第五話
<ニューカレドニア―横田基地経由―ボルドー=メリニャック空軍基地 フランス空軍輸送コマンド所属 エアバスA320-500型>
公式には死んだことになっている日本の対外諜報機関トップとその家族を秘密裏に移送する手段としては上出来よね。フランス本土から南太平洋メラネシアに点在するフランス領へと渡る仏空軍の定期便に便乗した私達。保全隊さんのオンボロ1Boxに詰め込まれ(しかもコレ監視機材で満載なのよ……)、横田基地の第5ゲートから当然って顔して入り込み、エプロンで給油中のエアバスに横付けして、パスポートも出国手続きもなしに離陸してからもう7時間。武装解除の続くシベリア上空を東に大きく迂回して、北極圏を行くエアバスのファーストクラスで洋平もハルくんもぐっすり寝ている。
小さな窓の外では太陽が低く寂しげな光を放っている。白夜が極夜へとかわる10月初旬。天頂から大きな落し蓋が降りてきて、長い冬をオーロラがかき回すようになるこの季節の昼下がりには、それでも太陽と一等星が同居する不思議な時間があったりする。子供じゃないけれど窓際に座った私は、外の景色をぼんやりと眺めながら、横田からの退去間際に手渡された一葉の指令書を思い返していた。
指令というにはあまりに粗末な紙片に走り書きされたメモは、確かに情報本部長宮島陸将そのひとの筆跡だった。曰く「外地駐在を命ずる。駐仏防衛駐在官へ連絡し、その指示に従い、次の任地へ赴け」とのこと。任務の期間も駐在官の連絡先も示されていない伝言ゲームみたいな指令。いったいどれだけ慌てふためいていたというのかしら?
窓の外に広がる夢のような景色に幾筋かの光がスッと走る。流れ星だ。飛行機からも見えるんだ。このまえ流れ星に願い事を託したのはいつのことかしらね……? なんて思っていると一際明るい筋が現れた。殆ど肌で感じとれるほどのまばゆい光の帯を従えたそれは、消えて無くなることもなく北極海の水平線へと潜り込んでいく。
次の瞬間、不意に禍々しい音が轟いたような気がした。成層圏を行く旅客機のエンジンの騒音に紛れ、聞こえるはずのなかったあの音は、それでも耳の底へと沈み込み、いまでも時折思い起こされる。




