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片想い

作者: アガサ9

無理だってわかっても、つい視線が追ってしまう。

声を聴いただけで幸せで、顔が見れないと、辛い。



どうして叶わないとわかっていても恋をしてしまうんだろう。


あの人の瞳は私を見ていない。


1人の人間として認識してくれているかどうか。それすら怪しい。


髪型を変えたり、化粧をしたりするのは確かに可愛くなれるんだろうけど、私にはちょっと違って。



あの人の目に映らなきゃ意味がない。。


ぼんやりと日々を歩いていた。あの人のことを想いながら。



いつも耳をすませていた。声を聞き逃すことのないように。



気持ち悪いと思われるのが怖くて足早に通り過ぎた靴箱に、確かにあの人が学校(ここ)に存在してるって確認するだけでドキドキした。



「ねぇ、カンナ、いいこと教えてあげようか?」



相手のことを深く知りもしないでくるくると一喜一憂する私に、友達のアユが微笑んで教えてくれた。



「先輩、昼休みの後の一時間、天気のいい日はサボって屋上にいるらしいよ?こっそり行ってみたら?」



ガチガチに身体は固まったけど、心の奥底に薄く引かれた期待に、私は一歩踏み出していた。欲張りな片想い。



「髪、やったげる」



笑ったアユはうまく知り合いになれるといいねっていつもギチギチに三つ編みをしている髪を解いて、頭の上だけゆるい編み込みにしてくれた。


おかしなところがないか風が吹くたびに心配になる。

でも、でもでも、せめて、名前くらい、は。


知ってほしい、私、のこと。



ギイ、と想いが後押しして扉が開いた。



オドオドしないように、一歩、一歩ゆっくり踏み出す。


いた!!?



ガランとした屋上のベンチの上。顔に本を乗せて眠る姿。

あ、あの人?かな。

さらさらと風になびく茶色の髪。


どうしよう?どうしたら


でも起こしたりしたら嫌われちゃうかもしれない。し、初対面でそんな、、


今ならまじまじと彼のことが見つめられる。


磨り減った上履き。制服から覗く紺の靴下。




「なんかよう?」



ハッとした時、彼は眠そうに本の下から私を見ていた。



「あ、あの、き、」


「き?」


初めて絡みあった視線に顔にどんどん熱が集まっていくのがわかった。


「きもちよさそうだ、なぁって」


言うと、彼は眉を寄せてこちらを見ていた瞳を緩ませてふっと笑った。



「まーね、君も昼寝にきたの?あっちのベンチ空いてるよ」


言うと、また本を乗せてベンチに寝そべる。


ギクシャクと手足を動かして、私はなんとか開いたベンチに腰掛けた。


く、口を利いてくれた。話してもらった。。。



彼が何度も告白されていることを知っていた。

そして誰にも首を縦に振らないことも。

そんな自分に安堵し、呆れていた。きっと外の高校に彼女がいるんだ。

絶望と期待。



いつの間にか、昼寝を続ける本人を目の前にして私の目からは涙がこぼれ落ちていた。

欲しい、欲しい、この人の声が、優しい眼差しが。


私のどこにこんな感情が眠っていたんだろう。

はたはたとコンクリートに涙が落ち、乾いていく。


あなたが欲しいんです。あなたのそばにいたいんです。


神話ならこのまま花にでもなって、彼のことを見つめ続けられるのに。生きている私は、とても醜い。



肩を震わせながら静かに涙を拭っていると、ふいに影がさした。

見上げると、困り顔の彼が立っている。



「ダイジョーブ?なんか、おれ邪魔したのかも?一人で泣きたかった?」



私は首を振った。あなたのことが好きすぎて涙が止まらないんですなんて、我ながら気持ち悪すぎる。


「好きな人が、私をみてくれなく、て。辛くて」


「あー、恋愛なのね。恋する乙女ちゃんだったんだ」


気持ちのいい風が、髪と火照った顔を冷やしてくれる。涙の後の奇妙な落ち着き。



「人を好きになるってとてもくるしいんです」


「そうかぁー。そうねぇ。俺にもそんな頃あったかなあ? でもさ、人を好きになれるってなかなかできることじゃないからさ、好きになれただけで幸せじゃね?」



頷くと、ニコッと綺麗に笑ってくれた。

見惚れる。



「泣いた分だけ女の子は綺麗になるんだってさ。いっぱい泣いて、ふったやつ後悔させるくらい綺麗になんなよ」


頭を撫でられた。


その感触ごと信じられなくて。



「じゃね、」



そう言って颯爽と出て行った。彼。



屋上の昼寝人は罪つくりだ。



次はどうやって彼に近づいたらいいんだろう?



撫でられた額を押さえたまま、私は固まっていた。




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