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Story Teller  作者: 冬耶心
第四幕
31/34

Voice

「騎士さまかっこいい~!」

「クレイン騎士団長もかっこいいな!!」

「ヤマト様もかっこいい!!」


近頃通りすぎる人が不思議がるくらい子供達が増えていた。

そのなかでもずっと聞いてくれている二人の兄妹。

英雄達の冒険譚が大好きな少年と、

騎士ライトに憧れる少女。

少女は、最初こそ戦闘種族に恐れを抱いていたものの最近ヤマトの事も気になるらしい。


「あぁ、皆強くなっているんだ。

仲間を信頼しあって、連携を取って。」


「ねぇ、次は?次はどうなるの??」


新しい冒険に、少年の目はキラキラ輝いている。

これから話すお話は、今までとは少し違う戦いになる。




Voice




少年の助けを求める声に、大人たちは誰も振り返りはしなかった。

だが、英雄たちはそれを放っておくわけにはいかなかった。

それに、この街の状況などなにも解らないのだから、切っ掛けはいくらでもほしかったのだ。


「僕、どうしたの?」


こういうときはイリスの出番である。

優しい笑顔で、少年と目線を合わせて尋ねる。


「…おれの話を、聞いてくれるのか?」


少年の年はシャルと同じくらいに見えた。

決して綺麗な身形ではないが、イリスの顔を見て泣きそうな顔をしている。


「お名前は?」

「…テッタ。」

「どこから来たの?」

「…ウォルタレスの…ラスマン領。」

「テッタくんが話したい、話ってなぁに?」


涙を堪えた少年テッタの顔が、みるみる内に怒りを含んだ表情に変わっていく。

悔しさを滲ませ、拳を固く握っている。


「おれの母ちゃんも、姉ちゃんも、領主サマのところに行ったきり帰ってこないんだ…!!」


その小さな叫びに、ライトたちは顔を見合わせた。

周囲は商人や船乗り達で賑やかな声が響き渡り、平和な街に見えている。


「帰ってこないって、どういうこと?」

「…税金ってのが、高いからって…母ちゃんたちが話してるのは聞いたんだ。」


イリスの問に自信なさげにだんだん小さくなる声で答えるテッタ。

そのやり取りを誰かに見られているような気配を感じたクレインは少し話題を変えた。


「…その、ラスマン領っていうのはどうやっていけるんだ?」


クレインがイリスと同じように目線を合わせて尋ねる。


「ここから街道を通ってすぐのところに、ウォルタレスがあるんだ。

…そこから、南に街道を少し行ったところにラスマン領があるよ。」

「街道が整備されているのか?」

「…うん、しかもそこはラスマン領の部隊が魔物を定期的に狩ってるから、結構安全なんだ。」


安全な街道。

それを守っているラスマン領の領主。


「うーん、それだけ聞いてると、その領主サマってのは、なにか悪いことしてるのかなぁ?」


背丈が同じくらいのリーナが、クレインの脇から少年と向かい合って聞くと、テッタの顔はまた怒りに満ちた。


「あいつは…!!」


「君たち、こんな道の真ん中で何の話をしているんだい?」


テッタが怒りに任せて言葉を発しようとした瞬間、その後ろからテッタの両肩に手を置き豪勢な装備を纏った男が現れる。

クレインが先ほど感じた気配は恐らくこれだった。

ハイデルブルクの騎士団とはまた違うが、その身形は騎士団風に見える。

髪は明るく長い金髪で風に靡かせ嫌らしい笑顔を浮かべるその姿に、ライトとクレインは同じ騎士として嫌悪感を抱く。

権威と悪意に満ちた、嫌いなタイプの騎士であることを感じ取ったそうだ。


「いや、俺たちはつい先程ここについたばかりなんだ。

そこでこの少年にこの街の道案内をしてもらおうと思ってただけさ。」


クレインはその騎士風の男に対面して笑顔で答えた。


「着いたばかり…?航路は魔物で塞がれているし、見たことない顔だな。」

「その航路の魔物を俺たちが倒して、フォートからここまで来たんだ。」

「…なるほど、我々を手こずらせてきた魔物を倒したとは…さぞ腕が立つんだな。」


ハイデルブルクで意図せず魔物退治をしたときは、大層感激され歓迎されたが、ここではどうやら違うようだ。

嫌みの籠った声色で、クレインを睨み付けている。


「…俺はクレイン。あなたは見たところ…騎士なのか?」

「いかにも!私がラスマン領の護衛隊第一大隊隊長サウザーだ。」


噛みそうな肩書きだな。

と、第一大隊隊長など大層な肩書きを噛まずに偉そうに言い放つサウザーに抱いたクレインの感想は淡白なものだった。

そしてサウザーに抱かれる敵意のような空気に、クレインはため息を一つ吐く。


「で、サウザーさん、俺らに何か用なの?もういい?」

「…エルフ…?」


横から口を挟んだリンをみて、サウザーはより怪訝な表情を向ける。

大陸を一つ越えたこの場所でエルフという存在は珍しいはずだが、サウザーの表情はまるで…。


「ははーん、サウザーさんはエルフ嫌いって奴?」

「…ふん、エルフなど呪われた種族だ!…見た目は美しいがな。」


吐き捨てるようにサウザーは言うと、踵を返して豪勢な装備を見せびらかせるようにドカドカと歩いて去っていった。

その言葉の応酬にシャルは不安そうにリンを見上げるが、その表情は一切変わっていない。


「エルフってのはそういう種族だよ。」


シャルの目線を受け取ってリンは、前を見たまま表情を変えずに言う。


「強い魔力を持っている特別な存在。…そして、基本的には里に籠っている。

気味悪がれてとーぜんでしょ?それにここは、大陸も違うから特に。」

「だが、子供は人気らしいな。」

「そ、子供は基本的に無害だし、見た目が可愛いからね。」


ライトが自身の守りの指輪を触っているのを見て、リンは飄々とつかみどころのない笑顔を浮かべる。

本当にこの男は掴み所がない、だが珍しくその瞳が悲しそうに映る姿を仲間たちは見逃さなかった。


「ラスマン領…行く必要がありそうだな。」


ヤマトが呟くように言うと、他の仲間たちはお互い見合って頷く。

この時の彼らの胸中は、テッタの叫びを、聞き入れてあげたいという思いだけではない。


「嫌な予感がする」とそう小さく放ったライトの言葉と、それに強く同意するヤマトの意思の揺るがない瞳は仲間達に言い知れぬ不安感と正義感を植え付ける。

問題があるのなら、旅の道すがらそれを解決していきたいという思いで英雄たちは団結していたのだ。

それが、世界から闇を消そうとする自分達の使命と言わんばかりに。


「ここからラスマン領って、普通に行けるの?」


イリスはテッタに尋ねるが、テッタは首を横に振った。


「ラスマン領に入るには、入領証が必要なんだ。

おれたちみたいな住民は普通に持ってるけど、外から行くには…国王様の発行する証が必要だよ。」

「そっか…国王様…ってことは、まずはウォルタレスに行かなきゃ、ってことだね?」

「そうだけど…でも簡単に王様に会えっこないよ!」

「大丈夫大丈夫、私たちに任せて。」


イリスはウィンクしてテッタに笑顔で答えた。

テッタは「あり得ない」という顔をしていたが、渋々頷いてウォルタレスまでの道を案内してくれることとなった。


街を出るときの後ろから突き刺さる悪意の籠った視線を、ライトとヤマトは気付いたがここでは無視をした。


「凄い…こんなに綺麗に整備されてる道なんて、僕見たことないよ。」


街を出てすぐシャルは驚いてその足を止めた。

目の前に広がるのは、真っ白い石で綺麗に整備された道で、その少し遠く先にはウォルタレスの城が見えている。


「ボーッとしてたら置いてくよ、シャル。」


驚いているシャルの数歩先でリーナはからかうように言うが、その足が軽いところを見るとリーナも感激しているようだ。

しかし他の仲間たちも同様である。


「…これほどとはな。」

「アレルバニアとレイティアもこれくらいの街道を整備すれば、物流ももっと盛んになるだろうな。」

「森があるからねぇ、自然を壊すのはあんまり良くないかな?もっと良い方法があれば…。」


ライト、クレインそしてイリスはその街道を見て、何とかしてレイティアとアレルバニアを街道で繋げないかという話で持ちきりとなった。

そんな様子を他の4人とテッタは不思議そうに眺めている。


「なぁテッタくん。」

「何?えーっと…エルフのお兄さん。」

「リンだよ。…なぁ、テッタくんはエルフに会うのははじめてかい?」


いつもより少し真面目なその表情と口調。

テッタはその質問に「ううん」とあまり芳しくない表情で答えた。


「…領主さまのところに、一人…遣えてるよ。」

「…へぇ、いつから?」

「僕が生まれた頃に来たって聞いてるけど…。」

「テッタくんはいまいくつだ?」

「10だよ。」


スッとリンの目が鋭くなったから、それを見ていたライトは少々驚いた。


「男か女か、知ってるかな?」

「女の人だよ、すごく綺麗な。」

「っ…名前は?!」

「え、っと…確か………シェリアさん、だったかな…?」


「…そっか、ありがとな。」


いつも飄々と何を考えているのか解らないリンが、テッタの頭を撫でながらその瞳に儚げな炎を宿した瞬間をライトは見逃さない。

この男にも、生きる目的と戦う意味があったのだと思い知らされる。

そんな話をしながら大きな川に掛かる巨大な橋へと足を踏み入れる。

中間辺りまで差し掛かったところで、一番前を歩いていたライトは足を止めた。

そして静かに、ガーネットをラグナガンへ変えようとして思いとどまり、腰から普通の剣を抜く。


「ライト…?」


すぐ後ろにいたイリスは、いつもと違うライトの雰囲気に違和感を感じたが、クレインはライトに合わせて剣を抜いた。

その二人の行動に、イリスも納得が行ったように、二人の元を離れて他の仲間の近くに集まる。


「…この狭い場所で、二人に任せておけば大丈夫だ。」

「ねぇ、どうしたの?」

「テッタは、僕らから離れないようにね。」


ヤマトが皆の中心で武器を構える様子も見せずに、両腕を組んで立ち、シャルは疑問符を浮かべているテッタに優しく言った。

リンもリーナもイリスも、戦う素振りはまるで見せない。


「クレインは、後方を。」

「はいよ。」


その言葉にクレインは横に並ぶライトに背を向けて、仲間たちを間に挟む位置まで進んで、来た方向を向いて剣を構えた。


タイミングを見計らったかのように、下の川から魔物が飛び出してきた。

橋の上で自分達を挟み込むように、ライトとクレインの前にそれぞれ3匹ずつだ。


魚と人が融合したような、半魚人の魔物サハギンで、その手には槍のようなものを持っている。


「こんなところに…魔物なんて出るわけないよ!!」


テッタの足は震えていた。

その言葉から察するに、本当にここは魔物の殆どでない街道なのだろう。

そんなテッタの頭を撫でて、イリスは笑顔を向ける。


「大丈夫だよ、あの二人なら。」

「…でも…!」

「心配はいらない、ね?」


イリスのその言葉通り、3匹のサハギンに対してライトもクレインも一歩も退くこと無く対峙している。


しかし、いつも通りの優勢で、すぐに戦闘は終わるだろうと皆が思っていたとき、状況は変わった。


「…こいつら、まさか。」


ライトは妙な違和感を感じながら剣を持つ手に力を込める。

普段使っているラグナガンとは違う剣の感覚。いざというときのためにハイデルブルクで調達していた剣だ。


「いや、そんなはずは…。」


その剣で一匹を狙えば、他の二匹がさっと死角に回り込んでくる。

この狭い戦場で大規模な魔法は使えないし、派手な技も橋を壊しかねないから使えない。


「シールド」


強化魔法で物理的な防御力を上げる。

魔力を込めれば込めるほど固くなるその防御により、サハギンの槍など肉体に届かない。

その状態を維持して、一匹ずつ集中して斬りつける。

その斬撃は魔力に依存したものではないのに、鮮やかかつ、目にも止まらぬ早さだ。


クレインも似たような戦術を駆使して、さほど時間を掛けること無く、二人の戦いは終わっていた。


「変だな、この魔物。」


戦闘が終わり剣を鞘にしまったライトに声をかけたのはヤマト。


「…まるで謀ったように団体で行動してきた。そんな知能が魔物にあるわけはない。」


そう、先ほどのサハギン達の違和感はそれだった。

まるで知能のある魔物のような動きをするのだ。

しかし、魔族や魔王カルヴァスに操られているような動きとも少し異なっている。


「…何かが、おかしい。」


巨大な城を構えた水の王国、ウォルタレスへの入り口を前にして、ライトはこの国に満ち溢れた悪意の感情を感じ取っていた。

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