第三話
<中央軍事委員会聯合参謀部技術部第四局>
「巻島さーん! ひさしぶりーっ!!」
「しれ…、柳さんこそお元気ですか〜??」
「あっ! 樫木さんもー! ケガ治った〜?」
「結構ヤバかったですけど、おかげさまですっかり良くなりましたぁ……」
定年間際に破壊工作やって、例の騒ぎのどさくさまぎれに本国戻ってみりゃ、“機密保持のため”とかでこんな場末の部署に飛ばされて、傍受した通信の解析やらされる羽目になっちまった。
いよいよ手中に納めた世界中のあらゆる通信ネットワーク。そこからいろいろな手段を駆使して得た膨大な盗聴データをリアルタイムで解読して、敵対勢力の通信をAIで検索して解析する、ってーのが仕事なんだけど……
「柳さん、二人目なんですか〜!?」
「そうなのよ〜」
「おめでとうございます〜!!」
「杉山さーん? なんか猫になっちゃてるわよ?」
「ごめんなさーい、フィルターの切り方わかんなくて〜」
「にしてもみーんなマスクしてるのね〜」
「正直名前表示なかったら誰が誰だか……」
「ねぇ、部屋ん中だから別にマスク良くな〜い?」
「たしかに〜」
メールとか電話なら機械が自動で処理できるけど、最近じゃぁテレビ会議? ってのが増えちまってホント迷惑だよ。画面越しの会話だから妙なやり取りしてねえか一応確認しとく必要があるってコトなんだろうけどよ。いくら俺が日本語できるからって、こんなしょーもない女どもの会話見たってしょーがねえよなぁ! ……この“朝霞小学校オンライン同窓会”とかいうタイトルでひっかかっちまったんだろ? おおかた。
窓もない広大なフロアに整然と並んだ大量の解析員デスクの一つで、黒澤信郎は伸びをし、首を二回廻らせ、それから開いていたウィンドウを“無視リスト”に放り込んだ。浸透工作員として長年日本の最前線で勤務してきた黒澤にとって、嘱託の安月給で日がな一日PCの画面を眺めて過ごすという“仕事”は次第に耐え難いものになりつつあった。
「ホント、潮時かもな……」
<オンライン会議システムMeet@Web 会議室ID:jsadk212fh>
「柳さ〜ん、北京の監視外れましたよ〜」
「ありがと〜、夜勤さんもお疲れさま〜」
「これでようやく業務再開ですね、司令」
朝霞の地下3Fにあった四課の本隊、通称「夜勤さん」の本来の任務は、有事の際のBCP(Business Continuty Plan=業務継続計画)だったりする。普段は昼間集めたデータを整理したり、他の課の解析に反証を立てて見落としがないか確認してもらっていたのだけれど、外地情報群への直接攻撃があった場合、要員や集積データを物理的に退避させることはもちろん、侵攻ルートの特定も重要な課題になる。
私の場合はこうして国外へ退避した(行き先ぐらい事前に教えといて欲しかったものだわ)けれど、他の要員は原隊に戻ったり除隊(まぁ偽装だけどー)して一般市民してたり。群のデータベースもネットワークから切り離してリムーバブルのメディアに小分けしてみんなにお持たせして、ついでに別室を物理破壊(アレ吹っ飛ばしたの実はウチ)しといた。誰が言い出したかわからないけれど、願いごと叶えたあとの神龍みたいだから、オペレーションドラ○ンボール! というわけで一年越しの再会と相成りました。
今回は市ヶ谷に浸透していた工作員からいろいろと辿られちゃったけれど、おかげさまで北京からの指揮系統を見つけられたから、今度はそれを辿って向こうのゲートウェイに潜り込むことができた。先方がそれを把握していないってことを考えたら、実質的にはこっちの勝ちってトコかしらね。
「ずいぶんと回りくどい方法ですよね、司令」
「ずいぶんと直接的な言い方するわよね、巻島さん」
あれ? 新しい参加者来てる。“ちゅんちゅん”って誰よ? そもそもコレで全員のハズなのになんで?? って、許可する前に入って来ちゃってるしこのヒト!?
「おじゃましまーす!」
「……こんにちは」
「あなたが責任者かしら?」
「そういうコトになっております……」
突然乱入してきた参加者は、流暢な日本語で続けた。
「今回の事態の首謀者のリストと作戦計画書をお渡しします。あなた方の機関から日本政府にご提供いただけるかしら?」
会議室の共有フォルダに凄まじい勢いでデータが転送されてくる。あいかわらず許可もしてないのに。っていうかコレ一般向けのサービスだけど大丈夫? っていうかそもそもどっから入ってきたのよ、この雀報道官!?
「あとのコトはお任せしますね」
ったって、どうすんのよコレ!?




