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第11話 初めての異世界ショッピング

遅くなってしまい、申し訳ありません。


 異世界生活も、早三日目。今日は初めての外出の予定だ。

 まだ少し痛むが筋肉痛からはだいぶ解放されたし、そろそろ異世界文化を堪能したい。

 そして、これからの旅のためにも最低限の物は買っておかなくてはならない。

 その両方を叶えるために、町を散策して楽しみつつ買い物しようというわけだ。


 学生服の上着は目立ちすぎるので、鞄に入れてある。

 ワイシャツに黒いズボンなら、まだマシだろう。


 宿屋の受付で例の猫耳の女性に二泊分の料金と、食事代を支払った。

 一泊銀貨九枚だそうで、全部で小金貨二枚だった。食事は銀貨二枚か。

 まだこの世界の貨幣価値に明るくないが、アルル様から事前に聞いていた内容と今の話で、銀貨十枚=小金貨一枚というのは分かった。後でアルル様に詳しく聞こう。

 今は何より、この気まずそうに苦笑いしている宿屋さんの前から一秒でも早く立ち去りたい。

 多分、今、俺の顔、真っ赤だと思う。


「ありがとうございました。またのご利用をお待ちしております。もし良かったら、ここの他に二か所宿がありますので、そちらもご覧になってみてください」


 遠回しに、他に行けと言われたようだ。

 宿屋さんに平謝りして、宿をあとにした。

 どれだけヤバい奴だと思われたんだろう、俺。

 昨日もトイレに行くついでで弁解しようとしたが、毛を逆立てて警戒されていたので諦めました。



 さあ、気を取り直して、いよいよ待ちに待った異世界の町だ。

 これまでの教訓を活かして、目立たぬようあまりキョロキョロせず……おっ、あれは牛の人!

 爬虫類っぽいのはリザードマンか蜥蜴人か?

 兎さん、山羊さん、鼠さんもいる!

 あの白い毛並みの人は何人ぞや?


『舌の根の乾かぬうちから……あなたも懲りませんね。それよりぃ、アルル、あの服屋ほちぃー♡』


 誰だよ。

 いや、アルル様ですけども。


 当然、アルル様とも一緒だ。

 心の声で会話出来るし、アルル様の声は俺以外に聞こえないから、本を出して歩いていいと気付いたので。


 うん、服()は買わないよ~?


『あっ、咲也さん! 迷子札をつけ忘れてます!』


「必要ありません!」


 通りの通行人から、不審な目で見られてしまった。言った傍からこれだ。


 いかん、心の声、心の声。平常心、平常心。


『門番さんに会わなくていいんですか? お世話になったお礼と、ブツと拭いた地図は穴掘って埋めましたって言い訳を』


「野〇ソなんてしてないもーん!」


 通行人がヒソヒソざわつき始めたので、ダッシュでその場を離れる。

 町の人には全知全能の図鑑の声は聞こえてないのに、つい反応してしまった。

 俺の馬鹿め。

 

 そうは言っても、今の俺はまだアルル様の助言が無いと右も左も分からない状態。

 もう少し慣れるまでは、こうして本を持って歩いた方がいいと判断したのだ。

 門前での教訓も活かして。初日の長距離移動のような、影響が大きい時だけ鞄に入れておこうと思っている。


 それに、この本の機能の一つがとても便利なのだ。

 出発前に教えてもらった新機能、地図(マップ)表示。スマホの地図アプリの如くマップが表示されるというもの。

 現在地と地名が分かる場所しか見られないという制約があって、使い道は限られているが、この先こちらの地理に明るくなっていけば、かなり使えると思う。

 今はバーバムしか表示出来ないけど。


 門前の通りから町の中側へ向かうと、ざわついていた人たちも見えなくなる。

 やっと落ち着いて街並みや行き交う人々を観察出来るようになったので、普通の速度に戻って歩き始めた。



 さっきまでいた宿屋は、所謂門前宿。門のすぐ近くにあったため、町の中心地からは離れていたのだが、逆に今から買い物するために向かっているのは、中心地の方だ。

 地図機能を頼りに進んでいると、段々と人通りも増えてきた。


 こうして街並みを見ていても、正直ゲームの風景を見ているみたいに感じる。

 その町を歩く人々も、コスプレイヤーかゲームのアバターやNPCでも見ているようで、まだ現実感が無い。

 確かに生きて実在しているとは分かってはいるのだけれど。


 大きな違いと言えば、どの建物も入口付近の壁に樹が同化している点ぐらいだ。この樹、通称「トイレの樹」と言うらしい。

 最初に聞いた時は理解が追い付かなかったのだが、異世界のトイレはなんとこの樹の根元を掘ってするのだそうだ。

 そんな馬鹿なと思っていたが、大マジだった。

 なんでも、トイレの神……いや、便所の神様ってのがいて、建物の入口の近くにこの樹を植えておくと神様の守護で入口から悪いものが入って来ないのだそうだ。

 なので、建物を建てる際に樹を植えるスペースを確保しておき、そこをそのままトイレにするんだとか。樹の成長に合わせて壁を調整したり、穴を掘り足したりするらしい。

 入口の近くにトイレで匂いは大丈夫?と思ったのだが、実際に宿でしてみたところ、出したモノも匂いも瞬く間に樹に吸収されて消えていった。ついでに音も、この樹の効果で消音されているらしい。

 異世界トイレ、凄すぎぃ!


 その情報元がアルル様だったから半信半疑だったけれど、実際に使ってみたのと町の様子を見るに、本当に文化としてあるようだ。

 話の流れで、その便所の神様が実在する方なのか聞いたら――


『とても上位の神なんですけど、役割柄、世界や国によって軽蔑されがちなんですよ』


 ――と言っていた。本当にいらっしゃるようだ。

 どうでもいいけど、最近トイレ関係の話ばっかりしてないか?



 そうして町を歩いていると、最初の目的地に到着した。

 先ずはここ、服屋で違和感の無い服を一式揃えよう。


 と言うのも、俺ぐらいの年齢の一般人が上等な生地の衣服で出歩くのは学生服じゃないとしても目立つし、悪い人間に目を付けられかねないからだ。

 これ、アルル様の受け売りだけど。


 この世界にも貴族や平民、奴隷などの身分制度はあるらしいが、詳しくは分からない。

 その辺をしっかり学ぶまでは尚更、身の丈に合わないものを身に付けて悪目立ちしないようにしないとな。


「いらっしゃいませ」


 出迎えてくれたのは、蜥蜴の人。

 もしや爬虫類の革の専門店ではと店内を見回すが、どうやら一般的な服屋で間違いなかったようだ。


「ははっ、大丈夫ですよ。わたくしを見て勘違いする方もいらっしゃいますが、一般種族の方ならどなた様でもご入店いただけます」


 おっと、考えを見透かされてしまった。

 今の俺の反応は失礼だったかもしれない。


「すみません、田舎者で常識に疎くて。それで、田舎から着てきた学せ……こういう服しかなくて、普通の服を一式欲しいんです」


「ほう、珍しいお召し物ですね。猿人族でも初めて見ます。どこかの民族衣装か、礼式用のものでございますか?」


 どうやら俺は、猿人族だと判断されたらしい。

 話を合わせて暫し世間話をしていたが、またボロが出ないかヒヤヒヤする。


「それでは普段使いのお召し物を上下一式、履物と被り物でしょうか。礼式用のお召し物はいかがなさいますか?」


 今更ながら、異世界で文化も種族も全く違うはずの相手と普通に会話出来るスキルって凄いな。現実に蜥蜴人と会話しているのが非現実的に感じられて、シュールにすら思える。

 そう思いながらも、日本にいたときと何ら変わらずコミュニケーションを取り、とりあえず普段着を三セットほど見繕ってもらうことにした。


「ちなみに、マントとか外套みたいなのもあるんですか?」


「外套、ですか? もしかして旅をされるご予定で?」


「はい。初めてで、旅の支度ってよく分からなくって」


 そう言うと、服屋さんは親切にアレコレ教えてくれた。

 見た目はゲームのリザードマンっぽくて怖そうだったが、丁寧親切な店員さんで良かった。


 三十分ほど相談し、別の店員さんから採寸してもらった。

 一部仕立て直しも必要だと言うので、後で取りに来ることに。

 尻尾の穴について尋ねられたが、よく分からないので必要ないと言ったら、「無尾の民でしたか。失礼いたしました」と言われた。

 アルル様に尋ねると、生まれた直後に尻尾を切り落とす文化の民族もいるんだそうだ。その人たちと勘違いされたのか。


 上下の普段着として、薄いグレーのシャツ、革のブレザーっぽい上着、布のズボンを決め、店員さんとアルル様のアドバイスで、下着と靴、帽子なども購入させてもらう。

 締めて小金貨四枚と銀貨二枚な~り~。


 会計の時、アルル様から助言があったので、言われた通り対応してくれた店員二人のチップとして銀貨二枚を追加で支払っておく。


「これはこれは! こんなに頂きまして、身が締まる思いです。私ども、誠心誠意繕わせていただきますので、今後もご贔屓くださいませ」


 後で聞いたら、このチップ次第で仕上がりの出来が変わってくるそうだ。

 チップ無しだと、布地を巧妙に減らす酷い店もあるんだとか。

 そっちの方が余計に手間なのでは?


 普通より多めに渡したから、キチンと仕上がるだろうと言われた。世知辛い。



 続いて、服屋さんの紹介も参考に、旅の小物や消耗品などを探して回る。

 さっきの服屋さんで取り扱っていなかったので、少し高級な店ではあったが、外套も買うことが出来た。

 今の時代は昔ほど旅人も多くないので、このバーバムのような辺境地では取り扱いが少ないらしく高く付くのだとか。普通はもっと大きい町で手に入れるらしい。


 露店が集まる市に立ち寄って食料も探したが、異世界とは言っても、アルル様の言う通り地球でもありそうな食材や惣菜が多くて、ホッと安堵した。

 食べるとヤバいものは無いと神様直々に教えてもらえたし、信用して買い集める。


 想像通りの露店も見つけたので、謎肉ではあるが串焼きや、甘い小粒の菓子っぽいものを買ってみた。


 謎肉とは言ってもゴブリンやオーガのようなモンスター肉というわけではなく、「アカアレチキンドリ」という動物の肉だそうだ。

 その「アカアレ・チキンドリ」がどんな鳥か知らないので謎肉と言ったが、まあ鶏肉だろうし。

 なんで名前に“チキン”と“鳥”って同じ意味の単語が入っているのかは聞きそびれたので、後でアルル様に聞こう。


 菓子の方は「モンクロニーのフン」と言われた。

 こういう商品、うちの地元にもあったのだが、本当に“糞”なわけないし。

 実際はチョコレートとか黒蜜なんかを“糞”に見立てたジョークグッズだったりするのだ。

 いくら俺がこの世界で世間知らずでも、そんなのには引っかからないって。


『……』



 食べ歩きはほどほどに、専門店で携帯の調理道具、野営道具なども購入し、自炊関係の必要なものも一通り揃えられた。順調順調。


 全部魔法鞄に入れてしまえば身軽でいいなと思っていたが、アルル様から注意を受け、カモフラージュのための大き目のバックパックを買って荷物の一部を入れて担ぐことにした。

 この文明レベルの下で旅するのにショルダーバッグ一つでは怪しいからという理由で。


 魔法のある世界なら、魔法のバッグやアイテムボックスみたいな魔法はないのか聞いたら、今の時代では担い手が減少して超が付くレア魔法と高級品になっているのだとか。

 魔法のバッグは一般にも出回ってはいるのだが、俺みたいな若い旅人が持っていると分かったらすぐに盗まれてしまうそうだ。

 しかも俺のは神様製の特注品。この世界の一級品と比較しても容量は大きく、内部の時間経過が少なくなるオマケ付き。

 ただ、これは旅に慣れるまでのお助け機能で、いずれ元の鞄に戻す予定だと言われた。


 まあとにかく、これしか持っていなかったら「これは高性能の魔法鞄ですよ」と悪い人に教えて歩くようなもの。

 危険なことこの上ないわけか。危ない危ない。


 その後無事に背負い鞄を見付けることが出来、小物なども揃い、大体の買い物が済んだ。

 アルル様と相談しながら買い忘れが無いか確かめ、しばらくして最初の服屋に戻ると、頼んだ服は全てしっかりと仕上がっていた。


「お客様は猿人族にしてはスラリとした体形で身長も高めでしたので、他種族基準の衣装もほとんど手直しせず仕上げられました。予定より早く終わりましたし、その分のサービスとしてこちらをお付けします」


 そう言って、服屋さんが出来上がった衣装と一緒に、水色の宝石があしらわれたネックレスをくれる。


「こちらは青島の蜥蜴人族に伝わるお守りでございます。手作りの工芸品のようなもので安物ですが、‘静寂の守り石’と呼ばれる青く透き通った宝石には、持ち主を災厄から守る力があると言われています」


 そんな凄いものいただけませんと言おうとしたのだが、アルル様に止められた。

 謙遜は時と場合、種族によっては侮辱に値することもあり、この世界でこういった贈り物を出された場合、拒否することは種族差別を連想されかねないのだとか。

 アドバイスに従って、素直に受け取ってお礼を伝える。


「私どもの方こそ、感謝いたします。またのご来店を心待ちにしております」


 とりあえず買うべきものは買えたな。

 あとは食事を取って、午後からは護身用の武器を見てみよう。

 次の町までは乗合馬車というのが出ているそうなのだが、馬車が盗賊やモンスター、野生動物に襲われる可能性もゼロではないので、護身用の武器はあった方がいいと服屋さんに教わったのだ。

 アルル様は『そんなの無くても襲われませんよ。仮に襲われても、咲也さんでは自分の足に引っ掛けて転ぶのが目に見えてます』だって。酷いや。



 お昼は、町の北寄りにある宿の下見がてら、その近くの大衆食堂っぽい店で食べた。店の看板娘は五十過ぎの逞しいお姉さんだった。

 ランチメニューとも違うんだろうが、本日の昼のオススメみたいなことが書いてあったのでそれを頼んでみたら、ぶつ切りの野菜と酸っぱい果物のようなものが一緒に炒められたライスに、謎の卵の薄焼きが乗せられたものが出てきた。

 ゴツゴツと野菜や果物が見えていなければ、オムライスに見えなくもない。

 一応アルル様に確認したが、普通に食べられるということなので、安心していただく。

 中々の歯ごたえで顎が疲れたが、酸っぱさが良いアクセントで美味しかった。

 なんだか母さんの手料理が食べたくなったよ。


 因みに夜にもオススメメニューがあるそうなのだが、所謂酒のつまみなので俺には関係無いそうだ。


 食後はまた中央通りの辺りをブラブラと、武器を探しながら異世界文化を楽しむ。

 結局武器は手ごろな値段の短剣を一本だけ買い、防具は不要と言うアルル様に従って買わなかった。

 俺の今の体力では、下手な装備だと体を痛めるんだとか。


 何も無いのも淋しかったので、脇の小道の露店で売っていた《火の指輪》というファンタジーっぽい装飾品を一個だけ買わせてもらった。

 火の魔法が使えるとかじゃなく、火の神の加護が受けられるという謳い文句の普通の指輪らしい。アルル様に確認しても、そんな加護は付加されていないとのこと。

 銀貨一枚銅貨九枚という価格だったので、雰囲気を味わうためだけに買ったのだ。後悔はしていない。


 それなら異世界じゃなくても手に入る?

 何も聞こえないな!



リアルの急な都合により、予定時間を過ぎてからの投稿となってしまいました。

申し訳ありませんでした。


あらかじめ書き貯めてストックしているにも関わらず、なかなか思うようにいかないものですね。


次回は4月10日の午後の投稿予定です。前倒しできれば明日明後日に投稿する可能性もあります。

引き続き、よろしくお願いいたします。



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