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地方銀行員異世界へ行く  作者: 子牙 飛熊
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飛んで異世界へ

気がついたのは草原と荒野の境のような場所。



「…いったぁ…」



ガンガンと鳴り響くような頭痛がする中、その男は起き上がる。



「いたたた。何が起こったんだっけか…?」



覚めたばかりの頭をトントンと掌で叩きながら記憶を辿る。



「確かアパートの屋上で通らなかった稟議書の愚痴をぶち撒けてたよな。それから変な声が聞こえて来て…。そう言えばその後変わった奴に会ったんだ。すげぇ勝手な事言ってたな。確か…」



ゆっくりとだが思い出していく記憶。しかし最後に思い出したものは俄かには信じ難い体験談である。



「自分が神さまの内の一人とか俺を異世界に送るとか何とか…。いやいやマサカな。何をお伽話じゃあるまいし…」



そう言って周囲を見回す。広がっているのは間違っても今まで自分が住んでいたアパート近辺では無い。



「いやいやいや…無い無い無い。きっと疲れてんだ俺。昨日も36協定ギリギリだったし。もう一度昨日の事を整理してみよう。まずは朝6時半に起きて仕事に行ったよな。んで夜の10時くらいに仕事あがって半にはアパートに帰ってきた筈だ。ハハ、すげぇなこれ。」



順序立てて起こった出来事を整理してみようと朝起きたところから行動を並べてみるが、仕事に関係している時間が16時間を超えていることを改めて認識したようで若干気分が暗くなったようだ。



「んで、アパートの屋上で何もかも辞めてやるっつったら神さまの声がしたんだよな。よし、何て言ったか一言一句間違えずに思い出してみるか。確か…」



再度考え直してもやはり同じ記憶に行き着くようだ。もうこれは仕方がないと開き直って更に続きを思い出す。



『やー助かったよ。まさか志願者が見つかるなんてねえ!この世界は誰も魔法を使えないから魔力がたっぷりと世界に満ちてて良いよねえ。僕が管理する世界は世界の理に反するような異世界召喚の魔法なんかをバンバン使うものだから、その度に消費された魔力が別の世界に流れ出してしまうんだ。』



「…いや、言ってたよな。うん、確かに言ってた。つか魔力って何ぞ?あれか?中学生辺りで持つあの力か?包帯巻いた右手に宿ったり落ちてた長めの木の枝拾った時なんかに急に使える気になるあれか?」




どう整理しても既に理解を超えているようだ。諦めてまずは最後まで順を追ってみる。



『それで僕は自分の世界に魔力を補充しなきゃいけないんだ。そうしないと世界のバランスが崩れてしまうからね。そこで君の出番という訳さ!要は僕の世界から別の世界に穴を開けるから魔力が外に流れ出るんだ。つまり別の世界から僕の世界に穴を開ければこっちに魔力が流れ込んでくるのさ!』



「ふむ、つまりあれだな?ガラスを家の外から割れば破片は家の中に入ってくる、みたいな。」



『それに無理矢理招けば待遇も奮発しなきゃいけないけど、君みたいに自主的に来てくれる人がいるなら手間もかからず助かるからねえ、ハハハ。これが一番の理由だね!それじゃあ新しい世界で頑張ってね。ちなみに僕の世界は皆に人気の剣と魔法のファンタジー世界だよ!あ、そういや君の移動だけで僕の要件は済んだから後は好きにしてくれていいよ!』



「…言ってたな…うん、言ってた…。つまり何か?俺は冬場の灯油よろしく切れかけた魔力を補充するため魔力の通り道を作る為だけに此処へ飛ばされたってのか!」



『うん、そうだよー』



「!!手前ぇっ!聞いてやがっ…いたんですか?驚いたっすよー。ならもう役目は終わりましたよね?早く帰していただけませんかね?(ふふふ、こちとら理不尽が跳梁跋扈する金の世界で生きてきたサラリーマンよ!この扱いに対しどうよこの低姿勢は!まずは話しを聞く余地ぐらいは出来たろ!)」



『無理だよー。こっちから穴を開けたらまた魔力が流出するもの。でも、なんかゴメンねー。もしかしなくても私の早とちりだったみたいだしー。』



「うぉい!マジか!?マジで俺もう帰れないの!?」



『そうだよー。それとお詫びと言っては何だけど…えいっ!』



「お、何?何かくれんの?」



『貴方が気にしていた融資稟議書通しておいたよー。あの社長さんも融資が決まって喜んでくれるんじゃないかなー。』



「おぉい!?今の俺の助けには微塵もなってねぇじゃんか!」



『それはそうだよ。そういう契約で招いたんだもん。でも流石にそれだけじゃあ可哀想かなー。それじゃあ一応健康でいられるように『健康維持』の加護だけあげるよー。これはずっと今と同じ健康状態でいられるってだけだから仮に今大怪我をしてもそれが治るって訳じゃないから気をつけてねー。でも風邪ひかなくていいよー。それじゃあ本格的に異世界生活頑張ってねー!』



「あっ、こら待て!自分で招いた客人がものの数日で死んでも良いのか手前ぇ!何が風邪ひかないだ、体調管理くらい自分で出来るわ!おいこら黙るな!もしもーし!?神さーん?」







 その後無視され続けて10分経過。ようやく彼は神とのコンタクトを諦めたようだ。ふーっと長く息を吐き出すと座り込んでいた地面から立ち上がり周囲をキョロキョロと見回している。


 その男の名は小野優一。32歳になったばかりの独身貴族で気弱な一面もあればキレかかることも少々ある。冗談を言って子供オレを良くからかう父親と心配性な母親の間に生まれた平々凡々なサラリーマンである。両親に別れさえ告げる事が出来ず、平和な日本に生まれておきながら神様の勘違いで異世界へと渡った彼はチートどころか受け取れた特典は『風邪ひかない身体』だけらしい。


 どうやらマトモな特典すら受け取る事が出来ず着の身着のままで異世界へと放り出されたらしい。


 これはそんな不運な男の物語である。



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