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Story Teller  作者: 冬耶心
第三幕
22/34

Snow

「新しい旅が始まるんだね!」


子供たちのわくわくした笑顔。

英雄の再起には興奮したようだった。


「そう、最初に向かったのは、一年中雪の降る大国、ハイデルブルク。」


この国はあまり雪が降らない。

雪と聞いて子供たちは、雪で遊びたいと夢を膨らませた。


「そこへ向かう途中に、ある村に立ち寄ったんだ。」



Snow



「寒い!」


声を発したのはリーナ。

それもそのはず、ハイデルブルクが近づくにつれ、回りは一面の銀世界となった。

最初はあまり見慣れない景色にはしゃいでいたのだが、こうも続くと寒さの方が勝ってしまう。


「イリス、寒さは大丈夫か?」

「うん、なんとか。クレインは平気なの?」

「俺は…まぁ。どんな状況でもちゃんと動けないと、騎士じゃないからな。」


いつも通りの笑顔を向けていた。


「こーも同じ景色が続いてっと、迷いそうだよな~」

「気を付けて進まないとですね、リンさん。…って、え?あれは…」

「どうしたんだ?坊主…ってあれはまさか、あれか?」


シャルが見た方向を、リンも見る。

そして指差して全員に言った。


「おーい、村っぽいのが見えるぞー。」


少し遠くに見える明かりの集合体。

広さからしても恐らく村だろう。

こんな寒い中野宿をする羽目にならずに済んだと、一同は安堵したようだ。


「今日はそこに泊まらせて貰うしかないな。」

「そうだな、シオン。」


人数が増えた一行は、自然と隊列が決まっていた。

前方を、リン、リーナ、シャル、

中間を、クレイン、イリス、

後方を、ライト、ヤマト、

だった。

戦闘となれば、後方の二人のどちらかがさっと前に出て、大体4人で代わる代わるに対応していた。

ライトはこの道中にも魔法を勉強していた。

炎系統が得意ではあるが、簡単な初級魔法は大体使えた方がいいということで、

クレインに雷系統を、イリスに回復系統を、リンに水系統を、ヤマトに闇系統を、それぞれ教わった。

詠唱の短縮方法や、発動の仕方やコツは、魔法に特化したシャルから教わった。

リーナは魔法の力を身体強化に使っているため、教えられることは無いと匙を投げた。


「そうだ、ライトさん。炎を固定化する事は出来そうですか?」

「固定…こんな感じか?」


右手に魔力を集中させ、魔法を放つのではなく、右手にとどまらせる。

暖かい炎が手のひら大の球体となって掌に乗る。


「暖かいよーライトー」


一際寒がっていたリーナはライトの側に寄り暖をとる。


「やっぱりライトさんは、コツを掴んだらすぐ出来ちゃいますね。」

「シャルの教え方が上手いんだよ。」


こんな風にライトに頼られることは、とても嬉しいことだった。

シャル自身も、このメンバーの中で役に立てている気持ちになる。


「僕には…魔法しか出来ることがないから。」

「そんなことないと思うけどなー。シャルはいつも勉強して、これから行くところがどんな所なのか、道はどうなっているのか、

そういうのを空いた時間にしっかりリサーチしてるじゃん?」

「リーナ…ありがとう。」


真顔でリーナに誉められれば、シャルは少し顔を赤らめてお礼を言う。

このパーティの中では子供達のやり取りにイリスは


「ふふ、二人ってほんとにお似合いだね。」


等と言っては微笑んだ。


「ちょっとー、イリスにそんなこと言われたくないんだけど~!」


リーナは仕返しをするように、両手を腰に当て、イリスとクレインを見比べて悪戯な笑みを浮かべた。


「ばっ、馬鹿なこと言ってないでさっさと行くぞ!ほら!」


クレインは照れ隠しをするように、ずんずん前に進んでいった。

「やるじゃないの、お嬢さん」とリンはリーナを小突いて言った。


「賑やかだな。」


そんな様子を見守っていたヤマトは呟いた。


「いいじゃないか、俺は…楽しい。」

「…そうだな、そう思う。」


普段無表情の仏頂面が、少し顔を綻ばせた姿を見て、ライトはすこし驚いたが、小さく笑顔で返した。

騎士のような立派な男性にも

しなやかさを持った凛々しい女性にも

どちらにも見える顔だった。



しばらく進んだ所で、目的の村に着いた。

雪に覆われた小さな村で、入り口には、ハイネス、と村の名前が標してあった。

民家が少し立ち並び、奥には宿らしき建物があり、店らしきものが回りに少しだけある。

雪のせいかあまり人は外に出ていないが、何人かの子供は走り回って遊び、大人達は買い物に向かったり、家の前で談笑をしていた。

寂れている訳ではないが、どこか悲しい雰囲気を感じさせる。


「おや…貴方達は外から来たのかね…?」


村にはいるときはライトが先頭になって入った。そしてそこで老人に声を掛けられた。


「あぁ、東の方から遙々。」

「お前さんは…珍しい姿をしておるのぅ。」

「…よく、言われます。」


銀世界に、赤い髪はよく映える。慣れない赤い髪を自分でも確認しながら答えた。


「ワシはハイネスの村長、ローグじゃ。お主は?」

「ライト・シオン・カーウェイです。」

「旅の途中かい?」

「はい、ハイデルブルクを目指しているのですが、ここからはまだ遠いですか?」

「ハイデルブルクか…さほど遠くはないが、今日はもう遅い。今から出発すれば、暗さと雪で途中で道を失うだろう。

今日はここへ滞在するとよい。」

「有難うございます。」

「旅のものは珍しいのでな、何もないがゆっくりしていっておくれ。」


そこまで言うと、ローグは改めてライトの後ろにいる一行を見た。

村長として、怪しいものではないか見定めているのだろう。

そこで、一人の少年を見つけてローグは表情を変えた。


「…お主は…!!」


その険しい表情に穏やかならざる物を感じたライトは一歩前に踏み出した。


「うちの仲間に何か?」

「…すまぬが、お主らをうちに泊めることはできぬ。帰ってくれ。」


急に態度を変え、踵を返して村に戻ろうとするローグ。何が何だかわからない状況であった。


「お待ちくださいませ、ローグ様。」


ライトが引き留めるより前に、ローグを引き留めたのはイリスだった。

振り返ったローグに丁寧なお辞儀をする姿は、私服ではあるが高貴さを感じさせる。

ローグも感じ取ったのだろう。


「私達は長い道すがらこの村へたどり着きました。どのようなご理由があってのことでしょう?」

「そなたは…?」

「私イリス・サクラ・レイティアと申します。東の大国、レイティア王国の王女でもあります。」

「…王女様がなぜこのような所へ…」

「英雄だからです。騎士ライトを始め、ここにいる者は世界を闇から救うためにどうしてもハイデルブルクに行かねばなりません。」

「ただ者ではないと思っていたが、騎士であったか、ライト殿。」


イリスの突然の言葉に、ライトは苦笑いを浮かべる。

例え小さな村とはいえ、身分を易々と明かすのはあまり得策とはいえない。だが今はこれしかない。


「英雄を突き返したとしては、私としても心苦しい。

しかし…そこの少年を入れるわけにはいかぬ。」

「え、僕…どうして…?」


シャルのまるで心当たりのない表情に、ローグは鼻で笑った。


「何も覚えておらぬか、忌み子よ。」


厳しい口調だった。


「ちょっとおじーさん、いきなり失礼じゃないの?」

「そうだな、いきなり少年にそんな言葉を投げ掛けるなんて、人格疑っちゃうよー?」


リーナとリンが少し表情に怒りを込めて言う。

老人は労るものだろうが、それは時と場合による。今は労る時ではない。


「ふん…アレが見えるか。」


ローグが指を指した村の奥の方に、寂れた廃屋があった。

屋根もなく、家だったのだろう枠組みはまるで燃えた後のように真っ黒になった建物だ。

それをみた瞬間、シャルは表情を強張らせた。すかさずクレインが、「大丈夫か?」と背中から声を掛けた。


「あ…あれ…」


リーナは以前聞いていた話を思い出した。

彼が殺したといっていた。


「シャル、もしかしてアレは…」

「僕が…やったのか…?」


「お主の魔法が突然爆発を起こした。8年ほど前の話だ。」


急激に記憶が回帰してくるのを感じた。

思い出したくない

嫌だ

怖い


「おいっ、シャル!」


クレインの言葉にライトは振り替えると、シャルが気を失い掛けていた。

背中からクレインが支えているが、もう立ってはいられないだろう。


「ローグ殿。」

「なんだ。」


「今日は仲間全員泊めさせてもらう。」


「無理だと言っておる。」


「子供一人を村の外に投げ出せというのか!」


白い世界にその声は響く。

村の中でこちらの様子をうかがっていた村人も一斉にライトをみている。


「脅すつもりか?このワシを。」

「あぁ、脅させていただこう。俺の仲間を忌み子呼ばわりしたんだ、そのくらいの事はさせてもらうぞ。」


意識が遠退いていく中、そんなライトの声が聞こえた。

こんな僕でも、仲間といってくれるのか…。

僕は…。


「私の騎士が無礼を失礼いたしました。ですが…私からもお願い申し上げます。」


丁寧な口調の奥には怒りを含ませているのがライトにはよく解った。

今この場で全員が怒りを抱いているのは火を見るより明らかだ。


「ご老人…あまり俺を怒らせるな。」


ヤマトですら、それは同じだった。

全員が武器すら構えそうな勢いに、ローグも折れた。ため息をついて、宿への道を明けた。


「その少年から目を離すな。また暴れられても困るのでな。」

「…例えシャルが暴れたって、俺たちでなんとかするから大丈夫だ。」


クレインがシャルを丁寧に抱えて、冷たい口調でいい放った。

一行は村からまっすぐ宿への道を歩いていく。

入り口でひと悶着あったのを見ていた村人達は警戒しているが、立ち振舞いの立派さには感服せざるを得ないという様子だった。


「…注目されちゃったね。」

「ま、あのくらいしょうがないよな。」


イリスがちょっと申し訳なさそうに言うと、クレインは笑顔で返した。


「しっかし、ヤマトが怒るとは心外だった。」


リンがからかうようにヤマトに言うと、ヤマトは目をそらした。


「…流石にあの物言いは、誰でも怒るだろう。シオンだって怒った位だ。」

「意外と騎士さんも短気だねぇ。」

「仲間のことになると見境ないの、ライトのいいところだと思うよ。」


イリスがフォローすれば、ライトも人差し指で頬を掻く。


「いらっしゃいませ!旅の方!」


そんな話をしていると、宿の中から出てきたポニーテールの女性に声を掛けられた。

ライト達自身歓迎されるとは微塵も思っていなかったので、その対応に驚く。

快活な挨拶で、もの悲しい雰囲気のこの村にはどうにも似つかわしかった。


「ほら、寒かったでしょ~入って入って!」


ドアを開け、中に促す。

広い宿ではないが、木造の宿で、入ってすぐの暖炉は暖かみがある。


「そんな意外そうな顔しないでよ。確かにお兄さん達目立ってたけど、久々のお客さんだもん。

ほら、上の部屋は全部空いてるから、好きなだけ使って。その少年を早く寝かせてあげなよ。」


彼女は歓迎してくれているが、宿の主人と女将らしき人はこちらに目すらむけない。


「私はアイカ!何か困ったことが合ったら何でも言ってよ。えーっと」

「ライトだ。…あとは、クレイン、イリス、ヤマト、リン、リーナ。…そして、シャルだ。」


シャルという名前を聞いて、なぜだか懐かしそうな表情を浮かべている。


「ね、君いくつなの?」

「15だよ!えーっと、リンさん!」

「わっかいねー、でも俺全然だいじょぶだから!」

「こらこら、何ナンパしてるんだよー。」


呆れたような口調でリーナが諌めると、ロビーの脇の階段を登ったところの二つの部屋を借りて、男女に別れて入ろうとする。

ちなみにこの場合、性別が発覚してからはライトは女性部屋だ。


「あれ、おにーさんこっちなの?」


部屋を案内していたアイカがライトに向けて言う。

ライトが苦笑いを浮かべ、イリスはアイカに向けて笑顔で言う。


「私たちのリーダーは、カッコいいけど女性なの。」

「えーーーーーー!見えないねー、残念。」


がくっと項垂れるアイカ


「俺はちゃんと男だから安心してねー」

「あはは、おにーさんも面白いね!」


「じゃ、ごゆっくり」とアイカはロビーへ戻っていった。なにやら主人達と話しているようだが、聞かないこととした。


女性部屋


「ふぅー、さーむかったねぇ。」


どさっと身体をベッドに沈み混ませるリーナ。

それにならってイリスもベッドに腰を下ろすが、ライトは部屋の奥の窓付近で腕を組んで立ち、外を見ていた。


「何が見えるの?」

「…雪と…さっきの建物だ。」


イリスとリーナは首だけ動かして外をみるが、見下ろさなければその景色は見えないのだろう。


「リーナは、何か聞いているのか?」

「世間話程度だけどね。」


リーナは以前シャルから聞いた重たい話を二人に話した。


「そっか…シャルも辛い思いしてたんだね。」

「記憶が無いって言ってたからたぶん、唐突に思い出したんだ。

けどね、何かしらきっかけがあったはずなんだ。だって、8年前ってシャルはほんとに小さい子供だよ?物心だってついてないはずだよ。

魔法の才能があったとしたって、そんな爆発を起こすような事になるかな?

僕はならないと思う。」


イリスとライトはその話に頷く。


「8年前というと、世界は戦乱後でまだ荒れていた時だね。

あまり覚えていないけれど、治安は良くなかったって母上から聞いてる。」

「そうだな…孤児も沢山居たし、犯罪も絶えなかったらしい。」

「ってことは、何らかの犯罪に巻き込まれた拍子にシャルの魔法が爆発を起こしたってこと?」


納得したようなしていないような、微妙な心持ちのまま、扉をノックする音で会話を止めた。


「クレイン、どうしたの?」

「シャルが目を覚ましたよ。ちょっと集まってくれ。」


一同が同じ部屋に集まる。

ベッドに腰かけたり、椅子に座ったり、立ったり、何となく立ち位置やポジションが決まってきている気がする。

中心にいたのはシャルだった。

青ざめた顔で、起きかけのままベッドに座っている。


「ごめんなさい、迷惑をかけて…」

「謝ることじゃないさ。」


泣きそうな顔で謝罪をする少年に言葉を掛けたのはライトだった。


「僕…まだあまり解っていないんだけど…」


ポツポツと過去の事を話し始めた。


生まれつき魔力が強かったこと

けれどあまり自覚がなくて、そのまま過ごしていたこと

ある日、何かをきっかけに魔法の爆発を起こしてしまい、あの建物と、両親を巻き込んで殺してしまったこと

そのあとすぐ、外の世界に投げ出され、戦乱孤児としてどこかの移動商人に拾われたこと


「そこから先も、あまり覚えていなくて…

気付いたときには一人で、家族を探して世界を回っていたんだ。」

「そんなに幼いときから…少年も大変だったのね。」


誰もがこの思いを抱いていた。


「魔力が大きくて、爆発事故を起こしたからって…そんな風に追い出さなくても…」

「何か他に理由があるに違いないよ!」


イリスの言葉に強く言葉をあげたのはリーナだった。

リーナ自身も、どうしてここまでシャルの事を庇うのか分からなかったそうだ。


「僕、この村を調べてくる。」

「…出来んのか?村人達は俺たちを警戒してる。」

「何いってんの?クレイン。

僕を誰だと思ってるのさ。」


その瞳は強かった。

シャルにとっては眩しすぎるほど、まっすぐで強い瞳。


「あと、ヤマトも手伝ってよね。ヤマトはそれほど目立ってないし、本能的にヤマトには人は逆らわないし。」

「…承知した。」


戦闘種族だと知らなくても、人々は自然と心の奥底で戦闘種族を恐れる。

自分の闇をみられるのは、誰だって怖いのだ。

もちろんライト達はそんな風には感じないが、それは彼らが強い証しでもある。


「リンは、村の女の人達から話聞けるでしょ?でもリンだけじゃ色々不安だから、ライトも付き合ってあげて。」

「リーナはこんな時でもそーゆー扱いするのね…」

「解った。」


「クレインとイリスとシャルは、ここで居残り!」


「俺も居残りなのか?」


「何かあったときにすぱっと二人を守れるクレインが居た方が、皆が安心して活動出来るでしょ。」


リーナらしい配慮だな、とクレインとイリス以外は笑みを浮かべずにいられなかった。

こうもあっさり仕切ってしまう所は、村のリーダーにふさわしい所だと、感動させられる。


そうして3人を残したまま、この村での情報収集が始まった。



「さてさて、どこから調査しますかね?ライト。」

「アイカは何かを知っている風だった。」

「そーね、でもそれは最後でいーんじゃない?」

「あの廃墟、あれから見に行こう。」


ライトとリンは、朽ち果てた廃墟の前に来た。

先程遠くから見たときは気づかなかったが、枯れかけた花が添えられている。


「これ、何で取り壊さないんだろうな…?」

「こーいうのを残す心理としては…戒め、後悔、懺悔。」

「この事件に何か負い目が合ったと言うのか?ここの人間は。」


ライトが訪ねれば、さぁ?と言う風に首を傾げるリン。

後悔や懺悔の念があるとすれば、なぜシャルを忌み子扱いしたのだろうか。


「大人ってのは頭も固い。一度追い払ったものが帰ってくれば、過去の過ちを思い出してまた避けようとする。」

「…今回はやけに真面目だな、リン。」

「んー。こういうのって、普通に腹立つっしょ?俺たち部外者が見れば。」

「…とはいえ、他人事ではないな。こういうことは、今の時代もどこでも起こりうるんだろう。」

「そーゆーこと。」


リンが何か気配を感じて振り返ると、少し遠くから花束を持った女性がこちらを見ていた。

リンと目が合えば、ぴくりと肩を震わせて、顔を強張らせた。


「ね、ここで起きた事…何か知ってるの?お姉さん。」

「え、あの…えと…」

「言いづらいことかもしれないが、教えてくれないだろうか?…仲間の、為なんだ。」


リンをみて警戒している女性に対して、横からライトが声を掛けた。

悲壮感を募らせたその表情は、どんな女性でもグラリと来る綺麗な顔だ。


「は、はい…!」


ズルい、ズルすぎる。

リンはかつてないほどの嫉妬の念に駆られた。そして心の中で叫んだ。



こいつは女だっての!



ヤマトとリーナは人目につかないように村の隅々を見て回った。

やはり忌み子と呼ばれただけあって、村中でその話題がされていることは一目瞭然だ。


「すごいね、ヤマト。僕の隠密活動に付いてこられるなんて。」

「…お前も、速いな。」


時に目に留まらぬ速さで走り、雪積もる木々の隙間を縫う。

普段はふざけているように見えて、一番周りが見えているのはリーナだろうとヤマトは確信する。


「で、どう思う?」


人々の会話は断片的にしか聞こえない部分も合った。


「シャルロットの両親…フィアリス夫妻は魔法の研究者だった。戦乱の時は重宝されただろう。

魔法が使えるもの、そして、魔法を伝承できるものは貴重だ。」

「そうだね、だけど…事件があったのは戦乱が終わってからだ。そんな研究者が、こんな田舎に住むかな?」

「…何かから逃げていたのかも知れないな。…戦乱が終わった後魔法というのは、時として畏怖される。」


この世界で魔法というのは、珍しくはないが誰でも使えるわけではない。

魔法を使って魔物から身を守ることもできれば、中にはそれで他者を傷つけるものもいる。

傷を癒す魔法があれば、傷をつける魔法もある。

そんな魔法など無くなってしまえという意見も無いわけではない。特に平和な時代が訪れればそれは自ずとやって来る。


「魔法に頼って、魔法の力で守られているくせに、人間というのは残酷というか…ありがたみを解ってないんだよね。」

「そして英雄も忘れられるからな。…命を懸けて、世界を守っているのに。」


ヤマトの頭の中には、きっと拭いきれないライトの死があるのだろう。

鉄仮面の表情が、少し崩れている。この人は本当にライトの事に関してだけは、過敏に反応する。


「何かに追われて、ここに来た。

だけどここも嗅ぎ付けられた。…幼いシャルを守ろうとした両親は殺され、その反動でシャルは魔法を爆発させた。」


断片的な話を繋げれば、そんなストーリーになる。


「…シャルのどこが悪いのさ。なにが忌み子さ。」

「そういう筋書きでなければ…納得できない理由でもあったか。」

「…あとは、ライト達が何か仕入れていればその情報と、アイカ達に聞けばきっと繋がる。」



その推測に、ヤマトも頷く。

ちょうどその頃周囲も暗くなってきて、二人は宿への道を堂々と進んだ。

リーナは小柄だ。

長身のヤマトと並んで歩く姿は親と子供位の差がある。


だがその堂々とした出で立ちは、そんな風に感じさせない力があった。





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