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Story Teller  作者: 冬耶心
第四幕
34/34

Disparity

「…で、なんでライトはそんな楽しそうな訳?」

「ライトのやり方さぁー…もう完全に教官なわけ!あれは化け物!」

「本当のカーウェイ隊長はもっと怖いよ?」

「…想像できないな。」


夜、宛がわれた部屋に訪れたのはリーナとヤマト。本当はリーナの隠密の術で壁を越えてくる予定だったが、警備が厳しかったのでヤマトに頼み、テレポートで易々侵入したのだ。




Disparity




「とりあえずクレインの騎士服は渡しておくよ。俺のは…渡してもサイズ合わないよな。」

「あぁ、受け取ろう。…シオンは細いからな、俺では着れない。」


ライトはヤマトにクレインの騎士服を手渡す。たった一日離れていただけなのに、何故か随分久しぶりのような感じがしていた。

ライトは同時に、自分の誇り高き騎士服をヤマトが着る姿を想像してみるが、それはそれで似合いそうだと思う。


「で、ここはどうなの?やっぱりヤバイの?」

「…差別意識を嫌う領主に、差別意識しか見受けられない親衛隊達…あと…。」


リーナの問いに答えたライトはリンに目配せをする。それを受け取ったリンは、めんどくさそうに口を開いた。


「彼女は…シェリアは…俺の幼馴染みだよ。10年ちょっと前、エルフ狩りに遭った。」

「嘘…じゃあ…。」

「そ、多分犯人はカール・ラスマン。まぁ、買っただけかもしれないけどね。」


イリスは口許を両手で覆い、目を見開いた。テッタからの事前情報が合ったことでカールの事は警戒していた。しかしイリスは半日ほどずっとカールと共にいて、そんな悪行を働いている様には見えなかった。


「…シェリアの様子は…普通じゃなかった。」


リンは遠い日を思い出す、幼い頃のシェリアはもっと明るくて”あんな男”に飼い慣らされるような人ではない。だが、あれから10年も経っているのだ。変わってしまったのかもしれないという不安もないわけではない。


「…確かにここは妙に魔力の濃度が高い。…そして、闇も濃い。」


ヤマトはその言葉と同時にライトの顔を見た。目が合うと、真面目な顔でライトも頷く。何故かそのやり取りが懐かしく心地いい。


「もう少し探ってみないとね…。」

「イリスも気を付けてよ?…狙われる確率は一番高いんだからね?」

「ありがとう、リーナ。」

「何かあればタナトスが守るだろう。…そう不安に思うことはない。」


ヤマトの言葉にイリスは驚いて顔を見る。気付けば皆がヤマトの顔を見ていた。


「…なんだ。」

「意外だなぁ…と思って。ありがとう、ヤマト。」

「…シオンのため、だからな。」


気のせいかもしれないが、恥ずかしそうに目をそらしたヤマトの態度に、皆は笑った。


最低限の情報交換の後、あまりに長居をして万が一この招かざる客の存在が露呈しても困るので、リーナとヤマトはクレイン達のもとへ戻った。

リーナとヤマトがテレポートで消えた後、イリスと寝るのかリンと寝るのか選択を迫られたライトが辟易したが結局イリスと同室に寝ることになったのはまた別の話。


翌朝から、ライトはイスト達の部隊に本格的に指導をつけた。基礎訓練を徹底的に教え込み、それぞれの特性が見えてきた頃合いだ。


「イストは、その剣にこだわりがあるのか?」


重たそうに振るっていたその剣。明らかに小柄な女性には不向きなそれを頑なにイストは使っていた。


「…はい、5年前に死んだ兄の形見です。」

「なるほど…。本当は得意な武器はなんだ?」

「ダガーの二刀流をずっと使ってました。」


それを聞いてライトは考える。このまま重たい武器だけを使っていても強くはなれない。だが、彼女には体力と腕力はそこそこ備わっていた。


「じゃあ、まず使い方を変えるって言うのはどうだ?その大剣は、一撃必殺の大技、それ以外は小回りの効くダガーを使う。指揮官なら、そこそこ自由に動き回れて、重たい一撃があるほうが、便利なことも多い。」

「一撃…必殺?」


ライトは大剣を借りて、剣先を地面に斜めに向けて腰を落とす。剣先まで集中してパワーを上げる為に力を込め、しっかり足で踏み込み、そのまま斜めに振り上げる。振り上げた衝撃波が飛び、それは目標とした大きな岩にぶつかって岩を砕いた。


「体の動きと、力を込めるタイミングさえ合えばイストにもすぐ出来るようになるだろう。」


そういった具合で目についた隊員には次々に個々に合った指導を施していく。リンも同様で、気付けば二人の前には行列が出来るほど指導を乞うものが沢山いた。


一方イリスは、カールと共にすることが多かった。時に国の情勢などの情報交換を行い、時に優雅なティータイムを過ごす。


「所で、英雄を探していると言っていましたね。」

「えぇ、レイティア王国解放のために。」

「見つかりましたか?」

「…いえ、まだ。」

「この地方は、10年前の戦役の最後の場所があるので、英雄伝説には明るいのですが、私はあんまり信じていませんね。」

「戦役の最後の場所、ですか…?」


カールはテーブルの上に地図を開き、ある場所を指差す。そこはウォルタレスとサハンを遮る山脈の付近で、ラスマン領からはやや距離のあり、ある領地を示す記号が載っていた。


「10年前、この領地は消滅しました。魔王に支配され、それを打ち払うために英雄が放った力が、領地ごと消し去りましたよ。…まぁ元々大きな領地ではなく、住民の大半は避難させていたそうですが。」

「そんな力が…。」

「まぁ、人一人…とりわけ魔力の高い英雄を完全に死なせる大技だと聞いていますから、領地毎消えても驚きません。」


イリスはなるべく顔に出てしまわないように、セインを想った。そしてライトがこの話を聞いたらどう思うのだろうと不安になる。もしもレイティアでその力を発揮すれば、レイティアにどれだけ被害が出るのか、そんなことを考えて戦えなくなってしまわないだろうか。


「あの時私たちは思いました。英雄伝説にすがっていてはならないってね。魔王を消し去って仮初めの平和が訪れたその裏に、沢山の犠牲があるんですから。」

「では、どうやって国を守っていくおつもりですか?」

「勿論魔物に対しては警戒を強めます。あとは…ウォルタレスは昔からサハンとは仲が悪い。もしもぶつかるようなことがあれば…争いも辞さない覚悟で軍を育てていますよ。そのくらいはどの国もやっている。レイティアの軍事力も相当な物だと聞いていますしね。」

「…ちなみに、10年前の英雄の名前は覚えていますか?」


イリスはレイティアの軍事力に関しては言及したくなかったそうだ。確かにレイティアの軍事力は4大国の中でも一番だという自負はある。

だがそれは、他国と戦争をするための力ではない。魔物から国を守るための力だ。それはそれで現状が本末転倒なのだが、それを変えるために今こうして旅をしている。


「確か…カーウェイという名前を持っていたというのは記憶しています。サハン王家の血筋がカーウェイの名前を持っているので、もしかするとそこにいるかもしれませんね。あの国は基本的に自国のことしか考えない。」


確かに始まりの英雄もサハンの王だったことから、可能性は考えてはいたが、カールの情報はとても興味深いと考えて、イリスはふと横にいるシェリアの顔を見た。

暗い瞳、夢も希望も無いような、そんな瞳をしている。


「とても興味深い話ですね。…ところで、シェリアさんはいつから此処にいるんですか?」


シェリアがゆっくりとイリスの瞳をみる。口を開こうとするが、言葉が発せられる事はなかった。


「10年くらい前ですね。…孤児だったんですよ、彼女は。それを私が拾って育てた。…それが、何か?」


カールの笑みはスッと消え、これ以上触れる事を拒む態度を見せる。


「お気に障ったなら、謝ります。…ただ、仲睦まじい姿が羨ましくて。」

「貴女と騎士も…繋がっています。」


その時のシェリアの一言は、機械的に紡がれた物ではなく、感情を感じたそうだ。

まるで何かを羨ましがるような、望郷の気持ちのような、そんな感情が少しだけ垣間見えた。


「確かに、ただの姫と騎士という関係ではなさそうですね。」

「ライトとは、幼いときから一緒でしたので、家族のような存在ですよ。」

「リース様のようなお美しい方とずっと一緒だというのは、羨ましい限りです。」


カールの浮かべた笑みが今までになく妙に厭らしく、イリスは顔色を変えないように配慮する。一国の姫として沢山の人々と会ってきたイリスにとっては、このくらいはどうということではない。ただそれでも、身の毛のよだつ嫌悪感は初めてであった。

慌ててイリスは話題を変える。


「…少し、街を見てみたいのですが、宜しいですか?」

「街、ですか?…構いませんが、カイラスに案内させましょう。」




ライトは午前の指導に一段落つけ、後のことをリンに頼みイリスと合流して、街の様子を見に出掛けた。

案内役はカイラスで、3人だけで街を見て回る。

来たときと同様、街の住人は兵士を避けるようにして、細々と生活しているようだった。


「この領地には、女性は少ないのですか?…あまり外にいらっしゃらないようなので。」

「…いえ、皆家の中にいるのでしょう。」


カイラスは気まずそうに目を逸らして答える。ライトはその様子を見て、一か八かの賭けにでた。


「平民出身の白の部隊は…死地に送られる、という噂を聞きましたが、それは偶然ですか?」


ライトの言葉にカイラスの瞳孔が開く。


「…それ以上は踏み込まれない方が、いいかと。」

「私は、死地でも死なない力を着けさせてやりたいと思っています。例え短い教導期間だとしても。」

「…もし、それができるなら…そうしてやってください。」


カイラスは小さく頭を下げる素振りをした。カールとカイラスの関係は兄弟である以上は知らなかったが、もしかすると現状を良しとして居ない人物なのかもしれないという予感だけは強くした。

そして、この場所はやはりどこか可笑しいという確信をライトは持つこととなる。




夕刻、本国ウォルタレスから帰国したサウザーはその光景に目を疑った。

訓練所に居るはずのない顔が二つ。だがサウザーには見覚えがあった、一人は数日前港で出会ったクレインという男の一行の中に居た赤毛であるし、その横でフードを目深に被っているもう一人は、あのエルフの男の格好そのものだ。


「…ノース、あれはどういうことだ?!」

「あぁ、戻ったのかい、サウザー。」

「…あの者達は何だと聞いている!」

「うちの部隊の教官達だよ。とても優秀だし強い。」


それだけ聞いて、サウザーはずかずかと豪勢な鎧を鳴らして領主の元へ急いだ。


「…何、あの男が…?」

「えぇ、自分はこの目で見ております。…あの男は、エルフです。」

「…なるほど…。何かと怪しいと思っては居たが…。そう言うことなら、仕掛けようか。」

「御意。」


その日の夕食も、ライトはイスト達と摂っていた。


「ライトさんのお陰で、おれだいぶ強くなれた気がしてます!ライトさんは剣術だけじゃなくて、体術も凄いっすね!」


声高らかに、握りこぶしを作って自信を見せるのはダイ。

ダイの武器はその拳と身体で、強大な一撃を放つことも、身軽に敵の懐に入っていくことも出来る。


「ダイ、あまり調子に乗るな。」


そうやって諌めるミトスは魔法を得意とする軍師だ。

魔力総量は英雄達に比べるとそう多くはないが、機転の利く頭で副隊長のイストに的確なアドバイスができる。


「…明日の模擬戦も、もしかしたら…って思うんです。」

「模擬戦?」

「はい、明日はウェスさんたちの部隊と模擬戦があります。

でも…過去の歴史を見ても今までセカンド部隊が勝てたことは無いんです。」


自嘲の笑みを浮かべるイストに対して、ライトは鋭い表情を向ける。


「指揮官がそれでは、部下は浮かばれないぞ。」

「そ、そうですよね…すみません…。」

「確かにウェスの部隊は力はある。…多少傲っている所はあるが、力は確かだ。だが、同じくらいかそれ以上の力をお前達も持っている。…ただ、決定的に足りないものがあるな。」


ダイはそれがさっぱりわからない様子で、イストは答えを考え、ミトスは真っ直ぐにライトを見据えていた。


「…自信、ですか?」

「正解だ、ミトス。…良くも悪くも、ウェスの部隊は自信に満ちている。差なんてそれだけだよ。…ただ、勝てると思ってるやつらを崩すのは、結構簡単だったりする。」

「…なるほど、考えてみます。」

「期待している。」


3人の目にほんの少し希望が宿ったところで、ライトは席を離れた。より具体的なアドバイスをしても良かったが、それでは教導の意味が無くなってしまう。

きっと上手くやるだろうという信頼はライトの中にも宿っていた。





思いの外全てが滞りなく過ぎていたその日の夜、リンは一人部屋の中で妙な音を耳にする。

鈴のような音が一定の感覚で「チリン…チリン…」と耳に飛び込んできた。

ドア一枚隔てた場所にいるライトやイリスに動く気配はないし、もしかしたら聞こえていないのかもしれない。

リンは半ば衝動的にこっそりと部屋を抜け出し、音の鳴る方向へ進んでいった。


広い敷地で、どの道をどう歩いたのかリンは覚えていない。

音に誘われるがまま、無意識にたどり着いたその場所は、恐らく領主邸を挟んだ訓練所の真反対だ。

高い壁の下に一棟、大きくはない石造りの長方形の建物があった。

その建物にたった一つだけある扉の前に、緑の長い髪が月の光に輝く美しいエルフがいた。


「…シェリー。」


リンがその愛称で呼ぶと頑なだったシェリアの瞳が揺らぐのが解る。

やはり、カールの側に居るときは暗い瞳をして、まるで本人の意思がそこに無いような表情であったのは見間違いではないのだ。


「…俺の事、覚えてないの?」


リンはフードを外して右手を彼女に見せた。

薬指、そこに嵌まる守りの指輪は幼き日の思い出。彼女の右手薬指にもそれはまだ残っていた。


「…リ、ン…?」


感情の籠ったその声は、記憶の中の声よりも大人になっている。

リンはシェリアに一歩近づくが、唐突に建物の影から現れてシェリアの肩に触れてを一歩後ろに下がらせた男に敵意を向けた。


「やはり君は…エルフか。」

「…あんたは彼女に何をした。」

「シェリアにただならぬ感情を抱いているようだね。…だが、生憎彼女を手放すわけにはいかない。」

「シェリアに何をしたんだって聞いてるんだ!」


カールはやれやれと言った様子で肩を竦める。武器は持っていない、この場でこの男と戦ってシェリアを取り戻すという手段もリンの頭に過る。


「止めておけ。私は戦うのは苦手だが魔法は得意なんだ。」

「その色…俺たちの嫌いな色だね。」


カールの右手から溢れる魔力の波動の色は黒。基本的に闇魔法を得意とすることが伺える。


「そうやって、シェリアも操ってるわけ?」

「魔力の高いものほど精神魔法には掛かりにくいが…子供の頃から続けていると効き続けるものだね。」


リンは衝動的にカールに掴み掛かるが、涼しい顔をこの男は崩さない。


「君もシェリアと共に居たければ、私に力を貸せ。」

「俺が今手を貸す理由がある?力ずくでシェリーを奪い返す事だって不可能じゃない。」

「さてそれを君に出来るのかな?」


闇系統の魔法は精神を操作するような魔法ばかりではない。当然攻撃魔法も力に特化した強いものだ。

カールが力を籠めると、黒い輪のような物がシェリアの身体を拘束するして、その輪を黒い雷撃が走る。


「っ…!あぁっ…!!」


「やめろ!!」


リンは苦しむシェリアのその顔を見て思わず叫んだ。真っ暗な夜の闇に、その声は良く響く。


「言っただろう?魔法は得意なんだ。…こういうやり方は君を直接攻撃するより、よほど効果的だね。」

「……力を貸すから、シェリーを傷つけるな。」

「そう言ってくれると思ったよ。私もシェリアの綺麗な身体にあまり傷はつけたくないんだ。」

「で…何を企んでんの。」

「私はね、君たちの姫君も欲しくて堪らない。あんな美女に私は出会ったことがない。だが…その為にはあの騎士が邪魔だ。」

「…ライトは一筋縄じゃ崩れないよ?」

「そうだ。対抗できるのは仲間である君くらいだろう?君がどの程度あのライトという騎士を慕っているのかは知らないが、シェリアと天秤にかければどちらの方が大切だい?」


厭らしい笑みだと思った。

今のリンにとって一番大切なものはシェリアだ。だが、ライト達を裏切って勝てる見込みなど自分にはない。ライトの強さを誰よりも知っているのは自分達ではないか。


許してくれるかな、ライトは。

案外裏切り者には容赦ないかもしれない。ライトにとってイリスに仇なす者は、味方であろうが、敵だ。

けれどライトは英雄で、強い光の力を持っている。

炎を打ち消すのが水のように、水を力に変えて出力を倍にするのが雷のように、闇を打ち消す事が出来るのは光だけだ。


ライトは闇に埋まる俺たちを、助けてくれるかな。


「俺にとっての一番の目的は、シェリーだ。」

「契約成立だ。」

「何すればいい?」

「とりあえずあのライトという男を罠にはめる。明後日だ。シェリーの事は守ってもらうよ。」


その作戦がどの程度効果があるのかは、リンには判断がつかなかった。

どんな状況であったとしても、ライトは恐らく切り抜けるし、クレインやヤマトだっているのだ。


「罠って?」

「大量の魔物を呼び寄せるのさ。まぁ、楽しみに待っていてくれ。

…ただ、一応君の事は拘束させてもらう。」


リンは手足こそ自由だったものの、目の前の無機質な建物の中に放り込まれた。

そこは部屋がいくつか別れていて、最低限の生活領域が確保された家のようで、中には沢山の女性達がいた。


「…あぁ、彼女らのことなら好きにしたまえ。」

「これは…どういう…?」

「想像に任せるよ。」


バタンと扉を閉じられて、シェリーとはまた離されてしまう。中にいた沢山の女性達の年齢は幅広く、10代くらいの若い子から、40代くらいの女性までいる。


「あぁ…テッタくんが言ってたのは、こういうこと、ね…。」


リンは女性を見ると黙っていられないタチだったが、今回ばかりはここの人達がただただ哀れに思えた。恐らくこれはカールの精神魔法で洗脳をされていて、人質の役割を果たしているのだろう。エルフのリンを見て騒ぎ立てることもしなければ、ただ黙々とそこで”生活”をしている。しかしこれは人として生活を送っていると本当に言えるのだろうか。


「…今、テッタって、言いました?」


一人の若い女の子が声を掛けてきた。彼女はまだこの中で理性を保っている方で、完全な洗脳状態にはないのかもしれない。


「君は?」

「テッタの姉のサリアです。テッタは無事ですか?お兄さんは…どうして?」

「あー…うん、まぁ話せば長くなるんだけど。」


かくかくしかじか

理由を説明するとサリアは少年の無茶に驚きながらも、安全だと聞いて安堵していた。


「…それで、その…会えませんか?」

「無理だよ。こんな状態じゃ。君の母親だって洗脳されちゃってんでしょ?」

「せめてその、仲間の方に…。」


「無理無理、だって俺、今裏切ってるから。」


少女はとても悲しい瞳をしていた。

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