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第1話 ウルフLV8

 ある森の山中、木々の中を吹き抜ける風と共に俺達三匹は走っている。


 「ペコ、お前は左から回れ」

 「わかった任せて」


 ペコは俺の指示を素直に聞き、俺達から離れて森の茂みの中へ消えていった。


 「ロニ、お前は俺の後ろについてこい。俺が先に仕掛ける」

 「わかったよ、兄ちゃん」


 そしてもう一匹のロニは俺のやや後ろに下がり俺を追従している。


 

 俺達は今、人間狩りに向かっている。

 この辺りにまで出張ってくる人間は冒険者しかいないが、腕の立つ者なんて見たことがない。この森の近くの村は冒険初心者御用達の村で、そこのクエストかなんかで狼の皮でも持ってこいってのがあるのではないかと予想を立てている。


 まぁ何でもいい、ここで一人仕留めれば今晩のディナーには十分だろう。冒険初心者だろうがなんだろうが今の俺には関係ない。弱い者が死に強い者が生き残る。ここはそういう世界なんだ。


 

 俺は人間の臭いがする方角へ目線を飛ばしながら、四つの脚で地面を蹴る。

 少し湿った土の感触を感じながら、一番早く辿り着くルートを駆け抜ける。


 見つけた!!


 俺は距離を縮めながら人間の装備を確認する。


 服装はいかにも初心者という感じの木綿のような服にレザーで出来た胸当て、そして腰にはアイテムポーチと左側に剣帯と木剣がぶら下がっている。

 しかも、警戒している様子はさらさら無い。目の前の茂みを右手を使って掻き分けている。

 ぬるい。ぬるすぎる。


 俺達の領域に足を踏み込んでくる人間はみんなこの程度だ。

 

 だが、容赦はしない。


 確実に仕留める。


 俺は人間の右斜め後方の茂みに移動した。


 相変わらず人間は茂みをかき分けて森の奥地を目指している。


 俺はそれを確認すると、一気に茂みから出て人間に詰め寄る。


 そして、右後ろから人間の右腕めがけて噛み付いた。


 グシャリ


 そんな音と共に牙四本に肉を貫く感触と舌には血の味がする。

 俺は奇襲成功を確信して、体を振り子のように振ってさらにダメージを増やす。


 そして、その直後第二弾のロニが左足の太ももに牙を突き立てた。

 

 「……――――――………」


 人間が何かを喚いているが、今の俺には人間の言葉は理解できない。

 それに、理解できたとしても手心を加える気など毛頭ない。


 人間はどうにかして抵抗を試みようと剣に無事な左手を伸ばそうとするが、俺が首を強く振ってバランスを崩させる。

 そもそも、木剣程度手にしたところでどうしようというのか、甚だ疑問ではあったがそこを追及するのはやめておこう。こんな間抜けな人間がいるから俺達は楽に生きていけるのだ。素直にこの阿呆に感謝しておこう。


 人間は剣を握り損ねた左手で俺の鼻先を殴りつけようと抵抗する。俺はすかさず人間の右手から牙を抜き距離をとった。


 利き腕を開放する事はリスクを背負うが、こんな新米冒険者に少しでもダメージを貰うなんて馬鹿らしい。

 それに人間の右腕は既に血まみれだ。あれでは剣を握れないだろう。


 俺が距離を取ったのを確認した人間は今度は左手でロニに向けて拳を振り上げた。

 しかし、その腕は振り下ろされる事なく力が抜けたようにダラリとぶら下がった。


 その時、人間の喉笛には既にペコの牙が突き刺さっていた。


 人間は鮮血を森の木々にまき散らしながら仰向けに倒れる。

 俺は念のために首に噛みつき、力を込めて胴体と頭部を分離させる。

 そして、他の仲間がいないか臭いで確認する。


 「……大丈夫みたいだな」

 「さっすが兄ちゃんだね」

 「もう、ロニったら。こんな雑魚を狩って喜ばないの!!」


 ロニもペコも表現の仕方は違うが俺の狩終了の合図を聞いて四肢の力を抜いた。


 では、改めて紹介しよう。

 さっきから兄ちゃんと俺の事を呼んでいる少し小さめの狼が俺の弟のロニである。

 そして、勝気で凛としている狼が妹のペコである。

 ちなみに名前は俺が付けた。

 狼という種族は名前を付けるという文化がなかったもんで、俺の直感で名前をプレゼントしたのだ。


 初めは理解出来ずにキョトンとしていたが、説明をしたら二匹とも俺の周りをクルクル回りながら喜んでくれていたので、俺のネーミングセンスに不満はなかったと思いたい。


 ちなみに母さんにはシルバという名前をプレゼントした。そして母さんに人間時代のしきたりに乗っ取って名前を付けてくれとせがんだらチロという名前になった。もっと格好いい名前にして欲しかったが俺の事を愛して育てくれた母さんがくれた名前なので大事にしようと思う。


 そうこうしている内に人間の解体が終わっていた。


 ロニとペコがそれぞれ人間の腕を肩口から引き千切り、腕周りの肉に美味しそうにかぶりついている。


 基本的に仕留めた獲物は巣に持ち帰るのだが、その際に邪魔になる部位は解体してその場で食べてしまうことにしている。ちなみに頭は頭蓋骨が硬いし、脳みそも美味しくなかったのでその場で放置する。


 正直運搬だけを考えると足も分離したいところなんだが、もも肉は美味しいので持ち帰ってディナーになる予定だ。だから、頭と両腕を分離したものを巣に持ち帰ることになるのである。


 ロニとペコはもう食べ終わったのか骨を地面に埋めている。俺はその光景がなんとなく昔飼っていた犬がやる仕草に似ているなと思って苦笑した。


 「どうしたの兄ちゃん?」 

 「あっ、ごめん全部たべちゃったわ」


 ロニとペコはそれぞれ俺の事を気遣ってくれているようだったので、安心させるように偉そうにした。


 「大丈夫だ。俺は帰ってから母さんと食べる。それより持ち帰るぞ」

 「わかった!!」

 「了解よ」


 俺の言葉を聞いたロニとペコは肉塊からレザーの胸当てを強引に引き外し、ベルトに咬みついて腰のあたりを浮かした。


 俺はズボンの中に納まっている木綿の服を引っ張りだし、その裾から体をねじ込ませる。

 そして、引きちぎられた腕の部分から前足を出し、首も通した。

 この逆二陣羽織みたいな恰好で運搬する。見た目はかなり滑稽だろうがこの方法は効率がよかった。

 背中に当たる生暖かい感触は気持ち悪いが巣まで引っ張って帰ることを考えれば我慢できる。


 「よし、帰るぞ」

 「は~い」

 「先導するわ」


 俺はそう言って、自分の背中を人間の背中に強く押し当てて服がずり落ちて脱げてしまわないように注意しながら地面を強く蹴り帰路を進み始めた。


 ロニは俺の横を並走して周囲の警戒をしてくれている。ペコは少し先を進んで帰り道の偵察だ。

 これが俺達ウルフ三兄弟の帰りのフォーメーションだ。



 

 さて、そろそろ俺が何故こんなことになっているかを説明しようか。


 お察しの通り、俺は元人間だ。

 しかもこの世界の人間ではない。日本で二十一年間生きてきた。

 

 勉強も運動も悪くなかったと思う。そこそこ名の通った大学にも入学できた。

 だが、入学してからネトゲにハマってしまった。

 そのネトゲライフが原因で既に一年留年していたが親には連絡もしていなかった。仕送りを貰ってその金でのうのうと廃人生活を謳歌していたのだ。


 そして九月頃だったと記憶しているんだが、ネトゲのアジト攻略戦前に食料を確保するために近くのコンビニに向かっていた最中。横断歩道を歩いていた俺は信号無視の車がこっちに突っ込んでくるのを見た。

 

 それが俺の見た最後の日本の景色だった。




 目が覚めたら俺は狼になっていた。

 しかも、赤ちゃんの狼だった。そして周りには可愛らしい狼の赤ん坊が五匹もいた。

 元々犬好きでもふもふには目がない俺はこの状況を心行くまで楽しんだ。

 自分がどうして狼になっているのかという疑問を抱かない程に楽しんだのだった。 

 

 そして、少し落ち着いた頃に俺は死んで別世界で狼に生まれ変わったという事で納得することにした。

 色々疑問も浮かんだが、現実として俺は狼でこの世界は日本のある世界とは違う。

 それを受け入れないと何も先に進まなかったので、今はそれで納得している。


 この世界は俺がいた世界ではない。

 

 ウルフLV8


 これが今、隣を並走しているロニの胴体の上に表示されている。

 これは俺にしか見えてないらしい。ロニやペコには見えていないそうだ。

 ちなみにペコはウルフLV9で母さんはウルフリーダーLV13だ。

 そして、俺の上にもウルフLV8と表示されているはずだ。

 今朝、巣の近くの川で水面に移る自分の姿を見て。そう表示されているのを確認した。


 こんなものが胴体の上を追従する世界に日本が存在している訳がない。


 そしてこの文字列には妙に見覚えがあった。

 

 そう、ネトゲに出てくるモンスターの上によくあるものに酷似していた。俺はネトゲの世界に飛ばされたのかと最初は思ったが、微妙に違っているみたいだった。


 まず、HPという概念がない。俺たちは心臓を抉り取られたり、首を撥ね飛ばされたりしたら一撃で死ぬ。人間も同じだ。日本がある世界と一緒のルールで人や動物が死ぬ。そして、俺にはこの世界の温度、湿度、土の感触や肌の温かさ全てがリアルに感じ取れる。こんなリアルなネトゲがある訳がない。


 だが、ネトゲ要素もそこそこに散りばめられていた。


 ここの世界に住む人間の大半はモンスターを狩ることを生き甲斐にしている奴が多い。さらに、剣士風や魔法使い風、盗賊風の人間がわんさかいる。

 

 ここはそんなネトゲとリアルをごちゃ混ぜにしたようなファンタジーな世界だった。


 正直こんな訳の分からない世界は勘弁して欲しいと思ったこともあったが、よくよく考えてみると幸運なこともあった。

 

 まず一つ目が、俺が人間だった頃の記憶を持ったままだという事。これに関しては考えても答えがでなさそうなのでラッキーと思うことにしている。

 次に俺は家族と日本語で会話が出来ている。俺の口から放たれる言葉が本当に日本語なのかは不明だが、俺の脳は日本語として彼らの言葉を解釈し、俺の放つ日本語は家族に意味が通じている。

 ただたまに家族の口から難しい日本語が出てきたり、また俺が知っている単語しか家族が使わないという事もあって、俺の脳が勝手に狼の言葉を日本語に翻訳しているのではないかと仮説を立てている。


 俺はこの世界にきてもうすぐ半年になる。


 目覚めてから三ヵ月は子狼だったので母さんの乳や狩ってきてくれた動物を食べて生活していた。

 そして三ヵ月経ってからは母さんに狩を教えてもらい、自分で餌を取れるようになっていった。

 

 そして一カ月前から俺達は人間狩りを始めた。


 初めての狩は割と簡単に遂行できた。ネトゲで言えば初期村が近くにあったからだ。これが熟練者達が生活拠点を置く街が近くにあったなら俺たちは既に駆逐されていることだろう。


 通常ならば俺達が狩られる側なのだろうが、この群れには俺がいる。人間としての経験を持つズル賢い知性がある俺が指揮を執り、人間よりも運動能力に勝る狼の特性を生かして的確にパーティーを組んでいない冒険者をさっきの狩のように狙い打ちする。


 こうやって俺達はこの森で生活している。


 実はこの森で生活するだけなら、人間を狩らなくても問題はない。

 だが、人間に兄弟三匹を殺されたのだ。

 最初は人間への復讐に燃えていたのだが、やがて少しづつ目的が逸れていった。


 その逸れた原因がこの世界のレベルシステムだった。

 胴体の上に表示される、ウルフLV8の表示のことだ。


 これが俺のネトゲ廃人魂に火を点けた。

 元々ネトゲ廃人になりやすい人はLVを上げるということに極度の快感を覚える人か、対人戦で相手を駆逐することに興奮する人がなりやすい傾向があると俺は分析している。


 そして、俺は前者だった。


 ひたすらに、一人でダンジョンに篭りLVUPする快感とその後のステータスを想像して他の人の先を行くことに優越感を感じる。それだけが人間時代末期の俺の全てだった。


 それに加えこの世界には進化システムがあると考えている。

 母さんはLV13で表示がウルフリーダーとなっているのである。

 体つきも俺達より一回り大きい。

 そのことについて母さんに聞いたらある日突然大きくなったと返答された。

 そこから導き出される答えがこの進化システムである。


 恐らくLV10~12くらいでウルフからウルフリーダーに進化するのではないかと予想を立ている。

 実際に俺達は産まれて三ヵ月でウルフLV3になったのだ。


 それまでは、スモールウルフLV1~2だった。普通に子狼ライフを満喫していたら気がついたらLVが上がってウルフになっていた。

 この世界のLVUPの瞬間はネトゲのように光に包まれたりしない。地味に数値だけが上がるのでいつ上がったのか非常に分かりにくいのだが、まあそこまでこの世界に期待するのは酷だろう。LVシステムと進化システムを導入してくれただけで、俺は今この世界で楽みながら生活が出来ている。一応この世界の神様に感謝しておこう。そんな存在がいるのか知らんがな。


 あと、経験値のシステムについても補足しておこう。

 これは、恐らく対人間が一番稼げる。母さんは動物狩がメインのため経験値の溜まりが遅くまだLV13だが、俺達三兄弟は一カ月でLV8~9に達していることから明確である。

 恐らく人間側にもLVの概念があって、高LVの人間を狩れば経験値が増えるシステムではないのかと考えている。人間のLVは俺には見えないがネトゲのシステムに似ているならばこれで間違いないだろう。

 後は、時間経過で経験値が少しづつ増えているはずだ。そうじゃないと俺達がLV3になった理由に説明がつかない。案外動物狩では経験値は得られず、母さんはこの時間経過でLVUPしてきたのではないかと思っている。


 あとはラストヒットのボーナス経験値もあるはずだ。ペコだけLVの上がりが早く彼女だけLV9なことから少なからず関係はあるのだろう。ペコは女の子ということを考慮して一番安全な止め担当に徹してもらっている。ちなみに切り込み隊長は俺だ。


 今の目標はLV10に早く上げて進化するかどうかを確認することだ。

 それが楽しみになっていて、人間への復讐心が薄れているような気もするが人間は嫌いだ。

 それが、今の俺の本心である。 

 

 

 おっと、ペコが戻ってきた。

 もうそろそろ巣穴にしている洞窟の近くに近づいてきているので偵察の必要がなくなったのだろう。

 

 「周辺に敵はいないわ」

 「そうか、わかった」


 そう言ってペコは俺の後ろに回って地面を削っている人間の足を咥えた。真横を走っていたロニもそんなペコの真似をしてもう一つの足を咥える。


 正直あんまり楽にはならないんだが、彼らの気持ちはありがたく受け取っておくとしよう。


 これからどういう未来が待っているのかは少し不安はあるが、ロニとペコと母さんと楽しく暮らしていければいいなと思っている。


 どこの世界にいたって、どんな未来になるかは誰にもわからないんだ。だから精一杯楽しみながら後悔しないように歩んでいくしかない。

 

 俺はそんなことを考えながら巣穴へ向けて少し速度を上げた。



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