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Story Teller  作者: 冬耶心
第一幕
8/34

Same

「クレイン!!」


「イリス…。」


クレインを追いかけたイリスは、丁度船尾で追い付いた。心なしかクレインの表情にも陰りが見える。


「ライトの気持ち…わからない訳じゃ、ない…よね。」


イリスはこんなときどういう言葉をかけたらいいか解らなかった。普段明るいクレインは、今はため息をついて海を見ている。今まで兄とライトしかしらなかった彼女にとって、クレインという存在とどう接すればいいのか、悩んでいたそうだ。


「怖かったよ、俺は…あいつが。」

「怖い…?」

「あんな強いやつ、誰が止めるんだって。今まで俺があいつを支えてるつもりだったけど…あのときばかりは無理だと思った。…なのに、誰だよあの男…。」


悔しさを露にしたクレインの、柵に置いた拳は、震えていた。イリスはその拳にそっと手を添える。


「…イリス?」

「ライトが辛いとき、悲しいとき、いつも…こうしてた。…ライトはそんな顔を私には見せないけれど、私には解る。でも…今、クレインにもこうしてあげたいなって思ったの。」


こんな状況でも微笑む彼女を不覚にも美しいと思ってしまったクレインは、その目を見返すことは出来なかった。


「イリス、お前にとってライトはただの騎士か?」


「…いいえ。」


それ以上の言葉は、聞けなかった。








「初めて人を失ったか。」


ライトは力なく頷く。


「あの感覚は、どうだった?」


ライトは答えない。ただ膝の上で掌を見つめていた。


「愉しかっただろう?」


あぁ、クレインにもそう言われた。そう思うと頬の痛みが増した。


「しょうがないさ、それが普通の反応だ。」


お前に何が解る。

そう言いたい気持ちだったが、同じ髪と瞳を持つ男に反論する気にもなれなかった。


「…俺は、誰だ?」

「そのうちわかる。その力の制御もすぐに出来るようになるさ。」


ベッドの縁に腰を掛けているライトと、その目の前に立ちはだかる男。この男がどうやってここに現れたのかはライトには解らなかった。


「…強くなれ、ライト。」

「ヤマト…。」

「本名を伝えていなかったな。

ヤマト・レイカー・クロウレスだ。」


フルネームを聞いたとき何故かライトは意識の深淵が疼く感覚を覚えた。


「もっと強くなれる。お前より強いやつなんて居ないくらい。」


不思議とその言葉はすんなりとライトの心にしみ込んだ。


「同じ…なのか?俺と…お前は。」

「同じ…とは違うな。俺とお前は根本的に違う。…が、表面的には同じだ。」


感情を汲み取れない無表情の男。だがライトにとってはそのくらいが心地よかった。


「エルフの里に行けばいい。そうすればお前のことも少しは解るかもな。いいか?お前はもう立ち止まれない。進むしかないんだよ。」


最後の言葉は戒めに聞こえたそうだ。


「ラグナガンを出してくれ。」


言われた通りにラグナガンを具現化する。するとヤマトは持ち手の部分の4つの穴の一つに黒い石を嵌めた。


「ダークマターだ。これを嵌めている以上はさっきみたいな力の暴走は起きない。ちゃんとあの力を制御出来る。」

「…石に選ばれた人間なら、一緒に来るのか?」


というより来てほしいと思った。自分のことを知っていて、いざとなったら止めることの出来るヤマト。そしてもっとこの男を知りたいと思った。


「…いや、しばらくはまだ同行しない。」

「なぜ?」

「必要なときは現れるさ。」

「答えになっていない。」

「俺から言えるのは…。」


その時船室の扉が開いた。入ってきたのはクレインだ。


「…っヤマト、ライトに何した?」


なぜクレインがヤマトをみた瞬間に敵意を剥き出しにしたのかはこの時は誰も知らない。ただ一つの可能性だけをヤマトは汲み取って出ていこうとする。ライトは名を呼んで引き留めるが、あのときと同じで首だけ振り替える。


「力を恐れるな。」


相変わらず感情のない顔、声。


「…ありがとう、ヤマト。」



Same



ライトがそれだけいうと、微かに笑みを浮かべてその場から消えた。残されたのはライトとクレインだけだ。いつもと違う、気まずい空気を感じる。


「…ごめん、シュウ。」


そういえば、クレインは頭をがしがし掻いた後、ライトを抱きしめた。それは大切な物を守るような抱擁であった。


「ったく…心配ばっかかけさせんじゃねぇよ、シオン。」

「あれは…効いた。」


赤くなった頬をクレインは一撫でする。昔からいつもそうだった、ライトが壊れそうなときはクレインが優しかった。それはなにより、イリスに対して吐けない弱音を全てクレインが背負ってきたからだ。その姿はまるで、解り合った男女の逢瀬の姿であった。



シャルは、港町に着く前に、海に静かに沈めた。

彼女らは涙を流さなかった。



隣の大陸の港町、ポートレイトに船が着いた。


「…あ、あの。」


そこで、彼らに声をかける少年がいた。年としてはシャルと同じくらいであり、その目はライトに向けられていた。イリスは不安そうな顔でライトをみると、ライトの顔も少しこわばっていた。


「さっきは助けてくれてありがとうごさまいました!」


ぺこりと頭を下げる少年。恐らく同じ船に乗っていたのだろう。なぜかその姿はシャルに重なった。エルフの耳は持っていないが、緑色のおかっぱ頭の少年は目を輝かせ興奮した面持ちでライトたちを見ていた。


「お兄さんの持つその剣は、聖剣ですよね?!」

「…あ、あぁ。」

「僕も一緒につれていってください!!」


「断る!!!」


少年の申し出を、コンマ1秒も掛けずに断るライト。シャルを失ったことから、子供を同行させることには非常な抵抗を感じていたからだという。 するとライトを制するようにクレインが前に出た。


「どうして、着いてきたいんだ?」

「僕…強くなりたいんです!」

「坊主、名前は?」

「シャルロット・フィアリスです。」


その名前を聴いた途端ライトは歩き始める。


「ライト!」


イリスがひきとめると、ライトは顔だけ振り返って少年を見た。


「付いてくるなら好きにしろ。ただ…強くなりたいというなら俺たちは守らない、それでもいいな?」


冷たい言葉だったが、イリスとクレインにはその理由が解ってしまった。そして同行を許可した理由も。


「はい!!」


シャルロットは勢いよく返事をする。


「…残りの一人を探して、取り敢えずエルフの里に向かおうと思う。…行くぞ、イリス、クレイン…シャル。」


この時ライトは、何が何でも守り通すと心に誓っていたそうだ。港町で装備品を整え、その日は宿を取ることにした。

一つの部屋に4人が泊まるというスタイルは、イリスにとっては初めての体験。不謹慎ながら少し楽しみにしていた。

それぞれがベッドに腰掛け中心を向いて向かい合っていた。


「シャルは、何が得意なんだ?一人で大陸を巡ってたんだろ?」


幼いこの少年は、物心付いた時には親と離ればであり、親を探しているという。

そして一人で世界を巡り、大陸を渡ろうとした。


「一応、魔法を使えます、クレインさん。」

「攻撃型の魔法を使えるなんてすげーのな!才能あんだなー。」


魔法を使うためには、体力のほかに精神力でもある魔力を消耗する。

長期戦には向かないが、攻撃魔法はサポート役としては強大な力だ。

クレインがそういうと、シャルは照れたように笑った。


「とはいえ…過信はしすぎないことだ」


釘を刺すように、ライトは言った。油断が引き起こす事の重大さを、重々解っていたからだ。そう言うと、シャルは素直に頷いた。

ほどなくして、全員が眠りについた。



がたがた


ごそごそ



妙な物音がして、クレインは薄眼を開ける。

銀色の影が、ライトの上に跨って、胸元を漁っている。恰好は軽装で、なんと表現すればいいのか…。

クレインの脳内はその瞬間に覚醒した。


「盗賊…!!」


飛び起きて、銃を構える。


「にゃっ…」


銃を構えられた銀髪は、驚いた声を出すも、すぐに何かを納得したような顔になる。


「あはは~、やっぱりお前たちが光の戦士…なんだな~

でも、ホントにそうだとしたら、この状況はちょっと不利かな…っと!」


俊敏な動きでライトから離れると、そのままベランダの方へジャンプした。なんと身軽な奴だ。

銀の短髪が月の光を浴びて輝く。無駄のない所作、なんて綺麗な体躯。


「…って、そんなこと考えてる場合じゃねぇっての!!」


クレインは盗賊を追いかけて同じように窓から外に飛び出した。

2階からの飛び降りは着地に衝撃がないわけではないが、そこは簡単に風の魔法を操って衝撃を和らげる。


「外に出たからには、容赦しねぇぞ…!」

「なー!流石にやるなぁ…でも、僕には追いつかせないよ~う!」


盗賊の片手にあるガーネットを、クレインは逃すわけにはいかない。しかし一方で気になるのは、なぜライトはあの状況で目を覚まさなかったのか、ということ。


「それがどんなモンだが解ってて盗んだのか?」

「あったりまえ!これで僕たちの…!!うにゃ!!」


クレインは攻撃態勢を和らげた。

その盗賊の後ろから忍び寄り、ガーネットを奪い返して一瞬で奴を押し倒した者がいたからだ。


「これは…返してもらう。」

「おせぇよ、ライト。」


ガーネットを具現化することで現れるラグナガンとは別に、常に腰に差している短剣を盗賊の首元に突きつける。


「にゃー…これまでかー…。」

「お前は…何者だ?」


そうライトが尋ねると、するするとライトの捕縛をすり抜け、奴は立ち上がった。銀の短髪、黒のTシャツにジーンズのショートパンツ、月明かりに照らされたその仁王立ちの姿は紛れもない女の姿だった。


「そう聞かれては名乗らない訳にはいかないよね!僕は、リーナ・プリシラ!以後、よろしく!」

「よろしく…って言われてもなぁ。ライトに夜這いを掛けた相手をどうしろってんだよ。」

「ツレないなぁ~クレイン・シュウ・アレルバニア騎士団長!」

「な…!俺の事…!」

「こっちは、ライト・シオン・カーウェイ親衛隊長、で、同行してるのはイリス・サクラ・レイティア…お姫様。」


ライトは腕を組んで一瞬思考する。


「よく調べたな。…で、それをどうする?」

「噂通りの冷静っぷりだなぁ~好きだよ僕、そういう人!

そうだな~君たちはとんでもめんどくさい奴らから狙われてる…そういうやつらに情報売るのも悪くないかな~」

「売り込みは大変だと思うぞ。相手が相手だからな。」

「そーいうのは僕上手いからさ!」


潮を含んだ風が通り過ぎる。

ライトの黒髪が揺れる。急いで来たのだろう、普段一つに結っている髪を今は降ろしている。


相変わらず、様になる立ち姿だ。


それは、初対面のリーナですら感じていたという。


「そうか…じゃあ売ればいい。」

「にゃ!それは自分たちを危険に晒す行為じゃないの~?」

「構わない、乗り越えるからな。」


その台詞にクレインは頼もしさを感じた。過剰な自信ではない、それは「当然の台詞」

だが絶対ではない。

そうやって、自らを危険に晒して、強くなろうともしている。


「聞いてた以上にストイックなのねーライト・カーウェイ。」

「あぁ、そうでもしないと、鈍るからな。…リーナ・プリシラ。」

「よし!決めた!!」


ビシっとリーナはライトを指さした。その顔には満面の笑みが浮かんでいる。


「僕を連れていけ!」

「断る。」


これは今日の昼間にも見た会話だな…と人知れずクレインは笑いをこらえていた。

だが今度のライトは本当に連れて行く気がないようだ。


「なんでだよ~。」

「盗賊と一緒に行けるか。…少なくともお前は、これを狙ったんだ。…信用できない仲間はいらない。」

「そんな~…僕にだって…」

「理由云々は問わない。…今のお前は、連れて行かない。情報は売るなりなんなり好きにすればいい。」


それだけ言い放つと、踵を返して宿の方に向かって行った。

リーナは追いかけようとはしない。追い打ちをかけようとも。

クレインはライトの後を追った。



翌朝、4人でポートレイトを出ようとしたところで、再びリーナと遭遇して追い払ったのはまた別の話。


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