第十話
<同刻・インド洋チャゴス諸島 ディエゴ・ガルシア米海軍基地>
オレ、トーマス・L・リックス四等特技兵の本日の任務はコイツの保守だ。シカゴのダウンタウンでストリートギャングの真似事やってた20そこそこの若造にしちゃぁ悪くねぇ仕事だよな、わりに。
まぁ、この事前展開部隊装備用ハンガーC地下3階で、下手すりゃオレより年上のB83熱核爆弾信管部のバッテリーチェック3時間ぶっ通しとかでやってると、こんなこまけえことやってねえでとっととシリアにでも落としてでっけえ駐車場作ってやったほうがよっぽど早えような気もしてくっけど、それやんのはエリート士官様が指揮してエリートパイロット様(昨日の夜、基地のクラブでブッ飛ばしてやったケドな)が飛ばすあの気難しいB52戦略爆撃機(そういやぁコッチはホントに年上だよなぁオレより)の仕事なワケだから……、
んだよ! またBeep鳴ってるよ! ヨコタで乗り継ぎした日にゲートの外で買ったヤツ。正真正銘のMade in Japanでソーラー駆動でGPS内蔵だからスゲーぜとか言われて買ってみたんだけど、ソーラーなかなか拝めねぇ仕事だからスゲー意味なかったんだよなぁ。しかも今日に限ってわけわかんねえBeep鳴るし。
はぁ? なんでまた“Cherged”じゃなくて“Armed”ナンだよ? バッテリーイカれたっていうか表示のエラーかなんかか? だいたいこんな古臭え回路未だに現役で使ってるってのがオドロキだよな、全く。
リックス特技兵が横田基地脇のベースサイドストリートで手に入れたCASIOのPRO TREKはもちろんMade in Japanなどではなく、ソーラー駆動も不可能な紛い物だったが、内蔵されたGPSの測位精度は正規品の10倍、低軌道を周る超小型衛星へのアップ・ダウンリンクすら可能な代物だった。そしてそのムーブメント内の4分の1を占めるアナログ発振器の出力と発振サイクルが、1990年代前半に設計されたB83 Mod-3の信管部バッテリー回路を遠隔制御するために必要な強度とパターンを備え、この基地に20基保管されているB83の最後の1基の最終セーフティを解除したことなど、リックスには知る由も暇もなかった。
次の瞬間。蛍光灯に照らされた200㎡の空間にありとあらゆる波長の光が満ち溢れた。