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上界下界物語  作者: 帝王星
漁火
6/7

第六話―阿漕―

 校長室。何やら中が慌ただしい。

 ちょうど出てきた先生と目が合う。


「あぁ、カムランか…理事長に御用か?」


 出てきたのは三年の学年主任のヴェーク先生だ。


「ちょっと諸用ですよ、理事長はどちらに?」


 ぎこちない敬語で返す。すると、ヴェーク先生は苦い顔になる。


「少し面倒なことになっていてな、理事長は席を外しておられる。急用か?」

「いや、少し尋ねたいことがありまして」

「俺に分かる範囲なら答えよう」

「あ、大丈夫です」


 少し面倒なこと、とはなんだろう。ともかく、一度医務室に戻ることにした。



「はい、これで終わりね」


 養護の先生でもあるシャリオ先生に軽いメディカルチェックを受け、OKをもらった。


「もう寮や授業に戻って大丈夫よ」

「ありがとうございます」


 …なぜか先生はため息をついている。


「あなたが本当に男の子だったら良かったのに…残念だわ」


 …何やら身の危険を感じるが、気のせいだろうか。


「あの、外にダチ待たせてるんで、戻っていいですか?」


 すると先生はより残念そうな顔になる。


「いいわよ、行きなさい」

「失礼しました」


 頭を下げ、医務室を後にする。外にはアクアとサリエルが待っていた。


「今日の授業は中止らしい。寮に戻ってゆっくりできるぞ」

「お、マジかよ、やったな」


 実戦以外の授業は退屈すぎる。無くなるのならこれ以上嬉しいこともない。


「でもなんでまた急に?最近授業が飛ぶ頻度多くないか?」


 俺がそう尋ねると、二人は口ごもる。何かあったのだろうか。

 サリエルが口を開く。


「理事長の力の源である魔器が行方不明でな、先生たち総出で探しているらしい」

「どっかに落としたんじゃね?」


 あのドジ理事長ならあり得る。立てば頭を打ち座れば椅子が崩れ歩けば鳥の糞が頭に命中するくらいだ。


「先生たち曰く、昨日の堕神に持って行かれたかもしれないってさ」


 堕神、変わり果てたカンヘルの姿を思い出す。


「カムラン、どうしたの?」

「えっ、あ、あぁ…なんでもない」

「怖い顔してたぞ」


 2人は俺を心配そうに見ている。話題を変えることにした。


「…寮に戻るか?」

「…そうだね、せっかく授業なくなったんだもん」

「じゃ、荷物まとめて集合だな」


 一度解散することになった。



 荷物をまとめ、俺たちは校門の前に集合していた。


「何処か寄り道して帰りたいな」

「そうか…なら喫茶店にでも寄るか?」

「賛成っ!」


 …駅の近くの喫茶店に寄ることになった。


「今日の日替わりメニュー何かな」


 アクアとサリエルが盛り上がっている。俺は空気となってそばに付き従っている。

 カフェに到着し、空いている席に座る。アクアが楽しみそうにメニューを開く。


「あっ、カムランじゃん!」


 聞き覚えのある声。振り返る。


「やっほ、怪我したって聞いたけど元気そうだね」

「アルカか、久しぶりだな」


 話しかけてきた野性的な少女は、隣のクラスで同じ火の魔族の幼なじみのアルカだ。


「おいおい、俺は無視か?」


 奥から顔を出したのは、これまた隣のクラスで雷の魔族のS(エス)だ。


「私もいますよ〜」


 Sの隣に控えめに座るのは、隣のクラスで光の魔族のホビアル。その隣には同じクラスのクローフィもいた。


「珍しい組み合わせだな」


 サリエルの言うとおり、いつもは見ない組み合わせだ。


「いやそれがさ…」


 アルカは口ごもっている。


「つかカムラン、セレンとラフェルに二股かけてるんでしょ?プレイボーイならぬプレイガールだな!」

「は?」


 おそらく夜の仕事を見られたのだろう、どこに知り合いの目があるかわからない。俺としては自身の貞操と2人の面子(メンツ)のため、ここで明確に否定しておく必要がある。


「あいつらはただのダチだって、俺が恋愛に疎いのは知ってるだろ?冗談でも笑えねぇよ」

「あはっ、やっぱり違うんだ、よかったー」

「カムランってセレン君たちとも仲いいんだね、見直しちゃう」


 押し問答しているうちに料理が運ばれてくる。


「あ、あぁ…料理きちまった。またあとでな」


 とにかく、食べることにした。



 あのあと、アルカからセレンとラフェルのことをしつこく聞かれたが、無視して寮に帰ってきた。


 今から2人のところに合流してまた地獄に行くつもりだ。

 篝火を掴み、『秘密の通路』を通って寮を出る。

 なるだけ人目につかない通りを通って待ち合わせの場所へ。すでに2人が待っていた。


「遅いぞ、あと16秒遅ければ置いていくところだった」

「ひでぇな」


 …どこからか人の気配がする。


「ちょっと待ちな」


 背後から声。俺たちは声のした方を向く。人影が4つ。


「カムラン、抜け駆けはさせないよ」


 先陣を切るのはアルカ。続いてS、ホビアル、クローフィが出てくる。


「抜け駆けっておま…これがデートに見えるか?つかついてきたのかよ」


 俺は反論する。だがアルカたちは洗脳されたように聞く耳を持たない。


「ここに集うはカムランの二股をよしとしないものなり!」

「はぁ?」


 ホビアルが魔器を掲げる。

 セレンとラフェルは事態が飲み込めず、ポカンとしている。


「つか俺の場合、厄介ごとが発生するならなんでもいいんだけど」


 Sがニタリと笑う。

 そこでラフェルは納得したように相槌を打つ。


「そういうことなんか!カムラン、新しい戦力連れてきてくれたんやな!」

「いや向こうが勝手についてきただけだし」

「みんなで強くなるんやな!さすがカムランや!」


 なにやら勝手に納得されてしまった。


「はぁ…もうそういうことでいいよ…」


 もう否定するのも面倒になってきた。



「つーわけ、だからデートでもなんでもなくて、一緒に戦いの腕を磨いてきた仲間ってやつだ」

「なぁんだ、でも地獄に行って妖魔を狩るって、面白そうだね」


 ようやく二股の誤解が解けた。全く、たまったものではない。

 一応戦力に加えるかセレンに確認する。


「セレン、どうする?」

「俺としては戦力が増えるのはありがたい。この前のような堕神がいつ出てきてもいいように、腕を磨いておく必要がある」

「…そう、だな」


 変わり果てたカンヘルが脳裏に浮かぶ。湧き上がるのは疑問と憎悪。そして…


「あー、堕神でしょ?昨日2人現れたって聞いた!」

「学校が寒くなったと思ったら今度は暑くなったし…」


 やはり、堕神と先輩の力は教室にまで及んでいたようだ。


「俺はともかく、セレンも一瞬で捕まったしな…堕神の称号ってのは伊達やないで」


 ラフェルは自分の首を愛しそうに撫でる。

 あの瞬間が蘇る。俺の呼びかけにカンヘルが応じなければ、2人は死んでいたかもしれない。


「相手が何であろうと、全て殺せば大解決」


 Sが獰猛な笑みを浮かべる。


「…そろそろ行くぞ、全員魔器を用意しろ」


 セレンの声を合図に、俺たちは空間の穴に飛び込んだ。



 なんとかフィリを撒き、自室に戻る。もう9時過ぎだった。


「…」


 自分でもわかるくらい、無言になっていた。

 泣き叫ぶ妹の声。幻聴だと強引に自分を納得させる。

 こんなものは単なる哀愁にすぎない。自分には必要のないものだ。


「くだらん」


 脱いだ上着をベッドに投げ捨てる。遅いが、風呂に入ることにした。

 着替えと道具を持って部屋を出る。女が侍っていた。


「いい加減しつこいぞ」


 ここまで粘着質な女も初めて見た。


「あぁん、もっと貶してくださいカンヘル様ぁ」


 寒気というか怖気(おぞけ)すらする。


「なんなら抱いてくれてもいいんですよぉ、カンヘル様には虐められた「死ね」本当いけずなんですからぁ」


 羞恥心を知らない雌豚を避け、風呂場へ歩いていく。


「あ、カンヘル様お風呂なんだ、覗いちゃおっと。いや、ここは強行突入…?」


 なにやら身の危険を感じる。

 脱衣所に荷物を置く。おそらくフィリが覗いているだろうから、一度出る。


 女はそそくさと去っていった。

 仕方なく個室のある棟へ戻り、ある部屋をノックする。


「あーん?俺様今解剖で忙しいからまた今度にしろ」


 同僚のカラミタの声に紛れ、なにやら断末魔が聞こえる。


「ちょっと殺して欲しいやつがいるんだが」

「お、マジ?殺っちゃう殺っちゃう!」


 ドアが開き、白髪の青年が現れる。


「俺の入浴中、フィリが風呂場に近づいたら殺しといてくれ」

「“また”あの女を殺せって?まぁいいけど」


 これで安心して入浴できる。



 あのあと、俺たちは3つのグループに分かれて散開した。ちなみに俺はセレン、クローフィと行動している。


「そういえばカムラン、理事長の部屋を通りかかった時に聞こえたんだが」


 ふとセレンが口を開く。


「理事長はどうやら、明日にでも俺たちを聖魔軍に投入するつもりらしい」

「…は?」


 俺とクローフィは口を揃える。


「いくらなんでも早すぎじゃね?」

「足手まといになるに決まっている」


 だがセレンは表情を変えない。…どうやら本当のことらしい。


「理事長は魔器を奪われている。聖魔軍にとっては大きな痛手だ」

「だからってそれを俺たちで埋める気か?無謀にもほどがある」


 あいつは一体なにを考えているんだ。魔器を失い頭までおかしくなったのだろうか。


「決定事項は覆らない。なら俺たちがすることは決まっている。こうして力をつけるのが俺たちに残された手段だ」


 セレンの言うことは当たっている。だがどうにも腑に落ちない。


「なに、明日になれば分かることだ。今は妖魔を狩ることに集中しろ」


 魔器を構える。現れた妖魔を斬り伏せ、先へ進む。

 しばらく進んだところで、広い空間に出た。


「…待て」


 セレンが手を挙げて静止する。


「でかい反応がある。慎重に行くぞ」


 俺とクローフィの顔に緊張が走る。セレンが先頭を歩いていく。

 轟音。


―七話に続く―

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