第二十一話
また性懲りもなく書き綴るデブリーフィング。任務が中断してから3年も経つとさすがに細部の記憶なんかが薄れてきてて、うつらうつらしながらアタマの奥から引っ張りだしておんぼろMacBookのAppleWorks(コレが一番使いやすいのよね)でパタパタと打ち込む丑三つ時。
前回の任務の教訓。開発途上国での電源事情を無視した通信は簡単に補足されますってコト。たぶん意図的に商用電源絶ってそのエリアの通信を徹底的に走査してっていうやり方なんだと思う。つまりはそこまで現地政府に食い込んでたってコトだから、そこまでやるだけの何かがあの草原の下には眠ってるんだと思う。
世界でもめずらしい“裂けつつある大地”。総延長7000kmの及ぶ火山帯&地震帯を抱えた大地溝帯のほぼ中央に位置するタンザニア共和国への介入。つまりは有史以来手付かずの地下資源が狙いってコトよね。
ようやく偽装が解かれたから、ついでにいろいろ考えなおしたりしてる。この国の情報機関のあり方について8年前のレポート反芻するのも悪く無いわよね。
私達の稼業の基本中の基本。情報源を獲得するのに必要な4つの要素“MICE”。お金(Money)、政治思想(Ideology)、情報漏洩(Compromise)、エゴイズム(Egoism)。
まごうことなき薄給(二佐の私でさえ手取りで月28万くらいなの、銭形警部もびっくりよね)で、外交的にどうしたらいいのかわけわからない的政府(せめて周りを見て発言してほしいものよね)の下で働いてて、そんな私しか知らない情報抱えてて、誰にも言えないけど自慢の一つもしてみたいってヒト。いないハズないわよね。
3年前に市ヶ谷で起きたことの発端もやっぱりこんな方々。こんなにスゴイ仕事してるのにこれっぽちしか貰えなくて誰にも言えないから誰からも褒めて頂けなくてって逡巡してる職員が、六本木にマークされて行動確認されてルーティン把握されてオンナ(オトコの場合もあるのよね)か金で一本釣りされて……。で、桜田門とか赤坂とかに騒がれてようやく気付いた頃にはDIHのネットワークにバックドアたくさん作られてストレージの中身あらかた棚卸しされてたって寸法。
で、どうせそんなことだろうって思って、むしろDIH自体を逆情報置場にして彼(ヒ、よ。カレじゃないからね)が見たいと思ってる情報一杯置いといてそっから流出先と流出内容辿れば先方の思考回路が読めるって考えた。
でもそれじゃあ目隠しで将棋指してるようなもんだから、我(ガ、だからね)の情報収集と分析専門の機関を別の場所に作ってみた。金喰うだけでどうせ筒抜けの通信暗号システムとか、勤務シフトとか上下関係から誰が幹部かまるわかりな組織とか、これまでとっかかりにされてきた要素全部排除して、情報畑じゃない普通なヒト(って言っても機密情報取扱パスした自衛官だけどね)で作り上げた部隊。
予算だって中央から引っ張ったらバレバレだから陸自さんからくすねて、掃除のおばちゃん偽装だって経費削減のために偽装じゃなくてホントにお掃除してるし、定時上がり守るためにお持ち帰り(ココはブラック企業なのよねごめんなさい)する衛星写真には“群馬県県庁所在地”ってキャプション入れてネタ画像化してる。
まぁ、実際にはここまでする必要なんて全然無くて、もっというと私が3年育休してる間にもっととんでもない部隊になっててくれてたからホントに感謝してます。さすがは私の見込んだヒトたち。管理職がロクに仕事しなくても回る組織って理想よね。
ってことで、久しぶりの非番な明日はハルくんの保育参観に参加します。午後は保護者会。おなじみの“お母さんの自己紹介”ってコーナーがあるからきちんと“市場調査系です”ってお答えします。ホントのことだものね。