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青い世界と、きみが  作者: ひろい
それは序曲であり、単なるはじまり
15/61

#14

 思いがけない言葉に、顔を上げる。

 鶫が無表情に感情の灯らない瞳で、こちら――手にある銃を、見ていた。それらに、心臓がどきりとする。

「あ、うん。そう、鉄砲……」

「ひとを、殺すものだよねぇ?」

 さらに心臓が、どきりとした。

「あ……う、うん。そういう使い方も……」

「なんでこんな所にあるのかなぁ?」

 言って、鶫はぼくの手からてっぽうを引ったくり、そのまま向こうに駆けていってしまった。ぼくはそれをただ見送った。

「人を、殺す……」

 その通りだった。銃にある使い道なんて、事実それしかないだろう。だけど、それを口にされると体が竦んで動けなくなった。なによりそんな言葉をあの鶫が紡いだという事実が、ぼくの行動の自由を奪っていた。

「……要」

 様々な葛藤の末、ぼくは結局ここに来たきっかけを作った相手を探すというところに落ち着いていた。視線を巡らせる。そんなに広い範囲なわけじゃない。対象は、すぐに見つかった。

 要は約10メートルくらい離れた場所で、遥か天空にそびえる高架橋を仰ぎ見ていた。

「?」

 とりあえず、駆け寄る。何をしているかはわからない。ぼくみたいに、物珍しく呆けているのとは違うように感じられた。どこか観察というか、チェックをしているというか。身じろきせず、じっと見つめているというか。

 かと思えば、今度はその視線を下へと下げた。ちょうど要自身の、足元へと。両膝も背筋も伸ばしたまま、首だけを九十度曲げて。

 なにを、見ているのか?

「要……お前、いったい何を?」

「わかった」

 ぼくが傍まで行き尋ねたとたん、要が呟いた。それは独り言のようにも、ぼくに語りかけているように取れた。

 だから、訊いた。

「……なにがだ?」

 要は自然な様子で振り返り、口の端を吊り上げた。

「何が起こったかを、だ」

 それ以上の説明はなく、要は無造作にガチャガチャと残骸を踏み潰しながら進んでいく。それにぼくも慌ててついていき、

「わかったって……それじゃあここで、なにが起こったっていうんだ?」

 息せき切って尋ねるぼくを振り返ることもなく要は、

「今はここで、言うべき時じゃないな。それより、沙紀」

 前に呼びかける声に応えるように、進む先にいた鶫が振り返った。

「なぁに?」

「沙紀はこの場所を、どう思った?」

「すごく、汚い。ちゃんと掃除しなきゃいけないと思ったよ? 健くんと江梨ちゃんの、悪い癖だなぁって」

 ――健くん?

「鶫? 健って、いったい――」

「そうか。じゃあ次は、刀耶のところに行くぞ」

 ぼくの質問を遮ることももちろん気になったが、それよりも紡がれた単語に興味がいった。

 そしてぼくたちはみたび、歩き始めた。ぼくは疲労が蓄積しついには無様に俯き喘ぎ会話も出来ないような状態になった。まったくもって情けないと思う。

 要は進む。この碁盤の目のようなどこを歩いても同じような無機質な街を一度も迷うことなく、キビキビと。それにぼくは感動を覚えた。ぼくがロボットになりたくないと嘆きながらロボットになるための日々を送っている間に、これほど自律的に生産的な日々を過ごしていた人間もいたのだ。そして鶫もまた、相も変わらずのスキップだった。

 刀耶がどこに住んでいるのか、ぼくは知らない。というか実際には、話したことなんて数えるほどしかない。刀耶はあまりに異質だった。ぼくはロボットにも興味はないが、異質すぎる存在の前では萎縮してしまう。弱い存在なんだ。

 時計を見る。午後6時23分。そろそろ圭子さんが晩御飯を作り終え、心配を始める時間帯に差し掛かっていた。ここでぼくは一つの選択肢を迫られることになった。

 帰るべきか、付いていくべきか。

 考える必要があると、要は言った。その言葉に従いぼくは考え、結局今のまま要に付いていくことにした。圭子さんには謝れば、心配させるかもしれないし怒られるかもしれないけど済む問題だ。だけど現在は、何か変えなければ終わってしまう状況だった。

 そして七時前。

 ぼくたちは刀耶の家に到着した。

 その外観は、他のそれとさして変わるものではなかった。だけどそれは、どこか閑散とした印象をぼくに与えた。掃除をかけられた形跡のない、窓とドア。どちらも赤く錆び、埃にまみれてしまっている。上方には蜘蛛の巣まで張っている。そしてまったく感じられない、人の気配。どこか廃墟じみていると言ってもいいかもしれない

「入るぞ」

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