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第7話 森の冒険 二日目 

 とある森を西側に抜けた先にその湖はあった。


 「でっか~~~~~~っい!!」


 湖を見た瞬間にロニは湖に向かって全速力で走り寄っていった。

 そのはしゃいだ姿は海を初めてみた人間時代の弟とそっくりだった。

 

 俺は走るロニを見送りながら周りを警戒する。

 森を出ると、辺り一面水平線まで見える様な草原だった。

 その草原の緑の中に真っ青な湖が存在を主張していた。

 この湖の近くに一本木でも生えていれば中々絵になるのにな、と思ったのだが残念ながら木は生えていない。この世界はどこまでも緑と青で出来ていた。


 森の外に出ると急激に索敵範囲が広がったことが分かる。

 森の中の雑音が消えて、草原に吹き付ける風の音が鮮明に聞こえる。

 

 大丈夫そうだ。


 森の外の匂いは分からないが、音は湖にいる水鳥とロニくらいしか音源は無い。

 この広大な湖と草原は俺達の貸し切り状態だった。


 「ペコも行っていいぞ」

 「うっ」

 「ほら。素直なお前の方が俺はいいと思うぞ」

 「うん」


 ペコは俺の方を向いて満面の笑みで返事をした後、ロニを追いかけて湖に向かった。

 

 「チロ。あんたはそんなに驚いていないみたいね」

 「いや。驚いてるよ。湖なんて見るのは初めてだしね」

 「その湖って言う単語はどこで知ったんだい?」

 「……。内緒です」

 「ふーん。そうかい」


 俺は内心汗をかきながら飄々とした態度を装って誤魔化す。

 それでも追及する母さんの目線が辛かったので話題を反らす。


 「母さんはここに来たことがあるの?」

 「一度だけね……」

 「父さんと?」

 「そうね」


 そう話す母は何かを思い出しているような少し悲しそうな顔だった。


 「俺達もいこう」

 「そうね。あの子たち溺れたら大変だしね」


 そう言って俺達もゆっくりと湖の畔に移動した。


 「兄ちゃん兄ちゃんすっごい!! これ全部水だよ!!」

 「ああ、そうだな。溺れないようにしろよ」

 「はーい」


 ロニは当たり前の事を口にして水の中に脚を入れてチャポチャポと水面を揺らして遊んでいる。

 俺も初めて海を見た時はこんな感じだったのかなーと思い出して見るも、残念ながら覚えてなかった。

 ちなみに、湖は人間時代には見た覚えがない。教科書で琵琶湖だとか存在は知ってるんだがな。


 ペコはというと、水面と睨めっこしていた。

 右前足を前に出しては、水面を揺らして引っ込めるというのを繰り返していた。


 あいつ……水が怖いのか? いや、川で水浴びしてるはずだしな。

 湖の水は少し揺らめいてはいるが、川のように流れてないからか。

 初めて見るものに恐怖を感じるのも無理はないか。

 ロニが少し異常なだけだな。


 

 俺は湖に入り右前脚で思いっきり水面叩いてペコに水をぶっかけた。


 「きゃっ」


 ペコは驚いた仕草をした後、体をぶるっと震わせて水を吹き飛ばした。

 そして、上目遣いで俺を睨んでいる。


 「ほら、ペコ早く来いよ」

 「むぅ」

 「大丈夫だって、脚つくから」

 「だって……吸い込まれる……」

 

 ペコは恥ずかしそうに小さい声でそう言った。


 「大丈夫だって、危なくなったら助けてやるから」

 「本当? 大丈夫? 助けてくれる?」

 「ああ、兄ちゃんに任せとけ」


 それを聞いたペコはおっかなびっくり右前足を水面につけて、そのまま体重をのせる。

 そしてその反対側の前足も同じように水の中に浸けた。


 「大丈夫だろ?」

 「うん!!」


 ペコは怯えた表情を笑顔に変え後ろ足も水に入れることに成功していた。


 ふむ。これで大丈夫かな。

 

 そういえば、狼って犬かきできるのかな?試してみようか……。

 

 そんなことを考えていた時、俺のセンサーがこっちに向かってくる足音を捉えた。


 俺はすぐに陸に上がり、耳を澄ます。


 ペタペタ……ペタペタ……


 人間ではなさそうだな。

 なんだろう。足音の数的には二足歩行の筈なんだが、地を踏む音は靴の音ではない。


 そう、俺達みたいな獣が移動する音に似ている。


 俺は目を凝らして足音の先を確認する。


 かなり遠くで黄色い何かが近づいて来るのが見えた。


 俺はロニとペコにすぐに水から上がるように指示する。

 

 人間以外の生物が敵じゃないとは限らんからな。しかもここは俺達の縄張りじゃない。

 敵が分からない以上警戒は怠らないようにしよう。

 俺の頭はとりあえず戦闘のシミュレーションを開始する。


 

 黄色い何かがどんどん近づいて来る。

 すると、その上に表示があることに気づいた。


 少なくとも野生動物って訳でもないか。

 そして、人間でもない。


 俺にだけ見えるこの表示は人間の頭の上には表示されないのだ。


 文字が読み取れるくらいの距離に近づいてきた。

 

 その黄色い何かは獣人だった。

 表示はグレッドチースガードLV12だ。

 豹のような顔で体も斑点模様で手足は長い。

 胸にはくすんだ色の金属製のガードと腰には藁っぽい腰巻のような物を巻いている。

 そして右手に持った槍を肩に乗せてこちらへ二足歩行で歩いてくる。


 敵か……? 先制するか? 


 そんな事を考えていると、ロニとペコが俺のすぐ横に来た。

 さっきまでの無邪気な表情はなく、すでに臨戦態勢だった。

 俺の指示待ちか。


 さて、どうするかな。敵なら先制攻撃で仕掛ければ俺達三人の連携があればやれるだろう。

 この獣人はLV12だしな。さらにこいつらは狼との戦闘には慣れてないだろう。

 それに比べて俺達は人型に対しての経験値だけは高いからな。


 でも、こういう奴を攻撃するとリスクを背負うことになる。 

 あの獣人は恐らく見張り担当のものだろう。ネトゲではよくあるやつだ。

 見回りを攻撃した途端に仲間が出現して多人数を相手にしなければならないパターンだ。

 この世界ではあり得そうだ。アレを攻撃した瞬間に、魔法陣が浮かんでそこから増援が出現するとか……。


 嫌だな。後手に回っても様子を見るべきか……。


 そこまで考えていたら、結構時間が経ってしまっていた。

 

 そして、グレッドチースとやらと目が合った。

 

 来るか!!

 

 身構えた所でグレッドチースは、なんだ狼かと言わんばかりに目を反らした。


 あれ?


 拍子抜けの展開になってしまった。

 まあ、無駄な戦闘は起こしたくないし結果オーライだ。


 そのグレッドチースはどんどん俺達の方へ近づいてきた。

 戦意はまったく感じられないし、問題ないだろう。


 そして俺たちのすぐ近くにまで来たところで声をかけてきた。


 「お前ら見ねぇ顔だな。そこの森のもんか?」

 「そうです。そこの森で生活しています。チロと言います」


 俺は出来る限り丁寧に応対してやった。


 「ひえー。こりゃあ驚いた。お前狼のくせに名前持ってんのか~」

 「はい。こっちがロニでこっちがペコです。あっちにいるのはシルバといって私の母です」

 「おーそれはご丁寧にどうもな。俺はクライドってんだ。ヨロシクな」


 何をヨロシクなのか分からんが、つかみはいい感じだな。


 「クライドさんは、どこかの帰りですか?」

 「んあ? ああ、今日は見回り当番なんでな。ちょっとそこまで行ってたんだわ」

 

 予想通りだったな。

 狼以外と話すのは初めてなので少し楽しい。

 人間と話をしているみたいだ。

 って俺の言葉ってこれモンスター共通なのか? なかなか便利な世界のようだ。


 「それは、御苦労様です。じゃあこれから帰るんですか?」

 「おう。今日は母ちゃんが美味しい肉用意してくれてっから早く帰らねーといけねーんだわ」

 「この先の砦みたいなところに住んでいるんですか?」

 「おー。よく知ってんな。そうそう、俺達グレッドチース族はそこのキンドル砦に住んでんだわ」


 地図にあった砦みたいなのはこいつらの巣か。

 キンドル砦っていう名前なのか。


 「ちなみに、この森ってなんて名前か分かりますか?」

 「ああ? リスカ大森林の事か? 住んでる場所の名前も知らねーのかお前ぇら」

 「そうなんですよ。僕たち田舎者なんでね知能なんてそんなもんですよ」


 リスカ大森林っていうのか。確かに大きいもんな。

 うむ。情報収集も楽しいな。

 今度時間があったら、グレッドチース一族のところに遊びに行って色々教えてもらおう。

 名前さえ分かれば、地図の言葉を解析して文字が分かるかもしれないしな。

 

 「いけねぇいけねぇ。早く帰らないといけねーんだわ。わりぃなチロ」

 「いえいえ。こちらこそお忙しいのに呼び止めて申し訳ございませんでした」

 「おう。お前みてぇな礼儀正しい狼は初めてだわ。よかったら今度遊びにこいや」


 ラッキー。今度時間があれば本当に遊びにいってやろう。

 

 「はい。是非よろしくお願いします。では、お気をつけて」

 「おう。お前らもきぃつけて帰れよー」


 そう言って、クライドは駆け足で去っていった。

 クライドの向かった方向を見ても砦らしき影は見えなかった。

 いったいどれだけ走るのやら……。

 

 

 

 俺達はクライドと別れた後、森の中へ戻り、東側に向かって森を進んだ。

 その途中で見つけた洞窟で夜を明かした。



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