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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

カイトウの過去(セカイカイトウ番外編)

作者: ナマコ

これはスチュアール·カイトウの過去を描いた物語です。


カルロス市工業団地近く。その頃のカイトウは成績優秀で正義感が強い事で有名だったが、逆にそれが原因で学校では苛められてしまっていた。

「お~い!カイトウ~!」 路地裏で時間を潰しているカイトウに一人の少年が駆け付けて来た。

「…何?ライアン、学校ならもう行かないって言ったはずだけど。」

「へっへっへっ…そう言うと思って、ほら!」 ライアンの手には、二枚の『ブワフル美術館宝物展』のチケットが握られていた。

「明日、一緒に行かないか?父さんが招待券貰ったからさ~。」

余りにもライアンの期待の眼差しが眩し過ぎて、断る理由が思い浮かばなくなる。

(仕方が無い…。)

「うん、行こうか。」

「やったぜ~!」

喜びで跳ねるライアンの金髪がグシャグシャになってしまう。

「じゃあ、明日の朝七時な!」

「はぁ?なんでそんなに早いの?」

確か開場が九時だった筈。ライアンの家からでも二十分で着く。「だって、早く行けば宝を運搬する仕事が見られんじゃんか~!」

さすがは仕事好きななだけある。何故か趣味がおかしい上に、勉強は全くしない。

(それなのに学年三位なんだよな…)

「ん?なんか言った?」「いや、何も…。」

やがて夕日が沈み、ライアンと別れた。



翌日、七時にライアンの家の入口で待っていると、白いシャツと黒いハーフパンツに身を包んだ彼が出て来た。準正装である。

「…お待たせ。」

「どうしたの?その格好。」

「母さんに着せられたんだ!…ううぅ。」

どうやら本人の意図で着た訳ではない様で、こちらから見ては面白い。

「いいから行こうぜ!時間に遅れるだろ!」

と言っても開場まで後二時間もあるのだが、いつも断っていたので今回ばかりは言う事を聞くとしよう。

「うん。」


暫く歩いて十分程で大きな交差点の前に出た。一応この辺りには商店街やビル、繁華街といった建物が多く、この市の中心地となっていて、この道を右に進むと国立ブワフル美術館に到着する。

「むぅ~、信号がなかなか青にならない。」

「交通量が多いからね。仕方が無いよ。」

やっと信号が青になると、彼は突然周りに目もくれず走り出してしまった。

「向こうの歩道まで競争だ!ひゃっほー!」

「!? 待ってライアン!いきなり走ったら…。」

「その手には乗らないぞ!へっへっ~ん!」

前を見ずに走っている彼に、左方向から大型トラックが迫って来た。運転手を見ると、ハンドルに寄り掛かって寝ているではないか!このままでは彼が危ない!

「危ない!ライアン左を見て!」

自分の足では、彼に追いつけない。早く気付いて!

「しょうがないなぁ~。どれどれ…」

彼が左を見た瞬間、目の前までトラックが迫っていた。

「う、うわあぁっ!!?」

自分は思わず目を瞑った。直後に聞こえたのは、衝突音と何かが落下した音。

その後、余りの怖さに自分は気を失ってしまった。



気が付いたら、自分は近くの病院のベッドの上に横たわっていた。

(ライアン…!!)

隣のベッドには、頭と身体に包帯を巻き付けた彼の姿があり、傍らには母親と父親が話しかけている。

「ライアン!?一体…。」

「カイトウが…助けてくれた。だから…死ななかった。」

母親がこちらを向き、「ありがとう」と何回も言ったが、息子を救えなかったのに、何故お礼を言われなきゃいけないんだと心が痛む。



翌日、ライアンは静かに息を引き取った。結局、自分には何も出来なかった。ただただ親友が弱っていくのを見ていただけだ。

(すまない、ライアン)

それから五年間、彼の墓には毎日、大好きだったマーガレットの花が置かれていたのだった――――。

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