第四話
CNNはマンハッタンの暴動の様子を映している。拡大の一途を辿る中国経済の煽りを受け、先行きの見えない袋小路に押し込まれた国内製造業の労働者たちが、再開発の進むチャイナタウンの超高層ビル街へ押し寄せ、おなじみの破壊と略奪を繰り広げている。ココで暴れたからって自分たちの工場が操業再開するってワケでもないのに、その努力を別の方向に向けたらいいのに、なんて思えるのは私が当事者じゃないからなのよね。
CNNは巨大なクレーターが形成された烏魯木斉市郊外の様子を映している。瓦礫を片付ける消防と警察と軍隊。悲嘆に暮れながらも復興を誓う“現地住民”。自治区に外国メディアを入れるコトをあれほど忌避してきた国なのに、こうして積極的に公開するのって、やっぱり皆に見せたいからなのよね。
CNNは住民でごった返す那覇軍港の様子を映している。漏洩した核物質が上水道に入って本島南側の全地区に避難指示が出たのが昨日の夕刻。桟橋には海自の輸送艦と民間のフェリーが停泊して住民を乗せている。最小限の荷物を持って整然と船に乗り込む彼らの表情は疲労よりは静かな怒りで満ちている。まぁ当然のことよね。
にしたって台所の水にガイガーカウンター近づけてバリバリいわせる動画がYoutubeに上がって炎上してから3日も経ってる。おなじみの地位協定のおかげで警察も消防も入れなかったから、報道が無許可でドローン飛ばして弾薬庫の中で燃える核弾頭の画撮ってニュースに流したのが一昨日の話だから、まぁどんなに取り繕っても米軍さんの大失態なワケで、横田や三沢のゲートの前にはプロじゃない市民の方々まで集まって抗議デモ始めた。
いくら先方がテロ攻撃シナリオ主張するからって、それに付き合って機動隊で強制排除することはないと思うんだけど、三沢ではデモ隊に死者が出る事態になっちゃって、警視総監は引責辞任ののち自決。抗議に訪れた外務大臣を門前払いした赤坂の大使館には街宣車が突っ込み、運転してた“日本人”が海兵隊員に問答無用で銃殺される様子は全国ネットで幾度も流され、ただでさえ流されやすいこの国の世論の襟首掴んで締め上げた。革新保守を自認してた総理はいよいよ「戦後レジームからの脱却」に前のめりになって米軍叩きの世相に乗ろうとしてるけど、もうちょっと周りの状況見て欲しいものよね。
って、その周りの状況探ってまとめて政府に提出するのが私達のお仕事だったりするんだっけ……? そういうわけで時短勤務墨守してるまっとうな公僕たる私は当たり前のようにお仕事お持ち帰りして夜なべしてる。
人民解放軍海軍の北海・東海ならびに南海各艦隊基地では揚陸艦を中心としたかつてない規模の艦隊が出港準備に入ったし、沿岸の空軍基地には駐機場を埋め尽くす勢いで最新鋭の戦闘機や爆撃機が並んでる。北東部では瀋陽軍区の増強2個集団軍が黒竜江南岸に集結し、北岸のロシア極東軍第35軍との睨み合いに入ってもう一週間。中国政府の公式発表じゃ通常通りの初夏の演習ってコトなんだそうだけれど、タダの演習にしては随分と大仕掛けだと思わない? ……って思わないヒトが多過ぎるのよね、あの商人政権筆頭に。
要はホントの戦争が始まるかもって時にこの国は上へ下への大騒ぎをしてる、っていうかさせられてる。あの国が何をしようとしてるのか? 今なら入隊一年目の分析官でも答えられるケド、ホントに知りたいのは、何でそうしようとしてるのか? なのよね。
“ゴトッ”
ふすまが開く。こんな真夜中にハルくんが突っ立ってる。寝ぼけて起きちゃった?
「……うん」
テレビの音、大きかったかしら? リモコンに手を伸ばして音量下げようとした私の目に慌てふためく街のヒトたちが飛び込んでくる。アルジャジーラ配信の映像。毎度お馴染みイスラム過激派のテロ事件。場所は……ダルエスサラームだ。見覚えのある街並みをバックに救急車が猛スピードで疾走していく。画素の荒い映像の端に一瞬映る馴染みの顔。……ビホンさんだ。ブマワ村の村長さん。
「……おしっこ」
お。おむつじゃなくてちゃんとおトイレに行くのね。偉いぞハルト!!
「ハルもう3さいだもん!!」
ハルくんと一緒におトイレ行く。洋平さんはまたお泊り。っていうかあのヒトの顔今週見てない。そんなに詰めたってなるようにしかならないってコト、いい加減わからないのかしら? あのヒトもこの国も。




