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第6話 森の冒険 一日目

 青い広葉樹林の間を俺達家族四匹はゆっくりと北上している。


 「初めてだね。家族でこうやってゆっくり歩くのって」

 「そうだな。最近は人間狩ばっかりだったしな」

 「そうね。あんた達もいつの間にかこんなに大きくなっちゃって母さん逆に心配よ」


 ロニの言葉に俺と母さんが返した。

 ペコはそんな俺達を見てニコニコと機嫌が良さそうだ。

 ペコは昨日もふもふしてから凄く上機嫌だ。あの修羅のごとき狂狼が嘘の様だった。


 

 俺達は現在この名前も分からない森をコンパスを頼りに散策している。

 今は北の山を目指しているところだ。

 

 あれから冒険しようと俺が提案したら、ロニもペコも地図を眺めて森の外へ興味津々だった。

 考えてみれば、ペコもロニも産まれてからこの森を出たことがなかったなと改めて思った。

 俺は人間だった頃の記憶もあるので別に今更という感じではあるのだが、やはり冒険と聞けば心が躍る。

 この二匹の参加はほぼ決定だったのだが、驚いたことに母さんも参加することになった。


 今まで母さんも人間狩に誘ったのだが、人間とは関わりたくないと言って動物を一人で狩っていたのだ。

 だが、今回はピクニックみたいな感じで人間を狩る予定も無いと話すと一緒について行くと言ってくれた。

 母さんに成長した俺達の姿と狩を見せて安心させてあげたいと思っていたので俺にとっても好都合だった。

 まあ、今回は動物狩りだがな。


 こういう経緯で冒険というか森散策はとんとん拍子に決定し、結局太陽が天頂を越える前に出発の流れになった。

 といっても準備するものなど殆ど無いので、そのまま四匹で巣を出てきただけなんだがな。


 一応ロニの胴体に狩った人間がしていたアイテムポーチを巻き付けている。

 その中に地図とコンパスを入れていた。持ち物はそれだけだ。


 最近気づいた事なんだが、どうやら俺は割と器用に手――前足を扱える。

 人間だった時の動きをトレースしたように動かすことができた。

 

 指は動かないので、人間でいえば両手をグーにしてその先に爪を五本つけた感じを想像してもらえるとわかりやすいかな。

 それだけ動けばアイテムポーチをロニの体に巻き付けるくらい朝飯前だった。


 


 「でも、本当にびっくりしたわ。あんた達成長するの早すぎるもの」

 「ふふーん。そうでしょ~。僕も毎日人間を狩って頑張ってるからね~」


 驚く母さんにロニが胸を張って答えていた。

 ロニは甘えん坊だ。お母さん子だなと思ったが、そもそも父さんいなかったな……。


 俺達の父さんはどうやら人間に殺されたらしかった。

 その話を母さんから聞いた時に、母さんの人間嫌いの原因が分かった気がした。


 ちなみに、ロニとペコは父さんという存在自体を知らない。

 『父さん』って何? って聞くに違いない。

 まあ、無駄な悲しみを背負う必要はないのでその存在を知るまでは黙っていようと思う。


 「あんたは、チロ兄にくっついてるだけでしょうが」

 「そ、そんなことないもん。お姉ちゃんに比べれば確かに強くないけど……でも、でも頑張ってるもん!!」

 「こらこら、喧嘩はやめなさい。ペコも男の子の見栄を潰しちゃダメよ」

 「見栄じゃないもん!! 本当の事だもん!!」


 ロニは母さんの前で恰好をつけたいらしい。妙に張り切っている。

 いつもはペコに窘められて終わってしまうところを珍しく口答えしていた。


 ロニに花を持たせてあげたいな。ふとそう思った。


 「ロニ」

 「兄ちゃんなーにー?」

 「もうすぐ昼飯だから狩ってきてくれ。

  向こうに鹿がいるはずだ」

 「うん!! 任せて!!」


 ロニはそう言うと鹿のいる方角へ走っていった。

 

 そっちにいる鹿は俺達よりも大きいサイズだろう。他の鹿よりも一歩一歩の間隔が長い。そんな鹿を狩ってきたら母さんも少しは驚いてくれるかも知れないと、けしかけてやった。


 母さんは割とセーフティーな狩をするからな……俺も人の事を言えたことではないか。

 母さんが狩って来る獲物は大体俺達と同じサイズか少し小さいくらいだ。

 もともと挑戦よりも安定志向なのだろう。それとも俺達がお腹を空かせないようにかな。

 まあ、食卓に並ぶより大きいサイズになることは間違いないだろう。

 頑張れ、弟よ。


 

 すると母さんがこっちを見て目を細めてにこやかな表情を作っていた。

 

 「チロもなかなか粋なことするようになったじゃないの」

 「まあね。お兄ちゃんですから」

 「チロは昔から変わらないわね。あんたは産まれた時からそんなだった気がするわ」

 「そんなことないよ。しっかり兄弟を纏めないといけない立場だからね。そうならざるを得なかったんだよ」

 「その割に寝るときに誰かに抱き着いてないといけないみたいだけど?」

 「それは、その……なぁ?」

 「わ、わ、わた、私に、振らないで……あの……その……」


 俺が不利な話題に持ち込まれそうになったので、ペコに話を振って逃げた。

 ペコは急に焦りまくっていた。


 「なあに? どうたしたのペコ?」


 母さんは意地悪そうな顔でペコを追撃している。

 悪いなペコ、よくわからんが後は頼んだ。




 俺は耳を澄ましてロニが狩にいった方へ集中した。


 かなり遠くで引きずる音が聞こえる。

 アイツ、一回逃げられたな……。

 折角お膳立てしてやったのにまったく。


 「ロニが獲物重そうにしてるから手伝ってくる」

 「あっ、チロ兄まって……」

 「で、どうしたの? ペコ」


 母さんの攻撃先が完全にペコに移ったようだ。すまんな妹。


 ペコはかなり恥ずかしそうにしながら、母と話をしていた。何の話なんだか……。


 

 俺はとりあえず母さんから逃げれたことに安堵しつつ、ロニの元に急いだ。


 走る。走る。


 おい、どんだけ逃げられてんだよアイツ。


 あ、いた。


 ロニは険しい顔で体の二倍くらいある鹿を引きずっていた。


 ロニは俺を見ると直ぐに笑顔を取り戻した。


 「兄ちゃんやったよ!! 狩れた!!」

 「お……おう」


 俺としてはもっとスマートに狩ってきてくれる予定だったのだが、まあいいだろう。


 「よし、運ぶぞ」

 「うん!!」


 俺達は五分くらいかけて母さん達のところに獲物を運んだのだった。


 

 

 ちなみに食事中、ペコは俺と一言も喋ってくれなかった。そして、母さんは上機嫌で俺達の事をみてニコニコしていた。いったい何があったのやら……。


 ペコの不機嫌の直し方はいたってシンプルだ。寝るときにもふもふしながら寝れば直る。

 

 最近のペコはなんか大人のクールレディーを目指していたように思うので避けていたのだが、久しぶりにモフモフすると毛並みが良くてなかなか心地よかった。今晩もペコを捕まえてもふもふしながら眠れば一石二鳥だなと思いながらお昼ご飯を食べたのだった。



 その後も他愛もない話をしながら、北へ進んだ。


 どうやらこの世界の地図に縮尺という概念はないらしい。

 どれだけ北に進んでも山にぶつからない。ゆっくりと登り傾斜になるかなと思ってもみたがそれもない。

 地図を見る限りは東側にある村よりも北の山の方が近くにあるが、そんなことはないようだ。

 今までに進んだ距離を東側に向かっていれば今頃は村についているか、ついていなくても森は抜けているだろう。

 まぁいっか。

 別に急いでいる訳ではないからな。ゆっくりこの遠足を楽しもう。

 そう思いながらも方角を間違わないように定期的にコンパスを確認しながら北へ向かった。





 結局北の山にぶつかったのは夕方になってからだった。

 目の前にはかなり高い崖がそびえ立っていた。

 とても俺達が登れるような崖ではなかった。 

 そしてこの崖はかなり遠くまで続いているようだ。西を向いても東を向いてもこの崖が延々と続いていて、ここの地点で地面がズレたみたいだった。


 「あそこに丁度いい穴があるわね」

 「あ~いい感じだね」


 母さんがその崖の下に丁度いい洞穴を見つけた、もう日も落ちそうなので今日はここで一晩を明かそう。


 となると飯だな。


 「よし、じゃあ晩御飯は久しぶりに家族四人で狩にいこうか」

 「いいわね。あんた達の成長を見せてもらおうかしら」

 「やったー!! 僕がんばる!!」

 「私も見せてあげるわ」


 ロニとペコもやる気満々だった。


 ペコもなんだかんだ言って母さん大好きだもんな。今回はペコに頑張ってもらうか。

 そう思ったのだが、俺がどうこうするまでもなかった。


 

 俺達は少し大きめの熊を捕捉した。

 俺は正直熊は避けたかったが、近くには他にいなかったので諦めるしかない。


 熊は人間よりも強い。正確には俺たちの森に入って来る人間よりかはだな。

 警戒心も強いし、奇襲も効かない。熊の嗅覚もかなり鋭いのだ。

 さらに、一撃食らえばかなりのダメージを負う。かなりリスクがある獲物ではある。

 

 人間だった時にネットニュースで狼vs熊を見かけたことがあったが、熊の圧勝だそうだ。

 だが、この世界では違う。

 この世界ではLVが強さの指標である。

 LV表記すら無い野生動物とは残念ながら立っている土俵が違う。

 

 ゆっくり気配を殺して近づいていたら、ペコが一歩でトップスピードにのり、獲物めがけて突っ込んだ。

  

 「今回は私がもらうわね!!」


 そう言い残し誰も追いつけないスピードでペコは遠ざかっていった。


 俺達が追いついた時にはペコが熊の左手を食いちぎったところだった。


 いやいやいや……。人間の腕じゃないんだからと突っ込みを入れたいところだが、ペコは確かにそれを咥えていた。


 そしてそれを吐き出すと追撃を入れに走る。


 熊はどうにか逃げようと俺達とは反対方向に進もうとするが、片手が無い状況では逃げるのも難しい。


 そのままペコに追いつかれ首を人間同様に吹き飛ばされた。


 まぁ、なんて野蛮な妹なんでしょう。

 本当にペコが敵じゃなくて良かったと心の底から思った瞬間だった。


 

 母さんは成長したペコの姿を見て唖然としていた。


 そりゃそうだろう。自分よりも大きな熊を一人で襲い殺したのだ。

 俺でも驚くわ。


 当のペコは二ヘラと笑いどうだと胸を張っていた。

 ああ凄いよ。お前は強い。


 お前が本当にウルフリーダーなのか疑わしいよ!! 





 そのあとペコが一人で狩った熊をみんなで食べたのだった。



 


 そして、寝る時のことである。


 母さんがロニをもふもふし出した。


 「あ~なるほどね。これは気持ちいいわ。

  ロニは貰っていくわね~」


 そう言って、ロニを確保して早々に洞穴の奥で眠りについた。


 そして、取り残されたペコと俺。


 まあ、元々今晩はペコをもふもふする予定だったんだが、お膳立てされると妙に気恥ずかしい。


 ペコもどうやら同じようで硬直していた。


 「ペコ」

 「う……うん」


 俺がペコを右前脚でおいでおいでとすると、ペコはおずおずといった感じで俺の前にやってきた。

 そして、伏せの体制をとって目を伏せた。


 なんかすごく艶めかしかった。


 いやいや。これ妹だから。

 妹に欲情とかないから!!


 そういえば、狼の近親交配ってどうなんだろうか……いやいや、ないから!!


 俺はそんな頭に浮かんだ不埒な考えを吹き飛ばしてペコをもふもふした。


 相変わらずペコの毛並みは整っていて気持ちよかった。

 ペコはくすぐったそうにしながら、でも抵抗することなく受け入れてくれた。

 

 ペコの毛の下は凄く暑くて湯たんぽみたいだった。

 メスの狼はオスと比べて体温が高いのかな?

 まあいいや。


 とりあえず気持ちいいしこのまま寝よう。


 こうして俺達は森の冒険一日目を終えたのだった。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ 



 同時刻、リスカ大森林のすぐ近くにあるウィール村の掲示板に一つの紙が張り出された。


 その紙は赤色で緊急のハンコが押してある。

 

 その紙にはこう書かかれていた。



 『


    緊急クエスト   リスカ大森林の凶悪魔物を討伐せよ


       標的    凶悪魔物三匹

 

       褒賞    十万グレル

                

       詳細    ギルド受付にて配布

                                   』





 

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