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少年の誓いと彼女の祈り  作者: 歯歯
第二章 『勇者の帰還が意味するものは』
20/25

裏話 『古賀健二』

 燃えるように赤い夕焼け空。

 銀色なんてどこにも見えない綺麗な空を見上げて、オレはただ立っていた。

 道路のはしっこで、何もせずに、三年ぶりの空を見る。


 喚き声とか叫び声とか泣き声とか、グチャグチャに混ざった大声が耳から飛び込んでくる。

 この声の主たちを黙らせて、避難所へ誘導するのがオレの仕事だ。

 でも――


「こんなん、無理だろ……」


 諦めが口を突いた。

 ここまで混乱しきった群衆を落ち着かせるなんて、できるはずがない。

 そもそも、オレだって震えて崩れそうになるのを必死で堪えてるってのに。

 騒いでないのは、たぶん、もう心の半分以上が諦めてるからだ。

 どれだけ声を張っても、静かにならかったんだ。


 ――やけに、制服の着心地が悪かった。


 俺は何もできない。

 世界が変わった、あの日みたいに。

 そのすぐあとの、あの日みたいに。

 あるいは、昨日のあのときみたいに。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 マジかよ……、冗談になってねーだろこれ。

 ヤバいヤバいヤバい逃げないと死ぬ――! 


 ――ソレは、白い怪獣の形をしていた。

 白い煙と赤い炎で一杯の、空。

 近くに建ってる高いビルの頂上に座る狼。

 縮尺おかしいだろ。

 つーか絶滅したんじゃ……ッ!! 

 あいつ今、こっち見て……。


「グルゥォオッ!!」


 地震。

 あいつが飛び降りてきたんだ。

 ふざけんな、でかすぎだろ。

 頭が、校舎の二階くらいまで……っ!! 

 観察してる暇あったら逃げるんだよ!! 

 あんなん勝てるわけないだろ!? 

 このクソゲーが!! 

 邪魔だおまえら! 

 逃げるんだよ!! 


 走る。

 手と足がしっちゃかめっちゃかにもつれて転びそうなのは、気合いでカバーした。

 とにかく走る。

 切れた息は無視して、転ばないように、つっても全速力で。

 頭が真っ白になる。

 今、どこ走ってんだ……? 

 分からないなりに、大人のいる方を探して走る。

 だれか、だれか……、


「だれか!!」


「グオオオ――ォッ!!」


 返答は獣の叫び声。

 ぬうっと角から飛び出てくるゴリラの頭部。

 出会い頭に立ち止まった瞬間、足から力が抜けて膝をつく。

 終わった……。

 逃げないといけないのに、足が動いてくれない。

 震えてる。

 無駄に全力で走った反動だ。

 命の危機なのに。


 怖い。

 ゴリラの顔が近づいてくる。

 口が開いてる。

 怖い。

 来るなよ、これ以上寄ってくるな!! 

 やめろやめろ死にたくないイヤだこっちくんな殺すぞふざけんなアホなんだよこれ――!! 


 ピシャン!! 

 閃光。

 何も聞こえないし見えない。

 浮遊感。


「え?」


 少しして、見えるようになった。

 誰かに抱えられてる。

 声を出したオレに、その誰かが言った。


「大丈夫か、坊主」


「え、はい」


「っし、じゃあもうちっと捕まってろ」


「あんたは……」


「自衛官だ」


 オレを助けてくれた自衛官の人は、【栗林くりばやし大河たいが】っていうらしい。

 彼が率いる班に護られて避難所に向かいながら、色々な話を聞いた。

 突然現れたあの怪物を撃ち殺した話や、避難所を護っている自衛官と警官の話。

「何があっても連れていってやる」と撫でられた頭が痛かったけど、安心できた。

 だって、助かったんだ。


「無事か!?」


「健二……よかった……、よかったぁっ……!!」


 避難所に着いて、合流した父さんと母さんに抱きしめられる。

 正直、痛い。

 さっきの栗林さんよりも、ずっと。

 でも、それ以上に安心する。

 嫌いなはずだったのに……血縁ってすげー。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 避難所生活一日目、夜。

 落ち着いて寝ようとしてるのに、寝れない。

 クラスメイトが殺される瞬間の映像が浮かぶせいで、目を瞑れもしなかった。

 今更だってのに、罪悪感が酷い。


 ――オレが残っても何も変わらなかった。

 何度も何度も口の中で繰り返してようやく眠れそうだと思った途端に、地震。

 夜中の暴走族なんて比じゃねー爆発も一緒で、一気に頭が起きた。

 ふざけんなよ、せっかく寝れそうだったのに……。


「怪物の襲撃です!! 

 撃退しましたので、安心してお休みください!!」


 ……やべー、恥ずい。

 飛び込んできた自衛官の人は、迷彩服をぼろぼろにしていた。

 あの人たち、寝なくて大丈夫なのか? 

 なわけねーよな。

 なんか、手伝えることあればいーけど……。


 避難所奥の救護スペースで、大人が忙しそうに走り回ってた。

 ……どうせこのままじゃ寝れないし、雑用ぐらいなら、できるよな。

 隅を回って、駆け寄る。


「あの……」


「んあ? 

 どうしたボウズ、怪我でもしたのか?」


「いや……何か、手伝い」


「おおっ!」大柄な男の人は、ニカッと笑って包帯を渡してきた。

 うわ、血……。

 ……んなこと気にするなよ、オレ。

 情けない。


「表で鍋沸かしてっから、近くにいるヤツに渡して、代わりの分貰ってきてくれ。

 ほら、向こうの扉から出てすぐのとこだぞ。

 できるな?」


「はい!」



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 二日目、三日目、四日目と、救護スペースの雑用をして過ごした。

 忙しくて気にしてなかったけど、父さんと母さんも別のとこで働いてたらしい。

 朝早くに起きて、夜は疲労で落ちる。

 学校行ってたときより健康的な生活だな。

 ――五日目の朝も、日が昇るくらいの時間に爆音目覚ましで起きた。


 ――この日で避難所生活が終わるなんて、欠片も知らなかった。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



『逃げろ!!』


『でも!!』


『生きてっ!!』



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 あれから一年が経って、オレは一四歳になった。


「はい、それはこちらの用紙になります――」


 ルーチンワークになってきた窓口業務を淡々とこなす。

 渡す書類のパターンを覚えた今、ミスしようもない単純作業だ。

 定型文と一緒に紙を渡すだけでオレの仕事は終わる。

 こんなんで高い給料貰えるって……。


 ぱさり。

 紙を手渡して、無機質に説明を添えながら、思う。

 なんでこんなことしてるんだろーなぁ……。

 行動もできず、だらだらと流され続けてるだけ。

 あんなことがあったのに、結局オレはテンプレだ。

 唐突に、脈絡もなく自分が情けなくなってきた。

 ……仕方ないって納得した癖に、なんでまた。


 ――あの日、避難所生活は五日目にして終わりを告げた。

 化け物(魂獣)が襲撃してきたせいだ。

 集団になっていたオレたちを狙ったあいつらは、大群で避難所に押し寄せてきたんだ。

 一匹二匹なら相手取れていた自衛官の人たちも呑み込まれて、襲撃開始からほんの数分で防衛線が崩壊した。


 オレはまた、そこから逃げ出したんだ。

 今度は上っ面の仲でしかなかったクラスメイトだけじゃなくて、血のつながった肉親を犠牲にして。

 父さんと母さんが襲われている中を、理由を貰った瞬間逃げ出した臆病者。

 それが、オレだ。

 

 それで、運だけは良かったのか、別方面を護っていた自衛隊の人に助けられたオレは、今日も窓口業務をこなしている。

 ……本当は、戦闘職に就きたかったんだ。

 けれど、一八どころか一五にもなってないオレには書類審査を受ける資格さえない。

 唯一の抜け道の『魂格値一万以上』っつー条件にも届かなかったオレに紹介されたのが、ここの仕事だった。


 以来、オレは書類を渡す機械として一年間を過ごした。

 きっと一八になるまではずっとこのまんまなんだろーなぁ……。

 はぁ……、ほんと、嫌になる。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 あの日から二年が経った頃に、好きな子ができた。

 名前は小川仙歌。

 ……まあ、『できた』っていうよりは『自覚した』って言う方があってるのか。

 同じ時期に仕事に入った同い年の女子で、休憩時間なんかによく話す仲で……気づいたら好きになってた。


 いやもう、全体的にかわいくてかわいくて……会う度に内心でそんなこと思ってたらいつの間にか本気になってたっつーか……。

 あれ、これだいぶ前から好きだったやつだ。

 うわー。

 ……一年も自覚してなかったってどんだけだよ。

 なんかあれだから、半年前に好きになったってことにしとこう。

 うん。


 それで、だ。

 自覚してから、努力を始めた。

 なんつーか……これまでもときたまぶり返してきた情けなさとかが堪えきれなくなったんだよ。

 時間を浪費して、ぼんやりと生きてる自分に我慢がならない。

 ……、だってなー。

 こんな状態で告っても振られるに決まってるじゃん。


 丁度都合良く、護民軍が主催する格闘術教室の申込書が手元にあった。

 ――一八までを無駄にしたくないなら、入隊するための準備期間に変えちまえばいい。

 それから毎日、教室が終わったあとも居残って練習した結果、腹筋が割れた。

 格闘術の方も伸びてきた自信がある。

 昨日だって先生に『筋がいい』って褒められたし。


 ほんと、体力を限界まで使ってるせいで毎日が辛い。

 寮の部屋はゴミ屋敷化が進行してる。

 けど……、だらけて過ごした二年間よりも今がとにかく楽しくて、充実してる。


 きっかけをくれた仙歌には感謝しかない。

 なんか理由つけてお礼したいんだけど……下心あるって思われたら最悪だし、躊躇してる。

 でも、ちょっとずつ距離縮めてかないと……。


 そんなこんなで、また半年がすぎる。

 これであの日から三年だけど、体感的には二年ちょっとだ。

 ラスト一年が一瞬だったからなー。

 倒れそうになりながらも頑張って、駆け抜けた一年だった。


 仙歌との仲も、何気に進展した。

 当たり障りのない雑談だけじゃなくて、家族のこととか色々、結構込み入ったことまで話すようになって、分かったことがひとつある。


 ――アイツ、ブラコンだ。

 実際、本人も『私お兄ちゃん大好きだからねー』って笑ってた。

 ……どうしよ、勝てる気がしない。

 いやまあ、たぶん故人の行方不明者に勝つも何もねーんだけど……だって、なあ? 


 学年一位の成績にオール一〇な体力テスト、おまけにやさしくて努力家って……どこの完璧超人だよ。

 イケメンにもほどがある。

 人物評価には思い出補正とか入ってるだろうけど、前二つの客観評価だけでも十分すげー。

 仙歌に絡んできたヤンキー四人を瞬殺したとかもガチだろうし……。

 なんか最近、仙歌の兄ちゃんなら生き残ってそうな気がしてきた自分が怖い。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 二月になった。


 オレは護民軍の寮に住んでて、三食ついてくるし洗濯も備品として道具を借りれるしで、その気になれば寮と庁舎っていう狭い範囲で行動を完結させられる。

 だけど、生活必需品以外でなんか欲しーものがあったら商店街に行かなきゃいけない。


 その日オレは、夜食用のシリアルやら菓子やらを買い足しに足を運んだ商店街で仙歌を見つけた。

 週に一回は買いに出てるから可能性としてはそこまで低くねーんだけど……たまたまタイミングが合ったんだろうな。

 ただ、声をかけはしなかった。

 ――アイツの隣に、若い男が立ってたから。


 誰だよ、アレ。

 苛つく。

 あんなやつこれまで見たことない。

 そりゃ、オレの知らない友だちとかもいるんだろーけど、仙歌の奴が無茶苦茶嬉しそうに笑ってるのが気に食わなかった。

 なんだよ、あれ。

 あんな顔見たことない。


 男は若干ロン毛で、だけどファッションっつーよりは手入れしてなくてボサボサな髪型。

 ぶっちゃけダサい。

 歩いてる姿勢だけは無駄に綺麗だけど、ちらって見えた横顔はそんなにカッコよくなかった。

 アレなら、ナルシっぽいけど、オレの方がまだマシだ。

 なんであんなやつと……。

 いや、外見が酷いだけでむっちゃ良いひとなのかもしれねーけど。


 ほっといて帰るなんて選択肢はなかった。

 商店街の人混みに紛れて、二人を尾行する。

 ってか人多すぎて見えねー……。

 これなら見つからねーだろとか高くくってたら、見つかった。

 何でバレたし。


 人混みをかき分けて、すげー勢いでこっちに来る仙歌。

 ストーカーしてたのがバレると今後が気まずいとかそんなレベルじゃねーから、今気づいたみたいな雰囲気出して、「おー、仙歌」


「おはよう健二っ。

 あのさ、なんっも脈絡なくてあれだけど、今時間ある?」


「まー、あるってかおもいっきり暇だけど、どした?」


「よっし。

 ちょっと会わせたい人がいるから付いてきてくれる?」


「え、や、うん」


 ヤバい。

 なに暇とか言ってんださっきのオレぇっ!! 

 見つかったのも想定外だけど、引き合わされるとか一個も考えてなかった。

 これで「彼氏の田中君っ」とかいう感じで紹介されたらメンタルばっきばきに折れそう。

 てか折れる。


「? 

 行くよっ」


 動けなくなったオレ。

 どうしよ、どうにかして今からでも逃げられねーかな……とか思ってたら、仙歌がオレの手をつかんで引っ張る。

 ファッ!? 

 これまでになく強引な……てか手ぇあったけー。


「えっ、男?」


 あっ。

 これはもしかしてまさかの最悪なパターンってヤツじゃ……。

 だって彼氏でもないのに知り合いが連れてきた友だち見て「えっ、男?」とか言うわけねーだろ。

 あ゛ー。


「お兄ちゃんそれどういう意味!?」


「えっ、お兄ちゃん?」



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 聞いてたまんまで、すげーなこの人……。

 背筋をまっすぐ伸ばした、風貌の見窄らしさを差し引いても堂々とした印象の歩き姿。

 何で、そんなに取り繕えるんだよアンタ。

 記憶喪失じゃねーのかよ。

 ……これが、素なんだろーな。


 スーパーの臭いが、どうしても、まだ平和だった頃を思い出させる。

 昔のオレは遊び呆けてただけで、何もしてなかった。

 だからあのとき、一人で逃げることも満足にできなかったんだ。

 ――でも、この人は違う。

 違うから、今もこんな風に家族を心配したり、外面(そとづら)を気にする余裕を持ってる。

 ……鬱だ。

 三年半前までのオレ、何してたんだろーな。


「袋は要りますか?」


「あ、いえ、結構です」


 端末で支払いをすまして、レジを抜ける。

 顔、どうにかしないとな。

 落ち込んでる感じでもでてたら、仙歌に心配されるかもしれねーし。

 それはそれで……末期かよ。


「っ、」


 手で顔を叩いたら、思ったより痛かった。

 竜愁に変な顔されるのをテキトーにごまかしながら荷物を詰めて、出口へ。

 仙歌はもうそこで待ってた。


「あれ、なんか二人とも仲良くなった?」


「ん、まあ、ちょっとな。

 なあ


「アレ、ちょっとですまされんのかよ……」


 よし、たぶん顔は大丈夫。

 今の流れだったら疲れた雰囲気でもおかしくねーし、二三(にさん)回笑えばそっちに引きずられるだろ。

 勝った。

 ……何にだよ。


「持つ」


 それだけ言うと竜愁はアイツの買い物袋を奪い取ってオレたちの後ろに回った。

 一瞬、ひとの邪魔になってるとか考えたけど、ちげーな。

 なんだかんだ言って気ぃ使ってくれたヤツだ、これ。

 ツンデレってか、どんだけいい人なんだよ。


 ――暢気に喋ってられたのは、ほんの何分かだった。


「ひったくりよ! 捕まえて!!」


 誰かが叫ぶ声が聞こえてきた瞬間に、ドミノ倒しみたく人垣が割れる。

 その裂け目から、男が飛び出してきた。

 ちょうど目の前、逃げないとって思ったのに体が言うこと聞いてくれない。

 動けよ足ッ!! 

 前出ろよ! 

 ふざけんなおいッ!? 

 あんなに頑張ったってのに肝心な今動けねーとか――


 ――チィ――ッ!!!! 


 ――オレの前に誰かが割り込んできて、男の手を弾いた。

 とんでもない音。

 いやそれ人間がぶつかった音じゃないだろ。

 でも、事実、ナイフが吹き飛んでくるくる回ってる。

 後に続いたシーンに驚きすぎて、そんなことすぐ頭から消えてたけど。


「は?」


 走り込んできた男が、ナイフと一緒に飛んでった。

 ありえねー……。

 何が起きてんだよ、これ……つーか。


「今の、竜愁だよな……?」


「だねー……。

 お兄ちゃん、マジヒーロー」


 仙歌が乾いた笑いを向けてくる。

 向こうで、いろんな人に囲まれた竜愁が被害者っぽい女の子の前に運ばれてる。

 マジで英雄扱いだ、スゲー……。

 ……ほんと、すげー。

 仙歌に何か言わないとって思ったけどそんな気分になれなくて、黙る。


 ……何してたんだろーな、オレ。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 やっぱりオレは、何もできない。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 また、逃げよう。

 絶対に許せないはずの思いを持つぐらいに、オレは追いつめられた。

 目の前で、女の人が一人倒れてく。

 オレは戦闘職じゃないけど、護民軍として、男として、人間として、助けなきゃならない相手だ。

 でも、あの中に割って入る勇気が湧かなくて、躊躇する。


 ――一瞬前に出た足を引き留めた瞬間、声が響いた。


「ふざけるな!!」


 こんなにも声がひしめいてるのに、その叫びは場にいた全員を黙らせた。

 かぶせて「おまえがふざけるな!!」とか叫び返したバカもいたけど、力強い雄叫びの続きが一瞬で塗り潰す。

 ……背中、ぶったたかれた気分だ。

 何してたんだろーな、オレ。

 何してるんだろーな、オレ。

 ついでに、何してんだあの人。


 叫んだのは、竜愁だ。

 ほんっと、意味わかんねー。


 ――でもなぁっ!! 

 一番意味わかってねーのは、あの人に決まってだろーがっ! 

 記憶喪失なんだろ!? 

 なのになんで、精神年齢上のオレが、やれて当然をやれてないんだよ!! 


 今から動き出すオレは、無茶苦茶カッコ悪い。

 でも、動かないよりは百倍マシだ。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ――今日、オレは【新福岡軍立学校】に入学する。

 一年かけてここの護民官養成コースを卒業すれば、晴れて護民官として部隊に配属されることになる。


 ――たとえ未成年でも、だ。

 ……嬉しいっちゃ嬉しいけどもっと早く告知してほしかったよなー。

 先月仙歌から聞いたときは、マジで焦った。


 ……ほんと、何でいきなり決まったんだろーな。


 ――まあ、いーか。

 とにかく、一年早く護民官に成れるっつーのが大事なんだ。

 がんばろ。

 頑張って頑張って全力を尽くして、そうしてればきっと、三回目は間違えないですむ。

 ……後悔とか、残してたまるか。



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