第十一話
“……ようやく浸透工作員の正体が掴めた。市ヶ谷の外郭団体にイリーガルが紛れ込んでいたんだ。在日大使館の二等書記官との接触が確認された……”
電話越しに久しぶりの洋平。汚れきったワイシャツの黒ずんだ襟の匂いまで漂ってきそうに疲れた声。ちゃんとご飯食べてるのかしら? お風呂は? ていうかそんなことより、そのイリーガルってもしかして年齢60くらいでごま塩アタマの中肉中背オヤジだったりしない?
“……なんでわかった?”
だってたった今ふんじばったトコロですし。現役自衛官の私邸に物騒なモノぶらさげて単身乗り込んでくるなんていい度胸してるわよね、ホントに。
“って、大丈夫なのかよッ!?”
まぁわたしだって伊達に自衛官やってませんから。週に5日はトレーニングしてますし、外地派遣要員として近接格闘術ひと通りやってますし、こんな中年オヤジ一人くらいワケないですし、ついでに言うなら一人で育児しながらおウチ守ってきちんと国防してますからもう結構ですさようなら。
“……ゴメン。今日は帰るから”
ねぇ、どんなに仕事が忙しくても自分と自分の家族の身は自分で守らなきゃダメだからね。それが出来て初めて仕事ができて国が守れるのよ。
受話器を置いて一息ついてもう一度持ち上げて今度は5課長さんに電話。気絶した中年オヤジ回収お願いしまーす。あと多分これで私の正体把握されて次はガチな要員くるから周辺警戒の強化お願いしまーす。とかなんとか喋ってたら玄関に横山一尉が来た。悲壮感満載の表情で謝罪のコトバを紡ごうとするその胸にとりあえずくっついてみる。今更なんで震えが来るのよ、泣いてんじゃないわよわたし、っていうかなんで震えてんのよ横山さん。
「……別室も、襲撃されました。樫木二曹が……」
おかあさんがしらないおとこのひとにだっこされてないている。こんなよるおそくに。なんかばたばたうるさいからめがさめちゃって、したにおりたらこのありさまだ。ゆかにはしらないおじちゃんがそうじきのこーどでぐるぐるまきにされてねてるし。なんなんだろう。さいきんかえってこなくなったようへいおじさんのかわり、なんだろうか? まぁいいか。あしたおきたらきいてみよう。きょうはもうおそいからねよう。
イリーガル=非公然工作員




