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銀嶺の使徒  作者: 猫手猫の手
第2章 セレンジシア樹海王国
10/42

学院生活 ー 対人戦授業 ー

 



 ライラ先生が声を張り上げた。


「班単位で勝ち抜き戦を行う。勝敗にこだわらず、まずは戦いに慣れろ! 負けたら改善点を考え、勝ったらもっと効率よく勝てるにはどうすればよいか考えろ! 勝っても負けても学ぶ事は多い。戦場で最後まで生き残れる者は、どんな状況でも考え続ける者だけだ!」


 こうして初の対人戦授業が始まった。


 班員が一対一で戦い、班全体で三勝したほうの勝ち。班が勝っても負けても全員が戦闘に参加する。

 レノアスの班員達に緊張はみられない。彼はフレイシアを心配して声をかけた。


「フレイシア。最近学院を休みがちだったのは王女としての役目で忙しかったのか?」


「ええ、そうよ。貴族達との会食や、お父様と各地の視察にも行ったし、孤児院の訪問や、商業組合のお祭りなんかにも出席したわね」


「そんなに多くか。ストラトフェルクに行ってから公務増えてないか?」


「そうかもね。公務が増えたってことは、それだけ期待されてるという意味だもの。完璧にこなして立派な王女だって国民に示さないとね」


 レノアスはフレイシアが疲労で倒れたことを思い出した。あの時はレノアスの調合した薬でなんとかできたが、これからもうまくいくとは限らない。


「……ちゃんと休んでるんだろうな」


「大丈夫よ、レノアスは心配性ね。私は王女なの。疲れても公務はしなければいけないし、国のために尽くすのはあたりまえじゃない」


「お前なあ……」


 レノアスがストラトフェルクの一件から、何も学んでいないフレイシアに忠告しようと口を開いたところで、自分たちの班に順番がまわってきた。


「うひひ。レノアスさん。僕たちの順番ですよ。僕勝てるかな。強い人と当たらないといいな」


 シラスが弱気に呟いているとイーサンが声を張った。


「はっはー! 君なら優雅に勝てると思うがね。自信を持ちたまえ。君は誇り高き貴族なんだ」


「え!? あ、ありがとうございます。励まされているはずなのに、やりにくく思えてくるのはなぜでしょうか」


「……レノアス」


 ルシエがレノアスの服の裾をひっぱりながら声をかけた。


「ん? どうした、ルシエ」


「私も自信無い」


「大丈夫だよ。特訓を思い出せ。ルシエならできるさ」


 ルシエは不安な表情を和らげ、小さく微笑んだ。


「……うん」


 それを見ていたフレイシアはなぜか少し焦りを感じ、強引に二人の会話に割り込んだ。


「そ、そうよルシエ。大丈夫よ。あなたは努力しているし。そうでしょ、レノアス?」


「ああ、そのとうりだ! ベベラシ大先生いわく。強さとは才能ある者が持っているのではなく、自分は強くなれると信じる者が手に入れるものだそうだ」


「うひひ。さすが大先生ですね。会ったことないけど納得の言葉ですよね」


「ふむ。さぞかし高名で高貴なお方なのだろうな。今度お目にかかりたいものだ」


 ベベラシを知らない二人は、勝手に想像を膨らませて盛り上がっているが、レノアスは残念そうに王宮の方を見た。


「……今頃また意味不明な奇声を発しているんだろうな」


 そこにライラ先生の声が向けられた。


「レノアス班の一人目は早く出ろ!」


「ひゃい! ぼ、僕が一番ですので先に行きますね」


「おう。がんばれよシラス」


 順番は前もって決めてある。一番はシラス。二番はイーサン。三番はルシエ。四番フレイシア。五番はレノアスだ。初戦のシラスの対戦相手は女子生徒だった。


「え? 女子ですか。やりにくいなー」


 相手を見てやり辛そうにしているシラスにライラの喝がとぶ。


「戦場では相手を選んでいられないぞ! 気合いを入れろ!」


 ライラの声に飛び上がるシラス。


「うひゃあい! 了解であります!」


 シラスは反射的に軍人のような返事をしてしまう。ライラが試合開始の合図をすると、先に動いたのは女子生徒のほうだった。


発現エクセヴィレン! 落ちて! 無数の氷弾!」


 上空に数十個の氷弾が生成され、シラスを目がけて落下した。シラスがあわててかわすが数発かすり、体に光の印が付いた。


「ぼ、僕だって! 発現エクセヴィレン! 黒っぽい雲よりも黒い雲! 視界を」


 唱言を唱えきる前に女子生徒はシラスに近づき、腰に差していた短剣で斬りつけた。発現しそこなった黒い雲は瞬時に霧散してしまうも、シラスは急いでかわすことができた。


「わわ、危ないとこだった。やっぱり僕の唱言長いかな。改良の余地ありか」


 シラスも短剣を手に向き合う。

 女子生徒はもう一度氷弾を発現したが、シラスは今度は冷静に短剣で弾き全てかわした。


「うひひ。僕は同じ攻撃に二度も当たるほど、弱くありま」


 ゴンッ!


 決め台詞を語っているところに、時間差で落ちて来た一つの氷弾がシラスの頭に当たり、あっけなく試合終了となった。


「あ、体が動かない。まさか氷弾が残っていたなんて」


 身動きできず地面にうつ伏せで倒れるシラスをよそに、相手の班員達は腕を上げて手を叩き合わせて喜んでいる。

 レノアスは冷静に分析してつぶやいた。


「格好つけてみたかったのが敗因、だな。気持ちはわかるが」


 シラスは体が動くようになると、申し訳なさそうに戻って来た。


「す、すみませんでした。相手が女子だと思うと油断してしまい……」


 次はイーサンの順番となり、四人に見送られ、堂々とした態度で闘技場に上がる。

 不安な様子は一切なく、実に自信ありげに腕を組んで対戦相手を見下している。相手は落ち着いた雰囲気の男子生徒だが、イーサンの余裕に怖じ気づき、冷や汗をかいて杖を構える。

 二人の間に緊張した空気が流れ、すぐに開始の合図が闘技場に響く。 

 瞬時に反応したのはイーサンだった。組んでいた腕を解き、右手を真っすぐ相手に伸ばし指をさし、大声で発せられた言葉に対戦相手は驚愕した。


「勝利は君に譲る!」


 投了の言葉だった。レノアスはがっくりと肩を落とし、負けたのに満足そうに戻って来るイーサンに向けて声をかけた。


「イーサン。ぶれなさすぎだよ」


「はっはー! 優美にそして流麗に勝利を譲る。これぞ貴族の矜持!」


 恐らくイーサンにしか分からない矜持を語り終わると、また腕を組み控えに戻る。レノアスはある意味予想どうりなイーサンに脱力した。


「……次は、私」


 ルシエの相手は、七番教室で一番縦にも横にも大きい男子生徒だ。小柄なルシエはいっそう小さく見えた。

 ルシエの瞳には闘志が燃えている。ライラが開始の合図を出すと、男子生徒が創製を開始した。


創製クレイディフ! 硬いトゲトゲの棍棒!!」


 長耳族には珍しく、創製で戦う生徒のようだ。ルシエは動じない。男子生徒が突進し銀色の棍棒をルシエ目がけて振り下ろすが、ルシエはふわりとかわし距離をとる。


「飛んで行け! トゲトゲ弾!!」


 その声と同時に棍棒に付いていたトゲが、ルシエ目がけて高速で射出された。それでもルシエは焦りを見せない。体を自然に反らし一つ一つのトゲをよく見て全てをかわす。レノアスは感心した。


「さすが名門といわれるだけあるな。動体視力と体の柔軟さは受け継いだものなんだろうな」


 それからルシエは両手の平を男子生徒に向け集中を始め、反撃を開始する。


発現エクセヴィレン、相手は一人。目の前の一人。絶対に一人! 他の人には当たらない! 天翔る一閃! 紫電!!」


 その瞬間、大気を割るような轟音とともに太い紫の閃光がルシエの手から男子生徒目がけてほとばしった。

 そして静寂で包まれた。周囲で観戦していた生徒達もみなその音と光に驚き唖然としていた。

 ただ一人レノアスは何が起きるのか知っていたので、ひとり笑顔でうなづく。


 すぐに男子生徒の持つ棍棒が、硝子が割れるかのように爆散し、銀の粒子となって霧散した。現状を把握できていない彼は、体が動かないことに動揺し尻餅をついた。彼の胴体の殆どが白く光り敗北を証明していた。

 あまりの予想外の攻撃に一番早く立ち直ったのはライラ先生だった。


「……し、試合終了! そこまで! 勝者はルシエ!!」


 少し遅れて周辺の生徒達から驚きの歓声が上がる。ルシエは気にせず、真っ先にレノアスに近づいた。


「……どう?」


「うん。上出来だ!」


 そういうとレノアスは笑顔でルシエを褒めた。

 ルシエは顔を赤くして満面の笑顔を浮かべた。そこに班員達も声をかけた。


「……ルシエ。あなた、あんな強力な発現できたのね。正直おどろいたわ」


「すごいっす! ルシアさんってすごいです!!」


「はっはー! 私の見込みどうりだったな。これで名実共に栄光ある貴族の一員だ」


 盛り上がっているとライラが次の対戦をうながし、フレイシアが闘技場に上がる。相手は女子生徒のようだ。

 フレイシアは突きの構えで戦闘準備を終える。開始の合図を聞いたフレイシアは、瞬時に肉薄し突きの連続を繰り出す。艶やかな金色の髪がふわりと舞うのとは対照的に攻撃は苛烈だ。

 女子生徒は発現の隙を与えられず、一方的な突きの攻撃に何もできずに敗北した。

 あまりの早い決着に周囲の生徒達から歓声があがった。


「ふう。ちょっと力入れすぎたかしら」


 余裕のフレイシアに、レノアスが声をかけた。


「突撃の踏み込みの姿がよかったな。全体的に動きが綺麗だった」


「え? そ、そう? ふふ、なんか照れるわね……」


 フレイシアは正直に褒められ照れてしまうが、照れ隠しのために急いでレノアスに話しかけた。


「次はレノアスの番よ。勝って次に進みましょう」


「おう。当然だ」


 レノアスは闘技場に進み自然体で立つ。対戦相手は男子生徒だ。試合開始の合図とともに男子生徒が発現する。


発現エクセヴィレン! 大地より突き上げろ無数の石針!!」


 レノアスの周囲から数十の石の針が突き出し襲ってくる。レノアスは飛び退いて回避するが、空中にいるレノアスを狙い、男子生徒が連続で発現する。


発現エクセヴィレン! 命中しろ! 石つぶて!!」


 男子生徒の周囲に石つぶてが出来上がり、レノアスに向かって飛んでいく。レノアスは空中で冷静に創製する。


創製クレイディフ、出ろ、踏み台」


 足のすぐ側に銀色の板が創製され、それを踏み台にして上空で石つぶてをかわし、地面に足をついた瞬間、男子生徒が再度針を出す。


「おっと。発現速度がなかなか速い奴だな」


 再度空中に逃れたレノアスにまたもや石つぶてが飛んで来るが、踏み台を創製し、かなり上空へ飛び退いて創製を行った。


創製クレイディフ、翔る静穏の弓矢」


 レノアスの手には銀色の長弓が創られた。すぐに弓に矢をつがえ、弦を引く腕に力を込め、張りを極力最大にする。

 レノアスは呼吸を止め、全神経を弓と矢に注ぎ、一点を狙いすまして射る。ほぼ同時に矢は男子生徒の額に命中した。

 後から空気が爆ぜる音がした。なぜなら矢の速度は音速を超えていたからだ。

 勝敗が決まった。

 他の生徒達からは一瞬で決着がついたことに動揺し、ざわめきが聞こえてきた。


「レノアス、あっけなかったわね。まだ本気じゃないんでしょ?」


「まあな。空中の姿勢が不安定な状態で、射れるのかやってみたが、やっぱ難しいな」


「うひひ。余裕ですね、レノアスさん。空中撃ちって普通当てることもできませんからね」


「ほう、曲芸の才能があるとは。道化の仕事くらいはできるやもしれんな。私の口添えで紹介してやろうか?」


「余計なお世話だよ、大物貴族」


「……レノアス、すごい。矢が速すぎ」


「まあな、何年も使っていればあれくらいはできるさ」


 その次の戦いも男二人をのぞいて残りの三人が勝ち、難なく決勝に進んだ。

 決勝の対戦相手は三大貴族ウトラス家の跡取り息子、ラディエルトの班だ。七番教室の精鋭が集まった最強の班だろう。

 彼らのレノアスを睨む目つきは敵意むき出しだ。


「レノアスってあの班の人たちに何かしたの? すごく睨まれてるわね」


「いや、心当たりはないな。人間は認めない派のいつものやつだろ」


「レノアスさんは話せば悪い人じゃないんですけどね。話せば。うひひ。」


「話さなくても悪い奴じゃねえよ!」


 シラスは冗談を突っ込まれ、してやったりとにやりと笑った。


「はっはー! 人間ごときに目くじらを立てるようでは華麗な貴族への道は遠いな」


「……レノアス。がんばって」


「おう。ありがとな、ルシエ。お前に励まされたら、なんかやる気でてきたよ」


「うん。いつもルシエ、もらってばかり。たまに、お返しする」


 レノアスとルシエは特訓で過ごした時間の長さ故か、自然と仲の良い雰囲気で話している。

 それを横目で見ていたフレイシアは、またも二人の会話に割り込んだ。


「そ、そうよね。恩返しは大事よね。そうでしょ、レノアス?」


「はあ? まあ、大事だけど。おまえ少し疲れてるんじゃないか、フレイシア? なんか変だぞ」


「え、そうかも? 最近公務が続いたからかな。なんだか落ち着かないことがよくあるのよね」


「この授業終わったらちゃんと休むように。班長命令な」


「……うん。心配してくれてありがとう」


「それより試合始まるようだぞ」


 闘技場にはすでにシラスと対戦相手の男子生徒が相対していた。試合開始の合図に両者同時に唱えた。


発現エクセヴィレン! 黒っぽい雲よりも黒い雲! 視界を覆う闇の雲!!」

発現エクセヴィレン! 戦場を漆黒で覆え! 暗幕!!」


 驚いたことにどちらも闇属性の発現だった。

 シラスは唱言を言い切り小範囲な闇を発現できたが、相手はそれを上回る広さの闇を闘技場の空間に充満させた。

 外からは二人の戦いが見えなくなり、しばらく経つと闇が晴れる。

 そこには動けなくなったシラスとそのすぐ横にたつ男子生徒がいた。シラスは負けて残念そうに戻ってくる。


「全然だめでした。まさか対戦相手が自分と同じ闇属性で、僕より数倍多くの闇を操るなんて……」


「しょうがないな。あっちは狙っていたようだしな」


 相手の勝者は薄ら笑いを浮かべていた。


「ふん。次は私か。盛大に貴族の矜持を示してこようではないか。任せたまえ」


 レノアスは、「ただ勝利を譲るだけだろうに」と心の中で突っ込みを入れた。

 闘技場では二人がそろい試合開始の合図が出された。

 イーサンは右手を真っすぐ相手に伸ばし指をさす。しかし言葉を発する前に先に相手が発現しながら迫る。


発現エクセヴィレン! 風を纏え疾風の靴!!」


 その男子生徒は足に風を纏い、ひと蹴りでイーサンの懐の位置まで迫るとまた唱えた。


発現エクセヴィレン! 吹き飛ばせ圧縮空気!!」


 パンッという乾いた音が鳴る。イーサンを場外へ吹き飛ばそうと強力な衝撃波が放たれるが、彼はその場から少しも動かなかった。

 目の前で微動だにしないイーサンに、驚愕で口を半開きのまま静止する男子生徒。

 イーサンはいつもと変わらぬ堂々とした声で矜持を告げた。


「勝利は君に譲る!」


 驚愕と困惑で地面にへたり込む男子生徒をその場に残し、イーサンは高笑いをしながら仲間達の元へ颯爽と帰ってきた。


「……イーサン。今のは勝てたんじゃないのか?」


「はっはー! 真の貴族なら相手に勝ちを譲る懐の深さを知らしめるべきだ。そうは思わないかね」


 レノアスは呆れてそれ以上何も言えなかった。


「イーサンさん。今のどうやったんですか? なんか相手の攻撃を打ち消したように見えましたが。うひひ」


「ふん。弾き飛ばされるなど華麗な貴族の私に相応しくないのでな、音の衝撃波で風を打ち消してやったのだ」


「はあ、あなたって人は。どうしてその技能を戦いで活かさないのかしら。……聞くまでもないわね、貴族だものね」


「はっはー! 当然だな。貴族たる者、信念を一度でも曲げればその時から貴族でなくなるのだ。はっはー!」


「……イーサン。負けたのに、勝ったみたい」


「ふむ。私にとっては勝敗など些末なことだ。欲する者がいるなら与えてやればよいだけのこと。これが貴族の矜持」


 レノアスは、班員の皆が負けたイーサンを褒めていることを奇妙に感じたが、すぐに答えはでた。


「まあ、イーサンだからな」


 次はルシエが闘技場に上がる。


「特訓を思い出せば勝てるぞ、ルシエ!」


「そうよ! 集中よ、集中!」


「うひひ。またあの綺麗なの見せてくださいね!」


「はっはー! 期待しておるぞ、ルシエ」


 それぞれが声援を送り、試合が開始した。

 先に動いたのは相手の女子生徒だ。


創製クレイディフ! 追尾せよ無数の短剣!!」


 その女子生徒の周囲に数十の銀色の短剣が現れ、一斉にルシエに向かって飛び出していく。

 ルシエは最小の動きで全部かわすが、かわしたはずの短剣は背後で旋回しルシエの背中を襲う。

 風を切る音に気づき、転がるようにその場を逃げると、元いた場所に無数の短剣が次々に刺さり、逃げたルシエを追うように追尾してきた。


「う! 追ってくる」


 ルシエの表情は青紫の前髪ではっきりと見えないが、焦っているようだ。

 女子生徒は追加で短剣を放ち、ルシエに発現をさせる暇を与えないよう間髪なく創製する。

 ルシエは逃げ回るが、徐々に距離を詰めていた女子生徒に闘技場の端まで追い込まれた。

 ルシエは一瞬レノアスを見る。レノアスは視線に気づき、大きく頷くと、それを見たルシエは覚悟を決めた。


発現エクセヴィレン! 電撃全解放!!」


 その言葉で周囲の空間全てが轟音とともに紫色の光に染まった。

 ルシエから発せられた幾千の閃光が辺りに広がり、周囲十五メートルの円形の焼け跡を作り上げた。

 闘技場から外に出た雷は、レノアスが瞬時に張った網に捕まり大地に流れていった。

 闘技場の中を見ると女子生徒は全身が光の印で満たされ倒れている。ルシエも同じ様に身体の数カ所に短剣の傷として光の印を付け倒れていた。引き分けである。

 ルシエは俯きながらレノアスの側まで戻るとつぶやいた。


「……勝てなかった」


「負けてないから。いいんだよ、よくやった」


 レノアスは笑顔でルシエを迎えた。

 フレイシアがレノアスを睨んだ。


「レノアス。まさかルシエに勝てない相手は道連れだとか教えてないでしょうね?」


「え? 知らないな。うん、まったく身に覚えがない」


「……今後のルシエの成長が心配になってきたわ」


 フレイシアはそう言うと闘技場に歩いて行き、突きの構えをして戦闘準備を整えた。その瞳には相手を侮るような光はない。

 開始の合図とともに先制攻撃を与えようとするフレイシアを、相手の男子生徒は予想していたらしく、突きの間合いに入る前に唱えた。


発現エクセヴィレン! 敵を阻め炎の防壁!!」


 フレイシアの進行方向は炎の壁が進路を阻み、それを見たフレイシアは急停止してから一旦距離をとる。

 男子生徒は炎の壁を維持したまま、遠距離攻撃の発現を続けて実行した。


発現エクセヴィレン! 焼き焦がせ炎の大玉!!」


 空中に直径二メートルの火の玉が五つ出来上がる。フレイシアが顔をしかめる。


「まずいわね。私の風と相性が悪い」


 火の大玉は次々にフレイシアを狙い襲い来る。

 一つ目は難なくかわしたが、回避を予想して放たれた火の大玉は徐々にフレイシアを追い込む。二つ目もようやくかわす。だが、三つ目はかわせそうにないのを判断するとすぐに発現した。


発現エクセヴィレン! 疾風の瞬脚!!」


 フレイシアは脚に風を纏った。先ほどのイーサンの対戦相手は靴に風を纏ったが、フレイシアは腰から下の脚に纏った。

 実際の効果は雲泥の差で、空気が弾ける音とともに高速で移動し、近づく火の大玉を簡単にかわす。

 気がつくとその姿は男子生徒の真後ろにあった。男子生徒はその速さに驚きながらも、フレイシアの突きの連続を火の玉を投げつけながらかわし距離をとる。

 フレイシアの攻撃が一瞬止んだとき、自分の周囲全てに炎の防壁を展開させた。

 フレイシアは距離をとり、遠距離攻撃に切り替えるため唱えた。


発現エクセヴィレン! 切断せよ大気を翔る風刃!!」


 樹海の大木を両断した風の刃だ。その数は十五もの刃。

 次々と男子生徒に迫るが、再度火の大玉を連続で発現し迎え撃つ。

 風刃と火球は空中でぶつかり、すごい爆風とともに打ち消し合う。


「やっぱり。炎に風を当てても炎に喰われるだけか」


 フレイシアは逡巡して集中すると雰囲気が変わった。

 王女の気品漂う雰囲気から、戦場で戦う戦士のものに。


「私も一撃必殺をするしかなさそう!」


 次の瞬間フレイシアの大技が繰り出された。


発現エクセヴィレン! 切り刻め私の敵を! 牙むく暴風の檻!!」


 男子生徒の周りに瞬時に回転する分厚い竜巻が現れ、炎の壁をも吸収し逃げ道を塞ぐ。その竜巻は触れると切れる風刃の壁だ。それが徐々に範囲を狭め男子生徒に押し迫る。

 火球を作って渦巻く暴風の壁を破壊しようとするが、逆に飲み込まれて消えてしまう。

 そのうち男子生徒はなす術なく風の刃に包まれ、全身が白く光る印に満たされた。それからすぐに竜巻は空中に消えた。

 フレイシアの見事な大技に会場からは歓声と拍手が聞こえる中、息をきらすフレイシアが戻ってきた。


「フレイシア様! 竜巻すごかったです。うひひ。感動しました!」


「はっはー! さすがは王女。期待を裏切らぬ華麗な舞。しかと目に焼き付けました。気品と華やかさのある良いものでしたな」


「……うん。すごい」


「まあ、そんなもんだろ」


 レノアスだけ一人評価が低いことに憤慨するフレイシア。


「ちょっとレノアス! それはないんじゃないの? もうちょっとルシエの時のように褒めてくれてもいいと思うのだけど!?」


「はい、はい。すごいよ。」


「ルシエと比べるとぞんざいな感じがするのだけど、気のせいよね?」


「だって、ルシエは特訓をかかさずがんばっていただろ。フレイシアは最近いつ訓練したんだ?」


「……え、最近はなにかと忙しくて」


「それで? 忙しくて、いつしたんだ?」


「……最後は二週間前です」


 フレイシアは観念したようにうなだれる。


「それだけ訓練しなけりゃ、あんなもんだよな」


「う〜! それでもがんばったのに」


「フレイシアなら、体調も万全で訓練も欠かさずにいたら、あんなに苦戦しなかったと俺は思う」


「……レノアスはちゃんと見てくれてるよね……私のこと」


 フレイシアは俯く。


「まあな。なんか危なっかしいからな」


「……そうね」


 強く言い返してくるかと思っていたレノアスは、しおらしい態度のフレイシアに肩すかしをくらう。本当に体調が悪いのかと心配になったが、次の瞬間にはいつものフレイシアに戻っていた。


「次はレノアスの番よ! この一戦で七番教室の最強班が決まるんだから、手を抜かないでね!」


「お、おう。任せとけ!」


「……ルシエも、応援する。勝ったら撫でてあげる」


「ははは。嬉しいが痛そうだな、それ」


「うひひ。レノアスさんなら安心して見てられますね」


「不安にさせないようがんばるよ」


「ふん。せいぜい奮闘するがよい。負けても無様だけはさらすでないぞ。同じ班員として恥をかきたくはないからな」


「ああ。お前をみならって堂々と戦うさ」


 レノアスは闘技場に進み出た。そこには入学してからずっと冷たい視線で睨むラディエルトがすでに立っていた。

 レノアスはいつものように自然体で向かい合う。


「レノアス君。君はここで負ける。僕は自信過剰でも、君のことを過小評価もしていない。人は才能のある者には努力してもかなわないことを教えてあげよう」


「ん? おまえ雰囲気変わったか?」


「僕は強くなった。誰にも負けない強さを身につけた。弱者は強者に這いつくばるために存在する。僕は本当の意味で強者になった」


「つまり、訓練して強くなったってことか? それなら、俺も自信あるぜ」


「まあ、戦えば理解できるよ、僕の強さがね。そして君の弱さもね」


 二人の相対で実技訓練場の空気は一変した。今までのものとは違う鋭く突き刺さるような空気に変化した。


「僕は生きるに値しない人間族を、公の場で打ち負かせるこの日を待っていた。思い知れ、虫けらめ!」


 ラディエルトが片手を掲げ唱えた。


創製クレイディフ! ウトラスの鏡!!」





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