Magic
「ねぇ、魔導師の男の子は大丈夫だったの?」
外は少し肌寒いが、子供達は今日も元気だ。
楽しくて新しい旅立ちのはずが、また少し暗い話をしてしまったと老人は後悔していた。
だがそれもまた史実なので、変えようがない。
「…不安だったと思うよ。」
「お父さんもお母さんも居なくて?」
「いや、それよりも…」
仲間に見捨てられるんじゃないか
その方がきっと不安だったと思う、と老人は話した。
そうすると、少女は意気揚々と答えるのだった。
「騎士様はそんなことしないよ!」
少女の言うとおりなのだろう、と老人も確信したのはまだ先のお話の時だった。
Magic
ハイネスを出てからハイデルブルクまでの道のりはそう遠くは無かった。
寒さはあったが、アイカのお手製お弁当のお陰で、心までは寒くない。
その道中にシャルがライトから尋ねられたのは、相変わらず魔法の使い方だ。
「魔法を発動する以外に、自分の肉体強化にも使えるのか?」
「使えますよ、こう…思い描いたイメージの場所に、力を集める感じです。
脚力強化なら足にブーストを、防御強化なら身体全体にシェルを。
もちろん発動している間にも魔力は消費しますが…ライトさんなら問題ないです。」
「ね、シャル。それって私の魔力強化の技で更に強くすることは可能なの?」
脇から尋ねるイリスにも、シャルは頷いた。
「イリスさんのフルートの魔力強化は特別な能力です。でもそれがあれば、特に肉体強化の維持向上にはとても有効です。」
「そっかぁ…もっともっと私も魔法使えるようにならなきゃなぁ…」
イリスの魔法の知識は殆どこの旅の実践でしかない。
学問として魔法の知識はあっても、やはり力をつけるには実践経験が一番だ。
「そうか…ライトは元々魔力が無かったし、肉体強化なんて必要なかったから使うこと無かったんだな。」
魔法による肉体強化はクレインにとっては当たり前にやっていたことだ。
特に銃をメインで使うようになってからは、なるべく攻撃を避けるためにスピードや、万が一攻撃を受けたときの防御は重視している。
しかしクレインはふと思う。
かつては拮抗だった力も、今ではまるで敵わないのかもしれないと。
魔力で肉体強化され、戦闘種族の力も使われては、名実ともにライトは最強だ。
「まったく、ライトはどんだけ強くなるんだか。」
「俺らは完全にサポート役だな。」
クレインと同様遠距離からの攻撃を得意とするリンは笑いながらクレインの肩を叩いた。
リンは弓の名手で、近接戦はやや苦手だ。ただし、弓を引けば敵に確実に当て、敵の頭上から多数の矢を降らせたり、様々な魔力を込めた矢を放ったりとバリエーションは多彩である。
遠距離であればどんな敵でも引けはとらないアーチャーだ。
「…俺だって、近接戦が出来ない訳じゃないっての。」
明るくも少し嫉妬の籠った感情を露にしたクレイン。
「解ってる解ってる」とリンは相変わらず笑ったまま慰めた。
クレインは器用な男だ。
剣を使った近接戦闘、銃を使った遠距離からの支援戦闘、魔法のサポート。
個人で戦っても、団体で連携戦闘をしても、上手く立ち回りができる器用さを持っている。
ライトやヤマトのようにサポートよりも前衛で思いきり力を発揮できるアタッカータイプに比べて、かなり優秀なオールラウンダーだ。
だが、その分何かひとつに特化した特技はあまりない。
銃を持たせればかなり強い部類に入るのだが、アタッカーの強さには敵わない。
「クレインの強みはそのセンスだ。どんな状況でも冷静に対応できる。
…シオンと対抗する必要はないだろう。」
珍しいヤマトからの援護射撃に驚くが、クレインは知っている。
「…そんなアンタのセンスと戦闘力には誰でも敵わないけどな。」
ヤマトが使う武器はライトと同じような剣だが、ライトのそれよりも刀身は細くやや長い。
片手で振り抜く事も可能だが、大体支えで両手を使っている。
そこから出される一撃は、速く鋭い。並大抵の者なら回避は難しいだろう。
それでいて戦況の判断も一流だ。
基本的には敵を引き付けなぎ倒し、それでも抜かれれば中衛と後衛に指示も出す。
その指示は的確で、ヤマトが戦場にいて今のところ窮地はない。
「まーまー、結構バランス良くまとまってるんじゃない?」
仲裁したのはリーナだ。
リーナも両手で逆手に短剣をもって、戦場を縦横無尽に駆け巡りながら戦える。
魔法はそこまで得意ではないが、肉体強化と仲間の回復程度は出来る。状況に応じて前衛にも中衛にもなれるバランサータイプだ。
強いて言うならば防御面が低く、ダメージを受けないように戦うのがスタイルで、その戦闘は、非常に鮮やかである。
強い風が吹く。
シャルは、強い風で乱れてしまった魔導師が良く着ているフード付きのローブを着直す。
相変わらず外気は寒い。
その風が収まると、吹雪が少し収まり向こうに城らしきものが見えた。
「あれが…ハイデルブルク?」
ライトが呟くのも皆理解できた。
遠目に見てもその城は大きさが伺える。
その回りに広がるのは恐らく城下町だろう。そして立派な城壁に守られているように見える。
「レイティアもかなりの大国だけど…ハイデルブルクも大国だな。」
「関心ばかりはしていられない。…来る。」
ハイデルブルクまで広がる真っ白い平原。
ライト達はヤマトの言葉で瞬時に察知した。四方を囲まれていると。
そこに現れたのは白いスノーウルフ。
ウルフはどこにでもいるが、ここにいるウルフ達は雪の中で生きていく内に変異し、雪に対する耐性が強い。
まるで雪に擬態するような身体は俊敏で、雪に足を取られることなく走り回る。
むやみやたらと追い回しても、追い付けないような魔物だ。
「…使ってみるか、ブーストとやらを。」
ライトはスピードを求めて足へ魔力を集中させる。
すると、足が軽くなったようなふわりとした感覚で覆われる。
一歩踏み込んだ。
足の早いウルフを一匹視覚で捉える。普通に走り込んでギリギリ回避される間合いだろう。
しかし、踏み抜いた足から繰り出される一歩の速度は格段に上がっている。
その勢いに暫しライトも驚きながらも、剣を構えウルフの間合いに踏み込んで真っ二つに切り裂いた。
そのままの勢いで2匹目も同様の目に遭わせた。
ヤマトも似たような立ち位置でライトの背中側を守るようにウルフを蹴散らしていく。
「さすがライトはやるな。…けど、負けてらんねぇかならっと!」
ウルフたちが警戒心を全開にして向かって来ることに恐怖などない。
ライトの鮮やかな剣技を見て、クレインは気を引き締め直して銃を構える。
二丁を構え、精神を統一する。
クレインの明るい茶色の短髪が風に靡く。
クレインの回りには3匹居た。二丁で一発ずつ打てば、一匹余る。
それでは残った1匹から攻撃を食らってしまうだろう。
だがそれが普通のガンナーであれば、の話だ。
いつも通りの要領で、クレインは全身にシェルを掛け、特に両腕に魔力を集中させた。
クレインの腕は2本で3匹に向けて弾丸を乱れ撃った。
数秒後には、2丁の銃から僅かに立ち上る煙と、3匹のウルフの肉の塊が確認できた。
二人の背後ではイリスのフルートの音色が聞こえた。
その音色は彼らの肉体強化の魔法をより強化した。いい連携だ。
音色から放たれる音の塊のような物は、傷を負った仲間をすぐに回復させた。
そのイリスの背中側からはリンが弓を放っている。
魔力を込めて放つ矢は、一本から数本に枝分かれして、それぞれがウルフを射抜いた。
それだけで倒されなかったウルフを、リーナが近くに寄って切り裂く。
そして全員のサポートをしているのが魔導師のシャルだ。
皆が戦う中心で、回りを見つつ必要があれば魔法を撃ち込む。
ウルフたちに有効なのは炎系統の魔法で、ファイアーボールを狙い通りに撃った。
数十匹は居たであろうスノーウルフ達は、あっという間に殲滅されていた。
「ふぅ…全員無事か?」
ライトが全員に尋ねるが、皆怪我や傷も無く頷いた。イリスの回復スピードの早さもあるのだろう。
「貴様ら、何者だ!!」
新しい第三者の声。
一行が見れば、小綺麗な甲冑に包まれ、白銀の立派な剣を腰に掛け、いつでも抜刀出来るような体制を取っている男が居た。
その男は顎にやや豪勢な髭を蓄え、貫禄があった。
その男の後ろには、同じような格好をした男たちが数人居た。
ライトとクレインはこのような物達を良く知っている。
「…騎士団?」
「我らはハイデルブルク王立騎士団、某は騎士団長のジェイクだ。
貴様らは何者だ?スノーウルフ達はどうした?」
「私はライト・シオン・カーウェイと申します。
スノーウルフは先程襲いかかってきたので全て撃退しました。」
騎士らしく、左胸に右手を当て、少し腰を曲げた挨拶のライトに、ジェイクやその他の団員たちは驚いていた。
いや、態度に驚いたのではない、その名前に、だ。
「…カーウェイ…だと?それでは、こちらの方々はまさか…
レイティアの姫君に、アレルバニアの騎士団長か…?」
「ということはまさか、この方はクロウレスさんで、このエルフのお方も…」
ざわざわ
ざわざわ
「…ライト殿、つかぬことをお伺いするが、貴方の父君は…?」
「セイン。セイン・ライト・カーウェイです。」
その言葉に騎士団は更に湧いた。
「先程の無礼をお詫びいたします。…さぁ、城に招待いたします!!」
「…はぁ?」
ライトの気の抜けた言葉などお構いなしに、騎士団はライト達をハイデルブルクにつれていく。
「ちょ、これどういう状況?」
「…よく分からんな。」
リーナが横のヤマトに尋ねても、ため息混じりに返答が帰ってきた。
「ただ…ハイデルブルクに行けと言った親父の顔は、あまり芳しい物ではなかった。」
「それは、ここが危ないってこと?」
ヤマトは騎士団たちの顔を見回すが、皆が嬉々として浮かれている様子だ。
スノーウルフが倒されたからか、それとも、自分達が”英雄”だと解っているからだろうか。
どちらにせよ、悪い気配は感じないと確信があり、ヤマトは首を横に降る。
ヤマトのその行動を見て、リーナもそれなら安心、と言わんばかりに騎士団に付いていった。
あれよあれよと言う間に、ハイデルブルクの城門にたどり着いた。
「ジェイク騎士団長!お疲れさまです!!
…おや、そちらの方々は…?」
城門を警備していた騎士は、ジェイクの帰還に敬礼をもって迎えた。
「スノーウルフ達を狩った英雄だ。すぐにでも王城へ行きたい、手筈は?」
「英雄…!す、直ぐに整えます!!」
ジェイクはライト達を向き直ってこう言った。
「バタバタしておりまして、申し訳ありませんな。」
「いや…詳しくお聞きしても?」
ハイデルブルクの中は栄えていた。
石造りの家が所狭しと並び、中には宿屋や商店、武器屋などが立ち並んでいる。
城と居住区の間は少し離れており、そこは一本の橋で繋がっていた。
居住区の住民達はちらちらとライト達を見ては歓声をあげている。
ジェイク達が人気者なのか、それとも皆がセイン達を知っているが故、ライト達に反応しているのかは定かではない。
「先代のセイン殿は、仲間の英雄と共にこの城を訪れました。
その時はハイデルブルクの周りも危険が多く、そこをセイン殿一行が助けてくださいました。」
「…そうですか、父が…。」
「いやぁ、ライト殿はお父上に良く似ていらっしゃる!」
ふと父の姿を思い返してみれば、今の自分は同じ赤髪をしている。
この髪は雪国では目立つのだろう。
ライトは曖昧な笑顔で応えておいた。
城への橋を渡りきると、王への謁見の準備が進められた。
ライト達は謁見の控え室に通され、休憩を取ることとなる。
「準備が整い次第、また伺います。」
侍女がそう言い、部屋にはライト達一行と、世話役の侍女が二人となった。
「…ハイデルブルクの王と謁見するのに、この様な格好で大丈夫でしょうか…?」
イリスは、レイティアの姫としての顔でライトに尋ねた。
ライトやクレインも一国の騎士とはいえ、今は軽装であり、やや困り顔で回りを見渡す。
皆旅に相応しい軽装だ。
「国王はそのような些細なことは気にされませんよ。特に…あなた達には。」
部屋にいた侍女が柔らかい笑みを浮かべて言う。
「それに…セイン様たちがいらっしゃった時も、軽装でいらっしゃいましたよ。勿論…アイリス様も。」
「…お母様も…。なら、大丈夫…ですね。」
「あのさ~…僕たちマナーとか何にも知らないんだけど…?」
不安そうな声を上げたのはリーナだ。その言葉にシャルも横で頷き、リンも自信が無い、というように肩を竦めた。
「それも大丈夫です。いつもの通りで。」
その様な会話をしていると、ドアのノックの音が響く。
入ってきたのはジェイクで、謁見の準備が出来たという知らせだった。
「いやぁ、流石国王様。セイン様の御子息様がいらっしゃったと聞いて、急いで準備を整えて下さいました!」
「…寛大なご配慮、痛み入ります。」
仲間の眼から見てもイリスは、先ほどから姫だった。
いつもの無邪気な雰囲気はどこにもなく、レイティアの代表としてここにいるのだ、という風な堂々たる立ち振る舞いだ。
謁見の間に入る時には、自然と先頭がイリス。その一歩斜め後ろの左右にライトとクレイン、その一歩後ろに残りの全員という配置が出来ていた。
「国王様、女王様。セイン殿とアイリス殿の御子息女…ライト様とイリス様たちをお連れ致しました。」
謁見の間にふさわしい豪勢な両開きのドアが開かれた。
レイティアと同じような作りで、謁見の間には赤い絨毯が引いてあり、その先は一段高くなっており、そこに国王と女王が座っている。
国王は、豪勢な白髭を蓄え同じ色の髪をしており、優しそうな目であった。
横に座る女王は、手入れの行き届いた茶色の髪を後ろでまとめ上げており、サイドに垂れた髪は綺麗に巻いてある。少し気の強そうな女性だった。
イリスを先頭にした一行たちは、10歩程進み段差より数歩手前で止まった。
ライトとクレインはすかさず頭を少し下げた。後ろに立つ4人も同様の所作を真似る。
優雅にイリスが頭を下げる。
「お初にお目にかかります。
レイティア王国第一王女、イリス・サクラ・レイティアで御座います。
この度は突然の謁見、ご対応頂きまして誠に有難う御座います。」
「良い、皆頭を上げよ。長旅ご苦労であった。」
ライトが頭を上げたとき、ふと女王と目が合った。
なにやら女王の目が輝いているように見えるが、ライトは気付かないふりをした。
その視線にイリスは気付いたのか、少し言葉を強くして皆を紹介した。
「…ご紹介いたします。
こちらが、セイン様の御息女でありレイティア王国第一親衛隊隊長、ライト・シオン・カーウェイ。
そして、クライド様の御子息、アレルバニア王国騎士団長、クレイン・シュウ・アレルバニア。
アカギ様の御子息、ヤマト・レイカー・クロウレス。ミシャ様の御子息リン。
旅の道中行動を共にすることになりました、リーナとシャルです。」
頷きながら国王は話を聞いていたが、女王は驚いた顔をしている。
「…セイン様の、息子ではないの?」
「我が親衛隊の隊長は…女性に御座います。」
「はっ…恐れながらこのような出で立ちをさせて頂いておりますが…事実に相違は御座いません。また…兄弟もおりません。」
「そう…でも、あるいは貴女でも…」
残念そうな顔をしているが、なにやら女王は考え込んでしまった。
「止さないか。…セイン君は断ったであろう。」
「…あなただって、アイリスちゃんの娘さんに目を奪われている癖に?」
国王と女王というより、夫婦の会話に一同は着いて行けない。
「はっはっは、イリス殿はアイリス殿に似てお美しい。」
「…お褒め頂き光栄です。」
「あら、でもアカギ君の息子さんは…男の子よね?あの子も立派だわ。
それにクライド君の所のクレイン君も。」
突然名前を挙げられたヤマトもクレインもきょとんとしている。
一体これは何の状況なのだろうか、と。
ふとヤマトは父親の表情を思い出した。
まさか、10年前にもこのようなやり取りがあったのだろうか。
「ね、二人とも、うちの娘とか…どうかしら?」
「イリス君やライト君には、うちの息子もいいだろう。」
女王と国王がそれぞれ提案をしてきた。
「お言葉は有りがたいですが、私たちには世界を救う使命がありますので。」
このような場は慣れているのだろう。
イリスはさらりとその言葉を受け流す。
すると国王は豪快に笑い「やはり断られたか」とさも当然のように言う。
ならば提案しなければいいものの。
だが、親の代であるセインたちが相当気に入られていたという事実は、この先の話を有利に進められるだろう。
「さて、そなたらが今日来た目的はなんだ?やはり書庫か?」
聞けばこの国には巨大な書庫があるらしい。
世界の始まりを記した歴史本から、各国の歴史本、魔導書など数は数え切れないあるそうだ。
「…それも魅力的ですが、目的は二つです。
一つは、この周辺に魔力が集中している場所があるかどうか、そしてそこに立ち入ることが出来るか、
二つ目は…」
これは、イリスが事前にライトから耳打ちされていた質問であった。
「…10年ほど前、この国にフィアリスという研究者夫婦が居たはずです。
その者達に関する情報があれば…教えていただきたく思います。」
その言葉にシャルは驚いたが、この場の緊張感から身動きは出来なかった。
イリスたちは慣れているのかもしれないが、王との謁見など初めての事だ。
国王たちは、その名前を聞くと少し顔を曇らせたように見える。
「一つ目だが、この城の裏側の城門を出たところに、氷で出来た森がある。
何とも不思議な場所で、その森の最奥には、氷の湖があるらしい。
そこが非常に魔力濃度が高いという情報だ。…というのも、この目で見たことが無いので確定は出来ないが…調査報告によればそういうことになっている。」
「…そちらへの立ち入りの許可は?」
「勿論許可しよう。だが…魔力濃度が高いため、存在する魔物も凶暴な物が多いと聞いている。しっかり準備して行かれよ。」
何故そこへ立ち入りたいのか、それは聞かれなかった。
信頼されているのか、それとも理由を知っているのか。
「二つ目だが…
確かに10年以上前、フィアリス夫妻はこの国で魔法の研究をしていた。
彼らの研究のお陰で、詠唱を省略した形の魔法が発達し、魔法を使える者が格段に増えた。
だが…
それを快く思わない物たちが、戦役以降増えてしまった。
魔法による犯罪の所為でな。
勿論それは…ただの宛て付けに過ぎないことは解っていた故に、保護を申し出たのだが…。
彼らもおそらく罪の意識に苛まれていたのだろう、保護は要らぬと言って、この国を出てしまった。
…そこから先はあまり詳しくはない。しかし、何故彼らの事を?」
まさかここに縁故者が居ると知れば、国王たちはどう思うだろうか。だが、それはおそらくシャルは望まないだろう。
「道中のハイネスという村で彼らの事を知りました。
…少し理不尽な最期を遂げたようで、気になったのです。
彼らの研究所というのは残っているのでしょうか?」
イリスも建前が上手くなったものだな、とライトは内心感心する。
「研究所は解らぬが、彼らの残した書物なら全て、書庫の魔導部門に集めてある。希望されるならば、集めて後ほどお持ちしよう。」
「彼らの研究は私たちの旅にも役立ちそうですので…お願いいたします。」
「他は…よろしいか?」
笑顔でイリスは頷いた。
「お時間をお取りして、申し訳ありませんでした。」
「よい、今日は城内に部屋を用意しているので、そちらを使ってくれ。」
「あなた、あれを忘れていますわよ。」
女王が言うと、国王が思い出したように手を合わせて行った。
「本日はささやかながらパーティを行いたい。ぜひ参加してくれぬか。」
今しがた来たばかりの人間を招待するパーティを開ける等、準備に抜かりがない。
だが、今後の国同士の付き合いを考慮しても参加しない手はない。
「…はい、喜んで。」
イリスは姫としての顏で微笑むのだった。




