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青い世界と、きみが  作者: ひろい
それは序曲であり、単なるはじまり
20/61

#19

「楽しさは、人が人たる由縁の一つだ。感情、という言い方をしてもいい。動物には、そういうものはない。本能の赴くまま生きるだけだ。人間だけが考えて行動し、そしてその結果に一喜一憂することが出来る」

 感情。

 ちょうど考えていたそれに、ぼくの心が振れる。

 それをすることが、ロボットになることを回避し――人間でいるための術なのだろうか?

「そのためには、繰り返しを排除することだ。同じことの繰り返しは、人の精神を鈍化させる。お前たちは、既に随分のんびりとしてしまっているからな」

「……俺が、か?」

 その言葉に、刀耶が反応する。それもわからなくもない話だった。刀耶はなにかしらの衝動に苛まれ、常に猛ってきた。ぼくみたいにただ女の子のお尻を追っかけてきたやつなんかと一緒にされるのは、心外だろう。

 そんな刀耶にも要はぼくに向けたのと同じ笑みを向けて、

「まぁそういきり立つな。そういう元気は、これからすることに使うんだな」

「今日はなにするのー?」

 その言葉に反応した沙紀に、

「サバイバルゲームというものを、知ってるか?」


 支給されたものは、防弾ベストに暗視ゴーグルに、エアガンだった。

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……」

 息を切らす。

 ベヒモスの塔が崩れてからは全ての移動手段が徒歩になったため慣れて足腰も強くなったし心臓も太くなってあんまりこんなに息を切らすこともなくなってたので、またある意味新鮮だった。

 というか、純粋にきつかった。

 パンッ、パンッ、という弾けるような音。

「っ!?」

 それに身が、竦み上がる。こんな経験も、まるで初めてのことだった。誰かがこちらを、狙うなんて。

 誰かと、争うだなんて。

「っ……だ、誰だよ?」

「さきだよー!」

 キャハハハ、なんてめっちゃ楽しげな笑い声をあげながら、愉しげに手にあるマシンガンを乱射掃射してくる。まさに弾幕。これじゃあ柱の陰から、出るに出れない。

 ジリ貧、という言葉を思い出した。使ったことはなかったけど。

「……くそっ」

 こんな悪態も、つくのは初めてのことだった。このままここでじっとしていても、埒が明かない。ぼくは意を決し――思い切って、廊下の中央に躍り出た。

 すぐ脇を、弾丸が火花を散らす。

「! うっわ」

 喚き、銃を構えることも忘れて避けようと右手に走り――

 バチバチバチッ、

「で! いてててててっ!」

 まったく躊躇も容赦も無く正確な集中砲火が全身に殺到した。防弾ベストを着込んでる胸と腹の部分はともかく、太ももやら二の腕なんかに跳ねるような痛みが走る。痛い。思わず声が漏れた。

「キャハハハハハっ」

 そんな様子を指差して笑われると、さすがに少しムカっときた。

「……そんなに笑うなよ、鶫」

「だってー、キャハハハハハ」

 性格変わりすぎろ。病気の母親を看る少し変わったおとなしい少女の子っていう話はどこいったんだよ。

「ったく……こんなこと、なんの意味が――」

「それは質問か?」

 気づけばその男は、真後ろに立っていた。一瞬、ゾクッと背筋を悪寒が走り抜けた。それはその男に対する危機感か、もしくは呑気な自分に対する恐怖感か。

「質問……じゃ、」

「じゃあ非難か、それとも単なる愚痴なのか?」

 要の言い方に、容赦は一切見受けられない。厳しいと感じられなくも無い。だが今までこうして接してきて、それは要の在り方なのだろうと感じるようになってきた。

 当たり前に当たり前のことだから、当たり前にそれを言う。相手に伝える。

 それはぼくの今までの在り方と、あまりに真逆に位置する在り方だった。

「ただ……呟いた、だけ? か……思ってることを、その……」

「そうだ。考えろ。他の人にいわれて、はいそうですと言っていればいい時間は終わりを告げた。これからは不恰好でも良いから、自分で考え、自分で決めるんだ」

「あぁ……そう、だな……」

 言っていることはわかるが、ここまで兄のようなというか、上からというか、そういう口調で言われると少し思うところがあった。だから目を、合わせられなかった。ただ曖昧に、言葉を合わせるだけだった。

 そんなぼくに文句をいうこともなく、要は鶫の方を向いた。

「沙紀は初めてのサバイバルゲームは、どうだった?」

「すごい楽しかったよ! うん、ヒトをバチバチって撃つって、たっのしいよねー!」

「そうか」

「うんっ」

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