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上界下界物語  作者: 帝王星
漁火
4/7

第四話―木鶏―

 とりあえずラフェルについていくことにした。

 ラフェルは口笛を吹きながら樹海の中を歩いていく。


「…」


 俺はいつ妖魔が出てきてもいいよう、篝火を構えている。


「…お、来よったわ」

「なんでわかるんだよ…」


 俺は全く気配を感じない。


「超音波ってやつや。あんさんも赤外線探知とか使えるんとちゃう?」


 そうだった、俺は自分の手札すら把握できていなかった。

 草むらから物音。篝火を握りしめる。

 現れた妖魔は人間のサイズ程度。全身に紫電が這っている。


「雷の眷族やな。倒してみ」

「言われなくてもそのつもりだっての…」


 目の前の妖魔に刀の切っ先を向ける。妖魔が咆哮し、雷を撃ってくる。


「相手の動きを読めっ!」


 だが光速の攻撃は躱せず、感電する。


「あーもうっ!」


 俺を襲ってくる妖魔を、ラフェルが斬り伏せる。


「あのなぁ…光速の光や電撃は予測して回避か、いなせる時はいなす。これ基本やし」

「うるせっ、アンナ先生と同じこと言うな」


 俺は戦術理論などの座学は嫌いだ。だがラフェルは苦い顔になる。


「座学の理解度で生存率や勝率が上がるんやで?」

「俺はそういう頭使うのは向いてねぇの!」


 ついカッとなって怒鳴ってしまう。


「…悪りぃ」


 だがラフェルは全く気にしてないかのように微笑んでいる。


「…俺も“頭は”使っとらんで?」


 一瞬耳を疑う。ラフェルの言葉こそ驚くべきことだった。


「感覚や。身体に染み込ませることで感覚として覚えとるねん」

「お前が言うとなんか気持ち悪い」

「酷すぎん?」


 だが、感覚として覚える…俺にはそちらが向いてそうだ。


「…でもそっちなら俺もできるかもしれない」

「やろやろ?」


 やはり、強くなるには実戦をこなすしかない。


「…俺さ、慣れるまでこっちくるよ」

「ホンマか?」


 ラフェルはなぜか嬉しそうな顔になる。


「いや、野郎共だけで華が無かったし、人手も不足しとったから、ありがたいわぁ」

「後者はいいとして、華ってどういう意味だよ」

「まぁ、慣れるまでは俺がついて行ったるから」


 ラフェルはさらりと流し、爽やかな微笑みを浮かべる。


「明日からはセレンについていくことにするよ」

「えぇー?」


 俺の言葉でラフェルは不満そうに頬を膨らませる。


「んじゃ、俺の特訓に付き合えよな」


 俺は先ほど言われた通り、赤外線探知を使って敵を探し進む。


「はいよー…」


 げんなりした顔のラフェルは渋々ついてくる。

 遠くで梟の鳴き声が聞こえる。




 翌朝。

 …身体の節々が痛い。全身が筋肉痛だ。


 あのあと張りきって30もの妖魔を倒した(もちろんラフェルのナビ付きで)。

 ノルマは50だったので達成できなかったが、なんとなく戦いのコツがつかめた気がする。…言葉にすると思い出せないが。


 ドアをノックする音。


「カムラン、そろそろ行かない?」


 アクアの声だ。


「あぁ、今行くから少し待ってくれ」


 鞄に荷物を詰め、ドアを開ける。


「あれ、今日カムラン髪跳ねてないね」

「いつも跳ねてるような言い方すんなよな」


 否定できないので、苦笑いしか出てこない。


「…そういや、サリエルは?」

「先に行っちゃってたみたいで、部屋にはいなかったよ」

「あいつにしては珍しいな」


-いつものサリエルなら俺たちを待ってくれているんだが…


「まぁいいや、じゃ行こうぜ」


 学校に行くことにした。



 16の椅子には1つの席を除き、それぞれ人間が座っていた。


「今から『臨時会』を開く」


 感情のない若い男の声が伽藍に響く。

 臨時といっても、この前欠けた戦力のことだろう。


「全員周知のように、氷の(カン)がつい先日死んだ」


 敢えて“亡くなった”とは言わない。俺たちに絆とかいうつながりはない。あるのはただ搾取しようとする各々の思惑と、筆頭であるイディオへの畏怖。

 一番奥の玉座に、王のように頬杖をついて座っているのがイディオだ。

 今話しているのはそのイディオの右腕的存在のレベルソ。


「今から総掛かりで、その後釜を探す。候補があれば逐一俺に伝えろ」


 返事はない。イディオの許可がなければ喋ることすら許されないのだ。


「以上だ。解散」


 解散の合図で全員が席を立つ。そのまま一言も喋ることなく会議室を出ていく。

 フィリに捕まらないように出かけることにした。


-そうだな、久々に母校とやらに戻ってみるか。



 学校での授業、今までは苦痛だった座学も、昨日の特訓のおかげかすんなり頭に入った。


 今日の授業が終わってアンナ先生に呼び出され、大量の宿題を出された。

 寮に帰ってもやる気が出ず、学習室の机の前で惚けていた。


「うわ、もしかしてそれ全部宿題?」


 アクアとサリエルがやってくる。


「普段の授業態度がよろしくないので、特別に出しますだってよ」


 プリントの束を今日中に終わらせろ、と言われた。


「今日中にやんなきゃなんねぇんだ、手伝ってくんね?」

「あぁ、いくらでも教えよう」


 サリエルも手伝ってくれるのなら、心強い。

 プリント冊子を開く。


-問一。魔族の16種族を4つの級に分類しなさい。


 …一問目から思い出せない。少なくとも俺たち火の魔族は希少種に入らなかったはずだ。


「どうした?早速わからないのか?」


 図星を突かれ、肩が跳ねる。


「これなんだけど、全然思い出せねぇ」

「あぁ、これは希少な順に第一希少種、第二希少種、第三希少種、通常種に分けるんだ」

「いや、それはわかるんだけどさ、どれがどれとか思い出せないんだ」


 俺の学力は大絶滅しているからな。


「それは教科書を見ろ」

「教えてくんないのかよっ!」


 すると、サリエルは真剣な表情になる。


「教科書に載っている事柄までも私が教えるわけにはいかない。基本中の基本は自分で調べること」

「うえぇ…」


 渋々教科書を取り出す。裏の索引から希少種の項目を引っ張り出す。


「第一希少種は時の魔族と命の魔族か…」


 命の魔族で思い出す。確かフェイドのアホ…いや校長先生も命の魔族だったな。


「第二希少種は無の魔族、空の魔族、物の魔族だな」


 セレンたち空の魔族は第二希少種か、覚えておこう。


「第三希少種…音の魔族に光の魔族、闇の魔族、血の魔族か」


 音の魔族…ラフェルとスミレ先生が頭に浮かぶ。爽やか系男子(?)が多い気がする。


「んで、残りが通常種な」

「できたじゃないか」


 サリエルが褒めてくれる。


「いや、結局教科書見ちまったし…」

「それも勉強のうちだ」


 次の問題に移ることにした。


-問ニ、魔器を必要とせず魔法を使える者を何と呼ぶか答えよ。


「なぁ、魔器ないと魔法撃てないだろ?これ間違ってるぞ」

「それも教科書に載ってる」


 また教科書か、さっき片付けたばかりなのに…

 これは日が変わっても終わりそうにない。



-問三五〇、特異体質でありながら悪魔を生み出す魔族をなんと呼ぶか答えよ。


 とうとう最後の問題だ。わからないので教科書を開く。


「特異体質で悪魔を生み出す…」


 特異体質と聞き、ふと兄貴が頭に浮かぶ。兄貴も魔器を使わずに魔法を使える特異体質だった。

 問題の答えは一〇三四(ページ)に載っていた。


「なるほど、堕神か…」


 不吉な言葉だ。堕神など死ぬまでに一度も関わりたくない。

 サリエルがその言葉を聞き、少し思考を巡らせる。


「そういえば先生方の話を偶然聞いたのだが、聖魔軍が氷の堕神を倒したそうだ」

「そりゃすげぇ、これで少しは平和になるな」


 聖魔軍とは、俺たちが卒業後聖魔になったら所属する軍だ。


「あぁ、私たちも先人達に負けないよう、力をつけなければな」


 サリエルも嬉しそうに微笑む。これで妖魔の被害が少しでも減ればいいのだが。


「付き合ってくれてありがとな、おかげで宿題が全部終わったよ」

「私は何もしてないさ」


 宿題を終わらせる爽快感は何年ぶりだろうか。


「もうすぐ朝だが、寝ることにしよう」


 サリエルが欠伸をする。開放感と眠気が襲ってくる。


「そうだな」


 俺も寝ることにした。


 寝床につく。同時に起床のチャイムがなる。

 …結局一睡もできなかった。



「おい、大丈夫か?」


 隣の席のセレンの声で我に帰る。どうやら眠気に襲われていたようだ。

 前ではスミレ先生による戦闘術についての講義があっている。


「今夜の特訓、行けそうにないなら休め」


 セレンが小声で告げてくる。


「いや、大丈夫だ」


 正直、頭を動かすより体を動かす方がいい。


「そうか、無理はするなよ」

「わかってる」


 頭を授業に切り替える。


「お、もうすぐ授業が終わるね、じゃそろそろ切り上げよっか」


 スミレ先生は板書するのをやめる。

 その時だった。上の階から爆音が(とどろ)く。一気に全員の顔に緊張が走る。


「スミレ先生!」


 廊下から先生を呼ぶ声が聞こえる。少しして教室の扉が開き、先輩らしき生徒が入ってくる。


「レヴァント君、これはどういう騒ぎかな?」

「やっちまったんです、彼が暴走してます!」


 それを聞くと、スミレ先生の顔に緊張が走る。


「全員、この教室で待機してて、俺は理事長を呼んでくる」


 そう言い、スミレ先生は教室を出て行った。


「…暴走?」

「何かあったんですかぁ?」


 教室が騒然とする中、ラフェルの表情は楽しそうだった。


「なぁ、偵察に行かへん?」

「バカか、出るなと言われただろう」


 セレンが却下する。だがラフェルは引き下がりそうにない。


「やったら一人でも行くし、俺そんなヤワやないねん」

「はぁ…バカに付き合うのは疲れる。お前を一人にするわけにもいかないしな」


 セレンは仕方なさそうに承諾する。


「カムラン、お前も付いてきてくれ。どうも嫌な予感がする」


 俺も行かなければならないようだ。


「…アクア、サリエル、悪いが俺も行く」


 一言2人に詫びておく。2人とも納得いかなそうだったが、渋々承諾してくれた。

 教室を出る。



 廊下はまるで冬のように寒い。

 ラフェルは相変わらずヘッドフォンをつけ、音楽を聞きながら鼻歌を歌っている。


「…お前ら、寒くないのかよ…」


 俺は火の魔族なので、寒さにめっきり弱い。


「俺は平気だ。このアホは知らんがな」

「アホはないやろ!アホは!」


 …聞こえていたようだ。


「それで、震源地はどこだ?」

「2-1っぽいわ」


 ラフェルがそう言うと、セレンは空間の穴を作る。


「何があるかわからない。戦闘態勢はとっておけ」


 セレンの忠告で、俺たちはそれぞれ魔器を構える。

 空間の穴をくぐる。

 そこは一面氷の銀世界だった。


「ここが2-1か?」

「いや、ここはまだ階段の近くだ。いきなり戦地突入は危なすぎるからな」


 ラフェルは近くの氷の壁を触っている。


「魔力の純度パネェわ、こんなのと()るんやったら死ぬで?」

「言い出したのはお前だろ」


 ラフェルに言葉の杭を刺しておく。


「否定はできんさかいな」

「とにかく進むぞ。ラフェル、先導を頼む」

「はいよー」


 ラフェルはヘッドフォンをつけたまま、音響探知で先を探る。


「2-1に人が1人おるわ」

「おそらくそいつが、先輩の言っていたコアトルって奴だ」


 ラフェルを先頭に、俺たち3人は辺りを警戒しつつ進む。

 床も凍りついていて、油断すると滑りそうだ。

 50m進んだところで、ラフェルが静止の合図を送る。


「…どうした?」

「…前から、誰か来る」


 ラフェルの表情に緊張が走る。俺たちもそれぞれの魔器を構える。かすかに足音が響く。


「…」


 警戒しながら進む。向こう側から現れたのは、うちの学校の制服を着た黄緑の髪の青年だった。


「お、ロアガ先輩やん」

「ラフェル?お前なんでここに?」


 …知り合いだろうか?ここの生徒らしいが…


「なんかでかい物音がしたもんでなー」


 ロアガ先輩とやらは険しい顔になる。


「…クラスメイトが大変なことになっていてな、力を貸してくれると助かるんだが…」


 先ほどのコアトルとかいう生徒のことだろうか。


「そのつもりだ」


 セレンが承諾する。


「…ラフェルのお友達ってんなら、腕は確かなんだろうな」


 ロアガ先輩と目が合う。右目を跨ぐように傷跡があった。


「そこらの妖魔なら100匹は倒せるぜ」

「…わかった、行くとしよう」


 先輩に案内され、2-1へ向かうことになった。


-五話に続く-

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