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第116話 バルバムの村で

本日もよろしくお願いします。


「んーー! 良く寝たーー!」


 新・異世界生活三日目。

 清々しい朝を迎えた俺の独り言に、返事が返って来た。


(ぷるーっ、ボクもいっぱい寝たーっ。おなか空いたーっ!)


 一瞬、シュリがいた時のことが頭を過りドキッとしたが、そういえば新しく仲間が出来たんだった。

 スライムも睡眠は取るようだが、目覚めて開口一番が「おなか空いた」って、どうなの?


「お早う、イチ。朝起きたら、先ずは仲間に「おはよう」って挨拶するものだよ?」


(ぷる? お……は、よ……う……? お……はよう、おはよう! おはよう!)


 一回でいいよ。

 そう言おうと思ったが、可愛いから今日はそれで良いことにしよう。


「はいはい。お早う、イチ」


『「はい」は一回でよろしい!』


 うわお!? ビックリしたー!

 お早うございます、アルル様。いきなり大声は止めてくださいよ。朝は特に。


 昨日、枕元に出しっぱなしで寝た全知全能の図鑑からの聞き慣れた声に、いつものように挨拶を返す。


『お早うございます、咲也さん。朝一番から相変わらずの親バカっぷりで』


 誰が親バカじゃ。


 飛び跳ねて「おはよう! おはよう!」と何度も繰り返すイチを「良く出来ました」と褒めてやり、昨日のパンの残りをひと切れ食べさせてあげた。 

 イチは喜び、それを取り込んで消化しようと集中し始めた。


 はあぁ……、かわえぇのぅ……。


『……仲間が出来て舞い上がるのは構いませんが、うっかりするのは止めてくださいね?』


 誰がうっかりさんじゃ。


 とは言え、これからはイチというモンスターが同行することになったわけだ。

 冗談抜きに、うっかりしたらイチが危険な目に遭うかもしれないのだから、十分注意しなければ。


 昨日はもう一度鞄に入ってもらうことで、何事も無く宿の部屋までイチを運ぶことが出来たが、この方法は緊急時のための手段だ。

 イチの心と体に影響があっては大変なので、なるべく使わないようにしないと。

 ただでさえ初日から、決めていた三十分を超えてしまった可能性があるのだし、今後は計画的にやろう。

 せめてスマホがあれば、正確に時間を計れたのになあ。


 というわけで、今日は早速買い出しに出かけなければ。

 この時代、宿屋は食事無しで自前で持ち込むのが主流らしく、最初の村で持たせてくれた食料品しか持ち合わせていなかった俺は、それをイチと分け合うことでなんとか空腹を紛らわせたのだった。

 だから、正直イチでなくてもお腹が空いている。


 先ずは何か腹ごしらえと、それから服と鞄をなんとかしなければ。

 イチもそうだが、全知全能の図鑑を入れてアルル様といつでも話せる状態を作れるメリットは大きい。

 だからこそ、空腹と異世界学ランの問題と同程度に、バックパックを調達することは優先事項なのだ。


 というわけで、言った傍から申し訳無いが、イチには鞄に入ってもらう。

 タイムリミットの三十分を目安に、手頃な鞄を見付けよう。全てはそれからだ。



 宿を出てバルバムの村の散策を開始する。

 名前や立地から、ここがいずれバーバムの町になるのかな、と想像が付いたが、バーバムとはまだ似ても似つかぬ未発展の村だ。

 丈夫な外壁なんて無い、イマイチ頼りなさそうな木や石の柵しか設置されておらず、村内も民家や村人の共用施設が主で、村唯一の宿屋は酒場兼食堂が同じ建物内で共営していた。もしかしたら、運営しているのも同じ人なのかもしれないな。


 店も、当然求めていたような品揃えではなく、村人向けの日用品、必需品、プラスアルファぐらいしかなかった。

 時代が違うのだから、贅沢は言えないし、諦めて最低限必要なものを仕入れることにしよう。残りは大きい町で探せばいいし、なんなら最悪買い替えるって手もあるのだから。

 というわけで、希望通りとはいかなかったが、バックパックと呼べなくもない背負い鞄……というか背負い()を入手し、人目に付かない物陰で全知全能の図鑑とイチを移すことが出来た。サイズも不十分なので、その二点だけでいっぱいで、結局魔法鞄は肩掛けするしかなくなってしまったが、それでも何も無いよりは遥かにマシだったので、ありがたい。手に入ってホント良かった。


 タイムリミットを気にしなくて良くなり、そこからはゆっくりと買い物が出来た。

 村人と同じような服を購入し、食料品も分けてもらうことが出来た。これで当初の目的は達成出来たことになる。

 あとは旅に必要な物や武器防具だが、やはりここでもそれほど良い品はなく、なんとか交渉して樹皮製の胸当て、草を編んだような大き目の帽子、木製の盾……というよりガントレットに近いもの、長旅用の丈夫な革靴などが手に入った。

 《交渉スキル》のお陰か、単に親切な店員だったからなのか、素材はともかくある程度の物が揃えられたのは嬉しい。

 全部を装備したら、所謂「ウッドアーマー」みたいな感じになるのかもしれない。


『格好付けなくても、普通に木製装備とかでいいんじゃないですか?』


 そんな、趣きの無い。

 でも、やっぱりアルル様と常時話せるのって、安心するわー。

 これでこそ、俺の旅って感じだ。

 

『依存されても困りますが、まあ、私も同じ気持ちですよ。改めて、これからもよろしくお願いします』


 こちらこそ、よろしくお願いします。


 あとは、もっと大きい鞄が手に入れば、魔法鞄も一緒に入れておけるし、イチにも窮屈な思いをさせずに済むんだけど。

 そう思いながらイチにもコッソリ話しかけてみたのだが、「スキマから色んなもの見えて、楽しー♪」と、ご機嫌な様子だった。

 今の状態でも、窮屈さはあまり感じていないようだ。良かった。

 ところで、イチの目ってどこ?


 だが、食料品も含め、この買い物で手持ちのお金の八割以上が消えてしまった。

 この小さな村で、未来のお金、金や白金を貴金属として売るのは不安がある。なので、万が一手持ちが足りなくなる場合は、銅貨か銀貨から売っていこうと思う。

 ちなみに未来の通貨だが、アルル様からポイントの報酬として貰った物なのでタイムパラドックス的にはセーフだ。それっていいのかな?とも思うが。


 ひと段落したところで、村唯一の食堂で早めの昼食にする。

 なるべく壁際の席をキープし、床に置いた背負い袋にコッソリとおすそ分けをするために大目に注文をしておく。

 アシカのような獣人の女将さんには、「若くて食べ盛りで良いね! 大盛りサービスしておくから、しっかり食べな!」と、まさかの“いいね”をいただいてしまった。

 若くて食べ盛りなのはスライムちゃんの方なんだけど、それは言えないので、素直に感謝を伝える。


「ありがとうございます、お姉さん!」


 その瞬間、店にいた他の客が吹き出した。


「ぶわっはっはーーっ! このオバサンに「お姉さん」とは、ボウズ、そりゃあお世辞にしても無理があるぜ!?」


「どこからどう見たって……プッ、クスクス……」


「……あんたら、今日の食事代はツケさせないから。あと、代金も十五割増しね?」


「酷え!? 横暴だ! 役所に訴えてやる!」


「俺はまだ何も言ってないのに!?」


 その人たちを無視し、女将さんが俺の方に向き直す。


「お兄さん? あんたの食事代も、あの人らが払ってくれるってさ。好きなだけ食べな?」


「えこ贔屓が凄え!? 村長にも訴えるぞ!」


「だから、俺はまだ何も言ってなかったのに!?」


 どうやら、楽しい村のようで良かった。

 店内には他の客もほとんどいなかったので、女将さんやその客たちと世間話をしながら食べることになった。その中でイチにおすそ分けするのは、神経を擦り減らす作業だったが。


 でも、有益な情報も得られた。

 この村に来るときに通ったあの森、それなりのレベルの護衛を付ければ、難無く通り抜けられるのだそうだ。向こうのパリウッド村の人間も、行商の商人の護衛に便乗させてもらってこちらへ来ることがよくあるらしい。

 それから、次の村まで行くのに未来世界にあったような乗合馬車は無いが、行商に来ていた商人の馬車に同乗させてもらうことは出来るかもしれないということで、女将さんが頼んでくれることになった。

 この建物に泊まっているようで、明日出発予定だったと思うと言われた。それならちょうどいいし、ここでもう一泊させてもらおうかな。


「乗ってもいいってさ! それじゃあ、明日の朝にこの食堂に集合でいいかい?」


 快く返事をし、ついでに追加の宿泊をお願いする。

 すんなりと日程が決まったところで、早々と部屋に入らせてもらうことにして、食堂の人たちにお礼を言って二階へと上がった。 


 無事に買い物や移動手段を確保出来たので、残りの時間でやっておきたいことがいくつかあったのだ。


 先ずはイチを袋から出し、鑑定でステータスを再確認しておく。



 ▷イチ


 名前   [イチ?]

 種族   [モンスター

       〔ステムセル・スライム〕]

 性別   [女]

 年齢   [0歳]

 生年月日 [非表示]

 出身   [非表示]

 ジョブ  [モンスター]

 レベル  [2]

 称号   [-]


 スキル

 貪食、再生、低HP衰弱無効、分化、初期化


 所属   [春野咲也〈魂封印〉]



 レベルとスキル以外に変化は無いようだ。

 新しく獲得したスキルを、全知全能の図鑑の“辞書”を使って調べてみる。



 分化:

 自らの体細胞を変化させ、好きな形に変形させることが出来る。

 栄養を補給することで、体積をある程度増加することも可能。


 初期化:

 分化させた対組織を、初期の状態に戻すことが出来る。

 増量した体積分は、ストックとして一定量までは保管可能。

 ストック出来る量は、レベルに応じて増加する。



 どうやら、二つでワンセットのスキルのようだ。

 変形し、元に戻るというのを繰り返すことが出来るのか?

 どの程度まで変形出来るのかは不明だが、得られた栄養で体積を増やすことも出来るみたいだし、これからは積極的に食べ物を与えてみよう。


 ……これって、レベルが上がってから練習次第では、人型に擬態出来るんじゃね?


 まあ、それはひとまず置いておいて、次は称号のチェックを。



・[怪物種(モンスター)の友達]

 自分と仲間のモンスターのステータスにプラス補正。

 また、友好的モンスターとの交渉が成功しやすくなる。


・[怪物種(モンスター)を封じる者]

 モンスターとの戦闘時、自分のステータスが微増。

 また、モンスターを封印する際の成功率にプラス補正。


・[不殺の誓い]

 生命体に対し不殺を貫く限り、身体及び精神防御力にプラス補正。

 継続期間が長くなるほど、補正率アップ。

 また、自分と仲間の幸運が一定値上昇する。



 称号は、取得条件とかじゃなく効果が記されるのか。

 名称でどういう類いのものかは想像が付くが、モンスターにとって俺は、友達でもあり封じる者でもあるのか? ちょっとややこしい。

 だが、こういうものが貰えたのは嬉しい誤算ってやつだな。そういえばイチの鑑定結果にも「称号」の項目があったっけ。


 さあて、今度はポイントカードでスキルリストのチェックだ。

 ここまでの短い間でも、いくつかのスキルには上のランクのものが出現していた。


《取得経験値+・下》

《回復スキル・中》

《交渉スキル・下》

《話術スキル・下》

《身代わりスキル・下》

《鑑定スキル・下》


 ところがどっこい、ポイントが足りない。

 仕方なく使ったとはいえ、後悔が無いと言えば嘘になる。もう少し残しておけば良かったか?

 そんなことを言っても始まらないので、必要ポイントの多い鑑定と回復のスキルを諦め、残りの四つを取得することにした。


【《取得経験値+・下》を取得しました。《取得経験値+・最下》に上書きされました】

【《交渉スキル・下》を取得しました。《交渉スキル・最下》に上書きされました】

【《話術スキル・下》を取得しました。《話術スキル・最下》に上書きされました】

【《身代わりスキル・下》を取得しました。《身代わりスキル・最下》に上書きされました】


 なるべくポイントを貯めて、ランクの高いスキルを取得出来るように備えないとなあ。

 未来世界じゃ、コツコツ貯められていたのに。こういうのを「物欲が押し寄せる」って言うのかな?

 まあ、身の安全が最優先だし、取れる時にはどんどん取得するのも大事だけども。



 ひと通りのチェックが終わったが、まだ時間は余っている。

 だがしかし、それも織り込み済みだった。もう一つだけ、この村を発つ前にやっておきたいことがあったのだ。


 それは、森の再探索。 


 もう一度だけ、あの森でモンスターと戦ってみるつもりだ。




 --------------------



 現在の保有ポイント:

 300+10-250=60

 (うち、Pバンク:0)


 累積ポイント:

 54188+10=54198

 (次の特典まで802P)



次話は8月4日の投稿予定です。

どうぞ、よろしくお願いします。

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