第十七話
<メリーランド州アンドルーズ空軍基地 エアフォース・ワン>
いつものような優雅な離陸をしている場合ではなかった。01L滑走路の脇の芝生に荒っぽくランディングしたマリーン・ワンから全速力で走るシークレットサービスの一隊、に両脇を抱えられた大統領が、機体左舷の収納式タラップからまたしても荷物のように押し込まれる。一行が機内に転がり込むや否や、機長のリチャードソン空軍大佐はスロットルを全開にして離陸を始める。ゼネラル・エレクトリック社製CF6-80C2ターボファンエンジンが、持てる最大限の推力を絞り出し、マリンブルーと白で塗装されたVC-25を空へと押し上げていく。
操縦席後方の通信デッキでは、第89空輸航空団所属の通信兵が機体背部に収納された衛星アンテナ群をフル稼働させ、先刻途絶えたペンタゴンとの通信の復帰に躍起になっていた。通信衛星自体は機能しており、また各陸上局との連絡も維持されているにも関わらず、国防総省、空軍、海軍ならびに海兵隊司令部との連絡が全くとれない。
「いったいどうなっているんだ!?」
「バックアップ回線も不通!」
「着弾まで20分……」
「敵ミサイル群第二段切り離し」
原型機であるボーイング747-200Bから改修され、延伸された通信デッキの片隅の一般回線電話が鳴る。通信衛星とのリンクのシステムチェックに忙殺されるステファニー上等兵が、腕を伸ばしてその受話器をあげる。興奮気味の男の声がまくし立てる。
「繋がった! こちらは統合参謀本部議長スタンフォード大将だ! いいかよく聞け……」
ステファニー上等兵は無言で受話器を置く。何処の馬の骨か知らないけど、どうやってエア・フォースワンの電話番号なんか調べたんでしょ? こんなクソ忙しいときにイタズラ電話とか、銃殺モノよね、まったく……。
上等兵の頭上の小さなテレビに流れるCNNが“バージニア州で大規模な電力障害”との速報を伝える。バージニア州……バージニア州ねぇ……バージニア州!?
再び鳴る電話。
「いいかよく聞け! もしもう一度切ったら貴様を軍法会議にかけてアラスカに送ってやるから覚悟しろ!!」




