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第十三話
東京に戻った私はそのまま練馬の実家で寝込んだ。幾度か洋平がお見舞いに来てくれたみたいだけど、ちゃんとお話できたかどうか、やっぱり思い出せない。小池サンもお見舞いに来てくれたけどお母さんが追い返してた。ウチの娘にナニさせてたの! っていままで見たこともない剣幕で。
数年前にJICAを退職していたお父さんは私に優しく諭してくれた。あの国はアフリカの玄関口を50年かけて手に入れた。これからその果実をもぎ取り、蜜を吸い、さらに内奥深く入り込んでいく50年が始まるんだ。ハルカ。お前が見たものはその大き過ぎる手のほんの一撫でに過ぎないモノなんだと思う。わたしにもようやく分かった。遅すぎたがね……。
ザンジバルの革命政府が倒され、タンザニアの国名から“連合”が消え、インド海軍の潜水艦が“事故”で喪われ、ディエゴガルシア島が備蓄核兵器の“事故”で駐留米軍もろとも地図からも地球上からも消え去ったあの日。
私は最初の赤ちゃんを抱っこしてた。最初の離婚届を出したのはその半年前の事だった。孫の顔お見せしますって言ったんだけど、ね。