第五話
<ニューヨーク国際連合本部ビル 国際連合安全保障理事会緊急会合>
「……かかる宙の侵略行為は到底看過し得ぬものであり、合衆国はこの攻撃を行った者ならびに加担した全ての当事者に対し、この緊急会合の結議を待たず、独自に行動を起こす用意がある!!」
アメリカ国連代表部モリソン一等書記官はあくびをこらえた。斯様に時代がかった弁舌は、今それを“朗読”しているジェファーソン特命全権大使の十八番ではあったが、その内容はやや新鮮味に欠けるものだった。形骸化して久しいこの安全保障理事会の席上で、幾度となく繰り返されてきた長広舌。いまだ世界最強の軍隊と巨大な経済圏を抱えているとはいえ、落日の感否めぬ昔日の超大国アメリカの、その無数にある綻びの一つがこの円卓の会議室にあった。
禿げ上がった初老の男がゆらりと手を挙げる。先刻まで同時通訳のイヤホンに手をあてながら船を漕いでいた刘中華人民共和国国連大使だ。
「我が国ならびに周辺諸国に甚大なる被害をもたらした此度の災害について、またこれに先立つ様々な事象についても、貴国はこの数年来、テロリズムの顕れであるとの主張を繰り返されておられるが、その論拠が奈辺に在るのか、またその実施者がいずれに存するのか、伺いたい。そして……」
ジェフ、10ドル頂きですよ。モリソンは顔を下へ向けほくそ笑んだ。あの居眠り爺が今日はどのパターンで切り返してくるのか、部内の賭けの対象になって久しいが、これで3回連続の勝ちというわけだ。
「……私の父は朝鮮騒乱の折、貴国の戦闘機に墜とされた。私の祖父は庚子事変の折、貴国らの兵士に殺された。我が国も同様、この2世紀に渡り貴国らに搾取され蹂躙され収奪されてきたのだ!!」
刘大使は伏せていた顔を上げ、背筋を伸ばし、円卓の他の大使たちを睨めつけ、続けた。
「貴国らは憶えておられぬかもしれぬが念のため申し添えよう! かつて我が国はアジアに冠たる大帝国であった! 貴国らが、この部屋におられる貴国らが遠く海の彼方より奸計を巡らせ、卑劣極まりない策を弄し……」
これは……どうしたというのだ? いつも半分瞑想しながら拒否権を行使するあのしょぼくれた爺さんは一体どこへいったのだ? 右耳に流れ込んでくる同時通訳の落ち着いた声色とは裏腹に、刘の頬は紅潮し、眼光は鋭さを増していた。
「どうしたというのだ、これは……」
暗く低く呟くジェファーソン大使の顔は、心なしか青褪めていた。




