第七話
<ワシントンD.C.ペンシルベニア大通り1600 “オーバルオフィス”>
「そんなことを信じろというのか!? 今、この瞬間にもあの国との貿易は進み、世界の富の4割が動いているというのに、彼らが本当にコトを構えるというのか!?」
先週前任者から引き継ぎを受けたばかりのマクファーソン国家安全保障問題担当補佐官は自分でも到底信じ得ぬ事態をこの大統領へ説くことに早くも無力感を抱いていた。
「……1939年、ナチス・ドイツの最大の貿易相手国はフランスでした。また独ソ戦劈頭、東へ向かうドイツ第1装甲集団は西へ穀物を輸送するウクライナの貨物列車とすれ違いました。戦争は時としてビジネスとは無縁のロジックに基き始まるものなのです」
「彼らの……彼らの狙いはなんなのだ!?」
「彼らが“一帯一路”を提唱した時、我々はもっと真摯に向き合うべきでした。彼らはかつて彼らが所有していたもの全てを取り戻そうとしているのです。そしてそれを支える巨大な経済圏をユーラシアとアフリカに築き上げようと」
「しかし、どうやって?」
「彼らとて我が国との全面衝突を望むハズはありません。我が極東軍を牽制しつつ台湾の併合とシベリアへの侵攻を企図するものと思われます……」
「到底信じられぬ! 何かの間違いではないのか!?」
先刻のCIA長官との会合で全く同じセリフを発したマクファーソンだったが、その際渡された一葉の写真をTopSecretと大書きされたマニラフォルダーから取り出し、合衆国五軍の最高司令官たる大統領へ手渡した。
「これは……?」
「13時間前、ハワイ島マウナケア山のW・M・ケック光学近赤外線望遠鏡が偶然捉えました」
「タダの四角い枠にしか見えんが……」
「一辺が1000mあります。あらゆる周波数の電磁波を吸収・拡散し、背景の宇宙空間と同じ光量で発光する一種のステルス光学迷彩パネルと思われます。恐らくこの背後に巨大な施設が隠蔽されているものと」
「そんな巨大なモノ! どうやって打ち上げたというのだ!?」
「閣下。それはもはや問題ではありません。問題なのはこの施設が現用の兵器では到達不可能な高度10,000kmにあるという事実です。未知の理論に基づく大質量精密投射兵器を搭載し、国防総省の評価によれば迎撃は不可能、落着数十秒前に漸く捕捉できるという代物で……」
「……これほどの兵器、なぜこれまで察知できなかったのだ」
「申し訳ありません……」
閣下が国防費を削られたからですよ、とは言えぬマクファーソン。その修正予算案に強硬に反対した前任者を批判することで、彼は今の地位を手に入れたのだった。
大統領はオーバルオフィスの窓からサウスローンを見下ろした。この国を再び偉大な国にする。国民にそう盟約した7年前から眺め続けた芝生が、急に色褪せて見えた。




