第八話
<タンザニア連合共和国ザンジバル自治領 ザンジバルシティ・ストーンタウン>
「……アッラーフ・アクバル」
帯域の狭い通信越しに、遠い異国の地より初めて届くイマームの声。時は熟した。行動の時だ。
国際配信の粗い画質のニュースや動画サイトで配信される同胞の築き上げた帝国の盛衰。いてもたってもいられず闇市で手に入れた匿名ルーターを通し、幾度と無くメールを送る日々。3週間後に届いた最初の返信には、既にその後の詳細な作戦行動と活動資金の送金方法が事細かに記されていた。モスルでなくともジハードに加わることができる。ましてやこのザンジバルの正統な王位継承権を持つサイード家の血筋をひくオレにしかできない形で、だ。
この国の“革命政府”の連中は、正当な総選挙で即位した大叔父をたったの2ヶ月で追放し1万人以上の同胞を虐殺した。10年以上のちに祖国へ戻ることを赦された親父は事あるごとに奴らの非道とその背後にいる勢力について諭してくれた。そしてオレは今日の為に2年を費やした。今度は2ヶ月もかける義理はない。
この日のために用意したありったけの爆薬を身に纏い、ここ2週間の根城にしていた旧市街のアパルトメントをあとにする彼は知らなかったが、闇市で手に入れた匿名ルーターが接続していた先はイラクでもシリアでもなかったし、先ほど初めて、そして最期の言葉を交わしたイマームも、ムスリムなどではなかった。
そして、匿名ルーターを手に入れたのは彼だけではなかった。