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青い世界と、きみが  作者: ひろい
それは序曲であり、単なるはじまり
23/61

#22

 帰路に着く。

 誰もいない。青い無機質な世界を、歩く。要にいわれてから、歩くことにも随分慣れた。自宅までの三十分程度なら、苦ではない。空を見上げる。今日も青空。ただ少しだけ、暑い。

 死んだ街。狂っていく友人。

 ぼくはそれを見て考えながら、ひょっとしたら見ずに考えずにいることから目を逸らそうとしているかもしれない可能性に気づき、さらに思考の底へと沈んでいった。


 真剣に、中身を考えた内容なら、あの子も話してくれる。それが最近、わかった。

 いつも真剣に、未由のことを考えていたら。

「真剣にならないと、生き残れないぞ?」

 要はいつも、真剣だった。

 8時25分。施設でいう一限目の時間帯。

 ぼくたちは元科学実験室と呼ばれていた教室に集まっていた。

 メンツはいつもの通り。

「やほー」

 沙紀がくる。

「ぐるるる」

 刀耶を連れてくる。

「集まったな、じゃあ始めるか」

 そして要が取り仕切る。

 ぼくらはこの行為を、部活動と呼んでいた。実際に都市機能がその役割を果たしていた頃にはなかった活動だ。指示されるわけでもなく、自発的に集まり、自分たちで考えたナニカを執り行う。そこに目的や意義はあるかどうかも定かではなく、ともすれば単なる、憧れとさえ――

「透、配分が間違っているぞ?」

「え? あ、あぁ……」

 指摘され、ふと我に返る。

 見れば目の前のビーカーには、規定の約3割増しの分量の液体が注がれていた。慌てて余分な量を、傍のシンクに捨てる。

 途端、ジュッと耳障りな音と、得体のしれない白い気体が舞い上がる。

「わ、うわ……っ!?」

「落ち着け」

 慌てるぼくに静かに声を掛け、要はその上にタオルを掛けた。それで音も気体も、無くなった。ホッと安堵し、人心地をつく。

「わー、なんか凄かったねー今の?」

 肩から顔を出す沙紀にも慣れたものだった。

「あぁ、今のはちょっと、なんていうか……」

「溶かしちまいそうだったよなァ?」

 肩から顔を出す刀耶は、かなりレアだった。

「ひっ……お、お前、いきなり顔出すなよ!?」

「なんでだ?」

「な、なんでだって……び、びっくりするだろうが!」

「なんでだ?」

 徐々に、だが感覚的に、刀耶とのコミュニケーションは難しくなっているように感じられた。確かに以前から、刀耶は独特な感性は有していた。だけど今の刀耶は、もはや別の世界の、別の言語を操る別の生命体のようにすら感じられるほどだった。

 そこに理屈で断じられるような根拠があるわけではない。

 ただ、なんとなくそう思った。そんな風に感じることなんて、以前はなかったことだ。

 それだけでも、充分に 嬉しいと感じられた。

「なぜこんなこと、しなくちゃならないんだ?」

 衝撃。

『――――』

 その一言に、ぼくだけでなく沙紀も驚き、言葉を失っていたようだ。いや断言は出来ないか。沙紀はいつだってマイペースで、気まぐれに言葉を紡ぎ、気まぐれに黙りこくるのだから。

 そして要は問いかけの主である――刀耶と向き合った。

「なぜ、か?」

「…………」

 問いかけに対する問いかけに、刀耶もまた答えることはなかった。

 ぼくはただ心臓をバクバクと鳴らしながら、ふたりのやり取りの行く末を見守っていた。

 その答えに、満足いくものが存在することを期待していた。

「それは自分で考えるんだな」

 要は、やはりいつも通りの要だった。

「…………」

 刀耶もまた、いつも通りの刀耶だった。それ以上、追求することはない。だがその行動を否定するものでもないようだった。無言で俯き、自らの持ち場に戻り、作業を再開していた。

 ぼくもそれを見届け、自分の作業に戻った。落胆がなかったかといえば、ウソになるだろう。けれど逆に言えば期待もそれほど抱いていたわけではない。

 いつだって意義や意味は、未知数なものだ。

 わからないのが、自然であり――それを変えようとする要だけ、異質なのだから。

 ならばそれに従っているぼくは、一体なんなのだろうか?

「よく出来たな、沙紀」

「えへへー、褒められちゃったよー」

 楽しそうにしている沙紀もまた、その時のぼくには別の生命体のように映った。


 そして昼休み。

 今日は未由は、来なかった。

 胃に重い想いを抱えて、帰路につく。未由に会えるのは、完全にランダムな確率と化していた。まったく予想がつかない。会えない時は本当に長い間会えない場合もあるし、会える時は拍子抜けするほどあっさり会える。

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