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少年の誓いと彼女の祈り  作者: 歯歯
第三章 『故に彼らは覚悟を決める』
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第二章プロローグ 『足音』

 ノックを一つ、一拍開けてから今度は二つ、さらに二拍を開けて最後にドアを強打――する寸前で、竜愁は右手をぴたりと止めた。

 今の珍妙なノックは、自分の来訪を伝えるための符丁だ。

 新魔族派やら個人的に恨みを買った相手やらに狙われていた勇者パーティーでは毎回使われていたものなのだが……用心に越したことがないにしても、今の地球で使うのはさすがに大げさだろう。


 宴会の翌日だ。

 一ヶ月経ってもなかなか抜けないもんだなぁ……と待つこと数秒、カツリカツリと近づいてきた足音が扉の前で止まる。

 カラリ、軽い勢いで扉が開く。


「言ってくれたら自分で――」


 開けたのに、とは続かない。

 口を反開きにしたまま、竜愁は彫像のように硬直する。

 何せ、扉の向こうにメイドが立っていたのだ。

 無警戒なところに無害な爆弾を投げ込まれた竜愁の思考は完全に停止していた。


「……なんで、メイド服?」


「たまにはこんなのも良いかな、と」


 どうにか言葉を捻りだした竜愁に、メイド服を綺麗に着こなすエリシアは小首を傾げながら無表情に言った。

 ――何それかわいい。

 長い銀髪をホワイトプリムにまとめ、紺地のふんわりとしたメイド服に白のエプロン。

 どこに出しても驚かれるに違いない、立派なメイドさんだ。


「んぁ……似合ってるけど、なんか話しにくいから着替えてくれるか?」


「分かりました」


 竜愁とすれ違うようにして扉をくぐり、軽快な足取りで立ち去る彼女。

 あの分だと、竜愁のささやかな独占欲も伝わってしまったのだろう。

 竜愁の肉体を仮の器としている聖霊エリシアは、その気になれば深層心理をも汲み取れるのだ。


 ちなみに、彼女の着ていたメイド服は、実のところ服ではない。

 固有の器を持たない魂が本能的に行使する器形成の魂術、【授肉】。

 彼女は緻密な魂力操作によって、自らが思うままに肉体をデザインできる。

 その応用で、身にまとう衣服も――神経こそ通っていないが――器の一部として再現していた。


 今出ていったのもトイレあたりで服を切り替えるためだから、きっとすぐに帰ってくるだろう。

 どんな服かと少し楽しみにして、竜愁は敷居を踏み越えた。

 と同時に顔を引き締め、室内の三人に冷たく言う。


「で、誰だ?」


 反応は明瞭に返ってきた。

 (虎太郎)老人(雪草)は目線で、二人から集中放火を浴びた赤い聖霊(フラムティア)はなぜか胸を張って犯人を教えてくれる。

 よくやったと言うべきか、それとも怒るべきか。

 迷った末、竜愁は言った。


「人の嫁を着せかえ人形にするな」


「ねーねーコタ、喜んでたヤツがなんか言ってるー」


「ンだな。

 素直に礼言うのが筋ってもンだろ。

 ガキはこれだからいけねェ」


「竜愁、年寄りとして言いますが、日常では自分に正直になった方が得になりますよ」


 白い長机を取り囲んで座る三人がぺちゃくちゃと好き放題に言い放つ。

 建前を使った罰の悪さも手伝って真っ赤になった竜愁は、溜息を吐くと乱暴にイスへ腰掛けた。

 二年以上もの間をともに戦い抜いた仲だ。

 反論を口にしようものなら、連中は嬉々としてヒートアップするだろう。


「――それで、今日はどうした? 

 なるべく早く終わらして、筋トレに戻りたいんだけど」


 魂力を込めて、竜愁は言った。

 詠唱ではない。

 ちょっとした威圧の技術なのだが、もっぱら、竜愁は脇道に逸れた三人を引き戻すために使っている。

 おかげで、詠唱に乗せる魔力のコントロールが得意になった。


 ――あれ、ちょっと待て。

 竜愁は勇者パーティーで若年層に数えられるべき一八歳だ。

 なのにどうして、自分がコントロール役をしているのか。

 ――深く考えない方が良いやつだな、うん。


 ――もっとも、彼らの言動には弁解の余地がある。

 雪草も虎太郎もフラムティアも、真面目にやるべき時には真面目に行動することができる。

 何かと細かいところに行き届かない竜愁のフォローをほぼ完璧にこなしてきたという実績も彼らにはある。

 ただ、いつも張りつめていた竜愁からガス抜きをするために、彼らは軽いノリで少年をおちょくってきた。

 ……趣味という理由も多分に含んでいたが、彼らが竜愁のためを思い行動していたのもまた、紛れもない事実なのである。

 ついでに言うと、竜愁は竜愁で暴走を繰り返していたため、完全に彼がコントロール役だったというわけでもない。


「えー、ごほん。

 今日貴方をお呼び立てしたのは――と。

 エリシアが戻って来たようですね」


 何回かのノックの後に扉を開けて入ってきたエリシアは、黒のパンツスーツを着込んでいた。

 メイド服はソタラハディアにもあったが、パンツスーツは純然たる地球の文化だ。

 まだ二週間だというのに、順調に染まっているらしい。

 あるいは竜愁の知識にあった服装を試してみたかったのかもしれない。

 向こうでは様々な問題から周囲に馴染まない服など着れなかったから。


「どうかしました?」


「や、別に」


「そうですか。

 ……何か話していたようですが、横槍を入れてしまってすみません」


「ンンや、まだ本題にゃァ入ってなかったから気にすンなや」虎太郎が言った。

 竜愁はエリシアが隣の席につくのを見届けてから視線を切り、目で続きを雪草に促した。

 雪草は老年らしく鷹揚に頷くと、口を開く。


「竜愁がエリシアに見とれていたと――」


「それじゃないだろ!?」


「? 

 そのことに何か問題でも? 

 私は単純に嬉しかったですが……」


 エリシアが心底不思議そうに言うのを聞いて、雪草が苦笑をありありと浮かべた。

 竜愁は嬉しいやら気恥ずかしいやらでいたたまれない気分になって、「今日呼び出した理由だよ、分かってるんだろ」ぶっきらぼうに言った。

 雪草も虎太郎もフラムティアも、楽しそうに笑っていた。


「……さて、呼び出した理由でしたね」


「ああ」


「貴方は現在、護民軍独立遊撃小隊の一員ということになっています。

 本来の仕事としては定期的な外征……つまり、周辺区域の魂獣を討伐し、魂力のひずみを解消するというものがあるのですが……」


「それじゃ駄目なのか? 

 魂格が足りてないから、なるべく魂獣から回収しときたいんだけど」


 なにせダグナスとの戦いで削ってしまったものだから、おおよそ九千強しかない。

 この程度の魂格では全力で強化しても得られる能力が心許なく、当然ダグナスや久我と戦うにも足りはしない。


 しかし、魂格とは文字通り、魂の格のことだ。

 これが高ければ高いほど魂力の生成量が上がり、従って体に流しておける魂力の量もまた上昇するために、身体能力や術式演算能力の強化率が高まる。

 さらに、生物としての格とも呼び換えられる魂格値は、本当の意味での全世界共通の権限となるのだ。


 世界は、生物と同じく魂を持つ。

 正確に表現するなら、無数に存在する世界がひとつの巨大な魂を共有しているといったところか。

 アカシック・レコードや世界図書館など呼び名は多々あるが、あらゆる魂を初期化して再配分する機能を持つそれは、すべての世界とつながった根幹だ。

 不変の真理である各種法則が、そこに収まっている。


 魂格値が高い生物は――なぜかは不明だが――世界の魂にアクセスして、情報を獲得できる。

 魂を活性化し、深奥に問いかけるだけの簡単な操作だ。

 地球において、数々の学者が何百年、何千年と研究を続けてもつまびらかになっていないものが、いともたやすく解ってしまう。

 これほどふざけた権限はないだろう。


 とまれ、魂とはかくもすさまじい代物である。

 そんなものを引き上げようと思えば、並大抵の労苦では到底足りない。

 明らかになっている手段は量の指で数えられるほどだ。


 ひとつ、挙げよう。


 【魂ノ徴奪者(ちょうだつしゃ)】という、今代【剣ノ勇者】小川竜愁に与えられた【固有魔術】がある。

 使用権限を持つのは竜愁と、竜愁が心の底から【盟友】であると認めている存在――虎太郎と雪草、フラムティアとエリシアにフィリスのみ。

 それ以外には紙に書いた術式を認識することもできないという徹底ぶりだ。

 故に、【固有魔術】。

 その分、呆れるほどの効力を持つ。


 魔力・魂力、果ては魂まで、接触した魔術的エネルギーのすべてを掌握し、行使者の体内にとどめられるよう変換するのだ。

 要求演算能力が高いことこそ欠点として目につくものの、敵の魔術を触れるだけで無効化し、これを宿した剣で斬り付ければ敵の魂ごと斬り裂いて吸収する。

 前者の効果だけでも圧倒的な上、ノーリスクで魂格を底上げできるのだから、これに比肩する術式は他の固有術式以外にないと断言できるほどの代物である。


 閑話休題。


 あくまで自らの強化を求める青年に向けて、雪草は困ったように笑うと、


「結界外の空間魂力濃度が、現在低下した状態になっております。

 【対魂獣結界】を発動した際、周囲の魂力を根こそぎ使ったでしょう? 

 あれの影響だと思われるのですが、濃度が低下した結果、発生する魂獣の魂格も比例して下がってしまいました。

 千にも届かない、こちらの基準で言うとF級やE級の魂獣ですね」


「ああ、そういう。

 そのレベルだと回収できるの小数点以下だからなぁ……。

 ……ん。

 それと、訓練に使いたいのか」


「アア。

 第二が、雑魚すぎて使いものになンねェンだよ。

 第三の残り突っ込ンだ小隊は連携訓練もさせなきゃなンねェし、前回のトラウマもどうにかしないとなンねェし……ったく、メンド臭ェ」


 前回の襲撃における死傷者や再起不能の傷による退役者は数多い。

 特に第三部隊は完全に壊滅し、二〇にも満たない残留者は第二部隊に転属されることになっていた。


 書類上の数字を思い出して、もっと自分が早く動いていればと竜愁は歯を食いしばった。

 無理矢理に、頭の隅へと押し潰す。

 今は、後悔に浸るべきときではない。


「それで俺たち……や、爺さんと虎太郎は教官の仕事もあるから、俺だけか。

 俺は仕事がなくなったと」


「いえ、教官の仕事は来年度から第一部隊に引き継ぎますので、仕事を失ったのは私たちも、です。

 ――代わりに、独立部隊に割り当てられた仕事は三つとなっております」


 三本、雪草が指を立てた。

 その仕草が妙に様になっていて、竜愁は唇を緩める。

 穏やかな笑顔。

 日常に住まう者のみが持ちうる余裕を、今の彼は持ち合わせていた。


「まず一つ目は、商業区周辺のスラム街を根城とするギャングの逮捕に対する協力。

 これは、突入時に発生が予測される荒事への対処が主なものとなっております。

 護民軍成立初期に盗まれた魂賦活剤の劣化模造品が出回っているようでして。

 ……まあ、この件に関しましては根城の特定や周辺組織の洗い出しが終わっていませんので、一、二ヶ月後になるでしょうか、突入の日取りが決まり次第、連絡いたします」


「ん、了解。

 要するに、変に暴発するなって言いたいんだろ? 

 ……もうあんなアホなことはしない」


 召還されてから、二年と半年が経った頃の話だ。

 当時の竜愁が身につけていたのは今より遙かに劣る剣技でしかなかったが、節操なしに増やし続けた魂格値は一〇万をゆうに越え一五万に届かんとしていた。

 そんな竜愁が前面に立って戦っていた【人族連合軍】にはその後の激戦など香りもしないほどの楽勝ムードが漂っていて、戦後に向けた政争すらも始まっていた。

 そんな中、最大の戦課を上げ、二国の軍にも比肩する戦闘力を保有しながらも後ろ盾を持たずにいた竜愁が巻き込まれずにいられるはずもなく。


 醜悪できらびやか世界に適合できなかった竜愁は軍を脱走し、軍の指揮系統に加わらない厄介者の傭兵として各地を転戦していた。

 その道程で出会ったのが、雪草と虎太郎である。

 二人と、フィリスにフラムティアを仲間に加えた六人で色々と無茶をやった。


 その中でもとびきりの無茶が、『あんなアホなこと』なのである。

 結果として世界最大規模の大国の王がすげ替えられる事態にまで発展したその事件、引き金を引いたのは何を隠そう竜愁の激怒。

 奴隷を消費し続けるその国の在り方に激を燃やした若かりし日の竜愁が奴隷競売所を破壊したことをきっかけにクーデターが勃発し、最終的には先に述べたとおりのところへ帰着した。


 ――のだが。


「や、うん。

 マジであれは反省してる。

 間違ったことはしてないと思ってるけど、もっとやり方があっただろっていう。

 なんで即物理で潰すみたいな思考になってたんだよ、俺……」


「まあ、あの頃の竜愁、いくら話しかけてもそっけない返事してくれなかったですし」


「そーそー、ちょっとでも気に食わなかったらすぐぶちギレてたもんねー」


「………」


 ぐうの音も出ないとはこのことか。

 竜愁は俯いて、あのときの狂いきっていた自分を思い出す。


 どれだけ手をのばしても届かないことに、嫌気が差していたのだ。

 竜愁ひとりの力ではどうしようもなく増え続ける連合軍の犠牲者たちが、毎夜毎夜夢に出てくる日々。

 ちょっと親しくなった兵士が死んだ日なんかは最悪で、思えば自分は、ひとの身を越えた力の自重に押しつぶされていたのだろう。

 大切なひとを作っちゃいけないなんていうあり得ない結論に帰着してしまうくらいには擦り切れていた時代だ。


 一方で、浮かれきった貴族どもが竜愁を七面倒くさいパーティーに連れ出そうとしてくるものだから悪感情は溜まり続ける。

 その頃にはもう、ずっと側にいてくれていたエリシアにこころを許していて、数少ない癒しを自ら封じ込めた竜愁は鬱屈としたストレスを発散するためだけに暴力を振るっていた。

 まったく、愚かしい。


「……ふぅ。

 二つ目は?」


 一息吐いて、雪草を促す。

 彼は首を振ると真剣な表情で言った。


「竜愁、貴方は強い。

 ですが、その強さは貴方ひとりで全てを賄えるといった類のものではありません。

 忘れてはなりませんよ」


 急に空気を変えた雪草に驚きつつも、竜愁は反射的に首肯する。

 自分が起こした事件は、何度怒鳴られても足りないものだ。

 機会がある度に窘められるのも、当然だろう。


「ん、分かってる。

 それで?」


「……、来年度から、護民軍を運営母体とした学校が開設されるのは知っていますか? 

 小中高の一貫校で、基本的には以前使われていた指導要綱を基に授業を実地していくことが決定されているのですが、高校にはひとつ、専門課程を別口で開きます。

 そこの教員として二人選出するように、と」


「……それって、」


 二つのイメージが竜愁の頭をよぎった。

 ひとつは、ソタラハディアの【人族連合軍】における新兵の教練だ。

 罵声をぶつけ、殴りとばし、実戦さながらな命の危険を感じさせることで最低限の魂力操作技術や身体能力を身につけさせる地獄の特訓。

 竜愁も殺気を放つ役として参加したことがあるのだが……見ていて気の毒になるぐらいしごかれていた。

 ――なお、自身の訓練では罵倒こそなかったものの、新兵養成訓練など目ではないほどに肉体をイジメ抜いていた竜愁である。


 そして、もうひとつは日本各地にあった自衛隊高等工科学校である。

 家をなるべく離れたくなかったがために断念したが、一時期は進学も考えていた学校だ。

 一般の高等教育に加えて自衛官としての教育も課程に含まれていたから、竜愁たちが教官を勤めるとしたら後者の中でも実技系の訓練になるだろう。


「詳しい内容は後で連絡しますが、体術や部隊規模での連携、魔術道具の扱いなど……実際に動く科目の教官をお願いしたいとのことです。

 上としては、三年でA級以上を相手取れる部隊を作り上げたいようですな。

 ああ、悠長な、などと言ってはなりませんよ? 

 地球では、高い魂格値を有する者が極端に少ないのです」


 言いそうになった言葉をとがめられて、竜愁は口ごもる。

 撃退したとはいえ、次にいつダグナスが攻めてくるかは分からない。

 それを考慮すると、目標値が低すぎるように思われたのだ。

 自分たちを引き合いに出したりはしないが、地球基準で言うA級ごときならば一〇体程度と戦える部隊がいてくれなければ――


「竜愁」


 言って、エリシアが紙を一枚差し出した。

 長机におかれていた、表と棒グラフの描かれている資料だ。

 とりあえず、竜愁は促されるままにそのコピー紙を眺める。


「は?」


 そして見間違いかと眉を顰め、力いっぱい瞼を擦る。

 どれだけ見直しても印刷された情報が変わることはなかった。

 竜愁は顔から血の気が引きつつあるのを自覚する。


「これ、単独でA級と戦えるのウチの親父と間鐘ミェーラ? 

 っていう人ぐらいだろ。

 才能次第でギリギリそこまでいけるかもレベルの人ならもう何人かいるけど……ん? 

 は? 

 俺たち入れてもたった五人でアイツらと戦うのか!?」


 勝てないとは、口が裂けても言わない。

 だが、飛び抜けて高い数人を抜かしてしまえば、最大限に成長幅を見積もっても戦闘員たちに任せられるのは小隊単位で平均C級止まりだ。

 数というのは確かに力だが、実際のところD級でも怪しい小隊を幾つ纏めたところでA級と戦うなんてできるはずがなく――


「ちょっと待て! 

 ってことは鍛える学生の方も……」


「……そちらは精鋭ということで三千以上に絞っておりますが平均値は六千にも届かず、……最高の者でも九千強でございます」


 沈痛な表情で雪草が俯く。

 背筋が曲がってこそいないが、常の彼にはあり得ないほどアンニュイな雰囲気を発する立ち姿だ。

 助けを求めて竜愁は仲間たちを見渡すものの、誰もが俯いていて目を合わせてもくれやしない。

 重たい空気に負けて、竜愁も肩を落とした。


 誰も、「勝てない」とは言っていない。

 それは先の竜愁が持っていた『何があっても勝たせてみせる』という絶対の覚悟と違って、恐怖による沈黙だ。

 言えば本当になってしまいそうなぐらいに、状況は悪い。


「……鍛えるのは、俺と爺さんでやろう。

 殺気を当てながら二人がかりで技術をたたき込んで、少なくとも小隊で三つはA級、大隊……そう言えば、部隊の規格はどういう風になってるんだ?」


「あっちと大して変わンねェよ。

 四人で一個小隊。

 後は四個単位で格上げだ」


「魔術込みで戦術立てたらどこも似た感じになるみたいだねー。

 まー、こっちに関しては戦える人間が少ない分小分けにしなきゃダメだったってゆうのもあるっぽいけど」


「こーゆうの、不幸中の幸いって言うんだっけ?」とフラムティア。

 演技ではあるのだろうが、彼女のすっとぼけた調子の明るい声で鉛のようになっていた空気は払底された。

 一方で黙ったままのエリシアに疑問を感じながらも竜愁は、


「ん、最悪、俺が体張って足りない戦力は埋める。

 それと、三人で時間つくって護民軍の方にも顔を出そう。

 訓練は第一部隊に任せるっていう話だったけど、俺たちでもやった方が効果的だろうし」


 一瞬、微妙な空気が会議室を漂った。

 ――え、なんか変なこと言ったか? 

 少し考えて、思い至る。

 時間を作るというのは、休憩時間を削ることとほぼ同義だ。

 竜愁たちは疲労回復用の術式で肉体的な疲れはどうにでもできるのだが、休憩を取らなければ精神的な疲労が溜まり続ける。

 そのことを懸念しているのだろう。

 取り繕うように、竜愁は言う。


「あ、えっと都合がつかないとかだったら、俺が全部」


「その話は後にしましょう? 

 あなたたちでやるなら正式な業務として話を通さないといけません。

 もう少し詳細を詰めてからでないと――」


「と、いうことでございます」エリシアに引き継いで雪草が言う。


「まずは、もう一つの仕事についての話を終わらせましょう」


「……ああ」


 釈然としないながらも、竜愁は頷いた。

 話を通す必要があるのも、確定している仕事の話をすべきなのもその通りなのだが、どう考えても話を逸らされている。

 けれど、彼らがこうも分かりやすいごまかしをする理由が――


 竜愁が考えていられたのは、そこまでだった。

 最後の仕事を聞くなり、直前までのことがどうでもよくなってしまうほどの衝撃を受けた竜愁は、知らず頬肉をかみちぎっていた。


「【魔ノ勇者】、藍白あいじろ光輝こうき

 彼の捜索でございます」


 ぴちゃ、ぴちゃ、ぐちゃり、ぴちゃ、ぴちゃ……。

 血と炎の臭気が、鼻孔の奥で香った。


 次話→8月6日23:00 

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