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銀嶺の使徒  作者: 猫手猫の手
第2章 セレンジシア樹海王国
20/42

嵐の予感

 



 三国会議が近づき、その準備のためセレンジシアの王宮内はいつもより多くの人々が行き交っていた。

 しかし謁見の間にはそれとは違う緊張した空気が流れている。

 威厳ある態度でシュナーザ王が王座に座り、その隣には今年十八歳になった王子が立つ。周囲には近衛兵や側近達も控え物々しい雰囲気だ。

 彼らの視線は跪いている三人の人間族に注がれている。


 一人は二十代後半の男。中肉中背で紺色を基調にした文官風の品の良い格好をし、整った茶色の髪と丸眼鏡が印象的だ。

 その男の後ろには二人の女性が控えている。髪型以外はそっくりで、明るい碧色の瞳と髪に色白の肌。おそらくは姉妹だろう。美形の多い長耳族にも引けを取らない整った容姿だ。

 シュナーザ王が丸眼鏡の男に向けて声をかけた。


「楽にせよ」


 三人はゆっくりと立ち上がり、丸眼鏡の男は礼をしてから話し始めた。


「陛下、この度は急な謁見をお許しいただき、ありがとうございます。私はガデアント小国連合の特使として参りました。名はクトロムと申します。私の後ろに控えておりますのは護衛のアイスリンとスノウラルでございます」


 クトロムに紹介された二人の女性は、流麗な動作で礼をした。纏う雰囲気は貴族の令嬢のようだ。


「うむ。それで何用かな? 火急の用件と聞いているが」


「はい。単刀直入に申しますと、我がガデアント小国連合との戦時同盟締結をお願いしに参りました」


 シュナーザ王は眉根を寄せ、表情を硬くする。側近達もクトロムの発言に驚いてざわめいた。

 王は怪訝な表情で問いを投げかけた。


「……クトロム殿。樹海王国が現在鎖国中であるのはご存じのはずだが?」


「それは勿論、存じ上げております」


「では、なぜ同盟の締結などを求められるのか?」


「はい。それはオルキスヴェリア王国が、ここ数年で軍事力を大幅に拡大したことによります」


「うむ。それは余の耳にも入っておるが、それだけでは鎖国を解いて同盟を締結する理由にはならない。もしや、貴国との同盟を必要とする他の理由があるとでも申すのか?」


 クトロムは決然とした態度で答えた。


「さようでございます」


 ガデアント小国連合はオルキスヴェリア王国の南に位置する、小中規模の八カ国で結成された連合国だ。

 連合が結成される以前、大国のオルキスヴェリアはその強大な軍事力を用い、いくつもの小国が存在するガデアント地方を幾度も侵略していた。領土を半分近く奪われていたある小国が旗印となり、大国に対抗するため八つの国が手を結び連合が結成された。

 現在も国境線では一触即発の緊張状態が続き、いつ戦争が勃発してもおかしくない状況にある。


「私どもの調査によりますと、オルキスヴェリアは最近、譜文の技術を応用した大規模戦術兵器を完成させた、という情報が入ってきております。近年の軍備増強の動きも合わせて考えますと、近々大規模な侵攻作戦が行われる可能性が極めて高いと考えております」


 王はその言葉を聞くと一層真剣な顔になった。


「その大規模戦術兵器とは、どのようなものなのだ?」


「詳細は分りかねますが、広範囲にわたり大規模な火炎系発現を行使する譜文兵器と思われます」


 王は側に控えてた恰幅の良い老人に意見を求めた。


「その兵器の話は確かか? 軍務大臣」


「は。間者からの報告によりますと、何らかの強力な譜文兵器を開発中という情報はつかんでおりました。オルキスヴェリアの近年の動向といい、特使の情報の信憑性は高いかと思われます」


「うむ。それで戦時同盟を締結というわけか」


「はい。オルキスヴェリアによってガデアント小国連合が侵略された場合、同盟国として共に戦って頂きたく存じます。逆に貴国が侵略された場合は、我らが共に戦いましょう」


 数人の側近が同盟について発言し意見を交し合う。


「私は賛成です。オルキスヴェリアは譜文技術の研究に力を入れている好戦的な国。故に、いざ戦争になれば迷いなくその兵器を使用するでしょう。大きな被害を受けてからでは遅すぎます。ですから、国民の命を守るためにも同盟は必要と考えます」


「わしは反対じゃ。なぜわしらが鎖国をしているか忘れたわけではあるまい。人間族など信用ならん。手を組むなどもってのほかじゃ。それに譜文など恐れずとも我らには勝てる力はある!」


「あなたは譜文技術の怖さをわかっていない。譜文技術は日々進化しているのだ。過去の記憶に振り回せれ、目の前の脅威へ対抗する機会を逃してはならない」


「私たちも準備をせずに千年遊んでいたわけではないぞ。譜文の研究も成果を出しているし、大国に対抗できる力も準備してきた。臆病風を吹かせて人間と関わると、迫害されていた過去の二の舞になると分らないのか」


 数人の側近が意見を言い合い、場は騒然となった。そこでシュナーザ王は手を上げて場を鎮める。


「皆の意見は分った。これは国の将来を左右する重要な案件だ。クトロム殿には悪いが、この場で決定をすることはできない。こちらで同盟について協議し、その結果をこちらから使者を送り伝えるということでよろしいかな?」


「はい。心得ております」


「長旅で疲れただろう。宿はこちらで用意してある。ゆっくり休養していくがよい」


「お心遣いに感謝いたします。陛下」


 クトロムと二人の女性は恭しく礼をして、謁見の間を去って行った。

 王は隣に立つ王子に重々しい口調で問いかけた。


「三国会議を控えたこの時期に軍備拡張と譜文兵器の完成とはな……。アーゼル、今の話を聞いてお前はどう考える?」


 アーゼルは少し考え、迷いなく答えた。


「オルキスヴェリアの譜文技術は周辺諸国でも群を抜いていると聞いています。それを兵器に転用し大きな力を手にしたならば、蔑みの対象である我ら長耳族を侵略するのは道理かと」


「そうだな。彼らが信奉している宗教では人間族以外は敵らしいからな」


「はい。しかし彼らとて馬鹿ではありません。ガデアントと我らが手を結ぶ可能性については容易に予想がつくはず。私はすぐに攻め込まれることは無いと判断し、同盟は一時保留にしたまま、先に譜文兵器の詳細な情報収集と、対処方法の確立を優先するべきだと考えます」


「うむ、余も同意見だ。軍務大臣は諜報部隊を増員しオルキスヴェリアの今後の動向と、譜文兵器の詳細をなんとしてでも手に入れろ。アーゼルは各大臣と協力し、戦争を回避する道を模索してくれ。他の者達は開戦を前提にした予算案の作成、ならびに被害予想と各種生活資材の備蓄計画を立てろ。後日対策会議を行うことにする」


「「「「「は!」」」」」


 王子と忠臣達は早足でその場から去って行った。シュナーザ王は王座で一人思案する。

 ガデアントとの同盟は難しいだろう。もしもオルキスヴェリアが侵略してきたとしても、受け継がれてきた人間族への悪感情は簡単に覆せるものでなく、国民感情を無視して人間の国とは手を組めないからだ。

 もし譜文兵器が想像を超える破壊力で、その力が我が国に振るわれるのならば、自国だけで対抗するのは至難だろう。

 以前から周辺国との関係を改善しておくべきだったかと、顔を歪めた。我らは鎖国で得られたかりそめの平安に、浸り過ぎたのかもしれない。


 国の存亡に関わる問題に悩む王をよそに、謁見の間に降り注ぐ色ガラスの光は、いつもと変わらず美しい色彩を放っていた。




 謁見の間を後にしたクトロムと護衛の二人は、召使いに案内されて王宮の通路を歩いていた。

 髪の短いほうの護衛、アイスリンが小さくため息をつく。


「はあ。あたし、ああいう場所苦手」


 それを聞いたスノウラルが呆れ、小声でささやく。


「アイ姉、まだ王宮の中なんだから気をぬくのは早いわよ」


「えー、だってさ。話が難しいんだもん。それに、スーも見たでしょ? あたしらを親の敵みたいに睨む怖い目」


「それは私も気になったけれど、千年も鎖国し続けているんだから、なにか人間に恨みでもあるんじゃない?」


「だとしてもさー、連合の特使だよ、国の代表者だよ? それなのに失礼じゃない。あの態度はさー」


 丸眼鏡のずれを指で直し、クトロムが話に参加した。


「勉強不足ですよ、お二人とも。契約の儀について、前もって学んでこなかったのですか?」


「けいやくのぎ? ……あたしは頭悪くて覚えられないからなー。そういう小難しいのはスーに任せることにしてるんだ」


「ちょっと! アイ姉はそうやっていつも面倒なことは私に押し付けて。少しは自分で勉強してよね! ……ところで、契約の儀ってなんですか? クトロム様」


 クトロムは苦笑いを浮かべつつ、似た者同士の姉妹に説明を始めた。


「いいですか、よく聞いてくださいね。詳細は謎ですが、長耳族の男子は継承の儀によって、二千年前からの記憶を代々受け継ぐことができるのです」


「えー、それって便利でいいじゃない。あたしは覚えが悪くてさ、いろいろ苦労するんだよね。この前なんか依頼人の名前覚えられなくて、護衛中に何度も名前確認しちゃったし」


「アイ姉はただ単に、食べ物とお酒の事以外は興味ないだけでしょう?」


「そうとも言う。にゃははははー!」


「それがですね、長所より短所のほうが大きいようなんです」


「へー、短所ってどんな?」


「自分が体験したことのない二千年分の辛い記憶、つまり痛みや悲しみ、怒りや恐怖などの記憶を一度に見せられたらどう思いますか?」


「それは非道いわね。わたしなら頭が変になるかもしれないわ」


「あたしもお断りよ。美味しい食べ物の記憶だけなら、望むところなんだけど」


「精神への影響が大きくて、中には異常をきたし廃人になる者もいるとか」


「それで人間に酷い事をされた記憶があるから、あたしらに敵意を向けてくるわけね」


「……まるで呪いのようね」


「でも、それってお門違いじゃないの?」


「ちょっと、アイ姉! 案内役の人にも聞こえちゃうから、もっと声を抑えて話してよね。私たち今、この王国で三人だけの人間なんだから。ここの人たちを怒らせたら大変なことになるのよ。わかってるの?」


「三人って。あそこに一人いるじゃん」


「え?」


 アイスリンが指し示す通路の向こうからは、レノアスとフレイシアが歩いていた。レノアスとフレイシアも特使の三人が人間族だということに気づき驚いたような表情をした。


「スー。あの少年……」


「かなり戦闘経験を積んでるみたいね。雰囲気と動作からいって私たちより強いかもしれないわ」


 だんだんとお互いが近づき、特使の三人とレノアス達が通路ですれ違う。そのときアイスリンが小さくつぶやいた。


創製クレイディフ、刹那の針剣」


 アイスリンは武器が具現化しないうちに攻撃の動作に入り、創製完了とほぼ同時に、レノアスの瞳に武器の先端を突きつけた。すぐにブワリと風が吹く。速すぎる動作に遅れて風が追いついてきたのだ。

 その一瞬の出来事にフレイシアはすぐ対応できず、一拍遅れて腰の刺突剣に手を掛け、アイスリンを睨みつけた。

 剣を突きつけられているレノアスは微動だにしない。

 その場は沈黙に支配された。するとアイスリンは長い針のような剣を霧散させ、殺意を瞳の奥から消した。


「あー、ごめんごめん。小さな虫がいたみたいでさ。あたし虫が大の苦手で、つい手をだしちゃった。ごめんね」


「……そうか。なら気をつけたほうがいいぞ。樹海王国には巨大な虫が沢山いるからな」


 レノアスはそのまますれ違おうとしたが、フレイシアがアイスリンを睨みつけ食って掛かった。


「ちょっと、あなた! 明らかに殺意のある剣を向けておいて、どういうつもりなの?」


「えーと、あたしはただ小さな虫がいたから」


「そんな虫はいなかったわ。王宮内での抜刀は、王族と近衛兵以外では禁じられているのを知らないの? 重罪よ」


 それを聞いたアイスリンとスノウラルは、ギョッとした表情になり、クトロムの表情からは血色が失われた。

 非常事以外の王宮内で抜刀をした者は、反逆の意思があるとみなされ、その場で処刑が許されるほどの重罪にあたるのだ。

 するとレノアスは今にも斬りかかりそうなフレイシアの肩に手を置き、普段と変わらぬ口調で声をかけた。


「許してやれよ、フレイシア。俺は平気だからさ」


「でも、レノアス」


「悪気があったわけじゃなさそうだぞ、ほら」


 レノアスに促されて三人を見ると、アイスリンは明らかに動揺し、涙目になってうろたえていた。そんな姉に激怒してボカボカ殴りつけているスノウラル。クトロムは膝をつき謝ろうとしていたが、フレイシアの名前を聞いた途端、口をパクパクさせ硬直していた。彼はフレイシアが王女の名であることを知っていたようだ。


 レノアスに諌められ、動揺する三人を見たフレイシアは、警戒を少し解きアイスリンに強い口調で声をかけた。


「見たところ人間族のようだけど。あなたはどうしてレノアスに剣を向けたの?」


「あ、えーと、その。どういう反応するか試してみたくて……剣を抜くのが重罪だなんて知らなかったのよ。本当にごめんなさい!」


「謝って済むことでは……!」


 フレイシアの追及をレノアスが遮る。


「まあまあ。俺は本当に気にしてないからさ。俺達はこれから三国会議について打ち合わせするんだろ? こんなことに時間をかけてる暇はないんじゃないのか?」


 たしかにレノアスの言う事も一理あると考え、フレイシアはがくがくと震える特使の三人をもう一度睨みつけた。


「……わかったわ。レノアスがそういうなら今回は見逃してあげる。だけど、次はこの国の王女として許すことはないわよ」


 フレイシアはそう言い放つと、レノアスと共に王宮の奥に消えて行った。


 後に残された三人はしばらく放心状態で立ちすくんでいたが、クトロムがようやく正気に戻った。


「……ア、アイスリンさん。あなたの無思慮な行動のせいで、私達の命だけならともかく、同盟締結の可能性を失うところでしたよ。ほんとに勘弁してくださいよ」


「そうよ、アイ姉! 下手をすれば私たち処刑されていたかもしれないのよ! わかってるの!?」


「……本当に反省してます」


「それに、あのフレイシアという方はこの国の王女です。あの少年が収めてくれなかったら、私たち生きていませんでしたね、きっと」




 特使達と別れたレノアスとフレイシアは、謁見の間に到着し、シュナーザ王と三国会議についての話し合いが始まった。

 王は先ほどの威厳のある雰囲気と違い、愛する娘に向ける優しい父の態度で接していた。


「よくきたな、フレイシア。レノアスもわざわざご苦労」


「お気になさらず、お父様。これも王女としての公務の一貫ですので。それよりも三国会議の方針についてお聞きしてもよろしいですか?」


「ああ、そうだな。基本的に我らは鎖国を続けたいと考えている。フレイシアに任せたいのは、三国条約の内容は現状のまま維持するという立場をとってほしい。微調整は外交官に任せるので難しいことはない」


「わかりました。この国の代表者として誠心誠意お務め致します」


「ああ、頼んだぞ。同伴する外交官と協力して事にあたってくれ」


「はい、お父様」


「……ところで輝月祭は例年になく好評だったと聞いているが、少年は楽しめたかな?」


「はい。この国で暮らして初めて参加しましたが、祭りの雰囲気と出店の料理を楽しむことができました。特にフレイシアの舞はすばらしかったですね」


 フレイシアは父の前での凛とした雰囲気はそのままに、少し頬を赤らめた。

 シュナーザ王はにやりと笑みを浮かべる。


「そうかそうか。母親に似て最近増々美しくなってきているからな。フレイシアが踊る舞はさぞかしすばらしかったろう」


「ええ、それはもう。月光蝶の幻想的な光の中でフレイシアは言葉を失うほどに綺麗でした」


 フレイシアはさらに顔が赤くなる。


「ははは、そうだろうとも。それに報告では、また少年に助けられたようだな」


「大した事はしてませんよ。ただ、何にでも一生懸命に取り組むフレイシアの頑張りを無駄にはしたくなかっただけです」


「うむ。少年がフレイシアを好意的に助けてくれていることに、余からも感謝するぞ。これからも娘を支えてやってくれ」


「はい、喜んで」


 フレイシアがレノアスの発言に恥ずかしさを感じ、耐えきれなくなったのか話題を変えた。


「……そ、それより、お父様。さきほど通路で人間族の三人とすれ違ったのですが、彼らは何者なのですか?」


「ん? ああ、彼らはガデアント小国連合の特使だ。内密な話があると言って謁見を許したのだが、なにかあったのか?」


 フレイシアはレノアスに視線を送ると、レノアスは微笑みながら首を横に振った。


「……いえ、とくに何もありませんが、この国で人間を見るのは珍しいことなので」


「そうだな。三国会議の開催国は十年ごとの交替制だからな。三十年に一度しか我が国に人間は入れないのだ。珍しくて当然だ」


 レノアスは少し申し訳なさそうな顔になった。


「……今更ですが、俺がこの国に住んでもよかったんですか? 俺が人間であるために反発する家臣も多いのでは?」


「まあな。しかし、ゼラードとの約束はおとこおとこの間に交されたものだ。王である前に長耳族の一人の漢として、一度交した約束を破る事はできない」


「そうですか。学院の入学と遺跡の利用なども許可してくれて、とても感謝しています」


「ははは。それはよかった。それではお互い様ということにしておこう。この国が気に入ったのなら、ずっと住んでいてもかまわないぞ。フレイシアもそうは思わないか?」


 急に話を振られ、フレイシアは戸惑いながら恥ずかしそうに答えた。


「え、ええ。そうですわね。ずっといてくれるなら、わたしも嬉しい……です」


 シュナーザ王は以前よりも感情の起伏を見せるフレイシアを見て、安心したように温かい笑顔を向けた。

 それからすぐに話し合いは終了となり、レノアスとフレイシアは謁見の間を出て行った。

 シュナーザ王は独り言をこぼす。


「人間と長耳族の将来、か……」




 場所は変わり、ガデアント小国連合から派遣された特使の三人は、予定通り立派な宿に案内されていた。

 クトロムと姉妹達は二部屋にわかれ、三人とも早めに休むことにした。

 今回、同盟締結の打診はオルキスヴェリアに知られないよう、極秘裏に行われる必要があった。そのため三人以外に従者は同行していない。当然ゆっくりするわけにもいかないので、明日の早朝にはガデアントへの帰路につく予定だ。

 姉妹二人は寝台に横になり、今日の出来事を話し合った。


「それで、アイ姉。あのレノアスって呼ばれていた彼は、どうだったの?」


「んー、あたしも今それを思い出してた。彼さ、私の剣に何も反応しなかった」


「え、速すぎて反応できなかったってこと?」


「いいや、その逆。あたしの初動から剣が創製されるまでの全てを見切っていて、殺意を込めた一撃も、刺さないことを確信していたようにまばたきもしなかった」


「まさか、あの年齢で私たちの師匠くらい強いっていうの?」


「実際に戦ってみないとわからないけど、少なくともあたしたちより戦闘経験がはるかに多いのは間違いないね」


「え、そこまですごいの? 私たちだって戦場で育ったようなものなのに。もしそうだとしたら、ほとんど毎日命をかけた戦いをしていることになるけれど……」


「ええ。周辺国で戦争状態になっている場所は無い。だからおそらく彼は……」


 姉妹は顔を見合わせ頷き合う。


 夜は更け、街灯の明かり以外は闇に包まれた。三国会議を控えたセレンジシア樹海王国の夜は、これから起こる嵐の気配を感じているかのように静かだった。




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