第十八話
<警視庁 品川警察署 3F 遺体安置室>
「……ウチの人間です。ありがとうございます。後のことはいつも通りに」
昔はもうちょっと慎みってもんがあったんだけどなぁ、なんて愚痴こぼしても始まらねえけど、ホント最近の連中は節操が無くていけねえ。
まだ駆け出しの若造の頃は、赤坂の奴らと麻布台の連中が道端でじゃれあってるのを遠巻きに眺めながら赤軍派のアジト張り込んで缶コーヒーと菓子パン喰う余裕もあったけど、近頃はいきなりコレだもんなぁ。
同期で外事4課(公安の、な)の斎藤から連絡があった。昔のよしみってヤツだな。青物横丁駅で飛び込んだ遺体がお前んトコの要員じゃねえかって。ここ半年で三回目だよ。こうして地元警察の安置室来るのもここ三年くらいの間に日課になっちまったってワケだ。
情報保全隊の3課でそれなりにやり手だった50半ばのキャリア組。ウチにしちゃあ珍しく陸自の駐在武官あがりの海外通だったケド、急に無断欠勤したと思ったらこのザマだよ。
工作員の命取り合うような濡れ仕事ってのは冷戦と一緒に過去のモノになったと思ってたオレたちの常識なんて、あの国には通用しねえ。邪魔なヤツは無力化する。拘束して情報取り出すなんて面倒なことはしないってのがあの国のロジックみてえだな。
この間CBP辞めて中古車業始めたロシアの元情報機関員と新橋のガード下で飲んだんだ。まさかこんなヤツと飲みに行く時代が来るとは思わなかったケドな。スゲー愚痴聞かされた。モスクワじゃ家族ごと消されてるんだとか。それじゃ戦争みてえだな、って言ったら、そんなものとっくに始まってるよって笑われた。
で、防大上がりのエリート課長さま率いる“無能の5課”で売出中だったオレたちは、とうとうそんな戦線からも切り離されて、朝霞のワケのわからねえ部隊の用心棒に収まったってコトらしい。群司令は時短勤務の子持ちオンナだぜ。
まぁ……どうでもいいか、もうすぐ定年だし、な。