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青い世界と、きみが  作者: ひろい
それは序曲であり、単なるはじまり
29/61

#28

 ――どうしたら、いいんだ?

 そんなぼくたち四人のこう着状態を見て要が、

「まぁ、いいじゃないか沙紀、刀耶。前にしたことをもう一度やっちゃいけないなんてルールはないわけだし。それに料理だって他にも色々な種類がある。そんなことよりもやりたいことをやるということが重要だとは思わないか?」

 その言葉に、空気がやや和らぐ。それにぼくは乗っかる形で、

「……そ、そうだよ。別にいいじゃん、料理。とりあえず今日の部活は、それでいいじゃない?」

 すると鶫と刀耶は口々に、

「……わたしも別にぃ、文句があるわけじゃないけどぉ」

「……俺も、特に何かをしたいやしたくないということはないが」

 それを訊き遂げ要は、

「決まりだな。じゃあ潔子ちゃんは、なにかやりたい料理があるのかい?」

 まさに先生役だな。

 ぼくがそう感心していると潔子ちゃんは今度は安心したように相好を崩して、

「……私、少しだけ料理できるんですけど、ぜひみなさんと作りたい料理があって……クッキーなんですけど」

『クッキー?』

 そこでぼくと鶫と刀耶の声が重なった。

 甘いもの。デザートなんて、学習で学ぶだけで食べたことももちろん作ったことも無かったから。

 そして要が、

「じゃあ、今日の部活動は初めてのケーキ作りだな」


 こんなに中庭で待ちわびているのは、初めてのことかも知れなった。

 少しづつ暑くなる日差しの中、渡り廊下から手元へとその視線を移した。大丈夫なのか、少しだけ気になった。

「……毎日毎日、よく飽きないですよね」

 話しかけられたのは、初めてのことだった。

「別に…………飽きる、とかでもないさ。こんな世界だから、未由が死んでないか、気になってさ」

「……縁起でもないですね」

 顔を上げる。そこに――うえから上半身を屈めて覗き込む形になっている真っ青なワンピースを、見つけた。

 爽やかで、この暑い気候によく合っていた。

 覗く細く白い肩と二の腕と鎖骨が、艶めかしい。

「――だね。ちょっと今のは未由の毒舌に合わせて、言いすぎたね」

 その考えを微塵も顔には出さず、ぼくは軽口を叩いた。未由にぼくの想いを、バラす訳にはいかない。あの日とつぜん未由がその心を変えた理由には、あまりにぼくが距離をつめすぎてしまった可能性が、高いのだから。

 その証拠として現状のように口調を変えて対等に相手をしていれば、以前ほどとは言わなくても言葉を交わすことが、出来ているのだから。

「失礼ですね、相変わらず。それで、今日も無意味で無為な会話でもしにきたんですか?」

 せせら笑うようにする未由にぼくは、手に持っていたものを差し出す。

 それに未由は、目をひそめる。

「……なんですか、これ?」

 両の手の平で円をつくったくらいの大きさの、上が結ばれた手ぬぐい。中身は――

「今日、部活でさ。みんなで、クッキー作ったんだ。だからせっかくだから、未由にも、お裾分け」

 さすがに緊張した。未由になにかプレゼントをするなんて、今までしたことがなかったから。

 これでもし嫌な顔されたり、断られたりしたらどうしようかと怯えていた。

 未由はしばらくぼくの手にある手ぬぐい手に包まれたクッキーが入った缶を見つめたあと、

「………………どうも、いただきます」

 受け取った。

「! あぁ、うん。だけどまぁ、初めて作ったからあんまり味は保障できないけどね、あははは……」

 舞い上がってしまって、ベラベラと妙な言い訳をまくし立ててしまった。だけど未由は無言で、デフォである無表情。なにを思い考えているのか、正直わからな――

「……部活って、なにしてるんですか?」

 質問。

 この子からぼくに質問が送られるなんて、この上なくレアなことだった。

 考える。

「部活っていうのは、その……みんなで集まって、色々と決めて――」

「なに、してるんですか?」

 未由が言い直す。それにぼくは気づく。未由は部活の意味を訊いてきたんじゃない。部活動の内容を、聞いてきたのだと。

「うん……なに、っていうのは特に決まってないかな。昨日はこのクッキーをみんなで作ってたし、その前は山登りをしたし、その前は休みだったし……色々だね。主に要のやつが決めて……って、要っていうのはぼくの友達なんだけど」

「………………そう、ですか」

 しばらくの沈黙のあと、未由はそんな呟きを返した。その沈黙には色々な意味が込められていそうで、ぼくは――考える。

 ――誘って、欲しいのだろうか?

「……あの、未由?」

「なんですか?」

 いつも通りの返事。それにぼくは、少しうろたえる。

「…………いや、なんでもないよ」

 作り笑顔を浮かべる。それに未由は、

「……じゃあ私、忙しいんで」

 見切りをつけるように、去っていった。


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