第二話
この稼業やってると服が地味な色で揃いがちだけど、いっつもおんなじ格好ってわけにも行かねぇから、地味な上に似たような服がいっぱいあって、一人者にしちゃあ結構な衣装持ちなんだよな。
だから非番の日はこうしてママチャリの前かご満載でクリーニング屋に来るわけだよ。スタンプいっぱい溜まってお得意様ってとこだけどこんなことで休みの日が潰れるんだから考えるよないろいろと。
あんまし言いたかないけど朝霞来てからほんと暇なんだよ。テレビやら朝刊やらはだいぶ騒がしいのに、こんな定時であがる事務屋共の保全なんてやる意味あんのかな?
まぁ、六本木がいよいよ本気出してきたってことで、市ヶ谷のコンビニから香典袋が無くなっちまったって噂だからまだマシ、なのかもな……。
先週出しといた背広とシャツ抱えてこの下落合のボロアパートの階段登るのも考えたらあと少しなんだよな。年が変わったら今までの有給全部ぶち込んで正月休み3月までとってやるって決めてんだ、ってなんだよこの紙切れ、ドアの下にこんなの差し込んでって……あ。
ドライクリーニングの薫り漂う6畳二間で、黒澤信郎は手にした紙片に書かれた繁体字を追いながら、数十年前この国へ送り込まれる前の事を思い返していた。黒竜江省の訓練施設の朝の寒さ。肺の底まで凍てつく空気。そして慈悲のかけらもない教官たち。哈爾浜のスラム生まれの孤児が生きるため生き延びるために必死だった日々……。ようやく仕事の時間というわけだ。
「もうすぐ定年だったのに、な……」




