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その1 ほうれん草とトマトとベーコンのスパゲッティ

魔王デミウルゴス・アンデルセン。

圧倒的な魔力と知略を誇り、六界を征服し圧政を敷く魔王の中の魔王。

数々の勇者を正面から打ち倒した恐怖の権化。

その圧倒的な力によって、配下の者ですら彼の元から恐怖で逃げ出し、彼はたった一人で城の王座に座る。

ゆえに――


「はぁ……。」


出るのはため息だけだった。


「困ったなー、困った。なんで部下の皆逃げちゃうんだろ……なるべく三食付きのフレックスタイム制導入したのに……有給だってきちんと付けてるんだよ?」


そう悩む彼こそが恐怖の権化と恐れられたデミウルゴス・アンデルセンである。

容姿こそ人に近しいものだったが、額にある大きな一本角が彼が強大な力を持つ魔族であることを物語っている

彼は敵対する者には決して容赦することはない魔王の中の魔王であったが、彼は配下になったものは厚遇していた。

高給に加え交通費全額支給、フレックスタイムの採用、残業手当支払い、有給ボーナス福利厚生完備と隙の無い好条件。

だからこそ、魔王城から配下のものは逃げていった。

あまりに扱いが良すぎるのだ。あの恐怖の権化、地獄よりも恐ろしい魔王デミウルゴス・アンデルセンがなんの思惑もなくそのような厚遇を施すだろうか?

否、否、否。

何故ならば、彼こそが魔王デミウルゴス・アンデルセン。

その裏では恐ろしい思惑が動いており、自分達はその為の生贄として好条件で雇用されているのに過ぎないのだと……そんな邪推が蔓延した。

結果、魔王城で働くものたちは一目散に逃げ去り、今や魔王城はデミウルゴス・アンデルセンたった一人の居城となっている。


「お腹減ったな、またご飯作らないと……。」


そうデミウルゴスは寂しそうに呟きながら、一人厨房に入っていく。


「何を作るかな……。」


そう冷蔵庫をあけて内容を確認する。

デミウルゴスは中を見て少し考えた後、冷蔵庫からほうれん草、にんにく、トマト缶、ベーコン、しめじを取り出した。

調味料棚からバジルソルトとオリーブオイル、ブラックペッパーを取り出す。その後、乾物が入った引き出しを開けてスパゲッティの入った袋を取り出した。


「よし。」


デミウルゴスは袋の裏のラベルに書いてあるゆであがり時間を確認する。


―――――――――

品名:スパゲッティ

ゆで時間:9分

―――――――――


その表示を見てデミウルゴスは少し思いにふけた。

過去にスパゲッティはゆで時間より少し短めの少し芯が残る程度でゆでるのが美味しいのだと雇用していたコックが話していた事がある。


「大体7分30秒といったころかな?」


そういって、底の深い鍋を取り出して一杯に水を入れた。水の中に塩を入れて食塩水にする。

スパゲッティをゆでるときの麺は海水程度の塩分が理想なのだという。とはいえ、どの程度入れたら海水の濃度になるのかがわからず、デミウルゴスはとりあえずスプーン大さじ一杯の塩を水の中に溶かして火を付けた。

深鍋一杯に入った水は沸騰するまで時間がかかる。

魔王たるデミウルゴスが魔法で水を沸騰させないのはその強大な魔力ゆえに下限が高すぎて、一瞬で水が蒸発してしまう為だ。

デミウルゴスの魔法はあまりに威力が高すぎるがゆえに実生活ではまるで役に立たない。

食塩水が沸騰する間にデミウルゴスはソースの下ごしらえに入る。

ほうれん草を水洗いしてヘタを切り、その後、大雑把ににざく切りに、ベーコンも一口サイズで食べれる大きさに切り分けてまな板の隅に置いた。

深鍋に入った食塩水から泡がぽつぽつと現れはじめる……デミウルゴスは乾麺を小さなコイン程度の束で取り出して深鍋の中にまきすだれのようになるよう回して入れた。

すぐに懐中時計にあるストップウォッチを動かして、ゆで時間を計る。

その間に、もう一つだしたフライパンに軽くオリーブオイルを敷いて、薄切りにしたニンニク、鷹の爪で香り付けをした後、ベーコンを投げ入れた。

デミウルゴスはベーコンを少々かりっと固めに焼く方が好みだ。ソースと絡んだ面を口に入れるた時、香ばしい風味が口に広がるのだ。

そうして表面がカリッと焼き上がった後、ホイルトマトの缶を開けてフライパンに入れる。

火を中火に合わせて、火を入れすぎないように注意した。

スパゲッティを入れた深鍋から泡が溢れ吹きこぼれそうになる。


「わわ!」


そういって吹きこぼれそうになった深鍋の火の強さを落として、泡が引いていくのを確認して、麺が鍋にくっつかないように数回、回ししてから再びフライパンの方に目を戻した。


「あぶないや、ほんと……。」


そう独り言を言いながら、ストップウォッチを確認する。

スパゲッティが茹で上がるまであと3分。

デミウルゴスは水切りざると盛り付け用の皿を取り出した。

残り1分。

時間を確認して、ざく切りにしたほうれん草を入れた。その後少し火を通して弱火にする。


「ふふ。」


そうソースが完成したのに微笑んだ時、ストップウォッチが鳴る。

デミウルゴスはスパゲッティを鍋ごとひっくり返すようにして、流し台に置いた水切りザルの上に開ける。

湯気が立ち上り、目に入りデミウルゴスは思わず目をかきたくなるのを堪えた。

全てを開け終えた後、鍋にかるくひっついたスパゲッティを引きはがしざるにあけたスパゲッティに軽くオリーブオイルをかけあえた。

その後、スパゲッティを皿に盛り付ける。

皿からはみ出た麺を菜箸で整えて、ソースをお玉で取りかける。

最後に彩りにパセリを少しかけた。


「いよし、出来た。」


調理器具を片付けるのを後回しにして、フォークを取り出して出来たスパゲッティトマトソースを持って食卓に座る。

デミウルゴスは、フォークで少しスパゲッティとソースを和えてから、フォークに麺を巻いて口に入れる。

口に広がるトマトの酸味とにんにくの香り、ベーコンの感触、丁度いいかみ応えのスパゲッティが口の中でオーケストラを奏でる。

その味に下鼓を打ちながら、デミウルゴスは次々とスパゲッティを口に運んだ。

その間、おおよそ10分ほど……。

デミウルゴスの前の皿にはトマトソースがほんのり付いた皿が残っている。


「やっぱりパスタはおいしいなー。ちょっと時間かかるけどそんなに難しくないし、今度カルボナーラでも挑戦してみようかな。」


そう次の料理に思いをふけながら、デミウルゴスは台所に食べ終えた皿を持っていった。

料理は食器を洗うところまでが含めて料理である。

いつも使用人に任せていたことだが、今やたった一人の居城であるこの魔王城ではデミウルゴスがやらなければならない。

洗わない食器が貯まった一人暮らしは不潔かつ危険だ。

デミウルゴスは蛇口からみずを出して、台所においた洗剤を使って次々と食器類を洗って水切りかごに置いていく。

そうして、全てを洗い終えた後、


「良きかな……良きかな……」


綺麗になった食卓を眺めて満足し調理場を去った。

そうして、威厳的かつ威圧敵に再びデミウルゴスは魔王の玉座に腰掛ける。

これが六界において最強といわれた魔王のほんの1日の風景である。


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