助力を請われて
すいません、もう一つの小説「世捨て人拾いました」を終わらせてこちらに専念する筈が、終わらせられませんでした(笑)
もうしばらく連載スピードが遅いままかと思いますが、どうぞお付き合い下さいませ!
「っ、痛て…」
目が覚めたのは馬車の中だった。どうやら馬車はガタゴトと揺れながら舗装されてない道を進んでいるようだ。
「目が覚めたか?」
「あ、あんたは…」
優一の目の前には自分を殴った張本人が座っていた。どうやら殴り飛ばして気絶させてしまったため、誰何する時間がなくなり馬車に乗せていたのだろう。
「マリーちゃんに感謝しろよ?皆が放っておけば良いって言う中、一人馬車に乗せるよう言ってくれたんだからな?」
現代日本なら一発で障害事件になるような話。何故この者達は殴った挙句に上から助けてやった目線で話しかけてくるのか?
「くそっ…」
不思議に思いながらも剣を持った相手に飛びかかれる筈もなく、眉間にシワを寄せながら睨みつけるのが精一杯のようだ。
「そんな目で見るなよ。言っとくがな、こっちだってまだ疑ってるんだからな。」
「もうロディさんったら。さっきまではやっぱり違うかもなって言ってたじゃないですか。」
いきなり後ろから声が聞こえた。優一が振り返ればそこに座っていたのはマリーと呼ばれた少女であった。
「確かマリーさんだっけ。貴女が助けてくれたそうで…」
「いえこちらの方こそいきなりロディさんが殴りとばしてしまいすいませんでした。それと実は少し聞きたい事があるんですが…」
「聞きたい事…?」
マリーという少女が言うにはこの辺りは内陸地であり周辺では魚介類が流通していないとのことだった。店に並ぶのは全てが塩漬けにされたもので生の魚など見た事も無いというのが一般的なようだ。
「私達は今、ある事情がありましてどうしても美味しい魚が必要なんです!」
「お、おいマリーちゃん!?そんな事まで言って良いのか?」
「?」
状況を理解出来ない優一がキョトンとしているのを見てロディが溜息をついた。
「…はぁ~、その様子じゃ本当に何も知らないんだな。警戒していたこっちが馬鹿みてえだぜ。」
「そんな事言われたって知らないものは知りませんよ。」
ブスッとした優一がそう答えるとマリーが苦笑いを浮かべながら話し始めた。
「私はこの先にあるエルラインという街で父が興した商会の会頭代理をしていますマリー・ヴェルナーと申します。」
「ああ、これはご丁寧に。私は小野優一と申します。」
「オノ様?変わったお名前ですね…。それでオノ様、実を言いますと今エルラインはある催し事が開催されるために非常に賑やかなのです。」
「催し事?」
「はい、それが私共ヴェルナー商会とムーラン商会の商戦です。私共は言わば新興の商会でして、昔からエルラインの街を仕切って来たムーラン商会からしてみれば邪魔な商売敵なのです。」
「へぇ~、それはまた大変ですねぇ…」
「ちっ、何を知った風に!俺達が何に苦労しているのかが分かるってのかよ!?」
「え?そりゃあ相手は老舗の商会なんでしょ?これまで築いてきた人脈はあなた達とは比べようも無いんですから。商戦というのが何か良く分かりませんけど言葉からすると何かを競い合うのでしょう?商会が競うとなれば商品の品質や稀少さあたりですか?どちらにしろ仕入れ先の妨害や場合によっては不利な品目なんかもあるでしょ?」
「ちょ、ちょっと待てお前!?本当は旅人なんかじゃ無く何処かの商人なんじゃ…?」
同席していたロディが慌てだす。
「構いませんロディさん。オノ様の言う通りです。今私達はとても困っているのですよ。」
「つまり商戦のお題が魚で相手のムーラン商会は魚の扱いに長けていると?」
「言ってしまえばそんなものですね。最もムーラン商会は今までエルラインを始め周囲の街との売り買いのほとんどを行ってきた商会です。つまりあらゆる商品を扱ったことがあるんです。でも私達は出来てまだ数年の商会です。ようやくエルラインでの販売が軌道に乗り出したような小さな商会なんです、こんな内陸の街で商売を始めた私達はまだ魚など扱った事もありません。」
その言葉を聞いて優一はさっきのやり取りを思い出した。彼らはそれでも何とか良い魚を仕入れようと頑張っているんだろうと。
そしてマリーは優一に説明する。商戦のいきさつや事情について。
それによると彼女達が受けた商戦のお題は『美味』であり魚と限ってはいないらしい。
そして商戦の審査員としてやって来る貴族は自他共に認める美食家であり彼の言は疎かに扱えない程の力を持つということ。彼の美味いものへのこだわりは強く、賄賂で審査の公平さを欠く事も無いというおあつらえ向きな人物と言う。
そしてムーラン商会はそんな彼に審査を依頼したのだ。公平な勝負が出来るからと。
マリー達もその貴族の噂は聞いていた。似たような勝負の場で賄賂を贈って自分達に有利な判定をしてもらいたいと持ち掛けた相手に対し「それならば相手より美味いものを出せば良い」と言い放ち賄賂を持ってきた相手を屋敷から叩き出したのは有名な話しなんだそうだ。
ヴェルナー商会は望むところだとその人選を認めたのだ。
噂話しは無責任だ。本当にあった話しではあるが、この話しには一般的には知られていない部分がある。それが『勝負する食材が決まっていた事』だ。だが今回の勝負は『どちらが審査員に美味いと言わせるか』である。
内陸地であるエルラインの街で商会を起こしたヴェルナー商会。魚を扱うような離れた街に取引先などある筈も無いマリー達が彼の大好物が魚であることを知ったのは勝負を受けた後だった。
「(ピリピリとしている筈だ。)」
彼女達は少しでも美味しい魚を探しているんだろう。唯でさえ手探りという中で、もし自分達が仕入れた商品がどのような物かが相手にバレたならもうそれは勝負にもならない。じゃんけんで何を出すかを先に教えるようなものだ。
勝てる筈が無い。
相手はそれに勝てるだけのものを探してくれば良いだけの簡単な勝負だ。しかも敵は何とかマリーの仕入れを調べようとしているのだろう事も容易に想像がついた。何度か疑わしい事があったんだろう。だからこそロディという男は優一にあれ程過剰に反応したんだろうから。
「(さて、彼女達がかなり追い詰めらている事は分かったけど。問題は何故それを俺に話すかだなぁ)」
不思議そうに首をかしげる優一を見てマリーが続きを話し始めた。
「大体は分かって貰えたようですね。だからといって乱暴な事をしてしまってごめんなさい。それについては謝りますから、どうか少しだけ力を貸してくれませんか?」
「マリーちゃん!?」
「マリーさん!?」
ロディと優一が同時に名を呼んだ、しかしマリーはそれに動じる事も無い。
「どうせこのままじゃあ負けるのは目に見えています。少しでも可能性があるなら何にでも縋ります!オノ様は魚に詳しいんでしょう?馬車からの匂いだけで積み荷に気づいた程なんですから!」
「まぁ貴女がどれだけの知識で詳しいと言うかは分からないけど、魚は大好きでしたからね。よく食べてましたよ。」
30代半ばの独身貴族である優一にとって一番の楽しみといえば食道楽だった。美味しいと評判の店はほとんど行ってるし、自身の自炊の腕も結構なものである。
しかし、ふと気になることがある。地球とこの世界では魚の種類が違うのでは?もしそうなら自分の知識など何の役にも立たない。
「……だけどまぁ今回は申し訳ないですがお断りさせて頂ければと。」
少し考えた後で優一はそう答えた。
「ちっ、ほら見ろよマリーちゃん!こんな奴なんかに何が出来るっていうんだよ!」
不機嫌そうにロディが声を荒げる。しかし、
「いえ、それは違いますロディさん。」
「え!?」
じっと優一を見ていたマリーが何かに気づいたように話しだす。
「もしここでオノ様がすぐにでも受けてくださったなら、私もロディさんの言う通り協力してもらう気にはならなかったでしょう。でも今オノ様は断った。それは少なくともムーラン商会が送り込んできた人では無いということです。私達の情報が欲しいムーラン商会の関係者なら、この話しは断ったりしませんから。」
「う、う~ん、確かにそれはそうだけど…」
「しかもオノ様は少し考えてから返事をしていました。多分ですが魚に『少し』は詳しいという自分の知識では私達の力にならないと考えたのでは無いですか?」
詰め寄るように近づいて来たマリーがそう告げる。
「あ、ああ、うん。そもそも私が居たところはここからとても離れているようでして。魚の種類が同じ保証も無いですし。もし私が間違ったことを言ったことでマリーさんが負けてしまえば困りますから…」
「そんな事は気にしないで下さい!私達にはそもそも魚の知識がほとんど無いのです。ここでオノ様に会えたのは天の助けだと思っています!何とか私達に力を貸して下さい!例え間違った事を言われても大丈夫。ちゃんと聞いた話しは私達で調べますので!」
必死になって頼み込むマリー。既に優一のすぐ隣まで来ており片手を付いて顔を上げ優一を見上げるように縋る仕草は非常に扇情的である。幼いマリーでなければ優一も危なかっただろう。
少女でありながら一生懸命に頼み込む姿を見て、優一も断りづらくなる。
「…まぁ、そこまで言うなら。ただし本当に役に立たなくても知らないからね?」
はぁと溜息をつきながらそう返事する優一を見てマリーは満面の笑みを返す。
「あ、ありがとうございます!」
心の中では「まいったな」と考えながらも優一は笑顔を返した。
「ちっ、まあマリーちゃんがそう決めたなら仕方が無いけどよ、ちょっとでも怪しけりゃあ叩き出すからな。それでお前何か考えはあるのかよ?」
舌打ちしながらロディが優一へ尋ねた。
「いきなりそんな事言われても…」
困り顔でたははと笑いながらも優一は続ける。
「まあ、何とか頑張ってみますかね。これでも世界遺産に登録された食文化を持つ国から来た人間ですからねぇ!」
何を言っているのか分からないとでもいう風にポカンとしているマリー達をしり目に、目的も無く途方に暮れていた優一にスイッチが入ったのであった。