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銀嶺の使徒  作者: 猫手猫の手
第三章 ガデアント小国連合
34/42

ミルドの名物

 レノアスが帰った後、ローザとオリヴィアは屋敷内のある部屋に来ていた。

 その部屋はカーテンで外からの光を遮り、室内は譜文照明によって足元が見える程度に照らされていた。部屋に家具はなく、床には譜文と思われる古代文字と図形が描かれ、かすかに光を帯びていた。

 ローザはその図形の真ん中で上半身裸になり、背中をあらわにしていた。彼女の華奢な背中には、譜文と幾何学的な図形が書き込まれており光を発している。

 オリヴィアはローザの背中に両手を添え、背中の図形をなぞるように手を動かしていたが、ひととおり終えたところで、用意していた毛布を彼女の肩にかけた。

 ローザが少し不安そうにオリヴィアに問いかけた。


「……どうかしら?」


 オリヴィアは神妙な表情で返答した。


「封印譜文の効力が弱まっています。再び封印譜文に力を込める必要がございます」


「……そう。以前と比べて、再封印までの時間が短くなってますわね。わたくし、なんだか怖いわ」


「おっしゃるとおりでござます。お嬢様の成長にともない、ご先祖様より受け継いだ力が強まり、封印譜文だけでは押さえきれなくなっているのでしょう」


 彼女の魅了の力は十歳を過ぎるあたりから顕著に現れたため、外出をほとんどせず、仕事で各地を飛び回る両親やオリヴィアなどの身近な女性使用人しか話し相手はいなかった。


「今すぐ抑えることはできないの?」


「申し訳ございません。床に描かれている解析譜文を消し、新たに封印譜文を床に描き直さなければいけないため、準備が整うのは早くても明後日となります。再封印までは譜文の効力は継続しますので、ご安心ください」


「わたくしはどうなるのかしら。そのうち、姿も心も異形になってしまうのかしら……」


 彼女は無意識に他人を翻弄してしまうこの厄介な力に不安を感じて表情を暗くした。

 オリヴィアは決然と言った。


「ご安心ください。お嬢様の力を完全に押さえ込む方法は、この私が必ずや見つけてみせます」


「……」


「解決法については私の知り合いに頼んで、封印譜文の強化に役立つ情報を集めさせておりますので、もうしばらくお待ちくださいませ」


 オリヴィアのいつもと変わらぬ態度に、ローザは少しだけ安心し微笑んだ。


「わかりましたわ。その件はオリヴィアにお任せしますわね」


「はい。必ずや、お嬢様のご期待に応えてみせます」


「ありがとう、オリヴィア。……いつもわたくしのために面倒な事をさせてしまってごめんなさいね」


「何をおっしゃいます。ヴァンティーネ家の執事として、これしきのことは何でもございません」


 ローザはオリヴィアに服を着せてもらってから、先ほどレノアスと話しをしていた応接間に戻り椅子に腰掛けた。すでに先ほどの菓子やカップなどは片付けられていて、遅れて応接間に入ってきたオリヴィアが、暖かい紅茶を運んできた。


「ところでお嬢様。最近、頻繁にお一人で外出されていますけれど、どちらに行かれているのですか?」


 オリヴィアは真剣な表情をローザに向けた。ローザは使徒になったことを、オリヴィアに猛反対されると思い伝えていなかった。彼女は内心ドキッとしたが可能な限り平静を装い、遺跡での訓練のことは伏せたまま、嘘にならないように説明した。


「さ、最近運動不足だったものですから、ちょっと運動のためにミルドの町を走っていますの。大丈夫ですわ。全身を外套で覆っていますし、男性に追いかけられても逃げるのは慣れていますから」


ローザは冷や汗をかきつつ、心の動揺を悟られないよう湯気の立つ紅茶を口に運んだ。オリヴィアはカップを持つローザの小指がかすかに震えているのを見過ごさなかった。


「お嬢様。何か隠し事がおありですね?」


「い、いいえ。嘘じゃなくてよ。オリヴィアには嘘が通じないのは小さい頃から身に染みて知っていますもの」


 ローザは小さい頃ちょっとした事でオリヴィアに嘘をついたことが何度かあり、その全てが見破られ強く言い含められたことを思い出していた。


「確かに嘘はついておられないご様子。しかしながら、ローザお嬢様は大商家のご令嬢であられます。いつ何時不貞な輩に襲われるやもしれません。ただでさえ魅了の力で男性を引きつけてしまわれるのですから、外出する際は十分お気を付けくださいませ」


「ええ、わかっていますわ。わたくしも今年で十五になり成人しましたのよ。本当にオリヴィアは昔から心配性ですわね」


 ローザはオリヴィアに深く追及されなかったので、ほっと胸を撫で下ろした。

 オリヴィアはその様子を横目で見ながらローザのカップに紅茶をつぎ足して言った。


「差し出がましいことを申し上げますが、あの少年には近づかないほうがよろしいかと」


「なぜ? レノアスさんは悪い人ではありませんわ」


「お嬢様のおっしゃるとおりかもしれません。しかし、彼からはあの年齢で熟練した戦士のような雰囲気や、内に秘められた得体の知れない力を感じます。お嬢様に害を及ぼさないとも限りません」


「それは、オリヴィアの考え過ぎではなくて?」


「そうであればいいのですが、お嬢様の護衛をしている私としては彼を見過ごすことはできません」


「わたくしにとって、初めてできた異性の友人ですのよ」


「そこが異例なのです。お嬢様の魅了が効かないという事実が、彼が普通の人間ではないことの証明となっています。私は警戒すべきだと思いますが、それでもお嬢様は信用できるとおっしゃるのですか?」


 ローザはオリヴィアの迫力に気圧された。


「……そ、そうですね。今日会ったばかりの方を信用するのはまだ早いですわね。久しぶりに異性の方とお話しができたことで、少し舞い上がってしまっていたようですわ。わたくしも今後は近づき過ぎないようにしますわね」


「分っていただけたのでしたら、これ以上何も申し上げることはございません。それでは、私は封印譜文を描く作業のため仕事に戻らせていただきます」


「ええ、いつもご苦労様」


 オリヴィアは一礼して応接間を出て行き、ローザは紅茶を口に運びながらレノアスの事を考えていた。

 オリヴィアにはレノアスを警戒すると言ったローザだったが、内心ではレノアスに対する湧き上がる好奇心が抑えられず、次に彼に会ったときに何を聞こうかと思案していた。


「セレンジシアの王女様のお話しをもっと詳しく聞きたいですわね。それと樹海の動物はどんなものがいるのかしら。見た事もない綺麗なお花もあるかもしれないですわね。それから、ええと……少しお話しするくらいなら問題ないですわね」


 小さな頃から好奇心旺盛だったローザは、初めてまともに話せる異性の友人で、鎖国中で謎の多いセレンジシアから来たレノアスに、強く興味を引かれていた。


「そういえば、妨害者と対決するとおっしゃっていましたわね。わたくしも参加したいですわ。……オリヴィアには内緒ですけれど」


 ローザはオリヴィアからの忠告を忘れてしまったかのように、レノアスに会える日を楽しみにするのであった。




 時刻はすでに夕方になっていたが、レノアスは襲ってきた男の一人から聞き出した、彼らの隠れ家についてエンネアに報告しにきていた。

 レノアスは談話室で座って待っているとエンネアが入室し、向いの椅子に座った。


「お待たせしました。レノアス様」


「今日は酒場での仕事はないのか?」


「はい。一日ごとの交替制ですので、今日は仕事はございません。それで、妨害者達の情報は得られましたか?」


「ああ。さっき使徒のローザに会ったんだ。その時に奴らが襲いかかってきて、倒した男から聞き出したんだ。それと町の男達にも追いかけられたよ」


「では、ローザ様の特殊な力のことはすでにお聞きになりましたか?」


「聞いたよ。何でも異世界人の血を引いているらしいな」


「はい。ローザ様はご自分の魅了の力を憂いていらっしゃるようです」


「まあ、そうかもな。ローザの顔を見ただけで、妨害者の男でさえ跪いて求愛していたからな」


「その口ぶりからすると、レノアス様は魅了されなかったのですか?」


「ああ。特に気持ちの変化はなかったんだ。まあ、ローザがすごく美人なのは驚いたけど」


 「そうでしたか。ローザ様から聞いた限りでは、自分の父親を除いて異性なら例外なく魅了されるというお話しでした。レノアス様にだけ魅了の効果がない理由は私にも分りません。その原因の究明をお求めでしたら、身体を精密検査すれば何か分るかもしれませんが……」


「その必要はないよ。それより、妨害者達はローザを殺すというよりは、攫おうとしているようだった。エンネアはその理由に心当たりがあるか?」


「恐らく彼女の特殊な能力を利用しようとしているのかもしれません。ローザ様の力は使い方によっては他人を操作することができますので」


「つまり、魅了された人間は、簡単に命令通りになるということだな」


「はい。幸いローザ様は心根の正しい方ですので、他人を操作して悪事を働く事はなさいませんが、ひとたび彼女の力が何者かに利用されるなら、大きな被害が予想されます」


「そうだよな。国の統治者なんかが魅了されたら大変だ」


「そのようなことを防ぐためにも、妨害者達を排除する必要があるのです」


「わかった。じゃあさっそく奴らの隠れ家についてだが」


 レノアスはエンネアに妨害者達の隠れ家の場所を伝えた。エンネアの話しによるとその場所は、首都ミルドの地上街の中でも治安が悪く、通称旧市街と言われていた。地下街での貧しい生活に耐えきれなくなった者達が、犯罪に手を染め旧市街で暮らすようになったという。その旧市街のある商会の倉庫が彼らの隠れ家になっていた。


「レノアス様、隠れ家についてより詳しい情報を収集するために、数日お時間を頂きます。彼らの人数や戦闘能力なども調査する必要がありますから」


「わかった。情報収集は恵みの雨がするんだよな」


「はい。彼らの中には旧市街出身の者も多いので、問題なく任務を果たしてくれるでしょう」


 レノアスは、フレイシアに安全な調査だと言って旅立ったのに、隠れ家が治安の悪いところに存在すると聞いて、ひと騒動起こるなと、覚悟した。

 レノアスは何としてでも無事にセレンジシアに帰ると決意を新たにした。


 隠れ家の調査が済むまで手伝えることは特になかったので、彼は久しぶりに訓練部屋に向かった。

 レノアスは枠のない透明な窓から中を覗いてみると、すでに恵みの雨の五人が銀色の敵数体を相手に、小隊として連携しながら戦う姿があった。

 その中でも特に目についたのは、二人の姉妹アイスリンとスノウラルだった。アイスリンは明るい青色の短い髪を揺らしながら、敵の周囲を縦横無尽に動き回り、いつか見た長い針のような刺突剣で敵の隙を突き攻撃をしている。一方スノウラルは小隊の後方に位置し、味方の攻撃を絶妙なタイミングで援護するように、発現による氷塊を敵に放っていた。レノアスは二人の姉妹が違う戦い方をしているのを見て、感心しながらつぶやいた。


「あの二人、姉妹だけあってすごく息があってるな」


 アイスリンの攻撃的な戦い方を補うように、スノウラルの発現攻撃が放たれ、二人の連携攻撃は次から次へと敵を倒す。

 彼女達以外の恵みの雨の戦闘員三人も奮闘しているが、レノアスは姉妹二人と比べると明らかに実力差を感じた。

 しばらくすると全ての敵を倒し終えた五人が訓練空間を出てきた。


「お? レノっちじゃん。もしかして、あたしの戦い見てくれてた?」


「ああ、アイスリンは速い動きで敵を翻弄する戦い方をするんだな。かなり動き回っているのに、剣を突き込むときは剣筋が全くぶれていないのがすごいと思ったよ」


 アイスリンはレノアスに戦い方を褒められ、照れ隠しに彼の肩をバシバシと何度も叩いた。


「にゃはは! あたしのすごさがもうばれちゃった?」


 アイスリンはレノアスに近づき肩を組み顔を寄せた。


「惚れた? ねえ、惚れちゃった?」


 スノウラルはレノアスに絡むアイスリンを引きはがした。


「アイ姉! レノアス君が困ってるじゃないの。そんなにベタベタ異性にくっつくなんて、はしたない!」


「だってー、レノっちからなんかいい香りがするんだもん。ついつい近づきたくなってさ」


「たぶん、朝スズランっていう花の石けんで顔を洗ってるからかな。香水の原料にもなってるんだ」


 スノウラルもレノアスに近づき、かすかに香る花の香りを嗅いだ。


「あ、ほんとだ。今まで嗅いだ事がない、いい香りね」


「でしょー? スーは香水には目がないもんね。あたしは興味ないけどさ」


「アイ姉はもう少し女の子らしいことに興味をもったらどうなの? 私たちはもう十五になったのよ? 一般的には大人だよ、大人の女性なんだよ。『花の命は短い。されどその一瞬に生きるがゆえに美しい』ってベベラシ名言集『恋』にも載っていたし、そんなんだと婚期を逃すわよ」


「えー、いいよあたしはー。女らしくするより戦って華々しく散るほうが格好いいし。女らしさ担当はスーにまかせる!」


「担当にされても困るんだけど! お金持ちか、将来有望な相手に見初められないと、私たちみたいな地下街育ちは一生暗い地下街で暮らすことになるんだから」


「それは嫌だけどさ。じゃあレノっちでいい! なにげに強いし、しっかりしてるし、将来も有望じゃない? あたしレノっちに養ってもらう」


「な、何さらっと告白してるのよ!? そんな無神経で無頓着で無精な性格だと、男性にもてないんだから!」


 レノアスは姉妹の仲の掛け合いに微笑んでいると、アイスリンが提案してきた。


「ねえ、レノっちさ、ミルドの町来たばかりで慣れてないしょ。観光もかねて、いいとこ案内してあげるよ」


「いいのか? それは助かるけど、傭兵の仕事があるんじゃないのか?」


「どうなの? スー」


「アイ姉……。面倒だからって仕事の予定も私任せにしないでよね! レノアス君、今は傭兵業は休業しているので大丈夫ですよ。ほら、競売会や移動扉の件も協力するつもりだから」


「スーもこう言ってるし大丈夫だね。今日はもう夕方だから、明日の昼から行こうよ! ね!」


「じゃあお願いするよ。滞在場所といい町の案内といい、頼ってばかりで申し訳ないな。何かお返しできればいいんだけど」


 アイスリンがにやりと笑みを浮かべた。


「それじゃあ、あたしの旦那になっ」


 アイスリンが言葉を言い終える前に、スノウラルの会心の突っ込みが彼女の頭に直撃し、そのままアイスリンは地面に突っ伏した。




 ◆◆◆




 次の日の午前、レノアスはマーロイとナーナと共に流体術の修行をした。その後、アイスリンとスノウラルにミルドの町を案内してもらえることになっていた。修行を終えたレノアスにアイスリンが笑顔で声をかけた。


「レノっちー。昼食は何が食べたい? カイカイの日干し? カイカイの漬け物? カイカイの」


「ちょっとアイ姉!それ全部酒の肴じゃないの? まさか昼間からお酒を飲むつもりじゃないでしょうね?」


「そんなーまさか、さすがのあたしでも昼間っからお酒を飲んだりはしないよ。スーはあたしのことそんな飲んだくれだと思っていたのね、しくしく」


 アイスリンはわざとらしく泣きまねをしながらつぶやいた。


「あたしは悲しくてお酒を飲まないと死んじゃうよ」


「はいはい。この世界にお酒を飲まないと死んじゃう人はいないから。酒の肴で昼食は却下です!」


 肩を落とすアイスリンを放っておいて、スノウラルはレノアスに何が食べたいかを聞いた。


「レノアス君は何か食べたいものはないの?」


「そうだな、ずっと樹海暮らしだったから、魚は川魚しか食べた事がないんだよ。だから、海産物を食べてみたいな」


「魚の干物なら安く食べられるけれど、生の魚は氷付けにして運ぶしかできないから、お金持ちの人しか食べられないのよね。私たちも最後に生魚を食べたのはいつだったか忘れるくらいよ」


「じゃあ、カイカイというのは?」


「よくぞ聞いてくれたレノっち! そう、カイカイは細長い身体でニョロリとした足が十本もあって、黒い墨を口から吐き出す不思議な海の生き物なんだよ。干物にしたものを口の中で噛み噛みすると、旨味がジョワーって出てきて、お酒といっしょに食べるとうまいんだなこれが……ジュルっ」


「へえ、食べたことないよ。スノウラルが良ければカイカイを食べてみたいんだが、かまわないか?」


「ええ、レノアス君がよければ私いいですよ」


「うおぉ、よっしゃー!」


 アイスリンが飛び跳ねて喜んだが、スノウラルがすかさずアイスリンに釘をさす。


「アイ姉、お酒は駄目ね!」


 再びがっくりと肩を落としたアイスリンをそのままに、レノアス達はミルドの町の中心部へ進んだ。その途中、道ばたにみすぼらしい格好の子供が三人に近づき、一輪の花を差し出してきた。レノアスは何だろうと不思議に思っていると、アイスリンとスノウラルはその子を優しく褒めてから、小銭を渡し花を受け取った。


「今の子は知り合いなのか?」


「いいえ、違いますよ。あの子は花売りの少女です」


「ああ、それでかご一杯に花が入っていたのか」


 彼女達はそれぞれ少女から買った花を髪に差し込んだ。


「レノっちー。あたし似合ってる? 似合ってるしょ? どう? 惚れた?」


 スノウラルが姉を無視してレノアスに話しかけた。


「この国にはあの子のような貧しい子供が大勢います。だからといってただお金を恵んであげるのでは、あの子達のためにならないんです」


「どういうことだ? 少しくらいのお金ならあげてもいいと思うんだけど」


「もちろん、何も食べ物がなくて弱ってる子供には、緊急処置として私たち恵みの雨が食べ物や少しの金銭をあげたりしますけど、それを長期的に続けると自分で労働して生活するということが難しくなってしまうんです」


「そういうことか。与えられることに慣れてしまうのは、将来的にあの子達のためにならないというわけか」


「はい。ですから、私たちはできるだけ、何かしらの労働をする子には何かを買ってあげたりしてるんです」


 レノアスは彼女達が地下街で育ったという過去を聞いていたので、同じ境遇の子達に感情移入し優しくできるんだろうなと思った。レノアスは彼女達の優しさに胸の内が暖かくなった。


「二人が恵みの雨の一員として活動している理由がすこし分ったよ」


 スノウラルはレノアスに女性らしい柔らかい微笑みを見せた。


「惚れた? ねえ、私たちに惚れちゃった?」


「アイ姉、くどい!」


 そうして三人は何度か子供達が売りにきた商品を買いつつ、目的の店に到着した。


「あれ……ここはエンネアの働いてる店だよな」


「そう! ここのカイカイ料理がミルドの町で一番おいしいんだよ。レノっちもここの料理おいしかったでしょ?」


「そういえばうまかったな」


 酒場は多くの人で賑わっていた。エンネアは機敏で無駄のない動きでお客に料理や飲み物を運んでいたが、レノアス達に気付いて注文をとりに近づいてきた。


「ご注文はいかがなさいますか? 本日はカイカイの超激辛香辛料山盛りあんかけに、真っ赤な激辛火炎茄子の付け合わせがおすすめです」


 レノアスはその食べられるのか疑問に思う料理名を聞いてぎょっとした。


「じゃあ、あたしはそれください!」


「私も同じ物をお願いします」


 スノウラルとアイスリンは迷わずそれを注文したことにレノアスはさらに驚いた。姉妹の性格はかなり違うようだが、食べ物の好みは似ているようだ。

 レノアスもおすすめを頼もうかと思ったが、自分にはまだ難易度が高いと考え直し、普通のカイカイの干物とカイカイの干物入りの野菜炒めを注文した。

 三人は賑やかな店内で料理の話しで盛り上がっていると、注文したおすすめが運ばれてきた。それは真っ赤な何かで見るからに辛そうだった。料理の湯気が目に入るだけで痛くなり目を開けていられない程だ。姉妹二人は平気な顔でどんどん食べ進めて行く。

 レノアスは辛い湯気にむせて咳き込みつつ、二人に声をかけた。


「けほっ! けほっ! お、おい、そんなに辛くて体調を悪くしないのか?」


「え、普通だけど。 レノっちってもしかして、辛いの苦手なの?」


「いや、苦手もなにもそんなの普通は食べられないと思うが」


「おおげさだなーレノっちは。大丈夫だよ、おいしいって。まあ、この店のおすすめを注文するのはあたしらだけみたい。ちょっと食べてみる?」


 アイスリンは咳き込んでいるレノアスの隙をつき、訓練で見せていたような鋭い動きで真っ赤な料理を強引に彼の口に放り込んだ。


 レノアスは炎を吹きそうな程に辛く、口の中で爆発でも起きたかのような激痛に目をまわし意識を失ってひっくり返った。

 レノアスの様子に驚いたスノウラルが悲鳴を上げた。


「レ、レノアス君っ!!?」








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