第118話 ブロブ
本日二本目です。
終盤のスキルが並んでいるところから後は、読み飛ばしても大丈夫です。
またもモンスターたちに追われ、森を駆け抜ける羽目になった。
しかも疲労感と怠さのせいで、本来のスピードを出せていない。
まあ、それでも追い付かれることはないのだが。
それに、今回はすぐに出口に着くと分かっている分、精神的にも楽だった。
今のところは前方にモンスターの気配も無いし、このまま行けるだろう。
そう思った矢先、見えてきた森の出口付近に、一つの気配が出現した。
▶ブロブ
名前 [なし]
種族 [モンスター
〔ブロブ〕]
レベル [2]
スキル 貪食、再生、奇襲
所属 [鑑定失敗]
スライムによく似たボディのそのモンスターは、動きも鈍く、障害にはなりそうになかった。
だが、イチと同じように仲間交渉可能かもしれないし、これは狙ってみる価値はあるかも。
そう思い、スピードを落とさず、そのモンスターを掴み上げるように拾って、そのまま森を飛び出した。
少し森から距離を取ってから、後ろを確認する。
今回も、森を出てまで追いかけて来るモンスターはいないようなので、ひと先ず安全だなと息を抜き、掴んでいたブロブを地面に降ろした。
ブロブはぬらりと動いているが、襲い掛かって来るような様子はない。危険なスキルも持っていないようだったから掴み上げてみたが、襲って来ないなら一層期待は高まるな。
抱えていたイチも降ろし、ブロブに話しかけてみる。
「いきなりごめんね? えーっと……君に、このスライムみたいに俺の仲間になって、一緒に来て欲しいんだけど、どうかな?」
(……)
ブロブからは、返事は無かった。
あれ? 警戒されている? そう思い、イチの時の交渉をなぞるように、食べ物を差し出してみる。
するとブロブは、俺の出した食べ物をゆっくりと取り込み、消化を始めた。
「えーっと……一緒に来てくれれば、これよりも美味しいもの、毎日あげるつもりだけど……」
(……)
あれえ? 何も話してくれない?
どうしたものかと頭を抱えていると、消化も途中のそのブロブから、漸く返事が返って来た。
(オデの好きなもの、食べでイイ?)
うんうんと頭を縦に振り、肯定する。
この好感触は、仲間交渉成功かもしれない。
手を差し出し、「一緒に来てくれるかい?」と尋ねる。
(付いて行く。オデ、美味しいもの食べル)
ゆっくりと握手を交わすように、俺の手を包み込むブロブ。
よし、二体目の仲間をゲットだぜ!
そう感じ、ブロブを手に乗せて立ち上がり、特殊封印を実行しようと構える。
「痛っ!?」
その時、突如ブロブを掴む手に、痛みが走った。
ブロブに包み込まれた手が、ジリジリと焼けるように痛む。
咄嗟に反対の手でブロブを剥がし、その手を見ると、表面が赤く変色していた。
ブロブに毒スキルは無かったが、体に毒でもあったのかな?
それなら仕方が無いなとブロブを再び地面に降ろし、そのまま俺も地面に座り、封印スキルを発動させて特殊封印を試みる。
《怪物種封印スキル》使用!
見慣れた光が俺からブロブへと伸び、いつものように――――
【特殊封印に失敗しました。このまま封印しますか? はい/いいえ】
――――あれ!?
慌ててスキルをキャンセルするため「いいえ」を選択し、光が消える。
おかしいな? 仲間になってくれると言ったのに、成功しないこともあるのか?
このブロブが口から出任せを言っているなら話は別だが、この子からは他のモンスターみたいなその場しのぎとかの感じはしないんだけどな……?
その時、イチが俺にすり寄って来て、心配そうに俺を見上げているのに気付いた。
(ねえ、その手、いたい?)
どうやら、毒で赤くなった俺の手を心配してくれたようだ。
毒とは言っても、痛みは引き始めているし、もう大丈夫だと思うのだが。
「ああ、ありがとう。その子に毒があるなんて知らずに触った俺のミスだから、気にしないで。それに、もう……」
(……毒なんてもってないと思うよ? その手、食べようとしたんじゃない……?)
「……は?」
暫し、思考が停止した。イチの言ってる意味が分からなかった。
食べようとしたって? じゃあ、この手は毒じゃなく消化されかかったから赤く変色したって言うのか?
いや、きっと食べ物の残りカスが付いてて、それを食べようとしたとか……じゃなきゃ、何かの間違いでうっかりと――
――そこで俺は、初めてイチにパン切れをあげた時のことを思い出していた。
イチは、パンを取って食べようと俺の手を包み込んだが、あの時はヒンヤリした感触だけで、消化されることなど微塵も無かった。
それなのに、今回は俺が引き離すまで痛みは続いて……
ふと振り返ると、ブロブは俺の足元まで寄って来て、俺を見上げているようだった。
そっとしゃがみ込み、ブロブとの意思疎通を試みる。
「……俺たちの、仲間になってくれるんだよね……?」
(……仲間? オデは、好きなもの食べたいだけ)
「……君の、好きなものって……?」
(一番美味しいもの)
嫌な予感がしたが、その先の答えを待ってみる。
まあ、予感通りだったけども。
(……人間。食わせロろォ)
よくよく思い返してみれば、一言も「仲間になる」って言ってなかったな、この子。
すぐさま後ろに下がり、封印スキルを発動させる。
だが、押さえつけてない相手に使用したスキルの光は、ノロノロと動くブロブにすら躱されてしまった。
そして直後に、ドッと疲れが押し寄せる。
クソッ、連発し過ぎたせいで、疲労感が酷い。
次で確実に仕留められないと、動くのすら辛いレベルになってしまいそうだ。
でも、なんかイチとブロブをくっ付かせるのは気分的に嫌なんだよなー。融合しそうで。
そんなこと言ってる場合じゃないと分かってはいるのだが。
仕方がないので、近付いて無理矢理手で押さえ込み、封印スキルを発動させる。
ぬらりと抵抗をみせたブロブが、再び俺の手を包み込もうとするが、構わず続ける。
動き自体は脅威にはならないほど鈍いが、それでも多少の痛みは覚悟せねばなるまい。
「痛っ!」
【《怪物種封印スキル》を使用しました。〔ブロブ〕の封印に成功しました】
【自己領域の残量は99.99%以上です】
ブロブが消え去ったあとには、赤く爛れた俺の手だけが残っていた。
攻撃してこないから、イケるかと思ったんだけどなー。ただ鈍くて、攻撃してこないように見えてただけだったのかもなー。
そう思ったら気が抜けて、痛みと疲労感も手伝い、思わずその場に仰向けに倒れ込んでしまう。
(大丈夫? えーっと……ご主……人……さま?)
心配そうに、寝そべった俺の手に擦り寄ってくるイチ。
そういえば、この子に呼ばれるのは初めてかもしれない。でも、ご主人様は恥ずかしいよ。
結局、旅の仲間になってくれたのは、このイチだけ。なお一層、大切にしてあげなければ。
「疲れただけだから大丈夫だよ。それより、ご主人様は止めてくれない? 照れ臭いよ」
(ぷる? じゃあ……ますたー?)
「それも、あまり変わらないような……? 普通に名前で呼んでくれればいいよ?」
(ぷる?)
もっとゆっくりと話をしていたいところだが、もう夕暮れ時だ。
いくら危険が少なくても、このまま寝そべっているのもどうかと思うし、さっさと村へ戻ろう。
怠さに耐えてなんとか体を起こすと、イチに背負い袋に入ってもらい、重く感じる体を引き摺るように宿へと戻って行った。
宿に入ると、イチに「部屋に誰かが入って来そうになったら、隠れてね?」とお願いし、彼女の夕食分の食料を並べて好きに食べるよう伝え、ベッドへとダイブした。
正直、もう限界だ。封印スキルは不発含めて十発以上使ったけど、レベルアップを加味しても一日十発程度を目安にしておいた方が良さそうだ。少なくとも、レベル一桁のうちは。
ちょっと、最初からとばし過ぎた感は拭えない。いつぞやの《祈願スキル》を取得したばかりの時を思い出すわ。
そんなことを考えているうちに、睡魔がやって来て意識が遠退いて行った。
イチ、あとは頼む。
あのブロブみたいに、俺を食べないでね。イチに限って、それは無いだろうけ……ど……。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
新・異世界生活四日目。
昨日、森に再トライして帰って来てから、そのまますぐに寝てしまったんだった。
まだボーッとした頭で思考し、そういえば商人の馬車に同乗させてもらえることになっていたのを思い出した。まだ夜明け前のようだし、待ち合わせには余裕があるだろう。
ふと、体を起こそうとした矢先、昨日ブロブを掴んでダメージを受けた手に、柔らかい感触を感じた。
何だろうと視線を向けるが、まだ暗いのでよく見えない。
手を顔の方に引き寄せると、重さはあるが動くのが分かったので、見えるところまで動かしてみた。
すると――――
「わあっ!?」
――――思わず声を上げ、手を振り払ってしまった。
俺の手は、イチというスライムに包み込まれていたからだ。
(むにゃむにゃ……ぷる? ますたー、起きた?)
ブロブに消化された光景が蘇る。
そんなはずないと信じているが、イチも俺を食べようと……?
だが、俺の手に消化されたような形跡は感じられない。寝惚けて食料と間違えた……とか?
「イチ、なんで俺の手にくっ付いてたの……?」
恐る恐る、尋ねてみる。
すると、思わぬ答えが返って来た。
(ぷる? ますたーの手、痛そうだったから、ボクの体で冷やしたら少しは楽かな?と思って)
イ、イチ!? なんて良い子なの!?
感動した! 一瞬でも「食べようとしたのでは」なんて疑った俺を許しておくれ!
(ぷる……。もしかして、嫌だった……?)
「そんなことないよ! 凄く嬉しい! ありがとう、イチ!」
(ぷるっ♪)
安堵の声を上げたイチを持ち上げ、抱き締める。
一体だけとはいえ、こんな良い子が仲間になってくれたなんて、最高にラッキーだったな。
そんなことを思いながら、そのままベッドから降りようと足を降ろすと、何かが足に当たった。
薄明りの中に見えたのは、昨日イチの食料として出しておいたはずの、果物だった。
「あれ? イチ、昨日コレ食べなかったの?」
(ぷる? それ、ますたーの分。起きたら、食べてもらおうと思って……)
「イチぃ! 良い子! 大好き!」
もう、イチへの愛情フィーバーが止まりません!
こんな良い子を仲間に出来て、最高に幸せです!
神様、ありがとうございます!
『朝も早よから親バカ全開で……』
おっと、その神様がいたんだった。
お早うございます、アルル様。
誰が親バカですのん?
『お早うございます、咲也さん。昨日はお疲れさまでした』
そんな挨拶を交わしながらも、イチをギュッと抱き締める。
(ますたー、苦しい……)
「おっと、ごめんごめん。イチが好き過ぎて、つい」
(ぷるぅ? ボクも、ますたー大好き♪)
なんだこれ? 可愛過ぎか?
イチを優しく抱き締め、改めて想いを告げる。
「イチ、俺の仲間になってくれて本当にありがとう。これからも、よろしくね?」
(そういえば、朝はまずアイサツだった。おはよう、ますたー!)
「このタイミングでそれ!? でもマイペースなところも可愛いよ。おはよう、イチ」
ちょっとグダグダになってしまったが、そんな挨拶を終え、イチに朝食を出してあげてから、昨日出来なかったポイントカードのチェックをしてしまうことにした。
イチがくれた果物? それはもちろん包装して魔法鞄に保存しましたとも。ええ。
『……』
さて、低ポイント帯に増えたスキルがかなりあるな。
《鈍足》
《器用さ上昇》
《奇襲》
《噛みつき》
《幻惑視》
《衝撃耐性》
《瞬発力上昇》
《視覚強化》
《奇襲》
《再生》
昨日封印したモンスターたちから得られたと思われるスキルは、こんな感じだ。
出来れば岩亀からは《鉄壁》か《鈍化攻撃》が欲しかったのだが、残念ながら《鈍足》が来てしまったようだ。ランダムって言ってたし、仕方ないか。
辞書機能で調べてみるが、その効果は微妙なものだった。
鈍足:
防御力が大幅に上がり、移動速度及び瞬発力が大幅に下がる。
今の俺には合わないスキルだ。いざという時に逃げるのが遅くなるのはちょっとね。
このラインナップの中では、《鈍足》と《噛みつき》はスルーさせてもらうことにして、他を取得する。どれも必要ポイントは数ポイントだし、躊躇いなど無い。
【《器用さ上昇・最下》を取得しました】
【《瞬発力上昇・最下》を取得しました】
【《幻惑視・最下》を取得しました】
【《視覚強化・最下》を再取得しました】
【視覚強化・最下が《身体強化スキル》に統合されました】
【《衝撃耐性・最下》を取得しました】
【衝撃耐性・最下が《物理攻撃耐性・最下》に統合されました】
【《再生・最下》を取得しました】
【再生・最下が《回復スキル・下》に統合されました】
【《奇襲・最下》を再取得しました】
【《奇襲・最下》を再取得しました】
【奇襲・最下、奇襲・最下が《奇襲・最下》に統合されました】
必要ポイントは少なくないが、次いでこれもだ。
【《物理攻撃耐性・下》を取得しました。《物理攻撃耐性・最下》に上書きされました】
【《奇襲・下》を取得しました。《奇襲・最下》に上書きされました】
これで良し。
そうして夜明けを待ち、俺は……俺たちは、次の町へ向かうための待ち合わせに遅れないよう、部屋を出て宿屋一階の食堂へと向かったのだった。
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現在の保有ポイント:
166+20-94=92
(うち、Pバンク:0)
累積ポイント:
54306+20=54326
(次の特典まで674P)
名前 [春野咲也]
レベル [2⇒4]
称号 [怪物種の友達]
[怪物種を封じる者]
[不殺の誓い]
多くの PV & ユニークアクセスに感謝です。
次の仲間もモンスターかどうかは分かりませんが、まずは、スライムさんをどうぞよろしくお願いします。
次話は8月6日の夜に投稿予定ですが、余裕があれば今夜もう一本投稿させていただきます。
(多分、投稿できます)




