第十二話
<アメリカ合衆国地質調査所 イエローストーン火山観測所>
子供の頃は地震が怖かった。ロマ・プリータ地震で両親を亡くした時に将来が決まったようなものだ。地震が怖く、そして憎かった。カリフォルニア工科大で地球惑星科学の博士号をとり、4年前このUSGS(United States Geological Survey=アメリカ合衆国地質調査所)に入った。サンアンドレアス断層の地震観測所へ配属されるとばかり思っていたが、どういうわけだかこの国立公園に来ることになった。火山なんて畑違いも甚だしい。なにも観光するためにこの仕事を始めたわけではない。4年前はそう思っていた。
地震より怖いものがある。それを本当の意味でわかったのはここへ来てからの事だ。地震には上限というものがある。地殻が溜め込める歪には限度があり、それを超えた時点のどこかで地震が起こる。どれほど巨大な地震であっても基本的には変わらない。だがここは、このイエローストーンは違う。深部マントルに直結しているこの超火山の噴火規模に上限などというモノはない。
“それ”がいつ起きるのか、そしてどれくらいのコトが起こるのか? 前者はこちらが聞きたいくらいだし、後者を知りたければ遺伝子学の教授に聞きに行くといい。今の人類は70億人もいるわりには遺伝的特徴があまりに均質なのだそうだ。7万年前、ココと同じタイプの火山がインドネシアで噴火し、ヒトの個体数が1万程度にまで“減った”からなのだとか。
「主任、またこの波形がでています……」
「コレは……、まだ上がるのか? 今週に入って……9度目か」
「えぇ、この2週間で既に過去30年間に起きた回数を超えています」
「いいか、我々はまだコレが何を意味しているのかすらわからない。地下10kmで何が起きようとそれを本当に知る術なんてないんだ。どこかで止まるのかも知れないし、小規模な噴火で収まるかも知れない」
「しかし主任……!」
「……そうだな、一応上に上げておこう。ケース4を想定。FEMA(Federal Emergency Management Agency=アメリカ合衆国連邦緊急事態管理庁)への通知も、な」