、思い切って取得した。
【《話術スキル・中》を取得しました。《話術スキル・下》に上書きされました】
ポイントを貯めると言ったばかりだが、このスキルは今取得しておけば、明日もガンガン熟練度が貯まる気がしたからだ。
てゆーか、絶対貯まる。
そうしてポイントカードで出来ることが無くなったところで、辞書チェックに入る。
簡易瞬動:
縮地系統瞬動術入門スキル。目標地点までの移動を、瞬時に行う。
使用後クールタイム有り、連続使用不可。
このスキル、中二心を擽るイケないスキルだ。
でも、クールタイムがあるなら、使いどころは難しいかもな。
あのモンスターも、それで連続で使用して来なかったんだ。お陰で助かったけど。
突き刺し:
角による突き刺し攻撃。
鋏撃:
鋏を使った攻撃。
これは、そのまんまだね。
突き刺しはドロップアイテムの角で出来そうだけど、鋏撃は使用不可かもな。
それが終わると、いよいよ修業の時間だ。
マナ感知と気力操作を練習し、魔法と気功を使えるようになりたいからね。
早速、マナ操作から。
ベッドの上で胡坐をかき、瞑想のように集中する。
【《瞑想スキル》を取得しました】
【瞑想スキルが《精神強化スキル》に統合されました】
なんか、他のスキルを取得したが、まあいい。
再度、集中し直す。
意識して、《魔力感知》を発動させてみる。
すると、これまでと違い、何か漂う煙のような空気のようなものが感じられた。
それを感じ取るように意識して続けていると、どんどんそれがハッキリと分かるようになってきた。
それは自分の体の表面にも、どうやら内部にも繋がっているようで、それにどうにか干渉出来ないかと意識すると――――
【《魔力操作スキル》を取得しました】
――――成功したみたいだ。
スキルを得てからは、楽に出来た。
体内に、周りの空間のマナを取り込むことも、その逆も可能だった。
熟練度が低いせいか、操れる量やスピードはまだまだだが、これで魔法を使えるようになる第一歩目は踏み出せたと思う。
無能と呼ばれた頃が、懐かしいよ。
続けて、気力操作も試してみる。
これは、なんとなく分かるから簡単だろう。
いや、簡単に出来ることではないのだろうが、スキルの助けを借りられるこちらの世界では俺でも出来そうだと言う意味で。
イメージは、体を流れる血液。そして、電気信号。体の中の熱を、それらと同じように動かすイメージ。
……むう、そう簡単には行かないか?
スキルを使うように意識して、マナとは違う流れを…………お? これか?
よし、今の感じで、もう一度……。
……
思ったより、こちらの方が難しかった。
なんとか取っ掛かりを掴めたような気がするが、これはそれこそ毎日続けてみないと、よく分からないな。コツコツ続けてみよう。
あと、他に出来るのは……脱力?
脱力スキル:
全身の力を均等に抜くことが出来るようになる。
……今更だけど、何だこれ?
使ってみたが、リラックスしたような感じがするだけで、よく分からないスキルだ。
そういえば、体を動かす前はストレッチとウォーミングアップ、体を動かした後はクールダウンとマッサージとかやるといいと聞いたことがある。このスキルも、トレーニングや修業の後にやればいいのかもしれないな。
毎日の習慣に、組み込もう。
『……』
そんな思い違いには気付かないまま、俺の“日課”のある日々は、ここからスタートして行ったのであった。
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現在の保有ポイント:
79+12-89=2
(うち、Pバンク:0)
累積ポイント:
54684+12=54696
(次の特典まで304P)
なんだか、書いてる(加筆している)うちに、このテンションが当たり前になってしまいました(笑)
短い間ですが、この二人にお付き合いいただけたら幸いです。
次話は、昼頃に投稿します。




